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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode5 八つ頭の竜の討伐

 戦闘は、格段に楽になった。

 『風林火山』の面々は流石の実力で敵をなぎ倒していく。しかも、レベル的に劣るレミとファーを気遣ってくれているようで、ダメージを庇いながら積極的に二人にダメージを与えさせて獲得経験値を増やしている。それもこれも。

 「やっぱりこうかあああっ!!?」

 俺の犠牲有っての話だが。俺の役目は、四人でいた時と全く変わらずにマントでブレスを惹き付け、逃げ惑うことのままだった。ちっとも楽ではない。前言撤回だ、戦闘自体は楽になったかもしれんが、俺はちっとも楽じゃねえ!

 「まあまあ慌てんなって!」

 ブレス攻撃と同じような範囲攻撃を放つ、浮遊する石の連結体のようなモンスター、「フレアエレメント」にクラインが斬りかかりながら言う。怯んだ隙にレミの投げた刃が突き刺さり、削りきれなかった分を後詰めの『風林火山』メンバーが吹き飛ばす。

 同時に出現した他のモンスターも、次々にハイペースで狩られていく。あっという間に敵は減っていき、戦闘が終わったソラが嬉しげにストレージを見ている。また俺仲間はずれ。まあ、もういいや。

 「なんか寂しげだな、シド」
 「……うるせ。ほっとけ」
 「まあいいや。ほら、次のスポットだ。気合い入れてかかるぞお前ェら!」

 一旦ニヤニヤ笑った後、クラインがリーダーらしくメンバーに気合いを入れ、面々も「オー!」と威勢よく応える。ソラ達もノリノリで拳を振り上げている。やれやれ。俺も力無く拳を持ち上げる。アインクラッドでも有数の力を持つと自負している拳も、どうやらここでは何の役にもたたないらしかった。





 この『炎霊獣の魔洞窟』は、数多くのダンジョンを見てきた俺から見ても珍しい構造をしていた。ある深さまで入っていくと、そこからまるで飛び石のように開けた空間が続くのだ。まるでドーナツのように真ん中がマグマに満たされた空間が、八つ。

 「なるほど、広間毎に順に首が増えていくわけだ」
 「おもしれェだろ? ま、戦ってみると笑ってばかりはいられねェけどな」

 その変わった空間は、ボス戦用のものなのだ。『八つ頭の竜の討伐』クエストを受理したプレイヤーが入った場合に、その中央の溶岩地帯から蛇竜が首を出すのだ。最初の空間には一つ。それを倒して奥に進み、次の空間では二つの首を出して。そうやって最後の空間でとうとう全身を現してプレイヤーと決戦となる。

 「そりゃまた、長丁場なクエだな」
 「おお。だからここでお前ェに会えて結構マジで助かったぜ。もしかしたらポーション類ガチで足りなくなるかもだったんだ。入りなおせばまた最初からだからな」
 「次で、七つ目、か」
 「うーん、すごいねっ、燃えるシチュエーションだねっ!」
 「うおっ!?」

 突然後ろからのしがみつきに悲鳴を上げた。当然、ソラだ。先程の「六つ首」を倒す際に、敵の牙をいくつも《ソードブレイカー》で圧し折るという離れ業で、早々に敵の噛みつき攻撃を使用不可にしたのだ。一撃の威力の大きい噛みつきを封じれば、あとはブレスと薙ぎ払いしかない。それなりの高性能防具を持つ『風林火山』の面々なら、近寄ってのソードスキルの連発が可能だ。

 「おうおう、ソラちゃん! 次もよろしく頼むぜ!」
 「任せてクラインのおっちゃんっ!」
 「ぐっ、だからおっちゃんはやめてくれよ…」
 「いやっ、威厳あるって褒めてるんだよっ!」

 露骨に肩を落とすクラインの背中を、ソラが爆笑しながらバシバシと叩く。うーん若干哀れだ。俺もクラインくらいの年になればおっちゃんと呼ばれるのだろうか。そしてそれに傷つく様になるのだろうか。うーん恐ろしい。

 いや、今はそれより。

 「ソラ、お前が全部歯を圧し折ったらまたブレスが増えて、防ぐために俺がとんでもない目に遭い続けるんだがな…」
 「頑張ってっ! 頼りにしてるよっ!」
 「てめーそれで誤魔化せると思ってんのか?」
 「うーんっ。えっとっ、誤魔化されて?」
 「っ、っ!」

 上目遣いでのはにかむような笑み。くっ、こいついつの間にこんなスキルを。っつーかどんどん色仕掛けが上達してねえか!? 誰だこいつにいらんこと吹きこんどる奴は!?

 そんなことを必死に考えるものの、ソラの笑顔の大安売りが、とうとう俺の理性を押し流す。くっ、これが敗北か、と心の中で舌打ちするが、心の別のところでその「頼りにしてるぞ」発言にどうしようもなく喜んでしまっている自分を自覚してまたため息をつく。

 結果。

 次の大広間、「七つ首」での戦闘でも、俺は炎に巻かれながら走り回ることになるのだった。


 
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