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魔法少女リリカルなのは~箱舟の獣~

作者:嘘口真言
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プロローグ~に当たるなにか その2~

 
前書き
わりと早く書けた。
読んでる人いるかどうかわかんないけど、なるべく書き続けよう。

あと、主人公のイメージとして前回『DTB』の黒を挙げてたけど、どちらかと言えば『ドリフターズ』の島津豊久のほうがしっくり来る、という事に気づいて自己解決。
どちらでイメージしても構いませんが、主的には豊久のほうでお願いします。

 

 
side-守護騎士



二人の騎士は、上空に突如現れた一人の男を見ていた。
一度“落ちて”しまえば、二度と出られないとされる虚数空間から現れた、巨大な柱と棺。その棺から出てきたのは、死体。しかしそれは実際は生きていて、瞬く間にその身体を再構成していた。今目の前にいるのは、バリアジャケットのインナーのような黒く薄い服を着た、一人の男。
男はキョロキョロと周辺を見回し、一瞬こちらを見たかと思えば、その視線は右へと向いていた。
彼の視線はそちらへと向かい、そちらへ向きを変えると、少し身体を前のめりに傾ける。右腕を左脇に抱えるような、身体を小さく畳んだ右肩を突出させる体勢。そしてシグナム目掛けて、

「…………来る!」

ズドンッ!!! という、空を蹴る爆発音と共に、突貫した。

「シグナムッ!!!」

ヴィータに言われるまでもなく、こう来ることは予測できた。
レヴァンティンはカートリッジを一発ロードし、シグナム自身も魔力を全て防御に回す。
『正体不明』『魔力量測定不能』『謎の魔方陣』……警戒するには十分すぎる判断材料だ。そして男は、瞬く間にシグナムとの距離を詰め、彼女の展開する魔法障壁に愚直に右拳を叩き込んだ。

盛大な爆発音。鞘を前面に押し出したシグナムの防御は、破られることは無かった。
一瞬推されるも、何とかその場で踏ん張りを利かせ留まる。どうやら、馬鹿馬鹿しいまでの攻撃力を有している訳ではなく、素手ならば我々と同じ、人間と同等の力しか有していないとシグナムは見た。実際彼女の障壁は全開ではなく、およそ五割といったところ。コレで耐えられるならば、まだ底は見える。
ならば、その防御もまた然り。その様子を見ていたヴィータは迷わなかった。

「アイゼンッ!」

『|Jawoul≪了解≫!』

カートリッジを一発。ヴィータの眼前には鉄製の鋼球が、左右四対に八球展開される。
アイゼンを右往左往に振るい、全ての鉄球を打ち出すと、それらは自動追尾で男を目掛けて飛翔する。
シグナムもソレを確認すると、肉薄しようとする男の胴へ蹴りを叩き込み、そのまま高速で後退、男と距離をとり、一気に安全圏へと浮上する。否応無く吹き飛ばされる男の背後からは、鉄槌の騎士が放った鋼球。コレは回避できない、そしてその予想の通り鋼球は全て着弾、男は全弾まともに食らってしまった。
その様子を確認すると、二人は即座にカートリッジを装填。次の状況へ備える。
だが今の攻撃に手応えはあった、あの状況ならまともに食らって墜ちている、もしくは撤退している筈だ。

しかし。
その爆煙を振り払ったのは、攻撃を受けたばかりの男だった。

「ちっ、やっぱ障壁が邪魔か……あたしら二人の攻撃受け止めただけはあるみてーだな」

平然と言わんばかりの無表情で、男は全包囲にシールド系障壁を展開していた。
足元には先ほどと同じ六芒星の魔方陣。そして漆黒の魔力光。測定不能の魔力で展開される障壁の硬度は伊達ではないようだ。しかし、これで踏ん切りがついた。ちょうど頃合でもある。

