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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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第一部
  カンピオーネとお・り・が・みの設定のすり合わせの話し

「ねぇ、リップルラップルたちは、分身出来ないの?」

「うわぁ・・・。」

 沙穂の治療を待つ間、鈴蘭がミーコとリップルラップルへと詰め寄る。ドクターとリッチは沙穂の治療。人間嫌いのイワトビーはそもそもこの旅について来ていないし、ほむらはあの騒ぎの中でも部屋で爆睡している。目を輝かせて尋ねてくる鈴蘭の相手を自分たちがしなければならないのかと憂鬱になるリップルラップルであった。

「・・・・・・!」

 更に、鈴蘭の隣に居たアリスもウズウズしている。研究者の血が騒ぐようだ。本物の神様やそれに連なる存在から話を聞くことが出来る機会なんて、歴史上存在して居なかったのだから、その反応も頷ける。

 上位存在から直接話を聞くという事が、今後どれだけ研究の糧になるか・・・想像も出来ない。この話は、研究者にとって金塊よりも価値のある物だった。

「はぁ・・・仕方がないの。話してあげるの。」

 そんな二人の様子を見て、溜息を吐いて了承するリップルラップル。沙穂の怪我の事は二人とも気になっているが、鈴蘭が「生きてドクターたちに引き渡された時点で、最悪の結果だけは無い。」と自信満々に言っていたので、アリスも信じることにしていた。

「ふむ。それじゃぁ、結論から言おうかの。・・・ワシらは分身・・・つまり、神格を分ける事は出来ないよ。」

「出来ないんですか・・・。」

 ミーコの言葉に、かなり落胆した様子の鈴蘭。しかし、分身出来たら出来たで、アウターという問題児が複数に増える事になるのだが、その辺は理解しているのだろうか?

「私たちは、正規の手段(・・・・・)を使って、遥か太古に現界したの。謂わば、私たちは安定した存在(・・・・・・・)なの。」

「正規の手段・・・?安定した存在・・・?」

 初めて聞く単語に、戸惑いを隠せないアリス。

「ワシらは、閉ざされる前の”異界の門”を通って来たからの。正規の手段である以上、存在が確立しておる。・・・しかし、この前鈴蘭がマリアクレセルに頼んで”異界の門”を開くまでは、その門は閉ざされておった。ならば、『まつろわぬ神』とは、どんな方法で現界すると思う?」

「”異界の門”・・・そんな物まであったなんて。しかも、それを鈴蘭ちゃんが開いた・・・?」

 アリスの脳は、混乱でパンクしそうであった。次々と明かされる新事実に、驚かされてばかりである。

「門が閉ざされたということは、出る事も入る事も不可能ってこと・・・?いいえ、実際に『まつろわぬ神』はこの世に存在している。なら、別の手段を用いてやってきている・・・?正規の手段を使ってやって来たミーコさんやリップルラップルさんは自分の意識をちゃんと確立しているってことは・・・」

 しかし、与えられた情報から、的確に真実を導いていくアリス。ミーコは、少し感心したようだ。

「ほう、そこまで分かるか。其のとおり、”異界の門”を通るという、正規の手段(・・・・・)を使わないで現界した神は、例外なくまつろわぬ神として降臨する。殆ど事故のような物じゃよ。鈴蘭が神々に説教して”異界の門”を開かせる前は、神々は人間に絶望しておった。自ら”異界の門”を閉ざす程にな。本当なら、現世なんて来たくもない場所だったんじゃ。・・・だが、何らかの事情で、現世と異界の間に穴が開くことがある。その穴に運悪く落ちてしまった存在・・・それが、『まつろわぬ神』としてこの世に現れる。」

「じ、事故・・・?」

 神々が人類に絶望していたとか、それを鈴蘭が説教して開かせたとか、色々突っ込みたい部分はあったものの、『まつろわぬ神』という災害(・・)が、ただの事故でこの世界にやってくるというその事実に、アリスは愕然とした。

「そうなの。何故、正規の手段を使わないと『まつろわぬ神』になってしまうのかは、私たちにもまだ分かっていないの。分かっているのは、『まつろわぬ神』として現界すると、誰かに倒されるまでは異界に戻れないということなの。だから、まつろわぬ神を見つけたらドンドン倒してあげたほうがいいの。それが、彼らのためでもあるの。」

「ドンドン倒した方がいいって・・・神々は倒される事を嫌がりますよね?」

「誰だって殺されるのは嫌なの。しかも、まつろわぬ神というのは理性的に行動することが不可能になるの。まつろわぬ神は、殺されることでしか正気に戻れないし、自分の異界()に帰る事も出来ないの。でも、それが理性では分かっていても、反発したくなるのがまつろわぬ神(彼ら)というものなの。謂わば、究極の天邪鬼(あまのじゃく)なの。反抗期の子供なの。」

