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その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

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第29話 仲魔、仲間、友達。そして、家族



 最近…、温泉から帰って来てから、純吾君の様子が明らかにおかしい。2日目からなのはちゃんと一緒にどこか疲れたような、とっても困ったような様子だったけど、それがいままでずっと続いてるんです。
 とにかく注意散漫で、心ここに非ずというか、いっつも何かを考え込んでいて他の事に無頓着になっているように見えるの。

 例えば今日の朝。いつもはすごい気をつけるはずの料理の味付けを失敗しちゃうし。

『あら純吾君、このお味噌汁、少し味が濃くない?』

『んぅ…。味噌、入れ過ぎたみたい』


 授業だって、全然集中してなくて先生の質問にちゃんと答えられてなかった。

『じゃあ、ここで弓子さんは中島君に対して何て思ったと思いますか? はい、じゃあ純吾君』

『…いらっしゃーせー』

『ず、随分と威勢のいい弓子さんになっちゃったわね…』

 そんな風にぼーっとしたまま答えて皆から笑われちゃうし。


 その後は翠屋。流石に翠屋のお手伝いの時は集中しているから特に失敗はしていないみたい。けど、なのはちゃんの話だと、いつもより気を張っているみたいで桃子さんや士郎さんが心配してたんだって。


 そして、家に帰ってくるとお手伝いの緊張がとけてずっと気がそぞろになってる。いつもより疲れてるみたいで頭をふらふらさせて、すぐにでも眠っちゃいそうなの。そこにリリーさんがまた悪ノリするからほんと大変。

『ジュ、じゅじゅジュンゴ。ぉ、おお義姉ぇちゃんと一緒にお風呂に入りましょうねぇ…ハァハァ』

『んん……』

『わぁーっ! 純吾君、気づいて、気づいてぇーー!?』

……うん、家に帰ってきてからの事は忘れる事にしよう。

 と、とにかく! ここ最近の純吾君の様子はどこか変。これだけの事があって、それははっきりとしているのに「どうしたの?」って聞いてみると、ただあいまいな答えが返ってくるだけ。それでもまだ聞いてみると

「……大丈夫。大丈夫、だから」

 すまなそうに顔を下に向けて、本当に困った顔でそう謝ってくるから、それ以上聞く事なんて出来なかった。だから慌てて話を切り上げてすぐに部屋から出て行ったの。今、とってもじゃないけどそのことを聞ける状態じゃないってわかったから。


……けれども。
 約束、したはずなんだけどなぁ。一人で抱え込まないって、悩んでる事があれば話してって。

 私はあなたの力になれないの、純吾君?





 ずっと悩んでいた純吾君が行動を起こしたのは、次の日の放課後でした。帰る準備が終わったら4人そろって学校を出る。いつもはそうしてたんだけど、純吾君が今日は別々に帰りたいって言ったの。

「別々にって、どうしてそんな事するのよ」

 自分の席に座ったままの純吾君に、アリサちゃんが方眉を上げていかにも不満げに聞いた。アリサちゃんも最近のなのはちゃんと純吾君の様子にいらいらしてるみたいだから、

「…なのはと二人で、話したい」

「ふぇっ」

 ちょっと迷って純吾君が言った理由に、なのはちゃんが驚いた声を出した。どうも事前に話し合ってた事じゃないみたい。アリサちゃんもそれが分かったみたいで、さっきよりもっと怒った顔をして純吾君に突っかかってく。
 って、あ、アリサちゃん周り見てっ! 純吾君とき、キスできちゃいそうなくらい体乗り出しちゃってるって!

