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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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十五話~何この子可愛い~

無言で俺の部屋に三人を連れてくる。
後一人バイザーの男がいたようだが、キラキラ転生者三人を気絶させたから帰るということを念話でフェイトに伝えて勝手にどっかに行ったのだとか。
それとなくあの黒服バイザーが誰か聞いてみたところ、あの男はフリーの何でも屋で名前は(おん)と名乗っているらしく、請け負った依頼はほぼ確実に完遂するため、各地で有名なのだとか。
だが、いつもあの黒コートに顔を隠すようなバイザーを着けているため、その素顔、素性を知っている者は一人もいないと共に、どんな依頼でも隠自身が気に入らなければ請け負わないため、管理局からも厄介視されていると、愚痴っていたとはテスタロッサの言葉である。
先程、フェイト・テスタロッサと呼んだところ、長ったらしいからどっちかの方だけで呼んでくれと言われたため、テスタロッサの方で呼んでいる。

「はい、茶菓子も緑茶もあるからよかったらゆっくりしてて」
「あ、ありがとうございます」
「おお! あんた見た目変だけど気がきいてるねえ」

見た目が変?
……ああ。そういえばバリアジャケットを解いてなかった。
こちらの服装の方が臭いはともかく着ていてしっくりくるため、脱ぐことを忘れていたのだ。
ふと見ればテスタロッサはバリアジャケットを解除しておらず、黒のレオタードに白っぽいミニスカートを覆い隠すような赤の線が縁取られた黒いマントを着たままである。
……しかし、リニスとアルフは既にバリアジャケットを解いて浴衣を着ているというのに何故だろうか。
少し疑問に思いながらもバリアジャケットを解除し、黒い覆面で上に纏まっていた髪の毛が重力に従って肩まで掛かってくる。


「……え?」
「どうかしたか?」
「女の子?」
「男だ」
「え!? ご、ごめんなさい……同じくらいの歳だったんだ」
「……気にしなくていい」

俺は気にするけどな。
確かに9歳の姿ってのはまだ声変わりもしていないし、体つきもそこまで男女で大差無い。いや、むしろ小学生頃ならまだ女の子の方が成長が進む時期だから男の方が女の姿に見えるかもしれない。
それに加えて俺は紫っぽい艶がある黒髪を肩まで伸ばし、目は意外とでかい。そして肌も白く、弾力もプニプニな事に加えて顔の造形も中々整っている。
……所謂男の娘に分類されるであろう姿寄りの容姿なのだ。
この姿になったのにはちょっとした事情があるのだが、15歳ぐらいの姿になればちゃんと男らしくなったため、決して男の娘が成長したら美人になるとかそんなことは決してない。

……オタク大国である日本ならそんなことも言われそうで怖いな。

「……そんなことよりなんでテスタロッサは他の二人は浴衣になっているのにバリアジャケットのままなんだ?」

なんとなくさっきらか思っていた疑問を口にするとアルフとリニスは仕様が無さそうに苦笑し、テスタロッサは思わずツインテールが重力を無視して逆立つ程、ギクリと体を強張らせた。

「そ、それは……その……」
「フェイトは浴衣を自分で着ることが出来なかったもんねー」
「そうですね。……それで拗ねてバリアジャケットか私服のままでしかいないのですからフェイトも困った子ですねえ」
「ア、アルフ! リニスも言わないでよ! っもう……」

顔を赤くしてテスタロッサがアルフとリニスに言うが、当の二人はニコニコと笑ってタスタロッサを見るばかり。

「……うぅ……」

居心地が悪くなったのか、とうとうテスタロッサは茶菓子をいくつか掴んで部屋の隅の方に行って体操座りをしてしまった。


随分とまあ……楽しそうなことで。
これから少しだけリニスを怒るというのにこの雰囲気はやり辛いなあ。

「さてと、リニス?」
「っ!? ……なんでしょうか」
「何か言いたいことはあるか?」
「はい……。マスターに迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
「それもまあ、あるな。とりあえず正座ね」
「………」


