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【完結】剣製の魔法少女戦記

作者:炎の剣製
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第二章 A's編
  第四十四話    『シホの過去の話(中編)』

 
前書き
中編です。 

 




Side フェイト・テスタロッサ


シホは巻き込まれたといった。それはつまり魔術は知っていたけど聖杯戦争なんて言葉は微塵も知っていなかった事になる。
話によると高校である事情で夜遅くまで残っていたシホは物音が響いてくる校庭にまで見に行ってしまったらしい。

「当時を振り返ってみればなんで引き返さなかったんだろうと思ったけど気づけば校庭の光景をじっと隠れて見詰めていた。
そこには赤い男と青い男が武器は違えど人間の出せるスピードを越えた動きをもって戦いあっていたわ。人目で分かった。あれは人間ではないと…。
どれくらいかのスピードかというと例えるならフェイトのソニック・ムーブを常に維持したほどの動きだったわ」

それはどれだけ異常かわかる。そんな動きを生身の人間がしたらきっと耐えることができない。英霊というのはやっぱり人知を超えた人達の集団なんだろう。そう感じた。

「そうしてしばらく見ていたら二人とも動きを止めた。何が起こるのかと思った矢先に青い男の持っていた槍から禍禍しい魔力が溢れ出した。
まだ当時は知識も経験もなかった私でも分かった。あれを使われたら赤い男は確実に死ぬだろうと。
でも、そんな時に私はミスを犯して青い男…ランサーのサーヴァントに見つかってしまい校舎の中までなんとか逃げた。
けど私が足を止めるのを待っていたらしくいきなり目の前に現れてその槍で心臓を貫かれてしまいそこで私の意識は一度なくなった」
「シホはそれでどうなったの!?」
「お、落ち着きなフェイト。生きていなきゃここにいるシホはなんだっていうんだい?」
「あ…」

そうだった。シホがここにいるのは生きていたからなんだ。

「続けるわよ? それで次に目覚めたときには廊下で横たわっていて、ただ何をしていいのか分からずつい掃除をして血の跡とかを消して家に帰ったのを覚えている」
「シホちゃんってそんな時でもブラウニーだったんだね…」
「やかましい。でもその時に一緒になぜか落ちていた宝石があったの。なぜかは分からないけど大切なものだと思ったから私はそれを今までずっとお守り代わりに持っていた」
「それが、アンリミテッド・エアになったんだね」
「ええ。後になって教えてくれた事なんだけどこの宝石はリンのもので壊されてしまった私の心臓を宝石に宿る魔力で復元してくれたらしいの」
「心臓の復元…そんな技術は僕達の魔法技術じゃ到底無理な事だ」
「そうね、クロノ。もうそれですら奇跡の力と言っていいわ」
「そうですね。それで、まぁなんとか家に帰ったんだけどわざわざ殺した相手が生きていると分かったらどうすると思う?」
「また、証拠隠滅のために殺しに来る、か?」
「クロノ正解。それで再度ランサーに襲撃されて今度はなんとか強化の魔術で適当に丸めたポスターを武器にして何檄か受け止めたけどやはり敵うわけもなく私はただの一蹴りで土蔵まで蹴り飛ばされてしまった」
「そ、それでシホちゃんはどうなったの?」
「基本サーヴァントと戦うのはサーヴァントだから、私は運がよかったんでしょうね。
土蔵に切嗣が残していてくれた魔法陣が起動して私の体に火災でボロボロになった私を助ける際に埋め込んだ『アヴァロン』が触媒となってセイバー…アルトリア・ペンドラゴンが召喚されたのよ」

