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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第五十話 目指すは巨人の国

一月九日

「マジかよ?」

「あくまで可能性の一つだ。証拠は取れてないからな」

場所は東京駅近くにある喫茶店。その店内に桜火はいた。桜火だけでなく、その向かいには静岡からわざわざ上京してきたシリウスこと霧雨烈が座っている。東京駅で合流した後、きっさっ店に入り席に着くと開口一番で桜火は本題に入った。憶測という形で語られた内容に烈は驚きを隠せず思わず聞き返してしまうが、桜火の返答は憶測であるということを助長させるものだった。

「少なくとも、≪アルヴヘイム・オンライン≫というVRMMORPGは≪ソードアート・オンライン≫のサーバーコピーで間違いないだろう」

「だがよ、それが何でその・・・≪アルヴヘイム・オンライン≫ってVRMMORPGにベガを含めた未だに目覚めない三百人が囚われているって結論に至るんだよ?」

「木を隠すなら森の中・・・とは違うが、おそらくはサーバーの運用費的な問題だと思うぞ。一台でウン千万ってするらしいからな」

「お財布事情かよ・・・まぁ、わかった。なら、≪アルヴヘイム・オンライン」≫を運営する裏側で何かしらしているってことか」

「大方、感情操作とか記憶操作とか脳をいじくる人体実験でもしてるんだろ」

そう言うと桜火は喉を潤すために紅茶が注がれているティーカップに口を付ける。だが、人体実験と言い切る桜火に烈は眉を顰めた。

「人体実験が行われていると断言しておきながら随分と悠長じゃないか。ルナちゃんだって目覚めてないんだろ?心配じゃないのか?」

「焦ったって何も解決しないさ。試に≪レクト・プログレス≫にハッキングしてみたけどそれらしいものはなかった。どうやら少数精鋭でやってるみたいだな」

「・・・・・・」

試しにハッキング、と簡単に言う桜火だが立派な犯罪である。しかし、烈は追求することはしなかった。無駄だとわかっているからである。そんな烈に対して、桜火は持っていたショルダーバックからあるものを取り出しながら言った。

「で、お前を呼んだわけがこれだ」

「・・・・・・ひとつ聞きたいんだが」

「んー?」

「何でこんなもんがここにあるんだ?」

「くじ引きだ当たってな。二つ持ってても使わないからあげる」

「そうじゃねぇよ!ハッキングしてもみつからねぇなら他にやりようはいくらでもあるだろ!神隠影無に依頼するとか!何でめんどくさい方法をとるんだよ!」

桜火がテーブルの上に取り出したものは≪アルヴヘイム・オンライン≫のソフトウェアだった。それが出された時点で烈は桜火の言いたいことが理解できた。だからこそ、抗議の声を上げたのである。
ちなみに、烈が言った神隠影無とは古流流派の一派で陰陽月影流や八雲霧雨流のような武術流派ではなく、秘密裏に行動することに特化した流派である。正式名称は『神隠影無流隠行忍術』。所謂、忍者である(残念ながら蛙を口寄せできたりはしない)。

「烈・・・おれ達は泥棒でもなければ怪盗でもない。ましてや忍者なんてもってのほかだ」

「ああ、そうだな」

「ならば、玄関から入るのが人としての常識だと思うんだ」

「ハッキングしたやつが言う台詞じゃないよな」

ジト目で桜火に視線を向ける烈であるが、効果はいまひとつだ。

「んで、どうする?」

「・・・ここまで聞いといて引き下がれるわけねぇだろ。これ、ありがたく使わせてもらうぞ」

そういってテーブルの上においてあるソフトをかばんの中にしまう。

「ゲームの説明はいるか?」

「いや、兄貴に聞くからいらね。ナーヴギアで動くんだよな?」

「ああ。リスクはあるがそっちの方がキャラ育成はある程度はかどるぞ」

「了解」

ちょうどよく話が終わるのと同時に飲み物がなくなったため、喫茶店を後にする二人。烈は兄である迅のところにいくということなので早々に分かれる形となった。品川のマンションに戻るため東京駅の山手線ホームに向かおうと足を進めるが、その途中であることを思い出した。