「なのはにだけって、私たちには話せない事だって言うの?」

「…よく、分からない。分からないから、なのはと話したい」

 純吾君がそれに顔をそらして答えた。けどアリサちゃんは、じぃってそのまま純吾君の顔を睨みつける。

「……あの旅行に行った時に起こったことね」

 それだけぽつりと言ってアリサちゃんが体を乗り出すのをやめた。そのとき見えた表情はさっきとは打って変わって、どこか納得したような、とても悲しそうな顔。

「はぁ~っ。なのはと相談し終わったら絶対、話してくれるのね」

 けどすぐにまたいつものアリサちゃんに戻って、キッと純吾君を睨みつける。すぐに小さく頷いた純吾君を見て、ふんって鼻を鳴らして私の方を向いて近づいてくる。

「じゃあもう用はないわっ! 行きましょすずかっ」

「えっ、あ、アリサちゃん――」

 そう言って私の手を取って、ずんずん扉へ向かってくアリサちゃん。

 結局、そのまま引っ張られていっちゃった。けど、扉を出る直前少しだけ見えたなのはちゃんが純吾君を慰めてる様子に、ちょっとだけもやもやした。





 それからずんずん教室を出て、下駄箱まで行って、バス停に行くまで、アリサちゃんは何もしゃべってくれなかった。ずっと不機嫌そうに前だけ見てて、早足でバス停まで歩いて行ったの。途中で何か話しかけようかなって思ったんだけど、「話しかけないで!」って全身でアリサちゃんが言ってるみたいで、開いた口は閉じるしかなかったんです。
 結局何も話せないままバスが来て、さっさと乗り込んでいくアリサちゃんについていって座りました。

 アリサちゃんが話しかけてくれたのは、バスが出てしばらくしてからでした。

「ねぇ、すずか」

 さっきまでの怒った様子とは全然違ったすごい弱々しい声に、車内に向けてた顔を慌てて戻しました。

「私達が…、うぅん、私がしてた事って結局、自己満足だったのかなぁ」

 そしたらアリサちゃん、泣きそうな顔してそんな事を言ったんです。両手で膝の上に置いたカバンをギュって掴んで、とても悔しそうに。

「そりゃあ私は二人みたいに特別なものは何も持ってないわ。いつもなのはか純吾のどっちかについていって、ジュエルシードの探索を手伝うだけ、ホントにそれが出てきた時に何かできるかっていえば、その場から離れてもう一方に連絡をするだけ」

 そこで言葉をとめて、私の方をアリサちゃんが向く。その目は少し、涙でうるんでいました。

「だから…、だからこそ、あいつらが心配なの。
 純吾と神社でジュエルシードを見つけた時、本当に怖かったわ。私はその一回だけだったけど、あいつらはまだずっとあれに関わらないと、立ち向かわないといけない。
 だから、せめて相談くらいはのりたいって思ったの。現場に行っても役に立たないんなら、せめて少しでも良いから役に立ちたいって、支えてあげたいって思ったんだけど。あんな風に喋ってくれないことが出てくるなんて。
……やっぱり、そんな事でも一緒に頑張ってるなのはが良いのかなぁ」

 そういうアリサちゃんに、私はすぐには言葉を返せませんでした。だってそれは、私も悩んでいた事だから……。
 けど俯いたアリサちゃんを何とか元気づけようって思って何かないか探していると、停留所のアナウンスがありました。
 それでとにかく場所を変えて落ち着いて話し合おうってアリサちゃんに言って、慌ててバスの定期を探していると

「えっ…リリー、さん?」

 びっくりしたようなアリサちゃんの声が聞こえました。今日はころころ様子が変わるなぁって呑気な事を考えて、けど出てきた名前に私もびっくりして、窓の外を覗きます。

 V型に開いた襟元と、ボトムに穿いてるデニムのホットパンツを隠す位長いのが特徴な真っ白なトップスを着て、黒いニーソックスとローファーを履いてるリリーさん。
 背中は軽くウェーブのかかった黒髪で見えないけど、えぇっとレースアップ、だったっけ…? 襟元みたいにV型に空いている所に紐を通してて、結論として全体的にちょっと肌の露出が多い。

 そして胸元には小さな月の形のトップがついたネックレス。純吾君が翠屋でお手伝いし始めてから初めて買った物で、桃子さん達に相談して買ったものです。
 リリーさんへ、今までずっと一緒にいてくれてありがとう、という事で買ったそうですけど、それを貰ったリリーさんはいつものふざけた様子も見せずに号泣。予想外の反応におろおろする純吾君に、シャムスさんは「首輪! シャムスも首輪欲しいニャッ!」って、すごい変な意味にとられそうなことを言いはじめて、その場をおさめるのが本当に大変でした。
 でも、お礼かぁ。いいなぁ、って、何考えてるんだろう私っ!