無言で顔を俯かせながら正座するリニス。急に俺とリニスの間の雰囲気が重苦しくなったことに少しオロオロと顔を見合わせ始めるテスタロッサとアルフとアリシア。


俺の宿泊部屋がそんな少し気まずい雰囲気を醸し出す午前一時の事である。少し眠い。


まあ、こんな雰囲気を出した俺が言うのもなんだが、リニスは少し俺の言葉を勘違いしているようである。


「まず、リニスはどの点で俺に迷惑をかけたと思っている?」
「……マスターは表立って戦う予定は無かったのに私の所為で表に出させることになってしまったことでしょうか?」
「うん。まあ半分当たっているけど、俺は別に表立って戦う予定はまあ、近々出てきたと思うよ。……そんなことよりリニスさ。ぶっちゃけ魔力の節約しすぎじゃないか?」
「……は?」
「使った魔力がバリアジャケット維持分と魔力弾数発ってのは、いくらなんでも節約しすぎだろう。だから俺が出て縁をやる破目になったんだよ」
「いえ、ですがマスターの魔力量はただでさえ少ないのですから私が迷惑をかけるわけには……」
「もう既にそれが迷惑なんだけどな。ぶっちゃけ節約した挙句、無様に負ける方が俺にとっては迷惑だ。こんなことになるなら俺の魔力を枯渇寸前まで使っても良かったんだが?」
「ですが……」
「前から思ってたんだけどそのマスターっていう言い方もあまり気に入らないんだよな。マスターって呼ばれたいがために使い魔契約結んだわけじゃないし。そもそも俺は使い魔として扱うために契約したわけじゃないし」
「ええ!? それなら何故あの時私を助けたんですか!」
「助けても俺にデメリットが無かったから」


その言葉を俺が言った瞬間リニスが唖然としていた。


「……というわけでリニス。お前は名目上は俺の使い魔だが、俺としてはそこらへんで傷ついた猫を療養させるために家に居候として置いている。こんな認識だからむしろリニスが傷ついて戻って来ることの方が迷惑になるわけだ。ここまでは理解したな。リニス?」
「………」


無言でリニスが頷いたため話を続ける。
気のせいか釈然としない表情をしているが話し続ける。


「だからリニスはさっさとそこの少女達と一緒に元のマスターの所まで戻って使い魔契約を結びなおしてもらってこい。それまでは遠慮なく俺の魔力を使っていいから。俺は俺で勝手にやっておく。ほら! 話はこれで終わりだからリニス達はもう部屋に戻って」


時計を見ると既に一時。さすがに眠くなってきたため、三人とそれに付属しているアリシアを追い出す。とりあえずずっとテスタロッサはおろおろしたままだったがあれで大丈夫なのか? 見た感じポヤポヤしてて上手くジュエルシードを集められるのか疑問なんだが。
……そしてちゃっかし茶菓子を全部持っていくなよアルフ。まあ、別にいいけどさ。


まあひとまずこれでリニスも、プレシアの使い魔だった頃程とは言えないが、それでもさっきよりはかなり戦力アップになったと思う。
……普通の魔導士は戦いで魔法を主体で戦うのが一般的だよな?
やっぱり最低限の防具としてバリアジャケットを使い、肉体強化の魔法も使わずに武器が拳だけってのは可笑しいよな。


だよな? ルナ。


『はい。魔導士は一般的にどの距離から攻撃をするのにもデバイスを使用します』
「だから魔法を練習するよりも勝手に俺が買った筋トレ道具を常に使い続けているリニスが可笑しいんだよな? 気のせいか初めてリニスと模擬戦をした時よりも体つきが心なしか逞しくなって、模擬戦で魔法を使う頻度が減っていくのは少し可笑しいことなんだよな?」
『少しどころかかなり可笑しいと思いますよ。リニスさんが林檎や石を素手でに握りつぶしたのを見てしまった時は魔力を使っていないのか何度も聞いてしまいましたから』
「……だよな」



何でリニスは縁に負けたんだろうか。あれか、武器の差か?
それとも魔法の力ってのはそこまで絶大なものなのか?