それがセイバーさんとの出会いだったんだ。
あの病室で見たときのセイバーさんはとても強そうに思えたから強かったんだろうな。

「それで少し話は省略するけどランサーは宝具を使ったけどセイバーを死に至らしめる事はできずに撤退。
その直後に赤い男…アーチャーのマスターであるリン…遠坂凛がやってきてセイバーが迎撃と称して私に何も説明をせず飛び出して二人を倒そうとした。
けどその時私はマスターの証である三つの絶対命令権を有する令呪でセイバーの戦いをやめさせた。
そしてリンとは一時停戦となり聖杯戦争の内容を聞かされて教会にマスター登録する為に向かった」
「なんで教会なの?」
「そこには聖杯戦争の監督役である言峰綺礼という男がいたからよ。
まぁ、一言で言ってしまえばこいつは世界の滅びを望んでいて狂っていた。
裏では色々と暗躍していてランサーの元マスターを騙し討ちして令呪を腕ごと切り取りランサーに鞍替えの命令をしたらしい」
「ど、どうやって…仮にも英霊なんだからそれくらい…」
「それが令呪の怖いところ。絶対的命令権は英霊ですら抗えない力を持っていておそらく『主換えを認めろ』なんて命令をしたんでしょうね」

なんて酷いんだろう。それは私に置き換えたらアルフを奪われてしまうという事になる。到底納得できる話ではない。

「そして私は聖杯戦争に参加する事を決めた」
「で、でもそこで引き返していればシホちゃんはこれ以上は聖杯戦争に巻き込まれなかったんじゃ…」
「そうだろうね。そこで引き返していれば私もまた平穏に戻れたかもしれない。
でも私は引き返さなかった。なぜなら私は『正義の味方』になるのが夢だったから。
この力で助けられる人がいるなら助けようと…もう知ってしまったら見ぬ振りは出来ないと…」
「……………、私と、同じだったんだ…」

そこでなのはは少し間をおいてからそう言葉を発した。でもシホの正義の味方という夢は相当に根が深いものなんだろうと思った。

「その帰りの事だった。リンとはここで停戦協定は破棄しようと言われたけどその矢先に会ってしまった。二m以上はある鉛色の巨人、バーサーカーを従えたイリヤと…」

それからシホと遠坂凛さんは撤退しながら戦闘場所を墓地に決めたらしい。
セイバーさんはバーサーカーに切りかかっていき、苦戦しながらもなんとかやり合えていたらしい。

「でもそこでアーチャーが思いもよらない行動を起こした。
セイバー諸共バーサーカーを倒そうとして強力な魔力を宿した矢を放った。
当然、その時に気づいていた私は傷を負う覚悟でセイバーをなんとか庇いながらバーサーカーから身を置いた。
次の瞬間、バーサーカーを中心に火の海が生まれていた。私が気づいていなければセイバーは死んでいたのだろうと…。
でも、バーサーカーはその火の海の中、何事もなく立っていた」
「まさか、そのバーサーカーの正体はさっきいった…」
「ええ。ギリシャの大英雄ヘラクレス。その時に一回しか殺す事ができなかったのよ。イリヤの口から真名を聞かされて私達はどうしていいかわからなかった。
でも、イリヤは気が変わったのかそのまま帰って行った。
それでその後にバーサーカーの事は脅威にしかならないと再度リンとは停戦協定を結んで共同戦線を張った」

そこで全員から息を吐く声が聞こえてきた。
一回きりだけの勝負の話でここまで緊張してしまうなんてそれだけ激しい戦いなんだろうと実感した。

「でも、なりふり構わずセイバーさんを助けようとするシホさんはなんていいますか、自身の命を勘定に入れていなかったのですか?」
「よくわかりましたね、リンディさん。私は壊れていたのでしょうね…その後も何回か後のことを考えずに行動をしてセイバーにもリンにも指摘を何度もされました。
その時の私はただ他人が助けられればという考えで自身の命は勘定に入れていなかったんです」
『……………』

