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吊るし人

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第二章

「縛りが多過ぎて。立っていても」
「辛い状況ね」
「その筈なのに表情は暗くはないし」
 そこまではいかないのも重要だった。
「何か本当に不思議ですね」
「このカードはタロットの中でも一番言われているカードの一つなのよ」
「そうなんですか」
「あまりにも不思議なカードだからね」
 それ故だというのだ。
「そう思うわね。ただね」
「このカードはいいカードなんですね」
「逆だとね。けれど正でもそれ程悪くないのよ」
 それが吊るし人のカードだというのだ。
「逆さに吊るされてるけれど片足は自由でしょ」
「元々の表情も暗くないし」
「手は後ろで縛られてるけれど抜け出すことは出来るわ」
「じゃあ一体」
「あまりいい状況じゃなくても好転させられるのよ」
「出来るんですか」
「そういうことよ。要するにね」
 沙耶香は微笑んでまた言った。
「頑張れってことよ」
「今はですか」
「ええ、そうしたら次第によくなっていくから」
「それが占いの結果ですね」
「そうよ。だから頑張ってね」
「わかりました。それじゃあ」
 ゆかりは沙耶香のその言葉に頷いた。ここで沙耶香はゆかり自身を見た。
 あどけない感じで小さめの綺麗なアーモンド型の目で唇は小さく赤い、やや細面の白い顔で鼻は高めだ。髪は茶色がかった黒で波立たせて伸ばしている。 
 制服から可愛らしい感じの足が見えている、沙耶香はそこまで見てそのうえでゆかりにこんなことを言った。
「今から暇かしら」
「暇っていいますと?」
「ええ、時間はあるかしら」
 思わせぶりな笑みでゆかりを見ての言葉だった。
「少しでいいから」
「実は今から友達と待ち合わせをしてまして」
 ゆかりは沙耶香の笑みの意味に気付かないまま答えた。
「ですから」
「時間はないのね」
「はい、そうなんです」
「そう。ならいいわ」
 沙耶香はゆかりの言葉を聞いてすぐに返した。
「別の娘を探すだけよ」
「別の娘っていいますと」
「私の話よ」
 話の中身は言わなかった。
「だから気にしないで」
「そうですか」
「とにかく努力して頑張ることよ」
 沙耶香は話を占いの結果に戻した。
「そうしてね。希望はあるから」
「吊るし人のカードの様にですね」
「ええ、そうするといいわ」
「わかりました」
 ゆかりは沙耶香の言葉に頷いた、そうしてだった。
 次の日朝に部活に出ると早速だった、部長からこんなことを言われた。
「あんた今度の試合に出てくれるかしら」
「今度のですか」
「ええ、ダブルスでね」
 それで出て欲しいというのだ。
「そうしてくれる?」
「パートナー誰ですか?」
「一年の宮迫さんよ」
「宮迫さん、あの娘ですか」
「そう、宮迫愛生さんね」
 その娘と一緒に出て欲しいというのだ。
「そうしてくれる?」
「宮迫さんとですか」
「あの娘まだテニスはじめたばかりだけれど筋はいいと思うから」
「背も高いですしね」
 一七〇位はある娘だ、ゆかりと比べて十三センチは高い。
「運動神経もあって」
「そう、だからね」
「あの娘とダブルスで、ですか」
「ほら、今も頑張って走ってるじゃない」
 部長は微笑んでグラウンドを見た、そこでは一年の娘達が頑張って走っている。
 その中で一際背が高いあどけない顔の娘がいた、部長はその娘を見て言うのだ。
「努力家だしね」
「はい、じゃあ」
「ただ。わかってると思うけれど」
「あの娘のことですね」
「テニスはじめたばかりで」 
 それに加えてだった、愛生は。 
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