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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode3 薔薇の王との戦い

 「はあああっ!!!」

 放った『体術』スキル、《ロール・スラッシュ》の上段回し蹴りが、飛来する人の拳大もあろうかという大蜂の顔面を捕えて吹き飛ばす。空中を飛行するタイプのモンスターは、ソードスキルこそ当てにくいものの防御力、体力共に低い。このモンスター、ポイズンホーネットもレベルこそ45と低くは無いが、俺の放つ貧弱な『体術』スキルでも一撃で落とすことが出来る。

 「あ、ら、よっと!!!」

 硬直が解けると同時に走りだし、背後から前線部隊へと襲いかかろうとする一体を殴り飛ばす。

 そう、これが俺が呼ばれた理由。
 ボスの放つ攻撃の一つに、「蜂召喚」があったのだ。ボスモンスター自体の攻撃力、防御力は然程でも無かったものの、この攻撃のせいで皆がボスを叩くことに集中できず前線を維持できず、結果後方での待機・回復が難しくなってしまう。

 ボスの体を揺すっての合図で、蜂型の5〜8体のMobを召喚するこの厄介な技の対策として、俺とキリトは正方形の部屋を縦横無尽に走り回っている。幸いポップしたMobはすぐそばのプレイヤーを襲うのではなくしばらく周囲を旋回するため、そこを一気に俺とキリトの二人でかたずけていく。

 「はあああっ!!!」

 ボスを挟んだ反対側から、キリトの気合いの声が聞こえる。今回は向こう側に半数以上が向かったが、あいつなら何匹行こうが大丈夫だろう。駆け抜けながらちらりと目をやった瞬間、足元のツタを踏みつけてしまって体が大きく傾く。

 「っと!!!」

 その一瞬の隙に放たれた蜂の毒針を、左手でかろうじて防ぎ、『軽業(アクロバット)』のスキルの一つを使って素早く立ちあがり、単発の『体術』スキル、《エンブレイサー》の貫き手で毒針を放った技後硬直中の蜂を貫く。一瞬の嫌な感触の後、ポリゴン片を残しての爆散。

 俺が雇われた理由、その二。この足場の悪さだ。

 四十七層は別名「フラワーガーデン」と呼ばれるだけあって、植物の楽園の層だ。当然ボスが植物型なのは予想できたが、それに加えてボス部屋の床それ自体に、太くて微妙な柔らかさの蔦や根が張り巡らされており、ソードスキルをブーストするための足運びの難度が高まっている。おまけに二、三分おきに地面が揺れて足元の蔦や根が配置を変えるせいで、いわゆる「安置」が無い。

 これは前線でボスを叩き続ける面々がソードスキルをうまく使えないというのもあるが、俺のような遊撃部隊が走り回るのを難しくもしている。俺の場合は『軽業』のスキルがあるからこそ素早く体制を整えられるが、それが無ければキリトレベルの攻撃力が無ければ遊撃は無理だろう。

 「!!!!!!」

 ボスが、再び吠える。
 そのパターンから、素早く『攻略組』が支持を飛ばす。

 「っ、来るぞっ! 毒液だっ!!!」
 「前衛、距離をとってっ!!! 回避しながらパターンが変わるのを待ちます!!!」

 そして俺が雇われた理由その三。この毒液攻撃だ。

 ボスがその体を捩じる様に回転しはじめる。直後、薔薇の下にあるカリカチュアライズされた顔から勢いよく吐き散らすこの毒液は、ステータス異常系の攻撃の中でも最高峰のもののようで、「HP減少毒」、「麻痺毒」、「金属腐食毒」などの同時に複数のステータス異常をもたらしてくる。

 今回はきちんと対策が練られており、ボス部屋入口で配られた耐毒ポーションのおかげでHPを減少させたり麻痺したりする者はいない。

 ただ、厄介なのは「金属腐食毒」だ。

 今回、ヒースクリフを始め大手ギルドのメンバーで参加していない者がいるのは、この「金属腐食毒」を嫌ったせいだ。当たり所によって一発で防具の耐久度をごっそり持っていくその特殊攻撃は、高価な金属鎧装備の連中にはブチ切れたくなる効果だろう。
 まあ気分的なものだけでなく、ボス戦に耐えうるような頑丈な金属鎧は、製作するのもドロップを狙うのも非常に大変だ。この階で強力な壁戦士(タンク)が軒並み防具を喪失(ロスト)してしまっては、この先のボス攻略に多大な支障を来すことになる。

 だから今回の選抜部隊は革製装備の攻撃特化型(ダメージディーラー)中心で、ボスの防御力の弱さをついての短期決戦を目標に組まれている。前線メンバーもそれを理解しており、今回全員が飲んだ耐毒ポーションの効果、一五分の間にケリをつけようと大技を連発する。

 ただし、革製装備中心とはいっても武器や盾は大半が金属製だ。鎧ほどに死活問題とはならないが、それでも武器の耐久度を削る毒液のせいでの武器喪失(アームロスト)は、攻撃の効率を著しく低下させる。そのため、この毒液攻撃の間は全員距離をとることに前もって計画してあった。

 「!!!!!!」
 「シド!」
 「おう!」

 再びのボスの声無き叫びが響いて、体を震わせる。Mob召喚の合図だ。キリトと俺が短く互いを呼び、足場の動作を確認してMobの連中の襲来に備える。キリトが素早く牽制と惹き付け用のピックを抜き出し、俺はポップ位置周辺を駆け回ってモンスターのタゲを集める。

 吐き出された大蜂は、最大数の八体。今回は俺の方に五匹が飛んでくる。

 「まじ、か、よっと!!!」

 タイミングを見計らって放つ、《トリプル・ブロウ》。自分でもガッツポーズしたくなるくらいのドンピシャの瞬間に放たれた三連の拳が、飛来する五つの影のうち三つを爆散させた。


 
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