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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第十九話

 「おれが囮になりますから殿下とレイニ、じゃなくてレイミヤさん、ミーズ方面とターラ方面どっちにトラキア軍をおびき寄せたらいいです?」
 「レイミアだよぉ。どっちがいいかは王子に決めてもらおうか」
 レイミアと名前を改めた彼女、それにレンナートさんは俺に判断を委ねた。


「囮だなんて……みんなで逃げましょう」
「いいえ、それでは全員捕まってしまうでしょう。殿下もレイニアさんもこれからの将来があるお人だ。その役に立てたらおれだって本望ですぜ」
「レイミアだって! まぁいいさ、とにかく王子、時間が惜しいよ! それにレンナートの言う通りで皆で固まってたら一網打尽にされちまう」

 こういう重い判断をしなければならないときがあるっていうのは漠然とはわかっていた。
 いや、それこそもうすこし命の軽い世界ではやってもいたさ、だが……

「いいかい、王子、やるべき役割をそれを出来る奴に与えてやる、そしてその想いを無駄にせずに受け止められる。そういう存在にあんたはならなきゃならないんだよ」
 レイミアは俺をぎゅっとしてから

「それから逃げちまったら、この先、何もできないさ。 アタシはあんたを子供扱いしてこなかったつもりだよ」

俺が悩んでいる間にレンナートさんは荷造りを急ぎ、レイミアは足の傷の手当てをしていた。

……覚悟を決めるか。




「レンスターの騎士、レンナート・トルストンソン!」
「は、はひっ!」

 「汝は直ちに馬を駆り、カパドキアからの追跡者を引き連れミーズ城へと向かうのだ。余もレイミアどのも傷を負い、足は鈍いであろうから、汝がどれほど敵を引きよせてくれるかに全てが掛かっておる。ゆめゆめ忘れず事にあたれ!」

「ははっ!」

「レイミアどの、ターラまでの道案内はそなたに全てがかかっておる。余を失望させることなきように」

「あいよ! レンナート、しっかり頼んだよ。これはアタシからの幸運のまじない代わりさ!」
 レイミアはそう言うが早いかレンナートに口づけた。

 「続きがして欲しかったら、絶対死ぬんじゃないよ!」
 「これで死ねなくなりました」
 レンナートさんは敬礼すると領主館の厩舎へ向かい、馬に飛び乗り、空馬を二頭連れて駆けだした。

「レンスターで会いましょう! 殿下、レイミアさん」
「だからぁ、レイミアだよぉって、あれ? まぁ、しっかりおやりよ!」

 

 俺は拳からの出血を応急手当てし、レイミアが殺したトラキア兵の槍を拾った。
 この二年ほど過ごしてきた部屋から重要な物を急いで背負い袋に詰め込むと、急いで領主の館をあとにした。


 「いいかい、暗くなっても休まず進むからね」
 「レイミアさんこそ、足の具合によっては休んでくださいよ」
 暗くなってからの俺たちは星明かりを頼りに出来るだけの距離を稼いだ。
 慣れない山道と傷と疲労。
 そして父を亡くしたということが堪えてか、彼女は酷く辛そうだった。

 「レイミアさん、休めとまでは申しません、包帯を替えましょう。傷が化膿して歩けなくなるほうが危険だ」
 俺はなるべく手早くレイミアの傷を調べ、持ちだせた薬草を傷に当てその上から新しい包帯を巻いた。
 乾燥させた薬草を細かくしてから彼女に水と共に服用してもらう。

 「アタシは嘘つきさ、王子のこと子供扱いしてないよってさっき言ったけど、全然そうじゃ無い。頭撫でたり、布団に潜り込んだり、抱きついたり。それなのに王子はそれに何にも言わないでアタシの言った厳しいこと、ちゃんと果たしてくれた。あたしはずるくてあたしのほうが子供だね」
 「急にどうされたのです? そりゃ、力の加減で苦しいことも多かったですけれど、あなたにいろいろしてもらえたのは嬉しかったり……気持ちよかったりするんですよ」
 「ありがとね……」
 俺は何も言わずにレイミアの隣に腰かけて身を寄せ、肩を抱いた。



