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魔法科高校の神童生

作者:星屑
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Episode10:シルバーの正体とコピペ

 さて、やってきました生徒会室。ではなく、第三演習室。呆然とする俺の目の前では、達也と生徒会副会長である服部先輩が向かい合っていた。



「……あれ?」


「どうしました?」


 思わず頭上に疑問符を浮かべた俺に、市原先輩が怪訝な顔をした。


「あ、いや、なんでここ集合になったんですか?」


 と、俺が言うと市原先輩は懇切丁寧に説明してくれた。
 要は、昼休みに達也と深雪さんが生徒会室へ。そこでビックリ深雪さんが達也を生徒会へ推薦。しかし、『決まり』によって却下。深雪さんは諦め生徒会入りを決断。だがしかし、渡辺委員長の機転(?)によって達也を風紀委員へ推薦。しかしそれに服部先輩が反対。で、なんやかんやあって模擬戦へ。
 らしい。



「なんか…達也も大変だなあ……」


 そんな俺の呟きは、渡辺委員長の戦闘開始宣言によって掻き消された。

















                    ☆☆☆



 開始の合図と共に服部先輩の指が汎用型CADを滑る。流石は副会長。その動きに淀みはない。思わず感心していると、視界の端で達也が動いた。と、気づいた時には俺の目は無意識のうちに達也の動きを追う。初速、加速で一気に服部先輩の眼前へ。一気に距離を詰められたため、服部先輩が設定していた座標が狂う。しかし、そこも流石と言える演算スピードで咄嗟に座標を変更、しようとする。しかし、そのときには既に達也の姿は服部先輩の視界から消えている。達也は、服部先輩の右側面の位置で拳銃形態の特化型CADを構えていた。引き金が、三度(・ ・ ・)引かれた。その直後、服部先輩は演習室の地面にうつ伏せに倒れていた。この間、僅か5秒足らず。



「勝者、司波達也……」


 無音の第三演習室に、渡辺委員長の控えめな勝利者宣言がされた。









                   ☆☆☆



 静まり返った中で、達也が一礼した。そして、淡々とCADの片付けに向かおうとする。


「待て」


 そんな達也を、渡辺委員長が止めた。


「今の動きは……自己加速術式を予め展開していたのか?」


 渡辺委員長の質問も無理はない。先ほどの達也のスピードは、魔法を使ったものと遜色ない速度だった。けど、俺の『眼』には、サイオンが改変された様子はない。つまり、魔法は未使用だ。


「そんな訳がないのは、先輩が一番良くお分かりだと思いますが」


 確かに。渡辺委員長は審判として不正がないか注意して見ていたはずだ。それは委員長が一番分かっているはずなのだが、納得いかないような顔をしている。


「しかし、あれは」


「魔法ではありません。正真正銘、身体的な技術ですよ」


「わたしも証言します。あれは、兄の体術です。兄は、忍術使い・九重八雲先生の指導を受けているのです」


 思わず俺は、驚愕に目を見開いていた。俺も、対人戦闘に通じているからこそ分かる。古式魔法の使い手にして、高名な格闘家。まさか、達也がその人の指導を受けているとは。ならば恐らく、体術の面だけでは俺と達也の技術は五分五分か、相手側が一枚上手程度だろう。
 余りの衝撃のせいで、俺も達也の弁護に回ろうとしていたのを忘れてしまったほどだ。


「じゃあ、あの攻撃に使った魔法も忍術ですか?私には、サイオンの波動そのものを放ったようにしか見えなかったんですが」


 とはいえ、この中にいる誰もが驚いているばかりではなかった。生徒会長が、同じようにサイオンの弾丸を駆使するが故の興味で達也に問いかけた。
 達也が服部先輩を混沌させた魔法。あの時はサイオンが改変されていた。恐らく、あれは振動魔法だろう。それに、技術で劣る達也でさえあの素早い展開だから、多分、振動の基礎単一系魔法。それで、サイオンの波を作り出していたはずだ。しかし、それだけでは服部先輩が倒れたことにはならない。
 俺と同じ疑問を覚えた生徒会長が、達也へ疑問を重ねた。