「神隠、か・・・」

正直に言えば、伝がないわけではない。ある一人の人物が桜火の脳裏をよぎる。悪戯好きでよくその標的にされることもある。突拍子もないことに付き合わされて苦労をかぶることもある。だが――

「はぁ・・・」

ため息を吐くとスマホに指を走らせる。電話帳を開き、目的の人物を見つけると通話アイコンをタップする。しばらく聞こえた発信音が途絶えると久しぶりに聞く声が聞こえた。

『もしもし?』

「どうも。情事中にすまないな」

『かまわないわよ。今終わったところだから』

「・・・・・・」

冗談なのか本気なのかわからない返答に桜火は言葉を失う。電話越しにクスクスと笑う声が聞こえた。

『それで、どうしたの?』

「ああ、ちょっと頼みごとがあるんだ」


ところ変わって場所は妖精郷闇妖精領地。自種族の領地の中をソレイユは歩いていた。先ほどメニューウインドウを開き、フレンドリストを確認したところ、目的の人物がログインしてたのでその人物がいる場所に向かって歩いている。目指すのは一際立派な建物――領主館である。

―――数分後

さすがにアポ無し状態でいっても合わせてもらえそうにないので、メッセージを飛ばしてアポイントを取った。ソレイユはそのことを門番らしきプレイヤーに伝えると、領主館内を案内された。執務室と英語で書かれたプレートがある扉をくぐると、眼鏡を掛けたルシフェルが真面目に領主の仕事をしているではないか。その目を疑う光景に一度頬をつねってみるがどうやら夢ではないらしい。

「おっ、来たか。案内すまなかったな。下がっていいぜ」

領主の言葉を聞いた門番は一礼をして執務室から出て行く。それを確認すると、ルシフェルは掛けていた眼鏡をはずし、ウインドウを消しながらソレイユに向き直る。

「それで、どうしたんだ?」

「いや、ちょっとな。仕事が忙しそうなら出直すが?」

「気ぃ使う必要はねぇよ。もう終わった」

「そうか・・・なら、まずはじめに聞いておきたんだが・・・この世界よりしたのダンジョンか何かはあるか?」

「ヨツンヘイムってのがあるぞ」

「それより下は?」

「今のところ確認されてないな」

ルシフェルの言葉にソレイユは少し考えた後口を開いた。

「そのヨツンヘイムに穴みたいなものはるか?」

中央大空洞(グレートボイド)っつー大穴があるぞ」

「そこまで案内してほしいんだ」

突拍子もないことを言うソレイユにルシフェルは少しだけ考え込む。その際に考え事が口から漏れているのだが気にしないことにした。

「俺たち二人だけでは戦力不足だな・・・邪神級を相手にするとなると、うってつけなのはレヴィアかベルか・・・ベルは今日は入ってこないつってたし、レヴィアはもうそろそろ入ってくるころだろうし・・・それから出発すればいいか。ソレイユ、レヴィアがくるまで待ってられるか?」

「どれくらいでくるんだ?」

「一時間ぐらいでくるだろうよ」

「了解。ならそれまでにいろいろしておくよ」

「ああ。レヴィアが来たらメッセージ飛ばすからな。結構な長旅になるから現実のほうでもいろいろ済ませておけ」

ルシフェルの言葉にうなずくと、ソレイユは執務室及び領主館を後にする。一旦宿に戻り、ログアウトする。ヨツンヘイムがどういうところかわからないし、ルシフェルの助言に従うのが吉と判断した結果だ。

――――――

意識を覚醒させ、近くにおいてあったスマホを覗いてみると烈からメールが入っていた。内容を見てみると、どうやら種族はサラマンダーにしたようである。

「(なら、フォルテに指南役でも頼んでみるか)」

なんてことを考える桜火。
現在の時刻は十四時を少し回ったところ。後三十分あたりしたらログインすればいいだろう。

―――そして三十分後

「さて、と・・・いくか」

軽くシャワーを浴び、水分を補給した後に再びナーヴギアをかぶり妖精郷へと旅立っていく。



『To:フォルテ
そっちにシリウスって新人(ニュービー)がいくから鍛えてやってくれ。たのんだよー』

必要と思われるアイテムを買い揃えたソレイユはフレンドリストを開き、フォルテにメールを送る。向こうからしてみれば理不尽極まりない内容なのだが、そんなことソレイユの知ったことではない。
フレンドリストを閉じると領主館に向けて歩いていく。ルシフェルからメッセージは来ていないが、手持ち無沙汰になってしまったのだから仕方がない。