 すこしだけ眠ってから再び俺たちは出発した。
 運のいいことに特に障害になるようなトラブルは無かったが、三日もすると食糧不足によってふらふらになってしまった。
 水だけはなんとか確保出来たので空腹を水で満たし、ターラを目指した。

 いっそ山賊にでも出くわし、その食糧を奪えればなどとレイミアと話ながらも、それすら叶わず俺たちはターラの街に辿りついた。
 とにかく、まずは腹ごしらえをしたかった。
 財布との相談ではあったが量を求めて、俺もレイミアも頼んだ料理が届く度にむさぼり食った。
 やがて人心地がつき……

 「ここには北トラキア連合の出先機関があると思うので、明日にでも当たってみようと思います」
 「……そうさね。それがいいと思うよ。なぁ、おなかもふくれたし宿でも取ろうか。風呂付きのところがいいけれどどうだい?」

 風呂付の宿屋は値段の桁が一つ違った。
 しょうがないので部屋でお湯を使わせてくれる宿を見つけ出し、そこに泊ることにした。

 レイミアの脱ぎっぷりが良すぎて、俺は前を隠すとかが許されない空気にされてしまった。
 意を決して脱いでみたところ……からかったりはされなくて、その……いろいろとやさしくされました……
 翌朝俺たちが宿屋を出て最初に向かった先は、レイミアが寄りたいということで代書屋に付き合わされた。
 レイミアは領主レイニーとして、俺がトラバントに害されそうになった為にやむなく出国したのであって、人質の役割を投げ出したわけではないという文書を書いてくれた。
 そこを離れてしばらく大通りを進むさなか、封蝋したあとのそれを渡してからの彼女は少しだけ目を伏せ、それから穏やかな笑みを俺に見せると

 「寂しいけど、ここでお別れだね」
 俺にとっては予想も付かない一言を投げかけた。
 

 「え? 一緒にレンスターへ行こうよ」
 「アタシはトラキア人だもの、もしまた戦があったら裏切り者のようでつらすぎるよ。 それに、王子の国だと窮屈で肩がこりそうだしねぇ。礼儀作法だの挨拶でガチガチな暮らしはまっぴらさ」
 彼女の気遣いなのか、苦笑いするかのような口元の動きに俺の心は締め付けられ、気の利いた引き止めの言葉なんて出てくるわけもなく……

 「また会えるよね?」
 「もちろんさ、それに、毎月ってのは無理だろうけど、時々手紙くらいは出すよ」
 できる限りの気持ちを顕すため、俺は懐から取り出した櫛と共に彼女を引き止めるための言葉をかけた。

 「これ、受け取って欲しいんだ。 母の形見なんだけど……」
 「……なぁ、それ渡す意味わかってるのかい? アタシは前になんとなくだけど察したつもりだよ? だから…………次に会えた時も同じ気持ちなら受け取ってやるよ。いまのオマエは雰囲気に流されてるからね」
 「そぅ……なのかな……」
 「あの時、カッコ良かったよ。レンナートとアタシにバシッと言ってくれてさ。
 そして……これはアタシの偽りのない気持ちさ」
 昨夜と変わらないほどのやさしげな表情を見せた彼女は、はらりと落ちかけそうな俺の涙を人差し指と中指で拭い……
 不意に俺の唇は、彼女のそれで塞がれた。



 「また会おうね!」

 精一杯の手向けなのか、元気な声を俺のためにかけてから、彼女は雑踏の中を去って行った。
 俺はその後ろ姿をずっと見続けていた……。


--2章おわり--
 
 

 
後書き
2章ヒロインのレイミアはあまり読者の皆さまには気に入ってもらえなかったのかなー
とか思いますが作者は好きなので先の章でまた出ます。
ほんとこのBBA結婚してくれー!って感じです。

3章というかレンスターに戻れば圧倒的ヒロイン力のセルフィナさん再登場のはずですが
今のところちょい役レベルでしか役割なさそうですスミマセン

 
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