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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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四十九 追跡者

天の頂にある太陽。その周りを取り巻く光輪は七色の色彩に富んでいる。

橋ではなく円として色づく虹は実に鮮やかで、美しい。だがその反面、古来から蛇を象徴するソレは不吉な存在として敬遠されてきた。

予感は前触れとなり、そして兆しと化す。凶事の前兆。


そしてそれは現実のものとなった。










試験会場全体を見渡せる高楼。
四方を展望する為に設けられた櫓の上では緊張で満ち溢れていた。

「そろそろお遊びは止めませんか」
「それもそうだのう…」

寸前までの小手調べを打ち止めにする。高等忍術を繰り出していた彼らは不敵な笑みを浮かべた。
影としての装束を脱ぎ捨てる。お互いに慣れ親しんだ身なりで身構えた双方は、静かに睨み合った。


振動する大気。屋根の瓦に罅が入り、瓦解する。剥き出しの屋根上で対峙する彼らはこれから起こる戦闘をどこか愉しんでいるようであった。

同時に蹴る。屋根瓦がピシリと罅割れた。



「【手裏剣影分身の術】!!」

回避不可能の攻撃。無数に分身した手裏剣が四方八方から押し寄せる。刃物の荒波。
師に先手を取られたにも拘らず、大蛇丸が悠然と目を細めた。印を結ぶ。

「【口寄せ――穢土転生】!!」


手裏剣が突き刺さる寸前、発動する【口寄せの術】。地の底から這い上がってくる棺桶を盾にし、手裏剣を回避する。

「ひとつ…」

ねっとりとした声が歌うように紡がれる。地を這う蛇の如き歌声はヒルゼンの耳朶を強く打った。嫌な予感を覚え、顔を顰める。

「ふたつ…」

再び現れる棺。もはや思い過ごしではないと悟ったヒルゼンが殊更強くチャクラを練る。

「みっつ…」
「させぬッ!」

三つ目の棺桶の出現。ズズズ…と顔を覗かせるや否や、手裏剣が深く突き刺さる。這い上がろうとしていた棺桶の動きが止まった。
ヒルゼンによって食い止められた棺には、『四』と刻まれていた。地の底へ舞い戻る。

(三人目は駄目だったようね…まあ、いいわ)
棺桶の狭間から覗き見える瞳。大蛇丸の口許が弧を描くのと同時に、二つの棺桶がゆっくりと開く。キィイイ…と音を立て、やがて棺の中身が完全に曝け出させた。屋根に堕ちた棺桶の衝撃で煙が立ち上る。


舞い上がる白煙。視界を覆われる中、「久しぶりよのぉ…サル」と穏やかな男の声が響いた。
途端、綯い交ぜとなった懐かしさと遣る瀬無さがヒルゼンの身に圧し掛かる。

このような形で会いたくはなかった。もっと別の形で再会したかった。

遙か昔お世話になった彼らの姿を目の当たりにし、複雑な胸中を抑える。平静を装い、なんとか絞り出したヒルゼンの声はどこかしら震えていた。
「まさかこのような形でお会いするとは………残念です」


死の淵から現代へ。とうに伝説として語り継がれている二人の英雄は、このような状況下にあっても鷹揚に構えている。

「今までのはただの前座…。これからが本番ですよ」
死者を呼び出した大蛇丸の憎たらしい挑発を聞き流し、ヒルゼンは顔を上げた。沈痛な面持ちで俯いていた彼の眼は変わらぬ強さを湛えている。
しかしながら、やはりその瞳の奥には微かな哀愁が秘められていた。己を奮い立たせ、身構える。


「覚悟してくだされ……―――――初代様!!二代目様!!」




















高楼の結界。
まさか火影同士の戦闘という、思いもかけない展開に陥っているとは知らず、木ノ葉の上忍達は、ただひたすら三代目の安否を気に掛けていた。
しかしながら音と砂、双方の忍びを相手にするには骨が折れる。中でも木ノ葉の暗部に扮している一人の男の存在が厄介この上なかった。

涅槃(ねはん)精舎(しょうじゃ)の術】を会場全体に施した張本人。

カカシを始め、上忍達を足止めする重大な役目を大蛇丸から仰せ付かる。ふと顔を上げた彼の視界に下忍の子ども達が入ってきた。その内、目に留まった一際目立つ金髪に、口角が無意識に吊り上がる。

「今のガキ共…。うちはサスケを止めに行ったのか?」
「下忍が何人動こうが、どうにかなるものでもないだろうに…」
音忍達の嘲笑。嘲りを孕む部下達の会話に彼は嘆息した。呆れが滲んだ声音で一言、「甘いんだよ」と呟く。

「舐めてかかると足下を掬われますよ」
面の奥で垣間見える眼鏡が、無知な部下を非難するように鈍く光った。


(何せ彼の………実の妹なのだから)



















