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ラインの黄金

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第一幕その十


第一幕その十

「あの娘達に言い寄って拒まれそのうえで、ですね」
「その通りです。そしてその黄金を奪い取りました」
「そんなことがあったのか」
「はい、今さっき」
 まさに今だというのである。
「ラインでその乙女達の嘆きを聞いたのです」
「愛を捨てた者がか」
「ヴォータン、彼女達は御願いしています」
 ここまで話してあらためてヴォータンに告げてきた。
「その黄金を自分達のところに取り戻して欲しいと。そう仰っています」
「そのことをか」
「私は彼女達の願いを聞き入れ今ここに申し上げました。これで私の仕事は終わりです」
「終わりではない」
 しかしヴォータンはそれで許しはしなかった。
「それがどうしたというのだ?」
「確かあの黄金はだ」
「そうだったな」
 ラインの黄金の話を聞いて巨人の兄弟達もひそひそと話をはじめた。
「持てばこの世を支配できる」
「その力があったな」
「だとすればだ」
「うむ」
 二人で話を続けていく。
「それを小人如きにやるのは」
「あの憎らしいニーベルング族にはな」
「世界を支配できるか」
 ヴォータンもラインの黄金のことを考えはじめた。
「それを手に入れることができれば」
「ラインの黄金は私も見たことがあります」
 フリッカも夫に対して言う。誰もが考える顔になっている。
「あの美しさで飾れば」
「ええ。全てを思い通りにできますよ」
 ローゲは彼女に囁くことも忘れなかった。
「そうすれば御主人方の貞操も」
「そうね。あれがあれば」
「世界は神々の治めるものだ」
 あくまでヴォータンの理屈である。
「だとすれば我等がだ」
「そう。そうすれば」
「安泰になる、我等も」
「アルベリッヒは愛を捨てました」
 ローゲはまたこのことを一同に告げる。
「そして今その黄金を指輪にしました」
「指輪に」
「そう、全てを支配する指輪に」
 あえて神々にも巨人達にも聞こえるかのような言葉を出しているようだった。
「変えたのです」
「そんなものがあの男の手に入れば」
「そうだ、大変なことになる」
 ドンナーとフローはそのことを心配するのだった。
「只でさえ傲慢な男だ」
「あの男に渡れば大変なことになるぞ」
「よし」
 ここでヴォータンは決断を下した。
「その指輪はだ」
「どうされますか?」
「私が管理する」
 体よくこう表現するのだった。
「それでいいな」
「そうされたいのならば」
 ローゲはこのことにはあえて反対の言葉は述べなかった。だが何処か醒めた、そしてヴォータンの心を見透かしているような目であった。
「そうされるのがいいかと」
「そうだな」
「今なら簡単に手に入れることができます」
 そしてこうも囁くのだった。
「それも極めて」
「簡単にか」
「はい」
 にこやかに笑ってさえみせた。
「それは可能です」
「ではどうするのだ?」
「奪うのです」
 そうせよというのだった。
 
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