そこで全員は押し黙った。
自身の命を勘定に入れていないシホのあり方。
それはなんていうのだろう。私には想像もつかないほどだけど悲しいとだけの感情が残った。

「その次の相手はアサシンのサーヴァントとの戦いだった。といってもセイバーが柳洞寺という寺にキャスターが潜伏していると分かり勝手に先行して飛び出してしまったんです。
アサシンはキャスターにルールを捻じ曲げて門番として召喚されたイレギュラーな英霊で名は『佐々木小次郎』。本来なら架空の存在で宝具すらも持っていない無銘の亡霊だったんです」
「宝具を持っていなかったの?」
「ええ。でもアサシンは絶対の一を持っていた。ただ暇を持て余して振り続けた剣が技として昇華した秘剣『燕返し』」
「それってシグナムに向けてシホが使った技だよね?」
「うん。まぁ、それによってセイバーはなんとか防ぐことができたけど撤退を余儀なくされた」
「ど、どうなったの?」
「結果は私の介入で引き分けという形になった。アサシンは門番に縛られていたからそこから動けなかったのよ。
そして休む暇もなく次の戦いが起こった。場所は学校でマスターであり私の友達であった間桐慎二とライダーのサーヴァントとの戦い。
その戦いで結界内の人間を血に溶解して吸収する宝具『他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォード・アンドロメダ)』を使われてしまい学校中にいた生徒達は生気を吸われ皆死んだように倒れてしまっていた。
なんとかライダーを操っていた慎二を止めることが出来て宝具は停止したけどライダーは慎二を抱えて逃げてしまった」
「その、生徒さん達はどうなったの、シホちゃん…?」
「発動した時間が短かったから結果的には全員無事だったわ。ただ衰弱が激しくほとんどの生徒が入院を余儀なくされたけどね。それに戦いの余波で学校は破壊されて当分の間は休校になった」

それで私も安堵の表情をする。
皆も同じようで死人が出なかった事によって表情は複雑だけど似たり寄ったりだった。

「だけど再度ライダーとの戦いは起こった。
今度は街中でセイバーとライダーはまるで落ちていくかのようにビルを昇っていって屋上にまで上っていった。
そこでライダーは本当の宝具であるペガサスを召喚してセイバーを葬ろうとした。だけど私を守ろうとしたのかもしれませんが屋上、敵が空の上という好条件が重なりセイバーは宝具を開放しライダーを滅ぼした」
「エクスカリバーを使ったのですね」
「はい。あれは地上では威力が大きくて使えませんから」

確かに…。あれは地上で使うものなら一つの惨劇が生まれてしまうほどの威力だから、セイバーさんの選択は正しい。

「そして慎二もライダーを失い教会に逃げて一件落着になるはずだったけどセイバーはそこで私が禄に魔力を送れていなかったのが災いして魔力枯渇によって倒れてしまった。
そこまでならまだよかった…セイバーの回復を待てばよかったのだから。でもそこに突如としてキャスターが空間転移して現れて『ルールブレイカー』を使い私はセイバーを奪われてしまった…」
「奪われちゃったの!?」
「ええ。それで一度聖杯戦争は降りなさいとリンに言われた。けど納得できなかった私はセイバーを助けようと行動を開始した。
でも、今度はよりにもよってアーチャーがリンを裏切りキャスターに寝返ってしまった」
「なんて奴だい! ご主人様を裏切るなんて!」
「アルフの言い分も分かるわ。でもアイツにも事情があったのよ」
「その事情というのは…?」
「今はまだ…。それでアーチャーの口添えで殺されはせず命からがら私とリンは逃げ出すことが出来たけどお互いサーヴァントを失ってしまって途方にくれた。
けど、なら他のサーヴァントと協力すればという考えにいたって私とリンはアインツベルン城に向かいイリヤと無理に近いけど協力しようとした。
でも、そこでは既に戦闘が起こっていた。慎二といない筈の八人目の黄金のサーヴァントがバーサーカーと戦っていたの。それも圧倒的な火力でもって」

それでまたしても私達に緊張が走る。
いない筈のサーヴァント。
サーヴァントを失ったシホ達には恐怖の対象に映ったと思う。

「そいつは空間を歪めてそこから無数に武器を放出し、一つ、また一つとバーサーカーの命を刈り取っていった。
解析を使って分かった事だけどそいつの放つ武器はどれも贋作ではなく本物だった。
そんなサーヴァントがいるのかと思ったがそこで慎二がまだ私達がいる事に気づいていなかったのか上機嫌に正体を明かしてくれた。
そいつの正体は『英雄王ギルガメッシュ』だとね。
それを聞いて見ていることしかできないでいたイリヤは酷く震えて泣き出していた。私は、そんなイリヤを見捨てることが出来ずにリンの静止を振り切ってイリヤの元へ駆けていった。
理性より感情が上回っていたんだと思う。自分の死よりイリヤが殺されしまうと考えたらもう形振り構っていられなかった」
「それは…あまりにも無謀だ。サーヴァントがいないのに突っ込むなんて命知らずにも程がある」
「もう驚きませんが…シホさんは…危ういですね」
「それはもう先刻承知のことです。でも今はこの体だから自身の命も大切にしようという考えになっているんです」
「そうですか…」