「サスケの奴、焦りやがって…」
「要はサスケを止めればいいんだってばよね!」

Aランク任務。サクラから事情を聞いたナルとシカマルは木々の合間を縫うように走っていた。カカシの口寄せ動物――パックンという忍犬の先導によってサスケを追い掛ける。

我愛羅の後を追って行ったサスケ。我愛羅の異常なチャクラを危険視したカカシは、サスケを止めるようナル達に言い付けたのである。
深追いは禁物だと。


パックンの鼻が僅かに反応する。その鋭い嗅覚は背後から迫り来る敵の気配を逸早く感知していた。ナル達に危険を促す。

「追手か。おそらく中忍以上。追いつかれたら全滅だぜ」
舌打ちまじりにシカマルが呟く。その声は何時になく緊張していた。幼馴染の険しい顔にナルも珍しく考え込む。自分にとっては素晴らしい思いつきが浮かび、彼女はハッと顔を輝かせた。


「……こうなったら待ち伏せするってのはどうだってばよ!」
「そうね、待ち伏せならこっちが有利……」
「そりゃ駄目だ」
ナルの考えにサクラも賛同するが、その提案はシカマルによって却下された。

「確かに待ち伏せはこちらにとって有利だが、それには二つの必要条件がある」
納得いかないと顔に書いてあるナルとサクラに、彼は解りやすく説明し始めた。人差し指を立てる。

「その一・逃げ手は決して音を立てずに行動し、先に敵を発見する。その二・追手の不意を狙う事ができ、確実な痛手を負わせられる点と位置を獲得し、素早く潜伏する…」
二つ立てていた指を握り締め、シカマルは枝を蹴った。木々が生い茂る中、声を潜めて説明を続ける。

「この両方が確実に為されて、初めて待ち伏せは有効な戦術と成す……忍犬の鼻があるからその一の条件はなんとかクリア出来るとしても、」
そこで言葉を切って、シカマルはその場の顔触れを確認した。わざとらしく嘆息する。

「(偶にすげえけど)基本おバカに、大した取り得のないくノ一に、犬一匹…それに逃げ腰ナンバーワンの俺だぜ?」
むすっと唇を尖らせるナルから顔を逸らす。正直言いたくはなかったが、彼女を納得させるにはこれぐらいが丁度良い。それにお馬鹿なのは事実である。

「戦略ってのはな。其処になる状況を確実に掴み、最善策を練る事だ…今の俺達に出来るといえばただ一つ、」
一瞬、シカマルの眼がナルを捉える。その真剣な眼差しに、不思議そうな顔でナルは首を傾げた。
顔を前に戻す。だが彼の眼は何かを決意したかのような強さを湛えていた。きっぱり言い切る。


「待ち伏せに見せ掛けた、陽動だ」

一人が残り、足止めする。その間に他の者達を逃がす。つまりは囮である。
足止めが成功すれば、追手を撒ける。しかしその代償は……。

「ま、死ぬだろ~な」
何の気も無しに発せられたシカマルの一言に、二人と一匹の顔が強張った。自然と足が重くなる。
とうとう木の枝で立ち止まった彼らの間では気まずい空気が流れていた。虫の羽音が聞こえるくらいの静寂がその場に降りる。
忍犬はサスケの足取りを掴むのに必要なのだ、と三人ともが理解していた。


気まずい沈黙を消すように、ナルが大きく口を開く。わざと明るい声で「オレが…、」と言った彼女の言葉をシカマルが遮った。

「俺がやるしかね~か」

軽くそう告げたシカマルが背を向ける。驚愕するサクラの傍ら、ナルは大きく目を見開いた。


「だ、ダメだってばよ!!」
「囮役を充分こなせて、且つ生き残る可能性があるのは、この中じゃ俺だけだ。それに【影真似の術】は元々足止めの為の術だからよ」
「でも…ッ!だ、大体シカマル試合したばっかじゃんか!!チャクラ残ってねえんじゃ…」
「そりゃ、お前もだろ~が。…――後で追い付くからよ。とっとと行けって」
シカマルに言い含められて、ナルの口が何度もぱくぱくと開閉する。だがシカマルの背中から揺るがぬ決意を感じて、彼女はきゅっと口を噤んだ。頷く。


「頼んだぞ、シカマル! 絶対生きて追い付いて来いってばよ!!」

彼女の声に応じて、シカマルは緩く片手を上げる。そこで彼らは別れた。
追手を撒き、追跡する為に。



















我愛羅の身体を気遣いつつ、逃げるテマリとカンクロウ。
しつこい追手に嫌気が差し、カンクロウの足が動きを止める。いい加減辟易していた。

「テマリ!我愛羅を連れて先に行け!!」
「カンクロウ!?」
「行けッ!!」

我愛羅をテマリに押し付けるようにして引き渡す。今来た道を辿るように駆けてゆく弟の背中をテマリは目で追った。気遣わしげな視線を投げ、我愛羅を背負う。

姉と弟を先に行かせて、カンクロウは立ち止まった。追手を待ち構える。
てっきりあの『うちはサスケ』だと思い込んでいたが、目の前に現れたのは―――。

「お前ら…確か、」




犬塚キバと日向ヒナタ――木ノ葉の下忍・八班の二人であった。

 
 

 
後書き
四月から更新が難しくなります。
ですが完結目指して頑張りますので、気長にお待ちください!お願い致します!! 
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