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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode6 夏の日、午前三時2

 広間は、一気に混乱に包まれた。
 明らかに、奴らが襲撃を予測して仕掛けたであろう、罠。

 しかし奴らの罠は、この視界を遮る白煙だけでは無かった。

 「うわあ!?」
 「足が、足がっ!!!」

 白煙と同時に発動したのは、俺が直前に見た安全エリアに設置されていた無数の罠…トラバサミのような、足を挟んで固定し、継続ダメージを与えるものだった。

 本来安全エリアには、Mobのポップが無いだけでなく罠なども存在しない。恐らく俺の知らない…というか、誰にも知られていないエクストラスキル…『罠設置』スキルとでも言うべき技で、奴らが設置したのだろう。

 俺達から逃げるのではなく、俺たちを迎え撃つために。

 完全に罠の索敵を怠っていた俺達の落ち度だが、こんな低層フロアのダンジョン、『攻略組』の面々が油断していたのも仕方がない。本来存在しない罠によって、数人のメンバーが動きを止められる。

 そして罠の嵐は、まだ収まらない。

 「っ、な、なんだ!? HPがっ!?」
 「っ、落ち着いて!恐らく貫通継続ダメージと、毒の複合罠よ! 打撃系武器の方、すぐに捕まった仲間の元へ! 罠を破壊して!」
 「だ、だめだ! この煙でカーソルが出ない! 誰がどこだか、」
 「おい『閃光』!」
 「シド!?」

 かろうじて確認していた場所に一つに走り込むと、そこにいたのはアスナだった。純白のブーツが無骨なトラバサミに挟まれており、そのHPゲージが徐々に減少している。『HP減少毒』に
『貫通継続ダメージ』だ。

 この手のトラップを破壊する方法は二つ。

 一つは今アスナが指示しており、自身も実行しているように、罠自体を攻撃して破壊する方法。彼女の手にあるのはこの手の隙間の多いオブジェクトとは相性最悪の細剣だが、自前の技量で以て正確に刺突を当てて耐久値を削っていく。だがこの方法では、例え最も相性のいい打撃武器でも十秒以上はかかるだろう。

 それよりも早い破壊手段は。
 俺の手が、素早く罠を数回のクリック。

 それだけで、あっさりとトラバサミはアスナの足を解放した。

 「っ、あ、ありがとう、シド…っ」
 「礼は後だ! 俺はどうすればいい!?」

 既にマスターに到達した『罠解除』スキル。おそらくもともとの俺のスキル構成が探索特化だと知らなかったのだろう、驚いた様子のアスナに怒鳴る様な口調で問いかける。

 俺はチームプレイが苦手だ。煙の中何がどうなっているか分からず、部屋中央付近では罠に囚われたのだろうメンバーの悲鳴が聞こえ、更にはキリトの叫んだように後ろからの奇襲をかけてきたラフコフメンバーとの戦闘音まで聞こえる。

 こういった状況でどうすればいいか分からないために、的確な指示を出せる人間が必要。

 すぐにアスナを見つけられたのは幸運だ。凄腕の細剣使いであると同時に、優れた指揮官でもあるアスナが周囲を見回し、すぐさま指示を出す。

 「シド、煙を何とかできる!?」
 「っ…できる。ただ、数秒の吹き飛ばし効果がある! 伏せないと、」
 「構わないわ! すぐにお願い! 皆伏せて!!!」

 アスナの指示を聞くなり、俺は左のポーチからアイテムを取り出す。アイテム名、《グレネードハリケーン》。それを単発『体術』スキル、《スライス》で叩き割る。響く轟音と、捲き起る巨大な暴風。すぐそばで伏せた俺やアスナに僅かな削りダメージが入るが、凄まじい勢いの風は一気に煙を掻き消してくれた。

 それによって、フロアの惨状が露わになる。
 慌てて身を伏せる者、罠に苦しむ者。

 そして幾つかの脇道からの襲撃に、果敢に反撃する者達。

 「部屋中央付近の人は罠の破壊と回復を! 戦線近くの人たちはいったん下がりつつ前線を何とか維持して! 最低四人は固まって、スイッチしながら戦うのよ!」

 素早く状況を判断したアスナが、的確な指示を飛ばす。確かリーダーは聖竜連合の幹部だったはずだが、混乱の中で罠にかかったか或いは前線で敵と切り結んでいるのかその声は聞こえない。だがアスナは流石のカリスマですぐさま皆を統率し、体勢を立て直していく。

 そして。

 「アスナ。俺は、打ち合わせたように、『戦闘時の対応』を取ればいいんだな?」
 「っ、お願い! 私もすぐに援護に向かうからそれまでは前線で、」
 「すまん。俺はやっぱ、一人がいいや」
 「っ!? シドさん!?」

 走りだす俺を止めようとアスナが手を伸ばすが、他のメンバーの悲鳴にアスナの注意が逸らされる。と同時に、俺は一気に走りだす。発動する『軽業』スキルの技によって地面を激しく踏みしめ、宙に体を踊らせる。

 行く先は、剣戟の交差する最前線の、さらに奥。

 飛び越える先で、一人の男が目線だけでこちらを見る。

 「っシド!?」
 「…キリト。…ありがとな。あっちは、任せろ」

 俺の筋力値ではありえない高度を三角跳びで稼ぎ、前線で鬼神のように剣を振うキリトの頭上を越えてラフコフの連中の真只中に飛び込む。キリトの視線と俺の視線が、一瞬交錯する。思わず笑ってしまった。キリトの目線は、多少の驚きは有れどもアスナのそれと違い、俺を引き留めようとする意志が見られなかった。

 いや、寧ろ。

 ―――いってこい、シド。

 おお、任せな。

 励ますようなその視線を受けて心の中だけで頷き、俺は敵の中央に飛び込み、すぐさま体を転がして床に手をつく。

 そして、その体をばねのように弾ませ、両足にエフェクトフラッシュを纏って。

 《スパイク・ハリケーン》の回転蹴りの旋風で、殺到するラフコフメンバーを吹き飛ばした。


 
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