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ソードアートオンライン VIRUS

作者:暗黒少年
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カード

 病院から帰ってきた優は部屋に行き、ナーヴギアをかぶる。今日の朝、ようやく目的地である街のアルンに着いたんだ、必ず何か手がかりを手に入れる。優はそしてベットに寝転び、呟いた。

「リンクスタート」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 今日の朝に泊まった宿の中で目を覚ます。激安のため大きな部屋にベットがたくさん並んでいるといった部屋だ。あたりを見回すと一つのベットにリーファが座って俯いていた。

「どうしたんだ、リーファ?」

 そう言うとリーファが顔を上げてこっちを見た。リーファの目尻には涙が溜まっていた。そして涙が頬を流れる。そして微笑して言った。

「あのね、ゲツガ君……。あたし……あたし、失恋しちゃった」

 ゲツガはリーファの目をまっすぐ見つめる。その目はとても悲しみの色を持っている。

「ご……ごめんね、あったばかりの人なのに変なこと言っちゃって。ルール違反だよね、リアルの問題をこっちに持ち込むのは……」

 早口で言うリーファの涙はいまだ止まらない。ゲツガはリーファの頭に手を伸ばしてその手を乗せた。そして頭にのせている手をいたわるように動かす。

「別に向こうでもこっちでも辛いことや悲しいことがあったら泣いてもいいんだ。ゲームだからって感情を抑えることないだろ」

 そう言ってリーファの隣に座り言葉を続ける。

「だから、泣きたかったら泣いていい。感情を抑える必要なんてないんだから」

「ゲツガ君……」

 するとリーファは顔をくしゃっと歪めるとゲツガのコートの肩に顔を押し付けて涙をさらにながしたが、その粒はゲツガのコートに吸い込まれて消えていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 しばらくはその状態で居続けた。リーファの涙が収まるまでには結構な時間がかかったが相当のショックだったのだろうと思い何も言わずに傍にいてやるとキリトがちょうど来た。

「よっす、ゲツガ、リー……」

 途中で、キリトは言葉を止めて、ゲツガの近くに来て小声で言った。

「……どうしたんだよ、リーファ。俺が来る前になんかあったのか?」

「ちょっとな……リアルでなんかあったらしくて、泣いてるんだ。理由は聞かないでやってくれ」

「了解」

 そう言ってキリトとともにリーファが泣き止むのを待った。

 それから数分たってようやくリーファはゲツガのコートから顔を離した。目にはまだ若干涙が残っているが、それを指で拭う。

「……ありがとう、ゲツガ君……優しいんだね、ゲツガ君は……」

 そう言われて頭を掻く。

「別に気にするなって。人にだって吐き出したい、悩みの一つや二つあるもんだ。それよりも、今日は落ちるか?ここまで来たらもう俺たちで何とかなると思うから」

「ううん、ここまで来たんだもん、最後まで付き合うよ」

 リーファはそう言って勢いよくベットから飛び上がると体を反転させてキリトとゲツガのほうに手を伸ばした。

「さ、行こ!」

「ああ」

 ゲツガとキリトは微笑んでからその手を取った。そして立ち上がるとキリトは何か思い出したように胸ポケットを軽く叩いた。

「ユイ、いるか?」

 その言葉が終わらないうちにキリトの娘、ゲツガの妹はポケットから顔を出し、大あくびをした。

「ふわぁ~~~……。……おはようございます、パパ、お兄ちゃん、リーファさん」

 そしてユイは飛んでキリトの肩に着地した。

「おはよう、ユイちゃん。……あのね、昨日から気になってたんだけど……そのナビゲーションピクシーも夜は眠るの?」

「まさか、そんなことはないですよー。でも、パパたちがいない間は入力経路を遮断して蓄積データの整理や検証をしてますから、人間の睡眠に近い行為と言ってもいいかもしれませんが」

「でも、いま、あくびを……」

「人間って起動シークエンス中ああいうことするじゃないですか。パパなんて平均八秒くらい……」

「妙なことを言わなくてよろしい」

 そう言ってキリトはユイの頭を指で小突いた。

「まあ、ちょっと高性能で学習するやつだったんだろうよ、キリトのナビピクは」

 そう言ってゲツガは宿の入り口に向かう。その後にキリトとリーファもついて来た。宿を出ると太陽はもう真上に上がっている頃だった。ショップも大半が開き、昨日の夜よりも賑わいを見せている。さすがALO最大の都市だけあっていろいろの種類の妖精たちが街を行き交っていた。そして歩き続けること数分、少し上を向くと世界樹が視界に入った。

