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その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

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第31話 仲魔、仲間、友達。そして、家族(3)




「さぁ、立ち話もなんでしょう? 早く座ってちょうだい」

 見るだけで心から冷えそうな眼をしたまま、席から立ったアリサちゃんに座るように促すリリーさん。アリサちゃんもいつもと違うその雰囲気に呑まれ、顔を青ざめさせて座ります。

「それで? どこに行こうとしたのかしら?
 あぁ言わなくていいわよ。大方、2人に発破かけに行くつもりだったんでしょ? 悩んでるくらいなら前へ進め、2人は悪くない、悪いのは割り込んできて邪魔してきたあっちのほうだ」

 ん? と頬杖をやめてこちらに確認をしてくるリリーさん。ついさっきまでとは全然違う、全く私達に容赦のない雰囲気のまま。気力を最大限動員して、なんとか少し首を縦に動かしてそれに答えます。

「はっ、でしょうね。ねぇあなた達、これは子供の喧嘩じゃないの。分かる? いいえ、見た事があるから分かるでしょ? 私達の力も、ジュンゴの拳の破壊力も、なのちゃんの魔法の凄さも」

 その言葉に、初めて純吾君の力を見た時を、コンクリートの壁ですら壊せる彼の力を思い出しました。
 あんな力を、人に向けてしまったら……?

「あなた達がしようとしてた事って、ジュンゴ達に人を傷つけろって言いに行くようなものだったのよ。呑気なものね、あなたたちは言うだけ言って何も責任も、人を傷つけたっていう心の痛みさえも負わなくていいんだもの」

 突き放すようなリリーさんの言葉。その言葉にはっとなり、段々と別の種類の恐ろしさが足から這い上がってくるように私の中に生まれます。
 だってそうでしょう? あんなに優しい2人に、私はなんて事を言って、それを強いようとしていたのか。

それを考えるだけで、体が、震えてきます。

 それからしばらく、誰も何も言えずただ時間が過ぎていきます。リリーさんは腕を組んで私達をまっすぐ無言のまま見つめてきて、私達は彼女の言葉とその視線に打ちのめされ、視線をあわすことすらできずにいたからです。

 さっきまで、全く耳に入ってこなかった他のお客さん達が出す色々な音と、私自身の心臓の音が聞こえてきます。けれどもリリーさんの言葉に打ちのめされた私には、それはテレビのノイズの様に耳障りで、何かを言わないといけないと、私を追いたてる様な音にしか聞えませんでした。

「……はぁ、ごめんなさい。どうもジュンゴの事になると気持ちを抑える事ができないわね。
あなた達だって、ジュンゴとなのちゃんの事を思ってこうやっているのに」

 唐突に、気が抜けたようなリリーさんの言葉が聞こえます。先ほどまでの険しさが抜けた、私達の事を気遣ってくれている声音です。私は何が起こったのか分かりませんでしたが、勇気を出してもう一度顔をあげました。
 そうしたらとてもばつの悪そうな顔をしたリリーさんが、私達が顔をあげたのを見計らって小さく頭を下げてくれます。

「本当に、ごめんなさいね。けど、私は”これ”が怖いの。ここに来る前、ジュンゴが死にそうだったっていうのに、何もできなかった。彼を守るはずの仲魔だっていうのに、最後まで彼に守られてばかりだった。それが本当に悔しくて、純吾と二度と会えなくなったらって、怖かった」

 頭を下げたままそう話すリリーさんの顔は、綺麗な髪に遮られて見えません。けれどもかすかに震える髪に、どんな気持ちで話してくれているのかが、はっきりと見えるようでした。

「ここで生活するようになって決めたの。ここで幸せになってもらうんだって。もう絶対、ジュンゴに傷つくようなことをさせないって。身体の事は勿論、心にだって……
 だからこそ、あなた達がジュンゴに戦えって言いに行こうとした時、本当に自分を抑えきれなかったの。
 あなた達はそうは思ってないかもしれないけど、私はあなた達がいてくれたからこそ、今のジュンゴがあるって思ってたの。それなのに、何度もジュンゴを立ち直らせてくれたあなた達が、ジュンゴを追い詰めるのかって。ジュンゴを、裏切るのかって」

 普段のおちゃらけた様子が一切感じられない、本当に真剣な言葉。それはリリーさんがどれだけ、純吾君の事を思っているかが、溢れでてくるような言葉でした。

 リリーさんはそこで言葉を区切ると、ふぅーー、と長く息を吐いて、ゆっくりと頭をあげました。
 恥ずかしさからか、それとも、違う気持ちからでしょうか? 少しだけ紅くなった顔をしたリリーさんは、そっぽを向いて髪をかきあげます。