『湖の騎士の進言どおり、撤退が最善では?』

「そーだな……それがいい。シグナ」

己が将の名を呼ぼうとした時、ヴィータは己が目を疑った。
男がいる位置から数十メートル上空、頭上という圧倒的優位に立つ、ある意味最も安全圏にいるはずのシグナムの首に。男の肘から先の腕が。彼女の首を掴んでいた。

「か………ッ、ハ」

苦悶の表情を浮かべるシグナム。その首を掴んで離さない腕は、男のもの。彼女はソレを両手で引き離そうとするものの、まるで首を握り潰さんとする勢いのソレを、早々離すことなど出来なかった。
視線を下に落とせば、音の左腕の肘から先が消えている。その断面からは出血も無く、おそらく魔法か、それともあの男の能力か何かだろう。しかし問題はそこではなく。
一体いつ、どうやって、男はその腕をシグナムに飛ばし、その首を捉えたか。
ヴィータの記憶が正しければ、あの爆発の瞬間にはシグナムには何の異常もなかった。
上空へ離脱したときも、腕が彼女を追尾している様子などは伺えなかった。つまり、この一瞬。
あの男が鋼球を防御し、二人の視線がその中心へ向いた、あの一瞬。その瞬間に、男は腕を切り離し、何らかの方法でシグナムの反応の及ばない位置に腕を飛ばし、瞬時にその首を掴んだに違いない。
ヴィータは、あの腕だけを撃ち落とす事も考えた。しかしこの状況で、そこまでの精密射撃を成功させる自信ははっきり言えば無い。自分が動けば、あの男は間違いなく自分を墜としに来る。そうなっては本末転倒、ならいま自分が為すべきは。

『シャマル、空間転移の用意だ! あたしが合図したら何処でもいい、あたしらを一箇所に転移させろ!』

『ヴィー……ちゃん……したの、通信が回復したと思ったらいきなり! 映像出ないし、状況分からないし、なにがどうなって』

『いいから! 出来んのか出来ないのか!』

『――――んもうっ! ……分かったわ、飛ばせるよう準備は出来てる。ザフィーラもそっちに向かってるし、無茶だけはしないでね!』

あとで謝ろう、ヴィータはそう思った。
あんな“呆けた”彼女も、頼るべき自分の仲間であり、誇るべき友人なのだから。そして、愛すべき家族なのだから。しかし今は、目の前の“アレ”をどうにかする事だけを考えよう。
アイゼンは己が主の意思を察し、カートリッジをロード、その意思に沿う形態へと己が姿を変える。
ハンマーヘッドの一つを、三基のブースターに変形。対の先端には、内部から角錐状のスパイクを突出させる。補助や射撃機能の一切を排除し、加速と突撃にのみ特化した形態。文字通りの突撃兵。
柄をしっかりと両手で握りこみ、ヴィータはアイゼンを水平に構える。

『Raketen form≪ラケーテンフォーム≫!』

「ラケーテン――――」

彼女の声に応じ、ブースターに火が灯る。轟音が空に響き、突撃の(とき)を上げる。
少女は駆けた。爆発音と排煙と火花を撒き散らしながら大きく旋回し、“あそこ”にいる男に向かっていく。
この瞬間だけは、ヴィータは殺す気だった。あんな“化け物”を、もはや人とは見れない。死体の状態から身体を再生し、二人掛かりでも破れぬ超硬度の障壁、果ては身体を切り離して攻撃。そんな奴を倒しきるには、殺すくらいが丁度良い。
目標まで十数メートル、動かぬ的との距離はすぐに詰まった。ブースターの噴射に合わせて身体を右回転、遠心力と推進力の合わせ技による、超破壊力の一撃。少女は叫びながら、その鉄槌をぶち当てた。