「と、思ったんだがな・・・」

領主館入り口に着くとルシフェルとレヴィアがいた。

「おっ、来たか・・・メッセージ飛ばしてないのにナイスタイミングだな」

「手持ち無沙汰になったから早目に来ただけだ・・・どうもっす、レヴィアさん」

「よぉ。こっち来て行き成りヨツンヘイムに行くって聞いた時は耳を疑ったんだが・・・いったいなにしに行くんだ?」

「ちょっと、ね・・・」

レヴィアの言及に言葉を濁すソレイユ。そんなソレイユにレヴィアはふぅーんといった様子であった。

「まぁ、あたしも暇だったしな・・・たまには邪神を相手すんのも悪くないだろ」

まるで邪神と戯れるみたいなことを言うレヴィアにヨツンヘイムに行ったことがある一般プレイヤーが聞けば、卒倒することは間違いないだろ。そこまで邪神級のMobは弱くはない。それどころか、鬼かって言いたいぐらいの強さを持っているのだから

「感謝しますよって・・・んで、ヨツンヘイムにはどうやっていくんだ?」

「央都アルンから東西南北に数キロ離れたところにある階段ダンジョンに行って、ホップするMobと戦いながら奥に進むと守護ボスがいる。そいつを倒してようやくヨツンヘイムに入れるわけだ。俺達がいくのは南か東の階段ダンジョンだな」

「東でいいだろ。ウンディーネとばったり会うことになるかもしんないが、蹴散らせばいいだけだ」

なんて頼もしい御言葉を口にしたのは姉御ことレヴィアだった。その言葉に特に異論はなかったので、とりあえず向かうのは東の階段ダンジョンだった。

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「なぁ、おれ達何もやることなくね?」

「色々フラストレーションがたまっていたみたいだな」

目の前で繰り広げられる戦闘―――というには一方的すぎる、もはや蹂躙としか言いようのない光景を見ながらソレイユとルシフェルは暇を持て余していた。
あの後、すぐに出発することができた三人は運よくウンディーネとエンカウントすることはなく無事に階段ダンジョンに着くことができた。ダンジョンに入り最初こそソレイユとルシフェルも戦っていたが、今ではレヴィアの独壇場と化していた。

「つか、メイジなのに近接型?」

「あー・・・まぁ、あれだ。どんなものでも使い方しだいってやつだな」

レヴィアの闘い方―――それは炎系統の魔法を駆使して闘うのだが、そのポジションが後衛ではなく前衛のポジショニングだった。近づいてきた敵の攻撃を避けながら魔法を詠唱し、至近距離または相手を掴みながらそれを放つ。魔法を使うのなら距離を置くことがセオリーだ。前にも言ったが、『システムが認識できるよう、一定以上の声量と明確な発音を必要とし、もし途中でスペルを間違えれば 失敗(ファンブル)となりまた初めから詠唱しなければならない』が大前提となる≪アルヴヘイム・オンライン≫では確実に呼吸が乱れる近接戦闘戦中に行うのはリスクが高すぎるのだ。だから、殆どのメイジのポジションは後衛となるのだが――

「遠くから撃つのは性に合わない、だそうだ」

「・・・なぜそんな人がメイジやってんだよ・・・つか、喧嘩殺法って戦い方だな」

「現実ではどんな人物なのか気になるところだな」

SAOの様なレベル制MMOではなくスキル制MMOであるALOはプレイヤーの身体能力がそのままゲームに反映される。それを考えると―――

「現実のあだ名は≪番長≫だったりしてな」

「・・・ありえそうで怖いな」

そんな会話をしているうちにレヴィアが相手をしていた敵は全滅。それから少し歩くと遠目にだが、ヨツンヘイムに通じるであろう巨大な扉とそれを守護するように守る一匹の人型の巨人がいた。