「いや、最後はちょっと違うんじゃ・・・?」

 鈴蘭のツッコミも無視して、話し続ける。

「更に、パンドラが厄介なの。彼女は、神でありながらも何処までも人間の味方なの。災害()を殺した人間に、強大な力を持たせてしまうの。元々神々は、人間如きが強い力を持つことを嫌うの。自分たちの存在意義が薄れてしまうから。これも、まつろわぬ神が殺される事を嫌がる一因だと思うの。」

「成程・・・。」

 身に覚えがある鈴蘭は納得した。まだ自分が【聖魔王】ではなく、ただの【魔王候補】と呼ばれれていた時代、ほむらに言われた事があるのだ。『人間如きがそんな力を持っているなど認めない』と。

 災害()に対抗するために、パンドラさん(義母)が、神を殺した人間を神殺しとして新生させる為にやってくる。自分の死は、自分を殺した相手を(自分たち)と同じ土俵まで押し上げる原因になってしまうのだ。これでは、素直に殺されてくれるはずもない。

 なら、パンドラが人間をカンピオーネにしなければいいのか?と言われると、それも間違いだ。

 何故なら、『まつろわぬ神』とは、物事を理性的に考える力を失っており、ある意味で狂った(・・・)存在だ。自分を殺してくれる人間が現れたとしても、それを拒否するのは目に見えている。そして、暴れて暴れて暴れ続けて・・・最後に残るのは、きっと荒野だけだろう。

 やはり、災害を早期に退治出来る神殺しとは必要な存在なのだ。しかし、それを生み出すと、まつろわぬ神がより頑固に抵抗する。あちらを立てればこちらが立たず、という状況なのであった。

「今なら”異界の門”も開かれておるし、『まつろわぬ神』として殺されても、直ぐに現界することが可能じゃよ。再び戦いを挑みに来るか、自分を倒した英雄と友誼を結びにくるか・・・さて、どうなるかの。」

 ミーコが呟いた言葉に、アリスは震えた。プライドの高い神々が、人間に殺された事を屈辱に思わない筈がない。もしそうなら、すぐにでも戦いを挑みに来るのではないだろうか?と。・・・だが、質問しても仕方がない事である。不安を押し隠しながら、この話題を口にすることを止めた。


☆☆☆


「・・・で結局、何で分身出来ないの?」

 あまりにもスケールの大きい話になっていたので忘れていたが、元々は『分身出来るのか出来ないのか』という話しだった事を思い出した鈴蘭が質問した。

「簡単なの。私たちは、正規の手段を利用してやってきた、安定した存在だからなの。『まつろわぬ神』は、存在が安定していないの。だから、人間の間で語り継がれる神話が変われば、その神の性質そのものも変化してしまうの。」

「あ、『まつろわぬアーサー王』・・・!」

 その言葉を聞いた瞬間、アリスの脳裏には、数年前出現したまつろわぬ神、アーサー王の事が浮かんでいた。とある魔女が呼び起こしたその神は、人々の間で語られる伝説が変化したせいで、彼女の望んだ神では無くなっていたらしい。元々病弱だったアリスの容態が更に悪化した原因でもある。

「まつろわぬ神は不安定な存在。つまり、自分の存在を書き換える事も出来るということなの。さっき出現した『まつろわぬ阿修羅』を例にすると、そもそもインド神話でのアシュラというのは、『アスラ神族』という神の一族全ての総称なの。つまり、どの神格でも主神格になれるということなの。あの時現れたのは、恐らく三面六臂(さんめんろっぴ)の神格である、仏教の『阿修羅』が主神格だったと思うの。だから、自分の姿を改変して、三人の阿修羅として君臨できたの。」

「三面六臂だから、それを三で割ったってこと?いい加減過ぎると思うんだけど・・・。」

「それが『まつろわぬ神』というものなの。理屈なんてどうでもいいの。」

 鈴蘭の反論もバッサリ切られる。少し落ち込む鈴蘭。

「結論。私たちは安定した存在だから分身出来ないし、主神格の変更も出来ない。まつろわぬ神は不安定な存在だから、神格を分けて分身することも出来るし、複数の神格を持つ神ならば、どれを主神格にするかも変更出来る。そういうことなの。」

 そう言って、リップルラップルは立ち上がった。

「喋り疲れたの。今日はもう寝るの。お休み。」

 質問はこれで終了と、トテトテ走って消えてしまったリップルラップル。

「ワシも腹が減った。それではの。」

 ミーコも居なくなり、残るのは鈴蘭とアリスの二人。

「こ、これは凄いです・・・!今すぐレポートに纏めなくては・・・!」

 アリスも走って行ってしまい、残るのは鈴蘭一人。

「・・・分身、見たかったなぁ・・・。」

 不吉な言葉を呟き、彼女も部屋へと戻っていくのだった。

 ・・・・・・現在、遠く離れたイタリアの地で、新たな物語が紡がれようとしていることも知らずに。
 
 

 
後書き
という訳で、私なりにカンピオーネとお・り・が・みの神々の差異について考察してみました。この作品では、まつろわぬ神は不安定な存在っていうことにします。”異界の門”を通過して、正規の手段で入ってきた神だけが、普通の状態で現界できます。

さて、次の話では、いよいよあの人の登場です。お楽しみに。 
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