それにしてもリニスの筋力は凄いな。
明―――俺の親友の人外になった人間―――……には到底力は及ばないまでもそこそこの人外には達していると思う。
さすがに明みたいな豆腐を壊さないように箸で掴む程の弱い力で鋼を粉砕する程の人外にまでは絶対に到達出来ないだろ。


いや、でもまたリニスと模擬戦をした時に間違って全力の攻撃が体に文字通り突き刺さったり、右腕を肩から根こそぎ抉り取られたらどうしよう。


治すの超面倒臭い。


っていうか俺の体のことだから実際にありそうで怖い。



例えば、想像してみよう。

今回の随分と上から目線の話し方でリニスが俺に殺意を抱いたとする。
そして、いつも通り腕が鈍らないように模擬戦をする。

攻撃が当たっても大丈夫だという無意識な先入観は戦いにおいて、致命傷になりかねないため、俺は切れ味抜群のナイフ。そしてリニスはメリケンサックの殴る部分に刃を付けた武器を装備しての模擬戦である。非殺傷設定は使わない。

まあ、こんな人前では見せられないような模擬戦をルナに頼んで家に結界を張ってもらってやっているため、模擬戦直後は床が血でビチョビチョだ。
血を見るのはアリシアは苦手なのか、その時は絶対に俺の中からは出てこない。


まあ、そんなどうでもいい情報は置いといて、一応こんな模擬戦でも殺さない配慮として回復役(俺)は常備しているから問題無い。
だが、さすがにこんなことになってしまえば心も体も傷ついてしまう。





ある日のこと。俺とリニスはいつものようにルナに結界を展開してもらい、模擬戦をするための準備運動をしていたとする。
その日は何故かリニスの目には生き生きとして何かの覇気が宿っており、準備運動をする足も軽そうだ。


「それでは模擬戦を始めましょう! 私は既に準備万端ですよ!」
「お、おう。今日は随分と張り切ってるね。目が輝いてるじゃないか」
「え? そうでしょうか。それよりマスターも準備が出来ているようなので始めますよ!」
「お、おう……(なんだろう。何か嫌な予感がするな)」

何合か打ち合うと、俺はリニスの攻撃を読み違え、体勢を崩す。
その瞬間、リニスの目の奥が妖しく光った気がした。と思ったら右手を十分に後ろに引き……

「っせい!!!!」

俺の腕を殴り飛ばした。
俺の体と腕は繋がっておらず、文字通り殴り飛ばしたのである。

「ぎゃあああああぁぁぁぁ!? 俺の腕が!? 俺の腕があ!!?」
「……ふん。私を見下すからです。そこでしばらくのたうち回っているといいんです」

そしてその痛みに苦しむ俺を、酷く冷め切った目で一瞥するとリニスは結界から去っていった。







「……さて、もういっちょ風呂に入るか」

軽く想像してしまったじゃねえか。

「まあ、腕を切り飛ばされたくらいならくっつければいいだけなんだけどね」


寝た時にその夢も見て、一度飛び起きてしまったことをここに記しておく。



 
 

 
後書き
邦介君は意外と心配性。知り合いに冷たい目で見られても平気な顔をしても内心ではかなり動揺しているタイプの人です。
それはそうと、リニス強化完了。林檎程度ならすぐに割れます。


そして、今日からようやく普通に更新を再開することが出来ます。
加筆更新疲れました。
修正前は平均文字数が2300くらいだったはずなのに加筆修正後は大体4800文字くらいあるというこの増え方。

とりあえず、今まで最初から読んで下さった方々も、ストーリーに多少の変化や、私が個人的に説明が足りないと思った部分には色々と説明を加えていますので、読み直して下さると嬉しいです。 
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