リンディ提督はそれで何度目の安堵の息を吐いていた。

「それで話は元に戻りますが、バーサーカーは私達を守るように盾になってくれた。本来バーサーカーには主を守ろうとする意思さえないと言うのに…。
でも最後はギルガメッシュの神性が高ければ高いほど拘束する力が強くなる『天の鎖』でバーサーカーを拘束し滅多指しにして、消滅寸前のバーサーカー…。
でも、バーサーカーというクラスは消滅の間際に正気を取り戻す事が出来るんです。
バーサーカーは私に向かってこう言った。『お前が私の変わりに守れ…!』と…そして完全に消滅した」
「使い魔の鑑だねぇ…ヘラクレスは」

アルフが涙を浮かべながらそう言った。
確かにそう考えるとなぜか私も胸が熱くなってくる。
でも…天の鎖ってギルガメッシュの武器だったんだね。前に壊した時にあまり有名なものではありませんようにと願ったけど見事期待を裏切られたね。内心で私は地面に腕をついていた。
でも、そんな私の内情など気にせずユーノが、

「でも、それでも絶望的状況は変わらないんでしょ? どうやって逃げ切ったの?」
「…うん。そこで初めて私の投影魔術が役に立ったといえばいいのかな。ギルガメッシュが放ってきた武器を即座に解析して何度も打ち返した。
どうせ死にゲームだと分かっていたんだから魔術回路が焼ききれてもいい。イリヤを守りながらそんな思いで何度も投影した剣をぶつけた。
ギルガメッシュも面白い遊びを見つけたような表情になりしばらくして、『面白いぞ、贋作者(フェイカー)。しばし聖杯を預けようではないか』と言って不機嫌から突然上機嫌になりその場を去っていった」
「そうなのですか…しかしなるほど。シホさんが宝具を視たというのは聖杯戦争で何度も視る機会があったからなのですね」
「ええ。それでその後は魔術回路を酷使した影響なのか私は一度気絶してしまった。
そして次に目を覚ました時にはイリヤとリンにこっぴどく『自身の命は大切にしろ』と叱られてしまったけど…」

それでシホは苦笑いを浮かべていた。
でもシホのあり方は確かに命知らずかもしれないけど尊いものかもしれないと思い始めた。

「そしてこれからどうしようと三人で話し合っているとそこにランサーが現れて協力してくれると言ってくれた」
「それも言峰綺礼の命令なの?」
「わからない。でもランサーの独断だったのかもしれないし今ではもう分からない。
だけどそれで勝機が見えてきた私達はセイバー奪還の為に場所を冬木教会に移していたキャスターに挑んでいった。
だけど教会の前で待ち構えていたのはアーチャーだった。
ランサーがアーチャーと戦うと言って私達は教会の地下に入っていき、キャスターはリンが、キャスターのマスターは私が対峙することになった」

いよいよ本格的に戦いが始まる事が分かった私達は手に汗を握りながらシホの話をただ聞く。
でも話によるとキャスターのマスターは暗殺者の類だったようでキャスターを追い込む事が出来たけどシホは抑えることが出来ずに吹き飛ばされてしまったと言う。
それでやっぱり形勢逆転は無理かと思われた矢先に突如頭上からいくつもの剣が降り注ぎキャスターとそのマスターを貫いたと言う。
その実行者はアーチャーだった。
それで何度目になるか分からない怒りが私達を包んでいた。
何度裏切れば気が済むのかという事に対して。

「まぁ、結果的にはセイバーは助けることができたしアーチャーもキャスターを倒すために態々ここまで計画を練ったんだと思う。
でも、そこから遂にアーチャーはその本性を現した。私を殺しにきたのよ」
「なんで…」
「奴の本来の目的がそれに集約されるからよ」
「その目的って…」
「もう、皆も気づいていると思うけどアーチャーの真名は『英霊エミヤ』。正義の味方という理想を実現した私の未来の一つの可能性存在よ」

