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ソードアート・オンライン ーコード・クリムゾンー

作者:紀陽
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第三話 古城の秘密

モンスターの大群を壊滅させたあと、アスナは呆れた表情でばつの悪そうなキリトを睨みつけた。

「まったく、いきなりなにするのよキリトくん。トレインなんて非マナー行為でしょ?」
「その通りだ。俺たちだからよかったけどさぁ。まあ、よくないけど」
「悪かったよ……」

さすがに悪かったと思ったのか、キリトはアスナとジルのから顔を逸らした。
今回、キリトが引き連れてきたモンスターの大群の数は二十体弱。一人で七、八体を倒した計算だ。

「そもそも、なんであんな大群に追われていたの?」

アスナが問うと、ジルもそういえば、と首を傾げた。

「確かにモンスターがPOPする罠はたくさんあったけど、いきなりあんな大群に出てくるヤツなんてなかったはずだろ?」
「いや、普通に城の最上階まで行ったら出てきたぞ? でっかい宝箱開けたらそれがアラームトラップでさ……」
「ああ、そんなことだったの」

キリトの説明で、なにかに気づいた様子でジルが何度も頷いた。
アスナとキリトの視線を集めたジルは、すごく嫌な笑顔を浮かべてキリトを指差した。

「お前、道間違えてるから」
「はあ?」
「お宝があるのは最上階なんかじゃないの。そもそもダンジョンの『突破』なんだから、最上階まで行ってどうやって突破するつもりだよ」
「ちょっ、ちょっと待てよ! あのNPCはそんなこと言ってなかったぞ!」

キリトの言葉に、アスナは首を傾げた。
確かにアスナが聞いた話は城を突破するというものだったはずだが。
するとジルは、哀れみの目をキリトに向けた。

「なんだ。キリトはあの『噂』、聞いてなかったわけ? 惜しかったなぁ……お前なら、あれも聞いてたらクリアできたかもしんないのに」
「なんだよそれ! どういうことだ!?」

意味ありげな言葉に、キリトはジルに詰め寄ろうとした。

「――ところでさ、キリト」

しかし、すぐに足を止めることになった。

「そろそろタイムアップじゃねぇの?」

ジルが言い終わる前に、キリトは制限時間終了で古城外に強制転移させられて、その場から消え失せていた。

「ぷはっ、キリトくんカッワイソー!」

なんとも楽しげに笑い転げるジル。そんな彼にアスナは困惑の表情を向けていた。

「ちょっと待ってください。――さっきの言葉、一体どういうことなんですか?」
「あーはいはい、ちゃんと説明はするから先行こうか。アイツみたいにタイムアップなんて笑い話にもなんないし」

ジルは肩をすくめて、通路を道なりに歩き出す。
色々と問い詰めたい気分のアスナだったが、仕方がなしにそのあとに続いた。

「――アスナはあの噂のことは知ってんだろ? でも、あのNPCが本当はなにを喋ったのか君は知らない」

勝手に口を開いて語り出すジル。ずいぶんと遠回しな話だったが、アスナは黙っていた。これまでの彼の言動から、なにを言っても無駄だということは学習していた。

「あのNPCはこう言った。――『この城にはかつて、たいそう戦好きな王様と騎士たちがいた。いつも戦に備え、武器の材料を大量に集めていた王様と騎士たちがだったが、ある日突然、王様が病で死んでしまう』」

話しながらも、ジルは罠の存在に的確に気づいて解除していく。一階部分はそろそろ八割がたがマッピングされようとしていた。

「『しかも間の悪いことに、城は集めていた金属の中にある至高の金属を狙う敵の軍隊に取り囲まれ、騎士たちもあっという間に倒されてしまった。しかし王様は、集めていた金属の隠し場所を王妃以外には秘密にしていた。そしてその王妃も王族のみが知る抜け道から逃げてしまっため、敵の軍隊はおろか味方の騎士たちにも見つけることはできなかった』」

ジルが喋り終わると、アスナはいつの間にか広い空間に出ていたことに気づいた。
その空間は墓地だった。多くの石の棺が置いてある中、一番奥に大きい棺が置いてある。

「この話のポイントは、王様と王妃だけが知ってたってとこ。そして王族のみが知る抜け道……それにこのいかにもな場所と来れば、答えは一つだけっしょ?」

そうしてジルは、棺に手をかけてその蓋を外した。アスナが駆け寄って中を覗き込むと、暗がりへと続く階段が口を開いていた。

「ってなわけで、正解は地下の抜け道でした」

手のうちをばらしたマジシャンのように、ジルが得意げに笑う。

「……つまり、この先に金属があるんですね?」
「まあね。至高の金属とかいうのは俺が取っちゃったけど、無数の金属は確かにここにあるはずさ。――ここからは罠もないし、お先にどうぞ?」
「そ、そうさせてもらいます」