「……ガラじゃないわね、こんなことまで話しちゃうなんて」

「そんな事は――」

「あぁもうっ、やめやめ。いつまでもおもっ苦しい空気したままじゃやってられないわ」

 はいこれ食べてっ! って、完全にいつもの調子に戻ったリリーさんにシュークリームを口の中に入れられます。ちょ、ちょっと息が苦しいですって!
 いきなりの奇襲に涙目になって横を見ると、アリサちゃんも目を白黒させながらハムスターみたいに口いっぱいにシュークリームを詰め込まれていました。そんな私達を見ながら、一仕事終えたって満足そうなリリーさん。

「ふぅ、あぁすっきりした。恥ずかしい事話した代わりに、2人の面白い顔も見れた事だし、やぁっと本題に入れるわ」

「んっ…。もう、こんな事しなくたって入れますよ」

「や~よ、私の気持ちの問題だもん」

 涙目な私達をみてにかっとリリーさんが笑います。大人の笑い方っていうよりも、同じ学年の男の子達がイタズラに成功した時にみせる、本当に楽しそうな笑い方です。どうもその容姿と一緒で、リリーさんには大人な部分と子供な部分があるみたいです。

「ああもう、悪かったわよ。ほらアサリン座って座って、今から真面目な話しするんだから」

「ぐぅ…。分かりましたよっ」

 そんな風に私が考えているのを知ってか知らずか。シュークリームを食べ終えて猛然と抗議し始めたアリサちゃんをリリーさんがなだめて座らせます。
 説得されても不満顔したアリサちゃんが座ったのを満足そうに見て、リリーさんが話し始めます。

「さて、じゃあやっと本題ね。とはいっても、大分遠回りしちゃったけど、ここまで話したら2人ともどうしたらいいか、答えが見えきたんじゃないかしら?」

「それは……」

「結局、待つしかないって事ですよね」

 私達が出した答えに、リリーさんが続きを期待するように聞き返してきます。

「そうね。けど、もう“ただ”待ってるだけしかできない、とは思っていないでしょ?」

 確かに、リリーさんの話を聞いて、2人の態度に対する私達の気持ちはずっと変わっていました。今までの話を、もう一度心の中でまとめてみます。

 2人の様子がおかしくなった原因は、突然現れたジュエルシードを狙う人達で。その人たちと対面する事で改めて自分達の持つ力のことを自覚をして。その力で人を傷つけてしまうんじゃないか、そんなことをして自分達を受け入れてもらえるかという事への恐れがあって。


――そっか、今の2人に必要なのは、以前私が皆にしてもらった事と一緒だったんだ。


「私達はずっと一緒だって、言ってあげることですよね。
……例えどんな力を持っていたとしても、どんな決断をして、どう力を使ったとしても、私達は味方だって、言ってあげないと、いけないと思いました」

「うん、いいんじゃない♪」

 リリーさんが微笑みながらそう言ってくれたのを聞いて、一気に緊張がぬけていくのを感じます。だって、やっと見つけた答えはもう私の中にあったんですから。
 答えの見つかった満足感にちょっと眠くなり、2人には申し訳ないけどちょっとテーブルに伏せてまどろんでしまいます。

「う~ん、けどやっぱり他に何かあるんじゃないかなぁ、私達にしかできないって事が。だってリリーさんだったら、ジュンゴの事だったら何でも受け入れちゃいそうですもん」

 くたっと伏せて目を閉じていると、まだ話をしているのか、少し不満そうなアリサちゃんの声が聞こえます。
 うん、アリサちゃんがそう言う気持ちは確かに分かります。例え結論が出たとしても、もっと2人の役に立ちたいって、そうやって2人の特別になりたいっていう思いは無くなるものじゃありません。
 そんなアリサちゃんの声に答えるリリーさんの声が聞こえてきます。

「ん~、まぁ? 確かに私はジュンゴの事ならなんでもOKよ? それはもうジュンゴの作った料理からはじまり戦闘から何気ない日常でのどんな細かい指示に、果てはジュンゴのモノ( ・ ・ )だって「「ブーーーッ!!!」」」

「げほっげほっ! い、いいいきなり何言っちゃってるんですか! お陰で目が覚めちゃいましたよっ!」

 ほんっと! 眠気も何もあったものじゃありません!
 ほんといきなり何を言いはじめるんだっていう気持ちを込めて、リリーさんを睨んでしまいます。

「いいじゃない、むしろ私的にはそれが果てと言わずにまっさきに跳びつきたいというかもう辛抱たまら「あーもうこの話はやめーーっ!」……初心ねぇ」

 もう一度不埒な事を言おうとするリリーさんへ、アリサちゃんの鬼気迫る妨害が入りました。それを見て、リリーさんがつまらなそうな顔でしぶしぶ話すのをやめます。
 いやいや、どう考えたってそんな話する場所じゃないですもん。

