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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode6 猛る想いの炎2

 再びの、命をかけた全力の死闘。

 だが、一種の恐慌状態にあったPoHの時とは違って、俺の頭の中は熱く炎を燃やしながらも冷静な判断を保っていた。

 「っ!!!」

 短剣の横腹を再び打たれたジョニーが飛び退る。恐らく相当に耐久度を削られたのだろう、苦々しく目を顰めている。先程のようにソードスキルで無いせいで一撃で砕くには至らないが、その顔を見れば何回も耐えられそうにないのは明らかだ。

 「ちぃっ、クソがッ!!!」

 動きで言えば、三人の中でも群を抜いた精度。そして、一撃を貰えばその刃に塗られた麻痺毒が勝負を決するだろう。俺も左腰のポーチの中にある解毒結晶は、一秒の半分もあれば即座に使えるようにしてあるが、その半秒の隙があれば俺の体はズタズタだろう。

 だが。

 (……甘い…)

 すれすれで放たれるナイフの軌道は凄まじい速さだが、それはあまりにも『短剣』スキルの基本技の軌道を完璧にトレースし過ぎている。俺自身は短剣を使った経験は無いが、俺の相方はソラだ。その戦いぶりを、俺は誰よりも近くで見てきたのだ。彼女以上の速さでもなければ、俺には通じない。

 壁に向かってバックステップで飛び退り、三角跳びの要領で反転、そのまま頭陀袋の顔面を踏み抜く。そこを足場に、更にバク宙しながら離脱。『体術』、『軽業』のスキル複合技、《ムーンサルト・フライ》。

 「ヴぉおおお!!!」

 と、着地の直後、後ろから剛毅な声が上がる。
 振り返らずに、とっさにそのまま横へと転がって緊急回避。

 その体を霞めるように振り下ろされたのは、優に俺の体重を超えるだろう巨大なシルエットの金属塊。振り下ろされたそれが轟音を立てて床板をクレーターのように抉る。

 このダンジョンの通路の硬度は、破壊不可能オブジェクトの一歩手前、鬼の硬さだ。それはある程度の深さまでは破壊できるように設定してあるということに他ならないが、勿論本来は全力で壁に強攻撃…たとえば《ヴォーパルストライク》の直撃を叩きこんだところで握り拳程度の穴が空く程度だろう。

 それを、これだけの範囲を砕くとは、尋常では無い破壊力。

 だが、こういったパワーファイターは、俺の得意分野だ。一撃喰らえばジョニーの毒など目では無く瞬殺だろうが、それをかわし続けて俺はこのアインクラッドを生き抜いてきたのだ。なおも振り回されるハンマーを掻い潜っての回し蹴りを頭に放つ。クリティカルしたその蹴りに巨体が衝撃にぐらりと揺らぐが、それでもHPの総量が相当のものらしく、その二割も減っていない。

 問題は。

 「っつっ!!!」

 燃えるように紅い刃が、俺の肩口を貫いていた。ザザだ。

 油断していたわけではない。一撃が死に繋がる二人を捌きながらも、常に奴の右手の細剣には注意を払っていたのに。俺のHPは、さっきの一撃によってとうとう黄色の注意域に落ちているが、そのダメージは殆どがこのザザの突き技によるものだった。

 「……クク。どうした? そんな、ものか!」

 相性、の、最悪のパターンだった。

 奴の突き技には、全くの前動作が無いのだ。ダラリと下げられた右手は何かの拍子をとる様に揺れるが、そこからは突きのリズムを読み取れない。相手の動きから攻撃を先読みする『見切り』が、こいつには通用しない。

 「くっ!!!」

 連続技を繰り出すことなく、ザザが飛び退る。背後にザラリとした違和感を感じて咄嗟に頭を下げる。直後、ダンカンのハンマーが髪をかすめるようにして薙ぎ払われた。壁が激しく打たれ、また巨大な穴をあけられる。

 このままコイツを野放しにしていれば、周囲は穴だらけになって俺の生命線たるステップが封じられてしまう。しかし先程のクリティカルでも、まだHPは安全域に保たれている。倒すにはあれ以上の一撃か、相当数の連撃が必要になる。

 どちらも、この状況では容易ではない。
 しかし。

 (…負けない…!)

 そうだ。まだ、負けていない。
 俺の中の炎は、まだ十分な熱を保っている。

 走り回って乱戦にしているため俺自身も余裕はないが、相手にもスイッチして回復をする暇を与えてはいない。俺のHPは黄色の注意域だが、奴らも無傷では無いのだ。とくにダンカンは、もう少しで半分を切るところまで責め立てている。

 「っ!!!」

 再び放たれるザザの突き。しっかりと剣先を見ていたにも関わらず軌道を読み損ない、脇腹を貫かれる。咄嗟に剣を掴もうとするが、割り込む様にナイフを振ったジョニーに邪魔されて追撃出来ない。必死にナイフを回避し、毒を弾くグローブでナイフを受け止める。削りダメージが、更に俺のHPを削る。再度突進してくるザザ。背後に、ダンカンがハンマーを振りかぶる。

 三人が、俺の体をとうとう捕える。
 逃げ場をふさぐような位置取りでの、完璧な包囲。

 その瞬間。

 「おおおっ!!!」

 今まで八割に制限していた敏捷値を、全開にして体を沈ませ、そのまま逆立ちした様な格好でコマのように体を回転させて繰り出す回転蹴り。『体術』スキル、《スパイク・ハリケーン》。俺の持つ『体術』スキル最大の攻撃範囲を誇る大技が、三人の体を同時に弾き飛ばした。


 
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