先にこの暗い空間に下りていくのは怖かったが、階段が急なのを見てアスナは先に行った。ジルを先に行かせてなにかの拍子で振り返られたりしたらスカートの中を見られてしまう。

「それにしても、意外とみんなバカばっかだわ」

階段を下りていると、ジルが唐突に口を開いた。アスナとしては彼の軽薄な口調のおかげで気が紛れるので、今回ばかりはお喋り好きなその正確に感謝だ。

「――俺が流した噂聞いて、トラップの中に突っ込んだりとかするしさ」
「……えっ?」

アスナは聞き捨てならないジルの言葉に、思わず振り返った。

「俺としては、ヒントのつもりで流した噂だったってのに。そもそもアルゴあたりに誰がこのクエストを発見したのかって聞いたら、それが俺だってこともすぐに分かっただろうに」

つまり、ジルはこのクエスト真っ先に発見しクリア。その後にクエストのヒントのつもりで噂話を広めて、逆に混乱させてしまったということになる。

「ちょっと、それってつまり、ジルさんがこのクエストの進行を撹乱させたということですか!?」
「そーいうことになるかねぇ。ははっ、トラップ突破しようとしてボコボコされたヤツらの話を聞いたときは腹筋がねじ切れるかと思ったよ。制限時間ばっかに気を取られて、ここ見逃してんだから」

ジルのように罠解除スキルを持っていなければ、この短時間で城を攻略するのは不可能である。あの墓地を見つけたとしても、上に続く階段がないと判断すれば、すぐに引き返していたのだろう。
おかしくて仕方がないというように、ジルはけらけらと笑っていた。そんな彼に、アスナはさすがに切れた。

「あ、あなたね! 一体どういう頭してるんですか! 普通、そういうときは一刻も早く間違いを指摘するべきでしょう! 罠に掛かって誰かが死んでいたらどうするつもり!?」
「……さあね。まあ罠に掛かっても即死はしねぇし、仲間もいるだろうから九割九部助かるとは思ってたよ」

SAOは基本的に公正である。そのため即死トラップは存在しておらず、一番最悪なものでもアラームトラップで、モンスターを使って間接的に死亡させるという形を取っている。それも、プレイヤーのステータスや技量次第で生き残ることも可能だ。

「そもそも、情報の開示は義務じゃなくて任意だし、俺を糾弾するくらいなら『聖竜連合』あたりを叩いたほうが生産的だろ? 今は味方なんだし」

攻略組ギルドの中でも規模が大きく、情報を秘匿しがちな集団を引き合いに出されて、アスナは黙るしかなかった。

「――それに、俺はすぐにでもあっちに帰りたいわけじゃねぇし」

ジルの小さな呟きは、アスナの耳に入らなかった。
そうこうしているうちに、アスナは階段の一番下にたどり着いた。そこはまるで遺跡のような場所で、先に続く通路のほかに二つの宝箱が置いてあった。
宝箱の片方、小さいが微細な装飾が施されているものはすでに空だった。おそらくジルが取ったというものだろう。
そしてもう一つ。大きく地味な宝箱はまだ開いていなかった。

「これが……?」

アスナは大きい宝箱に近づくと、それを開いた。するとアイテムストレージいっぱいにアイテムがドロップされる。

「よし、これでクエスト完了――」
「『無念に散った王様と騎士たちは、城が滅びたあとも戦いに備え、罠を張って敵が宝を奪うのを阻止しようとしている』――、確かそんなことも言ってたっけねぇ……」

ジルがここに来て呟いた言葉に、アスナは非常に嫌な予感がした。

振り返らずとも分かった。背筋に来る冷たい感覚……アスナがもっとも苦手としているもの。

「『城の罠、生ける屍となった騎士たち、そして王様の幽霊から宝を奪い、城を脱出できた者はその宝を手にすることができるだろう』」

ニヤリと笑いながらジルが、おそらくクエストの導入の最後であろう一文を言う。

「王様の幽霊から逃げ切ったらクエスト完了。――さあ走れ副団長、栄光の出口はあの先だ!」
『我が宝、奪わせはせんぞおぉぉぉ!』
「イ、イヤアァァァァァァ!」

古城に、血盟騎士団副団長の『閃光』、『狂剣士』の異名を持つ少女の悲鳴が響き渡った。

こうして最後の最後で最大の苦労をしつつも、アスナの任務は幕を下ろした。
余談だが、このときのクエストで大量に入手したインゴットはすべて質がかなり悪いもので、たいしてギルドの役には立たなかったらしい。 
 

 
後書き
かなりこじつけですが、これでクエストは終了です。
次話もよろしくお願いします。 
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