「ハァンマァーーーーーーァァァァアアアアッッッ!!!!!!」

ギギギギギギギギギィイイイッッッ!!!!!! という衝撃と不協和音が轟く。

アイゼンのスパイクと、男の障壁は拮抗していた。真正面からヴィータが推してはいるが、男はまったく動じていない。ぎょろりと、その双眸が彼女を捉えているだけ。何もしないし、何もしようとしていない。
――――いいや違う、そうじゃない。ヴィータは悟った。この男は“シグナムしか”見ていない。というよりも、彼女の持つ“闇の書しか見ていない”。
となれば、この男はこのまま行けば行き着く先にあるのは。脳裏に浮かんだのは、たった一人の少女。
高速化する思考の果てに見出したのは、自分の主だった。自分の大切な、家族だった。

「――――ぁぁぁああああああああああっ、アイゼェェェエエンンッッッ!!!!!!、」

『Jawoul≪了解≫!』

ヴィータは叫ぶ。そして、相棒はソレに応えた。
カートリッジをさらに二発。スパイクとブースターに一発分ずつの魔力を注ぎ込む。
さらに振り絞れるだけの魔力を、ありったけアイゼンに注ぎ込む。出来れば殺さないなんて生っちょろいことはもう考えない。殺す。この男は確実に、今、ここで、絶対に殺す、殺さなければならない。
今まで考えたことも無かった。「進んで殺したい」だなんて、ヴィータにとっては初めての感覚だった。
だがヴィータは決断した。この男は、今ここで仕留めなければならない。出来なければ、せめてこの男が行動不能になるまで叩かねばならない。この男は間違いなく、自分の主に害を為す存在となる。家族の和を乱す、災厄となる。やっと得られた平穏を、この男は奪ってしまう。
この男が誰かなどどうでもいい。この男が何なのかなどどうでもいい。今はただ、こいつを殺す。

「ザフィーラッ!」

男はハッとして、首だけ背後に振り返った。
そこには。両の拳に魔力を練りこんだ、守護獣の姿があった。

「でぇぇぇぇええいいやぁぁぁああああああああッッッ!!!!!!!」

ズドンッッッ!!! と、ザフィーラの左拳が男の障壁を打った。

直後、男の障壁に罅が入った。どうやら、防御の限界が来たようだ。
ザフィーラの咆哮と、ヴィータの叫びが重なる。アイゼンはブースターを限界まで噴射、ザフィーラは最後の右拳を叩き込んだ。そうしてようやく、男の障壁は粉々に破壊された。しかし、二人の攻撃はとまらない。
ザフィーラの拳は男の右頬を、アイゼンは男の鳩尾を捉え打ち抜き、それぞれの部位を“粉々に吹き飛ばした”。
飛び散る血肉など気にも留めず、二人はすれ違うように行き交い、“バラバラの肉”は地上へと放り投げられる。
同時に、シグナムの首を“もごうと”していた腕は力を失い、ちゃんと斬り落とされたただの腕へと戻っていた。彼女はソレを投げ捨てると、一息つく暇も無く二人の下へと駆け寄っていく。三者三様、息も絶え絶えの満身創痍といったところか。
下へ落ちていった男は戻っては来ない。当然か。いくら再生するといっても、基幹である『脳』を破壊されては、流石のどんな生物だろうと死なない訳は無い。

「……すまない、不意を突かれた」

「問題ない。元より、アレは“仕留めねば”ならぬ者だったのだろう。ヴィータがここまで徹底するところなど、そうは無い。違うか?」

「………関係ねーよ。アレはたぶん、あたしらみたいなプログラムでも、まして人間でもない。もっと違う化け物だと思う……だから殺そうと思っただけだ。アレはたぶん、放っといたらなにもかも壊すようなヤツだ」

