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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode1 一極化型の憂鬱2

 ソードアート・オンライン。
 このかつて無いハイクオリティのゲームがデスゲームとなって、一通りの混乱のあと俺が正気に戻った時まず考えたのは、「俺に何が出来るか」だった。一応βテスターとしてある程度の知識はあったものの、現実世界での武道の経験なんてあるはずも無く、ゲームの才能も「好きこそものの上手なれ」以上のものでは無い、そんな自分にできること。

 考える。
 慎重に、考える。

 このゲームを攻略するために、最前線で戦う。RPGでいうところの「勇者」の役割。それを切り捨てることから俺の思考は始まった。無理だ。柄じゃないしそんな才能なんてありはしない。武術の達人でもなければガチガチの廃人と称されるほどの熱意もないそんな俺が、いまさらそんな「主役」になれるとは思えない。
 今にして思えば、この思考は少々特殊なものだったらしい。なぜならSAOはVRMMOであり、VRMMOは「決められた勇者がおらず、誰もが勇者となれるゲーム」だからだ。


 とにかく。
 そんな思考の末に作られた俺のステータスは、最前線でゲームに挑み続けるような『攻略組』と呼ばれる面々とは大きく異なる。

 初めてのレベルアップ時、俺は獲得した全てのボーナスポイントを『敏捷』につぎ込んだ。初めての時だけでなく、次も、その次も、だ。俺はネットゲームでよくある『一極化ビルド』を考えたのだ。うん、今考えれば結構気が狂った発想だ。このやり直しのきかないデスゲームにおいていわゆる『ビルドエラー』をやらかしてしまえば、文字通り致命的だ。だから他のプレイヤーは皆、大小の差はあれど『筋力』と『敏捷』をバランスよく上げていた。俺はそんな連中をよそに、ひたすらに『敏捷』を上げ続けた。 

 結果。
 俺はレベルが20になる頃には、皮鎧すら満足に装備出来ない超非力キャラとなったのだった。





 一気にゴブリン三匹を仕留めて、その先の通路を確認する。一旦ポップは途切れたらしいが、ここで待っていればまた湧いてくるのは間違いない。今回は三体で済んだが、もっと多数…最悪HPの高い大物が出てこようものなら、最悪ここで転移脱出さえありうる。ぐずぐずしている暇はない。

 (いくしか、ないかぁ…)

 先に進むための道の検討はついている。先程まで覗っていた、通路の先だ。ただし次の階へと続くその場所に、上の階への階段はなかった。あるのは、身長を超える程のごつごつとした岩石のブロック。が、次々と連なる姿。

 (これに、飛び乗って、だよなぁ……)

 この世界では、目に見えるパラメータは『筋力』『敏捷』の二つだが、それによる動作の演算は非常に複雑だ。単純な直線のランニングなら敏捷値のみの補正を受けるが、敵を殴って与えられるダメージは敏捷値よりも筋力値が大きく影響するし、坂道のダッシュだって若干筋力値の影響を受けるように感じる。

 そして今回。

 (跳躍、も、筋力値の補正受けるんだよな…)

 俺の非力アパターでは、恐らく一息で飛び移っていくことはできまい。かろうじて見える窪みに掴まりつつよじ登るくらいは出来るだろうが、それはゲーム補正ではなく完全に自力で行うことになる。そうなれば体を持ち上げる動作は筋力補正で行うために「よっこらしょっ」にならざるを得ず、もしそこに「投げナイフ持ち」がポップしようものならいいマトだ。

 だが、迷っていても自体は好転しない。

 (ええいっ、男は度胸!)

 焼け石に水かもしれないが『隠蔽(ハイディング)』を発動する。ついでに『忍び足』だの『索敵』だの、鍛え上げまくった補助スキルを片端から発動していく。これだけやればどれか効いてくれることを祈りつつ。

 完全に無音、息の音すら消すような、慎重に慎重を重ねた動作。
 まさしく「忍者屋敷」にふさわしい動きで、壁をにじにじとよじ登っていく。
 一つ。
 二つ。
 三つ。
 そして最後の一つを登りきった時。
 うろついていたゴブリンの群れと、ばっちり目があった。


 
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