「あれが?」

「ああ。まぁ、この距離はおれの射程だな」

そう言いながら魔法詠唱に入るルシフェル。

「ラルジーア・トゥル・ベネディクショニィ・ブス・トニィトリィ・ドリウム・クラディス」

その詠唱が終わるとルシフェルの体からバチバチっと電気が迸った。そして今度は別の魔法の詠唱に入る。

「シー・トニィトリィ・イン・カエロ・フェレミトゥス・フィト・アイザーム・デーレ・リツェンシア・アド・オミネス・イルミナス」

いつもより長い詠唱なのでおそらく高位の魔法だろう。詠唱が行われるにつれ、ルシフェルの右手に黒い雷が迸っていく。最後の一単語を叫ぶと、雷が迸った右手を前に突き出す。するとそこから一筋の雷が宙を翔けた。その光は真っ直ぐに扉を守護する人型の巨人へと迫り、巨人が気づくころにはその顔面に直撃した。貫通属性を持っているのか、巨人に直撃したにもかかわらず、巨人の顔面を貫き後ろにあった扉に直撃してようやく閃光が止んだ。巨人のタゲはしっかりとソレイユたちを捉えていた。

「先制攻撃完了、と・・・レヴィア」

「あいよ!」

ルシフェルの呼びかけに答えるレヴィア。その手には巨人と同じくらいの火の玉があった。おそらくルシフェルと一緒に詠唱を唱えていたのだろうが、まったくと言っていいほど気が付かなかった。
巨人がソレイユたちに地響きを立てながら突っ込んでくる中、レヴィアはその超巨大な火の玉を巨人に向かって投げた。全力でこちらに向かってくる巨人はそれを避けることが叶わず火の玉に飲み込まれてしまう。だが――

「ぶるあっ!!」

巨人と言うものはそれほど軟ではない。雷で顔を灼かれようとも、巨大な火の玉に飲み込まれようとも、巨人の突進は止まることを知らない。

「じゃ、あとはよろしくなソレイユ」

「頑張れよ」

「・・・・・・はぁっ!?」

一瞬何を言われたのか理解できなかったソレイユだが、言葉を意味を理解するや否や驚きの声を上げる。それはそうだろう。やるだけやって後は任せた、なんて急に言われたらだってそうなる。全力で文句を言いたいが、今は目の前に迫る巨人をどうにかしなければならないので、文句は後回しとなった。

「ったくよぉ!」

文句を言いながらも居合の構えを取るソレイユ。鞘を握り、鍔に親指を添えているのは【ザ・ネームレス】の方だった。巨人が進撃してくるにもかかわらず、落ち着いた心持でふぅと静かに息を吐くと、ネームレスの柄に手をかけ静かに抜き放たれ、静かに宙を翔ける。≪火妖精の三将≫に数えられ、実力者であるフォルテに一切の反応を許さなかった月影桜火/ソレイユの絶刃が今度は何倍もの巨体を誇る巨人に向かって振るわれた。

「おいおい・・・」

「マジ、かよ・・・!?」

ソレイユと巨人の交差。その一瞬に普通ならありえないとされる現象がおこった。巨人の一刀両断。『涅槃寂静』はそれを成してしまった。ルシフェルとレヴィアがHPを削っていたとはいえ、並大抵のものには出来ることではない。ルシフェルはソレイユの異常さをあらためて思い知らされた。初めてソレイユの異常さを見るレヴィアは開いた口がふさがらなかった。そんな二人とは裏腹にソレイユはネームレスを鞘に納めると、ルシフェルたちに向かって叫んだ。

「おーい、巨人は倒したんだから早くいこーぜー」

その言葉にハッとなってソレイユの後を追う二人。そんな中――

「なぁ、ルシフェル・・・」

「・・・何だ?」

「・・・あいつって何者だ?」

「・・・・・・・・・剣の化け物じゃねぇか?」

なんて会話が行われていたのだが、それはソレイユのあずかり知らぬことであった。
 
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