「まぁ、会話のための潤滑油はこれくらいにしといて」

「いやいや、思いっきり別の方向に話が滑っていましたから」

 そんな事をのたまうリリーさんを、アリサちゃんがもう一度ジトっと睨みつけます。うん、あんな風に話が滑っていっちゃうなんて思いませんから、しょうがないですよね。
 けどそんなの関係ないとばかりに、「めっ」だなんていいながらアリサちゃんに注意するリリーさん。

「もうっ、せっかく人が真面目に話そうとしてるんだからちゃちゃいれないのっ」

「あんただけには言われたくなかったわよっ!」

……うん、これは全面的にアリサちゃんに同意せざるをえません。

「はいはい、私が悪うございましたよ。じゃあ本腰入れて答えるけど、これは私にはできない事よ。むしろ、あなた達だからこそ、いいえ、あなた達にしかできないことだって、私は思ってるわ」

「そんな、だってジュンゴの事一番分かってるのはリリーさんじゃないですか? それにジュエルシードの回収の時も一緒にいるし、なのはだって頼りにしてるはずですよ」

 アリサちゃんの言った疑問に、私も同意して頷きます。今は2人に対する心構えができていますが、今日リリーさんから話を聞くまでは本当に2人の事を考える事ができなくて、私達の都合を押しつけてヤキモキするしかできませんでした。
 それと比べたら、リリーさんは私達よりずっとなのはちゃんと純吾君に近い所にいて、その気持ちを分かって、受け入れてあげることだってできるはずです。

 そんな私達の言葉に小さく微笑んで、リリーさんは言います。

「……えぇ、確かに受け入れる事はできるわ。だって私はジュンゴの“仲魔”なんだから、彼の言う事は絶対に、ね」

 そう言うリリーさんの顔は、どこか誇らしげでもあり、どこか、とても寂しそうでした。

「けど、私では駄目なの。私はどんなときだってジュンゴの傍にいる、けど、それはそう契約を交わしたから。どこまでが私の本当の気持ちで、どこまでが契約によって生まれた気持ちかなんて分かりっこない。
 それに、私は悪魔。どれだけ彼の事を想おうとも、それが迷惑になるかもしれない。どれだけ彼に近づこうとも、考え方や在り方、そんな根本的な所から違う」

 そんな寂しげなまま話すリリーさんの言葉は、私達が全く想像もしていないものでした。だって、一番2人に近いと思っていた人が、自分こそ一番遠い存在なんだって、そんな事をいうと思いますか?

「だから、ジュンゴも、なのちゃんも必要としているのは、自分で考え、自分の意思で道を決め、その上で味方をしてくれる人間( ・ ・ )の仲間。
 そして、戦いが終わった後に帰ってくることができる場所である、友達であり、家族」

 つぅ…、と。ふとした様子で顔をあげたリリーさんの視線と目が合います。その目の中には、私達への嫉妬や羨望――自分にないものを、羨むような――の光がありました。
 その、入り乱れる感情を閉じ込めた瞳はとても綺麗で、私は自分の頬にそえられているリリーさんの手に気づきもしませんでした。

「だからお願い、2人に言ってあげてちょうだい。ここがあなた達の帰るべき場所なんだって。そして、ジュンゴに教えてあげて、あなたの友達は…、家族は、ここにあるんだってことを。
 私達、彼に与えられてもらってばかりの仲魔では。それは、絶対にできない事なんだから」

 私達にすがるような、必死な声音でお願いをされた言葉。頬に感じる、柔らかくて、温かな手の感触と一緒に伝えられた言葉は、私と、隣に座っていたアリサちゃんをも、困惑させるものでした。


 だって、だって……

「ふぁにふひふんでひゅかひふぃーふぁん(何してるんですかリリーさん)」

 必死だった声音とは正反対に、リリーさんの手は私の頬を思いっきり引っ張りあげていたんですから! 真面目だった言葉と、このふざけた態度、どっちが本当の気持ちか判断つきかねて困るに決まってるじゃないですかっ!!

「り、リリーさん? 今の話し、今日の中で一番大事な気がするんですけど…。あの、今言った事は――」

「さ~ぁ? まぁ、どっちだっていいんじゃない? 言ったでしょう、大事なのは、自分の意思で2人に協力してあげることだって」

 さっきまでの真剣な雰囲気はどこへいったのやら。私の頬を引っ張ったまま、リリーさんはすごい困ったような表情のアリサちゃんの疑問に答えます。
 もうっ、「ん~、やっぱり若い子のお肌ってぷるっぷるねぇ~」じゃあないですよっ!