「酔ったんですよ」


「酔った?一体何に?」


酔った、ねぇ。


「魔法師はサイオンを、可視光線や可聴音波と同じように知覚します。それは魔法を行使する上で必須の技術ですが、その副作用で、予期せぬサイオンの波動に晒された魔法師は、実際に自分の体が揺さぶられたように錯覚するんですよ。その錯覚が肉体に影響を及ぼしたのです。催眠術で『火傷をした』、という暗示を与えられることにより、実際に火ぶくれが生じるのと同じメカニズムですね。この場合は『揺さぶられた』という錯覚によって、激しい船酔いのようなものになったというわけです」


淡々とした口調で語られる魔法のタネ。しかし、達也の今の説明では納得できない部分があった。


「そんな、信じられない……魔法師は普段から、サイオンの波動に晒されて、サイオン波に慣れているはずなよ。無系統魔法は勿論のこと、起動式だって魔法式だってサイオン波動の一種だもの。それなりに、魔法師が立っていられないほどのサイオン波なんて、そんな強い波動を、一体どうやって?」


そう、魔法師は普段からサイオンに触れ、サイオンに脅かされている。だからこそ、サイオンの暴風には慣れているはずなのだ。
と、驚愕を露わにしている生徒会長の質問に答えたのは市原先輩だった。


「波の合成、ですね」


「リンちゃん?」


波の合成……ああ、なるほど。
恐らく達也は、振動数の異なるサイオン波を三連続で作り出し、三つの波が丁度服部先輩と重なる位置で合成されるように調整して、三角波のような強い波動を作り出したのだろう。異なる波長の波を三つ作り出す。そのために、達也はCADの引き金を三回引いたのだろう。しかし、その魔法の再現には、余程精密な演算が必要となるはずだ。少なくとは、俺以外の魔法師は。
しかし、その演算能力の高さを差し引いても、まだ疑問が残る。


「それにしても、あの短時間にどうやって振動魔法を三回も発動できたんですか?それだけの処理速度があれば、実技の評価が低いはずはありませんが」


市原先輩に正面から成績が悪いと言われて、達也は思わず苦笑いを浮かべた。だが、残念ながらそれは紛れもない事実だ。
二科生は、魔法技能となる三つの項目である、処理能力、キャパシティ、干渉力をとうごうした『魔法力』が劣っているから二科生なのだ。だが、今の達也の『波の合成』を通常でやれば、相当『処理能力』が優れていなければ不可能。よって、達也が二科生という事実と矛盾が生じてしまう。
しかし、それはあくまで『通常の方法」だったならば、というはなしだが。


「あの、もしかして、司波くんのCADは『シルバー・ホーン』じゃありませんか?」


と、そのとき今までチラチラと達也の手元、つまりCADを見ていた中条先輩がおずおずと口を開いた。


「シルバー・ホーン?シルバーって、あの謎の天才魔工師トーラス・シルバーのシルバー?」


生徒会長にそう問われて、中条先輩の表情がさっきとは打って変わって明るくなった。


「そうです!フォア・リーブス・テクノロジー専属、その本名、姿、プロフィールのすべてが謎に包まれた奇跡のエンジニア!」


嬉々として語り出した中条先輩に、俺は一つの確信を得た。


(ああ、この人、デバイスオタクなのか……)


なるほど、登校生徒会メンバーは常人のほうが少数なのか。と、勝手に失礼な結論を導き出した俺は、ふと達也の表情に疑問を覚えた。
中条先輩がトーラス・シルバーを誉めちぎっている中で、何故か達也は焦っているような、なんとなく「計算違いだ……」というような顔をしていた。
と、ここで俺の中の、ある一つの『仮説』が『確信』に変わった。
昨日、俺が森崎くんと模擬戦をしたときのことだ。俺が自分のCADである『シルバー・フィスト』を取り出したとき、達也が過剰に驚いているのを見た。そのときは、ただ珍しいCADだからかな?という程度のことだと思ったが、今回の反応と照らし合わせてみて分かった。
謎の天才魔工師、トーラス・シルバーの正体がね。