「あれが……世界樹……」

 ゲツガが呟くとキリトも足を止めて世界樹を見上げた。

「昨日も見たけどすごい迫力だな……」

「うん……。すごいね……」

「確かあの上も大きな街があるんだったよな?」

 ゲツガが世界樹から視線を外さずに訊ねるとリーファが答える。

「うん、妖精王オベイロンと、光の妖精アルフが住んでいて、王に最初に謁見できた種族はアルフに転生できる……って言われてる」

「そうか……」

 そう言ってゲツガもキリトもしばらく無言になる。そしてキリトが真剣な表情でリーファに聞いた。

「あの樹には、外側から登れないのか?」

「幹の周囲は侵入禁止エリアになっていて、木登りは無理みたいだね。飛んでいこうとしても、とても上までいけないうちに、翅の限界が来ちゃうらしいよ」

「スピードの問題もあるだろ?もしかしたらいけるかもしれない。それに、前に何人かが肩車して限界を突破したやつの話しも聞いたけど……」

 キリトがそう言うとリーファはくすりと笑って言った。

「ああ、あの話ね。枝までもうちょっとってとこまで迫ったらしいけどね。GMも慌てたみたいで、すぐに修正が入ったの。今は雲の少し上に障壁が設定されてるんだって」

「……なるほど……。とりあえず、根元まで行ってみよう」

「ん。りょーかい」

 そう言ってリーファたちは先に行く、その後にゲツガも遅れてついて行った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 行き交う人を縫うように歩きはじめ、しばらく経つと、石段の上にゲートが見える。多分あれはアルン中央街入る。そして、もう少し置くに行くと目的地である世界樹の前に着く。

 キリトも少し急ぎ足で行き、ちょうどゲートをくぐろうとしたその時、キリトの胸ポケットから勢いよく首を突き出した。その顔をいつになく真剣で、空を食い入るように見上げている。

「お、おい、どうしたんだよ?」

「何かあったのか、ユイ?」

 キリトとゲツガがユイに小声で呟く。しばらく無言で空を見上げるユイが掠れた声が洩れた。

「ママ……ママがいます」

「「な……」」

 ユイの言葉を聞いたゲツガとキリト顔を強張らせる。

「本当か!?」

「間違いありません!このプレイヤーIDは、ママのものです……座標はまっすぐこの上です!!」

 それを聞いたキリトは翅を展開させて空を高速で飛んでいく。ゲツガも後に続くように翅を展開させて脚力と翅の加速を使い飛ぶ。キリトに素早く追いついてゲツガは、キリトの胸ポケットにいるユイに言った。

「ユイ!!アスナはあれの上にいるんだろ!?ユキは……ユキはいるか!?」

 胸ポケットのユイは顔をこちらに向けて首を振った。

「わかりません!でも、お姉ちゃんのプレイヤーIDと少し違いますが酷似するものをこの中に感じます!!」

 ゲツガとキリトはそのまま世界樹の枝を目指し、飛んでいく。と、その時、後ろでリーファの声が聞こえる。

「気をつけて、ゲツガ君、キリト君!!その先にすぐ障壁があるよ!!」

 ゲツガはこの先に障壁があると聞きスピードを緩めて止まるが、キリトは止まらずにさらに加速して飛んでいく。リーファがゲツガのところまで追いつくと互いに頷きあってから再びキリトを追って上空に飛ぶ。そして、白い雲海へとゲツガ達は入った。

「リーファ!!この後が侵入不可能エリアだったよな!?」

「うん!でも、いきなりどうしたの、二人とも!?ユイちゃんがママって言ったら急に飛び出して!?」

 そう聞かれたのでゲツガは答える。

「キリトの大切な人を見つけたんだ!この上にいるらしい!」

 そして、そういい終えると同時に雲海を抜けた。キリトは一本の枝を目指し、さらに加速していく。数秒後、キリトは見えない壁にぶつかり弾かれた。

「「キリト(君)!!」」

 ゲツガとリーファはキリトの場所に急いで近づこうとするが、キリトはすぐに意識を取り戻し、再び壁に向かって突撃する。しかし、先ほどと同様に弾かれた。ようやく追いついたゲツガとリーファはキリトの腕を掴んで止める。

「やめて、キリト君!!無理だよ、そこから上にはいけないんだよ!!」

「行かなきゃ……行かなきゃ行けないんだ!!」

 キリトはそう言ってゲツガ達の手を解くように暴れるがゲツガの方が力が強いため離れることができない。すると、キリトの胸ポケットからユイが飛び出してキリトと同様に枝まで飛ぼうとするがゲツガが掴んで止めた。

「離してください、お兄ちゃん!!あの上に……あの上に、ママがいるんです!!」

「落ち着け、ユイ」

「こんな時に落ち着けられません!!」

「いいから落ち着け!」

 そう言うとユイは体を震わしてから黙る。

「怒鳴って悪かった。だけど、あの先にはいけないのはキリトがやって分かるだろ?だから、他の方法でコンタクトを取るんだ。何かあるだろ、たとえばGMコールみたいなものが?」