「まぁ、あんまりつねりすぎて傷ついちゃったりしたら一大事よねぇ」

そう言って、やっと頬から手を離してくれたリリーさん。
……うぅ、すごく、すっごく! つねられた所がひりひりします。

「もうっ! 真面目に話してたんだったら、最後までそれを通してくださいよ!」

 そんな一連の行動を見て、からかわれたんじゃないかって考えたんでしょう。アリサちゃんがさっきとは打って変わってプリプリ不満顔でそう言います。

「え~、あなた達に()、教えてあげられる事は全部言ったんだもん。ホントのホントに、私の言えることはさっきで打ち止めよ」

 アリサちゃんのそんな追及に、リリーさんはひょうひょうとした態度を崩さないまま答えます。あまつさえ、山と積まれているデザートをもぐもぐ食べ始めて、本当にできる事は全部したっていう感じです。

「それに、大事な事は言ったでしょう? 大事なのは、私が( ・ ・ )どう考えてて、思っているかじゃなくて、あなた達が( ・ ・ ・ ・ ・)どう考えて、どう行動するか、よ。
 私は、本来の私の制限を超えてまで、あなた達に協力してあげたわ。なら、今度はあなた達の番じゃない?」

 そこでふと何か思いついたのか。「あぁ、でも」と、リリーさんはそこでデザートを食べるのをやめ、にっこりと私達に笑いかけます。

「ジュンゴの事は勿論だけど、あなた達も幸せになれる選択肢があるのなら、私はそれを選んでほしい。願わくは、あなた達がそんな道を見つけられるように……そう、思っているわ」

 そう言うと、リリーさんは「すみませ~ん!」と追加注文を頼みはじめ、それ以降はこの話題には一切触れようとせず、ずっと私達と世間話をするだけでした。



……結局、何がリリーさんの本当の気持ちだったのか、最後までそれは教えてくれませんでした。

 けれども、それはそれでいいんだと思います。だって、リリーさんが純吾君を大切に思っている事は、仲魔かどうかなんて関係なく、本当の事なんですから。それだけで、多分、十分なんだと思います。

 だから、私達も今日の相談で教えてもらった事を、純吾君達にしてあげたいと思います。最後に見せてくれた、あの綺麗な笑顔を裏切らないために。何より、私達自身が、そうしたいんだって思っているから。

 まずは、家に帰ったら純吾君に「おかえり」か「ただいま」って言ってあげよう。純吾君の事、力があるくらいじゃ怖がらないって、言ってあげようと思います。

 そうやって、純吾君の事、受け入れてあげようと思います。以前私が、純吾君達に受け入れてもらったように。今度は、私がそうしてあげたい、そう、思いました。



その後
「ふぅ~、食べた食べた。あっ、そろそろ出ましょうか。すみませ~ん、お勘定お願いしま~す」

 日もすっかり傾いた頃に、リリーさんは満足げに桃子さんへお勘定をお願いしました。
 目の前には山と積まれた空の食器。翠屋自慢のデザートが入っていたそれらは、綺麗に食べつくされていて。それでも体型が一切変わっていないリリーさんに、店中の女の人の恨みがましい視線が集まります。

「はい、ありがとうございます。それで、相談はしっかりまとまったかしら?」

「はいっ。これから、頑張ってみようと思います」

「そう。えらいわよ、リリーちゃん」

「そうでしょ~、これでいっぱい! ジュンゴから褒めてもらえるわねっ!」

「えぇ…。でもまず、これだけお願いできるかしら?」

 そう言って、笑顔で桃子さんが差し出したレシートを見て、リリーさんがびしぃって固まります。
 ええっと…………。え、えぇぇぇ! な、なんなのこの値段っ!

「も、モモコ……。これ、ツケって事にできないかしら?」

「あら、そうしたら、純吾君にツケちゃう事になるけど、いいの?」

「へぇっ! う、ううぅうううぅぅぅーーーーっ!?」

 純吾君に迷惑かけたくないリリーさんが、頭を抱えて唸り始めます。そうして、しばらくしてから、こう答えました。

「モモコぉ、ここで働いて返すって、ありかしら?」

 ……あぁ、士郎さん、ご愁傷様です。

 
 

 
後書き
 本日、日刊ランキング57位という身に余る名誉を頂きました。正直、ランキングに載ることがはじめてだったので、びっくりしています。これも時勢(デビサバ2アニメ化)と、皆様が拙作を読んでいただいたからです。
 拙い所の多々ある作品ではございますが、今後ともよろしくお願いします。
 
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