その真実を聞いた途端、私達は驚愕した。

「そ、それじゃあの白髪の男性がシホちゃんの本当の姿って事!?」
「ま、そうなるわね」
「あ! 皆さん、勘違いしないでくださいね! お姉様は事実を隠していたのはやましい気持ちとかそんな物は一切持ち合わせていなかったですから」

そこでフィアットが大声でシホを庇った。

「うん。わかってるよ、フィアちゃん。シホちゃんは嫌な嘘はつかないから今までの行動でそれが分かるから十分だよ」
「…ありがとう、なのは」

それでシホは話を再会した。
セイバーさんはアーチャーに挑むけど誰とも契約していないので力は発揮できず、リンさんも剣の檻に閉じ込められて絶体絶命の事態に持ち込んだとき、

「追い詰められたその時にリンは再契約の呪文を唱えセイバーと契約を結んだ。それによってセイバーは私の時以上の力を発揮しアーチャーを逆に追い詰めた。でもそこでアーチャーは剣を捨てた」
「諦めたのか?」
「いえ、本来の姿に戻っただけ。そして唱え始めた、詠唱を」
「詠唱?」
「ええ。それが唱え終わった瞬間、世界は一変し空には歯車が回り、炎で荒廃した台地に無数の剣が突き刺さっていた。
これがアーチャー…エミヤの真の宝具、固有結界『無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)』」

固有結界…。それはつまりシホも使えるってことかな?
私が聞こうか悩んでいるとクロノが声を上げて、

「それはつまりシホ。君もその固有結界を使えると言う事か?」
「ええ、使えるわ。私の固有結界も無限の剣製……………投影、強化、解析、変化。これらすべての魔術は固有結界から零れ落ちた副産物の魔術に過ぎないの。
私が使えるのは固有結界という一つの大魔術だけ。まぁ今は姉の魔術回路で他の魔術も使えたり出来るけどね」
「…今一理解できないんだけど固有結界って実のところどういった魔術なの?」
「自身の心象風景を表に顕現させ世界を侵食して新たな世界を作り出すといったものよ」
「心象風景の具現化…」
「つまり心を外に現すということですか?」
「はい。……………さて、では話を戻します。英霊エミヤの目的は自分殺し」
「自分殺し…? なんでそんな事を思ったの?」
「以前、抑止力と守護者の話をしたわよね?」
「ああ。世界を滅ぼしえる因子を刈り取る為に関わったすべての者を無差別に殺す者のことだろう」
「ええ。エミヤは世界と契約し死後を売り渡し守護者の任についていたから自身が嫌だと思っても意思を剥奪され永遠に世界に殺しを要求されていたのよ」
「永遠の殺戮…」
「そして何故自分殺しをしようと思い至ったのかは、自分の手で私を殺す事で自分を守護者から引き摺り下ろそうとしたのよ。
過去の改竄程度では無理だけど、それを自身の手で行う事に希望を見出した。矛盾が大きければ歪みは大きくなり、或いはエミヤという英霊を消滅させられるかもしれないと思ったから」

そんな…。永遠の殺戮なんて、きっと私には耐えられない。
そんな事をエミヤは延々と繰り返していたって事…?
そんな悲しい希望を見出すほどまでに。
世界と契約して………………、はっ!
そこで私はあることに気づいた。

「ねぇ、シホは…シホは世界と契約なんて、していないよね? 死後を売り渡していないよね?」
「…ええ。安心してフェイト。私は世界と契約する気なんて更々ないから」
「よかった…」

私が安心を得たのかシホは話を続けた。

「アーチャーは一度リンを攫って、私はアーチャーと決闘をする場所をアインツベルン城と指定した。
そしてアーチャーはリンを抱えてどこかへと消えて、残った私とイリヤ、セイバーはランサーと合流してアインツベルン城へと向かった。
そしてアインツベルン城で私とアーチャーは向かい合った。ランサーはリンを助けに行ってセイバーとイリヤは見届け人になった」
「で、でもあくまでアーチャーは英霊なんでしょ? シホがかなう訳…」
「いや、敵わない訳でもなかった。私とアーチャーの戦いは基本同じ戦い方…つまり剣製の競い合い。でも戦う前にアーチャーは語った」

