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カヴァレリア=ルスティカーナ

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第二幕その三


第二幕その三

「心臓を一撃だな」
 それで終わりだ。彼にはそこまでわかっていた。
 ふらふらとした足取りで家に帰る。すると母親のルチーアが出迎えてくれた。
「お帰りなさい」
「うん」
 トゥリッドゥは母の言葉に頷く。
「サンタには会ったかい?」
「ああ、ちょっとね」
 教会でのことだった。
「ちょっと話をしていたんだけれどね」
「そうかい」
「けれど。大したことじゃないよ」
「本当かい?」
「本当さ。それよりもお酒を」
「ほら」
 ルチーアはそれに応えて息子に杯を差し出した。息子はテーブルに着いていた。
「お飲み」
「うん」
 トゥリッドゥはそれを受け取って酒を飲む。そして一杯やった。
「母さん、この酒はいい酒だね」
「あんたが持って来た酒さ」
「そうか、そうだったね」
 それを聞いて頷く。
「美味いよ。それにかなり強い」
「強いって普通のワインだよ?」
「飲み過ぎたのかな、他で」
「そうだよ。顔が真っ赤じゃないか」
 見れば彼の顔は酔った男の顔であった。しかしその目は醒めていた。
「えらく飲んだんだね」
「そうだね。ちょっと酔いを醒ましてきていいかな」
「ああ、行っといで」
 その言葉に頷いてそれを自分からも勧める。
「あまり酔うと次の日が大変だからね」
「そうだね。けれどさ、その前に」
「何だい?」
 彼は母の顔を見ていた。顔は真っ赤だが表情は落ち着いたものであった。
「俺を祝福してくれよ」
「祝福!?」
「ああ、俺が兵隊に行った時みたいに。駄目かな」
「駄目かなって」
 息子が何故そう言うのかわかりかねていた。首を傾げる。
「一体何を」
「それでね、母さん」
 トゥリッドゥはさらに言った。
「俺が帰って来なかったら」
「何を言ってるんだい?本当に」
「まあ聞いてよ」
「ああ」
 母親に無理にでも聞かせる。
「帰って来なかったら。サンタを娘に出迎えて」
「サンタを」
「母さんもサンタは好きだろう?」
「勿論さ。破門されていることなんて関係ないよ」
 そんなことは彼女にとっては些細なことであった。
「あんないい娘はいないよ」
「そうだよ。だから頼むね」
「あんた、本当にどうしたんだい?」
 いい加減不自然に思えてきた。
「さっきから変なことばかり言って」
「いや、何でもないよ」
 だがここはそう言って誤魔化す。
 
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