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皇帝ティートの慈悲

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第一幕その四


第一幕その四

「何だい、友よ」
「君の友情は忘れない。だからこそ僕は」
「来てくれるんだね」
「喜んで」
 彼に対してはその真摯な友情を見せるのだった。
「だから行こう。今から」
「うん、いつも共に二人で」
 それを言い合いつつ部屋を後にしたのだった。
 カンピドーリオの神殿。厳かなその神殿の階段の前に多くの民衆が集まっていた。神殿の上には元老院の議員達や属州の総督達、将軍達が並んでいる。彼等が誰を待っているのかは最早言うまでもなかった。
「ローマを守護する偉大なる神々よ」
 民衆達は神殿を見上げて高らかに言う。
「我等が皇帝ティートに正義と力を与え給え」
「そして我等の世に名誉を」
 その声が終わると神殿から厳かかつ豪奢な紫の衣と緋色のマントを羽織った男が姿を現わした。髪の毛は前後で短く切り顔は彫が深く男らしい眉に目を持っている。だがその目は実に優しげで穏やかな光を放っていた。多くの将校を従える彼こそローマ皇帝ティートその人であった。彼は今元老院の議員達や将軍達を左右に置き民衆の前に姿を現わしたのであった。
「陛下」
 そのうちの一人が彼に一礼してから声をかけた。
「我々元老院は貴方様を祖国の父と任命します」
「私を祖国の父にか」
「はい、そうです」
 そのことをあらためて彼に告げた。
「元老院がことを決めるようになってこれ以上に正義に適ったことはないでしょう」
「確かに」
「その通りです」
 他の議員達もそれに続くのだった。
「この神殿もまた貴方のものに」
「そして申し上げましょう」
 彼等はさらにティートを崇めて言うのだった。
「ローマの全てが貴方を御護りすることを」
「今ここに」
「陛下」
 また議員が一人前に出て来た。議長であるブブリオだ。厳格そうな顔をした老人だった。
「ブブリオか」
「さあ是非我等の想いをお受け下さい」
「受けてよいのだな」
「是非」
 このことをあらためて告げる。
「お受け取り下さい」
「では言おう」
 その言葉を聞いてからティートは民衆に顔を向けた。そうして厳かな様子で告げるのであった。
「ローマの市民達よ、今ヴェーズヴィオの山が焼け付く流れを吹き出している」
「何っ、あの山がか」
「何と恐ろしい」
 ローマの市民達も議員達もそれを聞いて大いに驚いた。
「辺りの畑を町々を焼き尽くし」
「地獄か」
「逃げ延びた者は家をなくし餓えに怯えている。今諸君等の力をそれに使いたいのだ」
「我々の力を」
「そう。だからだ」
 ティートはさらに言う。
「諸君等の私への愛情をそれに使わせて頂けないだろうか」
「何と、何と素晴らしい御心」
「まさに偉大なるローマの主」
 この言葉こそ彼等を最も感動させるものであった。
「これこそ真の英雄」
「素晴らしき皇帝」
「では諸君」 
 ここまで告げたうえで皆にさらに伝えた。
「今からそれに力を尽くしてくれ。いいな」
「はっ、それでは」
「今より」
 皆それを受けてそれぞれの仕事場に戻る。今ティートの言葉が彼等を打ったのだった。それの結果に他ならなかった。
「セスト、アンニオ」
「はっ」
「陛下、何でしょうか」
 二人はティートの言葉に従い彼の元に跪いた。ティートはあらためて彼を見る。
 
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