「__あっ、ループ・キャスト・システムというのはですね__」


以下、中条先輩の説明が長いので割愛。の、上、俺が簡単に説明しよう。
従来のCADでは、起動式は一度使用すると、同じ起動式でも再度読み込まなければいけない『使い捨て』のようなものだった。それに不便だな、という声があり、そして、それを改善するためにトーラス・シルバーが開発したのが、『ループ・キャスト・システム』だ。
起動式の最終段階に、同じ起動式を魔法演算領域に複写コピーする処理を付け加えることで、その魔法師の演算キャパシティが許す限り、何度でも起動式の複写とコピー、即ち、同一の魔法を発動することができるようにした機能。
つまりは、一つの『振動の基礎単一系魔法』の起動式をコピーして、その最終段階に、コピーした『振動の基礎単一系魔法』の起動式を、魔法発動の演算をする魔法演算領域にペーストする。
所謂、『コピー&ペースト』略してコピペが、『ループ・キャスト・システム』の正体なのだ。
まあ、サイオンそのものをパパッと改変しちゃう俺には関係ないんだけどね。
と、まあ、ループ・キャスト・システムを搭載しているのが、おそらく達也の持っている、及び制作した『シルバー・ホーン』なのだろう。


「あれ?でもループ・キャストは全く同じ魔法を連続発動するシステムですよね?『異なる三つの波』は振動数や波長が変わってくるはずです。そのために起動式も微妙に違ってくるはずですよね。だったら、ループ・キャストだけじゃあ瞬間的な連続発動は無理なんじゃないですか?」


中条先輩の長々とした説明の終了を見計らって俺がそう言うと、生徒会長がウンウンと頷いていた。それに、市原先輩も俺と揃って首を傾げた。


「ええ、その通りです。振動数を定義する部分を変数にしておけば同じ起動式で『波の合成』に必要な、振動数の異なる波動を連続で作ることもできるでしょうけど、座標・強度・持続時間に加えて、振動数まで変数化するとなると………まさか、それを実行しているのですか?」


思わす驚愕に言葉を失った市原先輩の視線に、達也は軽く、肩を竦めた。


「多数変化は処理能力としても演算規模としても干渉強度としても評価されない項目ですからね」


なるほどねえ。シニカルな達也の答えに、俺は納得の笑みを浮かべた。
普通、魔法の発動のためにはCADから起動式を読み込み、それを魔法演算領域に送る。そしてその魔法演算領域にて起動式と変数が合わさって魔法式が作られる。その出来上がった魔法式を、無意識の最上層にして意識の最下層たる『ルート』に転送、意識と無意識の狭間に存在する『ゲート』から魔法式をイデアに出力。イデアに出力された魔法式は、指定された座標のエイドスに干渉し、これを書き換える。というのが、魔法発動のプロセスだ。
さて、今回問題なのは、『CADから読み取った起動式を読み込み、それを魔法演算領域に送る過程だ。普通、対象の座標、その魔法の持続時間と強度は変数として、起動式はCADに登録される。そしてその起動式が魔法式に変化させるとき、自分の『意識』で変数部分を定める。即ち、座標・強度・持続時間すべてCADと起動式が担う。だがさっきの達也の場合、起動式が担うはずの『振動数』をも変数とし、自分で定めている。自分の意識で変数である振動数を定めることで、同じ『振動の基礎単一系魔法』だが、微妙に周波数の異なる波を三つ、それも瞬間的に作り出せることができたのだ。


「……実技試験における魔法力の評価は、魔法を発動する速度、規模、対象物の情報を書き換える強度で決まる。なるほど、テストが本当の能力を示していないとはこういうことか……」


と、そこで服部先輩が呻き声を上げながら体を起こした。てか、あなたずっと意識あったでしょ。


「はんぞーくん、大丈夫ですか?」


「大丈夫です!」


覗き込むようにして身を乗り出してきた生徒会長に、服部先輩は慌てたように立ち上がった。
その反応に大変興味をそそられると共に、



「はんぞーくん、だと?」


「そう呼ぶのは会長だけです」


俺の疑問は市原先輩によってかいけした。





















ーーto be continuedーー
 
 

 
後書き
はい、ループ・キャスト・システム=コピペな回でした。+シルバーの正体に隼人が気づきましたねー、な回でした。
いやあ、なんか、今回勝手な解釈が多かったですね。なにか不明な点があったら、じゃんじゃん質問してください。
それではぁ! 
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