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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode5 手に入れたモノと二人の一歩目

 十人以上の大人数でのボス戦だったが、その戦闘はなかなかにいい連携を見せた戦いとなった。ボスの攻撃パターンはそれほど多くなく、火炎ブレスを筆頭に、強靭な顎での噛みつき、長い首を生かした薙ぎ払い、そして新しいパターンである頭上の雷雲からの雨でマグマを固め、それを尾で弾き飛ばす岩石攻撃の四つだ。

 だが、俺達はそのそれぞれを得意分野の面々が絶妙のコンビネーションで捌く。

 「シドっ、そっちの首ブレスくるよっ!」
 「あー分かったよちくしょー! そっち、牙!」
 「りょーかいっ、まかせてっ!」

 火炎のブレスは、専用ともいえる防具、《プロミネンス・マント》で俺が敵の口元を掠めて飛ぶよう跳躍にして遮る。噛みつきは、襲いかかる直前その足場に飛び込むソラが、その手にした《ソードブレイカー》で牙を的確に砕いて使用不能にしていく。全く、とんでもない反射神経と戦闘センスだ。そして薙ぎ払い、岩石攻撃は重装備の壁戦士達がその重厚な鎧で受け止める。

 他の面々も負けてはいない。

 ファーは武器をストレージに仕舞って、代わりにその手に長いロープを持っている。足場を踏み外したメンバーにすぐにロープを投げて引っ張り上げてやっている。元は壁戦士だけあって、流石の筋力値だ。レミのブーメランは、言わずもがな。先ほどまでの巨大なブーメランこそ使っていないが、鋭い刃の飛び道具が大きく弧を描いて乱戦地帯を飛び交う。俺やソラが追いつけない攻撃を放とうとする首を、鋭く薙いで怯ませる。

 そして。

 「喰らえやオラぁ!!!」

 最前線で剣をふるうクライン達数人の攻撃特化型(ダメージディーラ―)達が、凄まじい勢いでそのHPを削り取っていく。その身のこなし、スキルのブーストの仕方、スイッチのタイミング。以前よりも更に洗練されたその連携で、巨大な竜を攻め立てる。

 (以前より、腕を上げたな……)

 『風林火山』の面々の、この足場の悪い環境での素晴らしい攻撃の応酬。動きも以前に見たときよりも格段に鋭く、敵の攻撃を予想する『先読み』も、死角の敵の動きを耳で聞き分ける『聴音』も、その精度が比べ物にならないほど研ぎ澄まされている。

 マントで火炎を遮りながら、ちらりと見やる。

 奴らも、思う所があるのだろう。『攻略組』は、(ソラのような特殊な例を除いて)随分と閉鎖的なものだ。それぞれが隠し、騙している部分が、少なからず存在する。そうでなければ、攻略組足りえないからだ。

 手の内全てを見せてしまえば、いつ寝首をかかれるか分からない。
 言い方は悪いが、そういう雰囲気があるのは確かなのだ。

 (それを、なんとかしたいんだろうな……)

 なんだかんだと言って、クライン初め『風林火山』の面々はいい奴らだ。なんとかそういった雰囲気を打開したいと思う所があるのだろう。だが、それはそう簡単に出来ることではない。だからこそ、強さがほしいのだろう。まったく、本当にいい奴らだ。

 「うおらあああっ!!!」

 日頃の憂さを晴らすかのように刀を振りまくるその姿は、さながら夜叉のようだ。バンダナで逆立てた髪は、いわゆる「怒髪天を突く」ってやつか。

 「うらあっ、とどめっ!!!」

 そして、最後の一撃。

 首筋に吸い込まれるように入った紅いライトエフェクトを纏った一撃が、ボスのHPの最後の一ドットを消し飛ばす。瞬間、巨大な竜が、七つ目までの溶岩に吸い込まれるような倒れ込みとは異なる、激しい痙攣をおこす。

 ひとしきり暴れた(ちなみにこの時飛沫となって飛び散った溶岩にはダメージ判定があった。最後っ屁、ってやつだろう)後、苦しげに一声呻き、直後、無数のポリゴン片を残し、派手な音を立てて爆散した。

 おおー、とか、よっしゃー、とか、ぶらぼー、の歓声が上がる。ひときわテンションの高い声は、間違いなくソラだろう。若干棒読みなのはレミか。俺も、大きく息をつく。うん、今回の戦闘は文句なし、百点満点だろう。それぞれの特徴を生かしての完璧な戦闘、そしてアイテムも無駄な消費は一度もなかった。毎回こうならいいんだがな。

 まあ、ありえねーけどな。

 「おおっ!!!」

 しみじみと感慨にふけっていた時、一人の歓声が上がった。爆散したポリゴン片の中から、一本の剣…いや、カタナが出現したのだ。おお、初めて見る演出だ。今まではドロップするというクエストはあれども、それは撃破後に普通にストレージの新規入手欄に入っている、というものばかりだった。

 「よっしゃああっ!!!」

 輝きながら一つの飛び石の中央に漂うそのカタナを、クラインが意気揚々と掴む。皆がそれを盛大な拍手で迎える。クラインも、「やー、どーもどーも!」とかノリノリで、ファーは指笛まで吹き鳴らしていた(ちなみになかなか上手かった)。

 とにかく。
 こうして俺達の『炎霊獣の魔洞窟』探検は、ハッピーエンドで終わりを告げたのだった。


 
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