 あれ? そういえばよく考えてみるとネックレス以外全部余りものだ。そう、全部お姉ちゃんやノエルさん達が買ったはいいけど、いざ着てみようとすると着こなしが難しかったり、恥ずかしかったりしてお蔵入りしてたもの。……の、はずなんだけどなぁ。あそこまで堂々と着こなせているのって本当にすごい。
 服が着ていた一着しかなかった(それもマグネタイト? で作ったものって言う事で、実際は体の一部だっていうらしくて……うぅ、よく分からない)リリーさんの為に、以前家でそういったお蔵入りしてたものを集めて試着会したんだけど。服を着て出てくる度にお姉ちゃんたちを「なんであんなにきまってるのよ」って、すごいショックを受けさせたくらいに、すごい。
 そんな中でも純吾君は「おぉ~」って、出てくるたび呑気にぱちぱち拍手してたけど。

「……ずか、ちょっとすずかっ!」

 そんな、つい余計な事を考えているとアリサちゃんの焦ったような声が聞こえてきました。慌てて横を見るとアリサちゃんが定期を握りしめてこっちを向いています。

「あぁやっと気が付いたっ! 急ぐわよすずか、あの状態はまずいわ!」

 そう言いつつ席を蹴って急いで降り口まで移動するアリサちゃん。それが気になってもう一度窓を覗くと、リリーさんが2人組の軽薄そうな男の人にからまれてるんです! リリーさんの進路を塞ぐようにして、顔を近づけて何か言ってるみたいで、それをリリーさんが鬱陶しそうにかわす。
 って、男の人の片方が肩を乱暴に掴んだ!

「急がないとっ!」

 急がないと、取り返しがつかない事になっちゃう!





「お幸せにねぇ~」

 あの後すぐにアリサちゃんに追いついて、停留所から走ってリリーさんの所へ行きました。そしたらその場にはリリーさん一人しかいなくて、からんでた男の人達は遠ざかって行ってる最中。 けど様子がかなりおかしい。お互い距離が近くて、顔見るたびに恥ずかしそうにそらして、それでも手はしっかりと繋いでって……

「あのぅ。リリーさん、あの二人に何したんですか?」

 アリサちゃんがおずおずと私も疑問に思った事を聞いてくれました。おずおずしてたのは、呑気な口調で手をひらひらさせてるリリーさんの纏う雰囲気がとっても恐かったから。

「ん? あぁ、アサリンにすずちゃん。こんにちは、こんなとこで会うなんて奇遇ね」

「あっ、はい。こんにちは」

 こっちを振り向いた瞬間、怖い雰囲気がなくなったのにつられてアリサちゃんと一緒に挨拶を返します。「っていやいや! それよりあの二人ですって! 明らかに様子がおかしいじゃないですか」
 けどすぐアリサちゃんがもう一度聞きなおしてくれました。

「あ~、あいつら?」

 そう言ったリリーさんの目がゴミか、いやそれ以上に何か不潔なものを見る様な、とにかく言葉で言い表せないくらい相手を蔑むような目をして二人の方を向きます。

「あんまりうっとおしいから、ちょっと目を見ながら( ・ ・ ・ ・ ・ ・ )教えてあげたのよ。『あなたたち、実はお似合いのカップルなんじゃない?』って」

「えぅ…、それって」

「さぁ、けどあんだけ仲が良いんだし、いいんじゃない? あんな姿を街中で晒すのも、明日の朝お尻の穴( ・ ・ ・ ・ )が痛くっても。その痛みで多分( ・ ・ )目が覚めるでしょうし、これくらいで済ませてあげた事を感謝してほしいくらいね」

 そう言い捨てると、「いい事するとお腹がすくわねぇ~」なんて、大きく背をのばすリリーさん。それが終わった後、私達に向けて悪戯っぽい目をして振り返ります。

「で? 二人とも、何か相談したい事があるんじゃない? 例えば……ジュンゴとなのちゃんの事とか」

 私達まだ何も話していないのにずばり今の悩みを言い当てられた事に、とても驚きました。横を見るとアリサちゃんも目を丸くして驚いた様子です。
 それを見て、にんまりと悪戯が成功した子供みたいな顔してリリーさんが言います。

「どうして、って顔してるわね。だって、いっつもここまでは四人で帰ってくるのに今日は二人だけなんだから、不思議に思うでしょ?
 そ・れ・に。さっきちょっと間を置いた時、顔に出てたわよ~。何かなやみ事がありますっ、て」

 そう言ってアリサちゃんの眉間を人さし指を軽くつつくリリーさん。「あうっ」って、突っつかれたアリサちゃんが眉間を押さえます。

「と、言う訳でっ! 話してもらうわよ、どうして二人がいないかと、今の悩み事をね♪」

 そう言ってとても綺麗に笑うリリーさんに、とっても大人っぽくて素敵だなぁって、思わず魅入ってしまいました。
 
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