「おそらく、死体はあとで管理局が回収する筈だ。その後の検証を経れば、我々の弁明も多少は利く筈だ」

シグナムは、遠方に萎縮したままの二人の少女を見る。
生で人が死ぬ瞬間、そんなものはおそらく初めてだったろうに。二人の少女は、ただ動けずにいるだけだった。
この映像は、おそらく記録されている筈だ。あの男を殺した瞬間も、あの異常事態も。ならば、守護騎士達が犯した罪にも多少は弁明の機会が与えられる筈だ。殺す気で来る者を迎え撃った、彼女達にはただそれだけの事。
それにあの死体には、管理局のものですら目を引く“なにか”があるに違いない。
ソレを調べ終えた後ならば、あれが人間で無いということはすぐに分かる。歴戦の武士(もののふ)である彼女達は、直感であれが人間でないことを理解していた。それをより正確に調査できるなら、尚更良い。
シグナムは少女達に叫んだ。まだ終わっていないから。今度こそは終わらせると、誓うために。

「テスタロッサ! この戦い、預ける!」

『こちらの用件は済んだ。シャマル、転移(とば)してくれ』

『ザフィーラもみんなも、お疲れ様。すぐに手当てするね』

足元に、シャマルの魔力光である翡翠色の魔方陣が展開する。
遠くから、彼女達が何かをいっているような気もするが、もう耳には届かない。
転移される瞬間、瞼を閉じると、幻聴だろうか。あの男のデバイスの音声が聞こえた気がした。






  ×      ×






『魔力反応、識別完了。魔力質、解析完了。空間転移後、素体の再構築を開始します』

虹棺(ゴフィール)への素体の収納完了、戦闘データの統計と処理を開始します。音声データ解析、目標の呼称名を自動識別…………完了』

肉の塊から、デバイスが状況の報告を終える。
頭と腹のない死体は、背にしたコンクリートの地面にゆっくりと飲み込まれていく。無機物を介した空間転移、デバイスが行っているのはその一種だ。
行き着いたのは、彼がここへ来るために使用した棺の中。今は隔離空間に収納されているた、め誰かに感付かれる事も無い。その中で、かれの肉は数分経たずに再構築され、元通りの成人男性の肉体を取り戻していた。

「上手く撒いたか…………どうやら世界はまた一新と進化しているようだな。前回俺が目覚めてから何年経過している?」

『検索中…………約200年経過しています。……追加情報あり。現在より約十一年前に、別次元世界にて夜天の書の起動が確認されています。ですが、素体の起動までの期間に停止しています』

「なるほどな……この世界の『オベリスクの楔』は機能しているか?」

『超弩級が三本稼働中、うち二本は機能40%以下に低下しています。追加で「楔」を飛ばしますか?』

「そうだな……過去の地表の形状から多少は変化が起きている筈だ。……海中に特大級を2000km単位で設置、地表に1000km単位で設置、各機にステルスを掛けておけ。地形の識別と、後は文明レベルの解析もしておけ。この世界、しばらく基点になりそうだ」

『文明の解析に関しては既に実行中です。おそらく十二時間ほどで終了できると思われます』

「重畳重畳。では後は任せる」

『了解』

瞼を閉じると、そこに映るのは今日の戦闘の光景、そして過去の自身の記憶。
そして、目視するだけでも判別できるほどに、夜天の書には変化があった。明らかな悪意ある改変。男は、自分の性能の未完成さに焦燥のようなものを感じた。
自分の本来の役目を全うすら出来ない事への、苛立ちとも取れた。

「……次元世界の数は、200年前よりも増加しているか?」

『はい、それは確実です。稼動初期に設置した「楔」との相互反応から、次元世界はほぼ無限に断裂・分裂を繰り返し、現在では測定不能数まで増殖しています。他世界へも「楔」を飛ばしますか?』

「……いや、いい。とりあえずは、この世界を中心として解析を進めろ。以上だ」

『了解しました。「遺伝子集積体(ノア)」、完全稼動します』






 
 

 
後書き
まず第一の正体。
主人公の名前『遺伝子集積体(ノア)』。
現状判明している特性を上げるなら『超再生能力』『半不死性』『高魔力』『身体の分離・操作』『独自の術式』といったところでしょうか。また追々追加するし、今はこんなところで。



 
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