アーチャーが語った内容。
それは…

「アーチャーは語った内容。
それは『ああ、確かにいくらかの人間を救ってきたさ。自分に出来る範囲で多くの理想を叶えてきたし、世界の危機とやらを救った事だってあったよ。英雄と。
遠い昔から憧れていた地位にさえ、ついにはたどり着いたこともある』…と。
だけどアーチャーがその果てに得たものは後悔だけで、残ったのは死、だけだった。
できるだけ多くの人間を救うために殺して、殺して、殺しつくした。
お前の理想を貫くために多くの人間を殺して、殺した人間の数千倍の人々を救った…。
誰も死なないようにと願ったまま、大勢のために一人を殺し、誰も悲しまないようにと口にして、その影では何人かの人間に絶望を抱かせる。
理想を守るために理想に反し、助けようとした人間だけを助け、敵対する物を皆殺しにする事で自分の理想を守った。
そして、アーチャーは言った。
『それがこの俺、英雄エミヤの正体だ。…そら。そんな男は今のうちに死んだ方が世のためだとは思わないか?』…と」

それで静かになる部屋。
誰も言葉を発する事が出来ず私も言葉を発する事が出来ない。
でもわずかに言葉を私は発する事が出来た。

「シホは、シホは違うよね? エミヤと違って…」
「いえ、私も同類よ。どんな綺麗な言葉で飾ろうともかつての理想を体現するために救えるものは救い切り落とすものはとことん切り落としてきた…確かに私は死んだほうがいいのかもしれない」
「そんな…」
「でも、それでも私はアーチャーとは違うと言い切れる。
アーチャーは切り捨ててきた人たちの分までもっと多くの人たちを救わなければならないという強迫観念にとらわれて、自分を犠牲にし続けただけです。
でも私は私は殺してしまった人の分まで想いを繋いでいこうと何度も挫けそうになる心を奮い立たせてきた…」

そう語るシホはさっきまでの自虐気味な表情ではなくなっていた。
それからまた何度もアーチャーの言葉がまるで自分の言葉のようにシホは語り続ける。

「私は…そんなアーチャーにそれなら俺達は別人だといってやった。
俺は後悔なんてしない、どんな事になったって後悔だけは絶対にしない。だから…絶対にお前の事も認めない。
お前が俺の理想だって言うんなら、そんな間違った理想は、俺自身の手でたたき出す……………と、言ってやった」

そして戦いが始まる。

「剣を打ち合う度に自身に流れ込んでくるアーチャーの知識と経験。それによって剣製がよりしっかりしてアーチャーと打ち合えるほどに強化されていった。
でも、それと同時に守護者としての永遠の殺戮の記録…それらも私の中に流れ込んできた。それはどんどん私と言う小さな器を満たしていった。
さらにアーチャーは私に何度も正義の味方などという理想は間違っていると剣を打ち合いながら言葉を叩きつけてきた。
心が折れそうだった。自身の辿る未来のビジョンを端的にだけど知ってしまったのだから」

私のように生きる支えを否定されたのではなく、シホは全否定をされたんだ。
しかも私と比べる事も出来ないほど過酷なほどの自分自身の言葉に。
シホはどうして心が砕けなかったのか不思議に思うほど強烈な体験だ。

「セイバーの鞘の加護があったとはいえ体はズタズタにされていった。
でも、『お前には負けない。誰かに負けるのはいい。けど、自分には負けられない!』と吼えた。
そしてそれからは剣製もよりしっかりとしてアーチャーとまともに打ち合えるようになり気づいた時には私の剣はアーチャーを貫いていた…。
そして私は言った。『俺の、勝ちだ』と…。
アーチャーも笑みを浮かべながら『ああ…。そして私の敗北だ』と言った」

それからアーチャーは負けを認めて潔く引き下がっていったと言う。
ランサーもリンさんを助けて一緒に戻ってきた。
そしてアーチャーはリンさんが何度も説得をしてアーチャーが折れる形で再契約で戻り、セイバーはシホの元に再契約で戻り、そしてランサーは『ルールブレイカー』をシホが投影し言峰綺礼との契約を切り、イリヤさんが再契約を交わしたという。


 
 

 
後書き
アーチャーとの戦いまで書きました。
 
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