 ゲツガがそう言うとユイは何かを思い出したような顔をした。

「……あります!!警告モード音声ならママに届くかもしれません!!」

「よし、それでコンタクトを取るんだ!」

 そう言ってゲツガはユイを離す。ユイは素早く飛んで行き障壁に手を着いて叫んだ。

「ママ!わたしです!!ママ!!」

 そしてゲツガはユイを離した後、キリトのほうを向く。キリトはまだ暴れていたため、ゲツガは障壁に向けてたたきつけた。

「ちょ、ちょっとゲツガ君!!」

「大丈夫だ、ここはどの種族もダメージを食らわないらしいからな」

 リーファにそう言ってキリトの額に手を押し付けて言った。

「さっきもリーファが言っただろ。ここからは通れない。」

「だからって落ち着けって言うのか!?」

「ああ、そうだ。怒りにその身を任せたっていいことは何かあるか?それはお前が一番知ってることだろ」

「なんでお前は落ち着いてられるんだ!?あいつが、あいつがこの上にいるんだぞ!?お前の探している人も、いるかも知れないんだぞ!?」

「だからってここで障壁に何度もぶつかれって言うのか!?無駄なことをいつまでもするって言うのか!?」

「……ッ!!」

「いいか?ここでただぶつかってても意味はない。ユイがあいつに呼びかけてるんだ、落ち着いて待っとけ」

「……わかった」

 そうキリトが言うとゲツガはキリトの頭から手を離した。キリトも幾分かは冷静さを取り戻してきていたためゲツガは息を吐いて上を見上げて。すると、視界の相当奥の方でちらりと何かが見えた。

「……あれはなんだ?」

 そう言うとキリトもリーファも上を見上げる。しばらくするとカードみたいなものが見えてキリトの近くに下りてきたためキリトがそれを掴んだ。

「……なんだ、このカード?」

 カードを手に入れたキリトはリーファに聞いた。

「リーファ、これ、なんだかわかるか?」

「ううん……こんなアイテム見たことないよ。とりあえずクリックしてみたら?」

 キリトはそう言われてカードをシングルクリックするが何のウィンドウも出てこない。ユイがちょうど帰ってきてたため、ユイに聞くとそのカードの端に触れて言った。

「これ……これは、システム管理用のアクセス・コードです!!」

「「!?」」

 それを聞いたゲツガとキリトは顔を見合わせた。

「……じゃあ、これがあればGM権限が行使できるのか?」

「いえ……ゲーム内からシステムにアクセスするには対応のコンソールが必要です。わたしでもシステムメニューを呼び出すことはできません……」

「まあ、そんな簡単に行かないよな……」

「そうだな……でも、これがユイが警告で呼んだ後に落ちてきたということは……」

「はい。ママがわたし達に気付いて落としたんだと思います」

 そしてゲツガは空中にある枝を見つめる。この上にアスナがいる。キリトもおなじようなことを考えてるだろう。ゲツガはリーファに顔を向けて聞いた。

「リーファ、この樹を登るためのゲートがどこにあるか教えてくれ」

「え……あれは、樹の根元にあるドーム中だけど……」

 リーファは一度言葉を区切る。そして気遣わしそうに眉を寄せた。

「で、でも無理だよ。あそこはガーディアンに守られてて今までどんな大軍団でも突破できなかったんだよ」

「前にも言っただろ。叩き潰してでもいく、何度でもな……キリト」

 そう言ってキリトを呼ぶとキリトは振り向いた。

「場所はわかった、行くぞ。今までありがとな、リーファ。ここからは俺たち二人で行くよ」

 そしてリーファに頭を下げるとキリトとゲツガは世界樹の最下部を目指し一気に降下しはじめる。数秒の間、雲海の中をくぐり、その雲海を抜けると世界樹の根元に一際大きなテラスを見つけた。そしてそこに着地する。ゲツガの着地法と同様の着地をしたキリトは胸ポケットに入っていたユイに聞いた。

「ユイ、ドームとやらへの道はわかるか?」

「はい、前方の階段を上がればすぐです。でも、いいんですか、パパ、お兄ちゃん?今までの情報から類則すると、ゲートを突破するのはかなりの困難を伴われると思います」

「ぶつかってみるしかないだろ、なあ、ゲツガ?」

「ああ、ここまで来たんだ。何が来ようと行くしかない」

「それは、そうですが……」

 そう言うとユイにゲツガとキリトはユイの頭をなでた。

「ユイ、ここで待つわけにもいかないんだ」

「ああ、それにな、もうあと一秒でもぐずぐずしていたら発狂しちまいそうだ。ユイだって早くママに会いたいだろう」

「……はい」

 そう言ってキリトはユイの頬をつつく。ゲツガは世界樹のほうを向いて言った。

「さあ、攻略しようか。世界樹を」

 
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