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皇帝ティートの慈悲

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第二幕その七


第二幕その七

「ですから。もう」
「言わないのか」
「ですから元老院で申し上げた通りです」
 やはり言わない。
「これ以上は」
「わかった。それではだ」
 これ以上の話は無理だとわかりティートはまた呼び鈴を鳴らした。すると今度は数人の兵士達が部屋に入って来たのであった。
「セストを連れて行け」
「陛下、宜しいのですね」
「仕方ない」 
 プブリオに対しても答える。
「言わないのだからな」
「陛下」
 兵士達に囲まれたセストはここで。ティートに顔を向けて言ってきたのであった。
「私達はかつては熱い友情を持っていました」
「うむ」
 これはティートも認めた。
「その通りだ」
「だからこそ貴方のお怒りはわかります。その悲しみも」
「むっ!?」
 ここでプブリオはあることに気付いた。
「今の言葉は。若しや」
「慈悲は求めません」
 だがプブリオが考える前にセストはまた口を開いた。
「それがさらに貴方の怒りを掻き立てるでしょう。それは私を悲しみのうちに死なせます」
「どうやら彼は」
「私は絶望のうちに死に向かいます」
 セストはさらに言う。プブリオの目をよそに。
「死ぬことは恐れません。ですが貴方を裏切ったというこの思いが」
 これだけ言って姿を消した。後にはティートとプブリオが残る。ここでプブリオはティートに対して告げたのだった。
「陛下、若しやです」
「どうした?」
「セストは主犯ではないのかも知れません」
 探る顔でティートに告げた。
「若しかして」
「若しかしてか」
「そうです」
「だが。そうだとしても」
 ティートの顔が暗い。その暗い顔で語る。
「背信だ。私は復讐の心を己の中に感じる」
「復讐をですか」
「この様な忌まわしい心は消え去れ」
 そうした考えは彼の嫌うところであった。
「セストは罪を犯した。確かに死ぬべきだ」
「はい」
「しかしだ」 
 彼は迷い思い詰めた顔をプブリオに見せていた。
「私は。やはり赦すべきではないのか」
「セストをですか」
「そうだ。私の心を占める大きなものが私に語っている」
 それが何であるのか。ティートはもうわかっていた。
「やはりそれに従おう。だから」
 あの判決文を手に取る。そして。
 一気に引き裂いてしまった。これで終わりだった。
「これでいい」
「陛下、それでは」
「主犯あろうとなくともだ」
 もうそれも問題ないというのだ。
「彼には生きていてもらう。例え不実であっても」
「不実であっても」
「これにより私が世から神々から批判されようとも」
 覚悟は出来ているということであった。
「私は慈悲を取る。今」
「左様ですか」
「そうだ。それの証がこれだ」
 引き裂いた文書をプブリオにも見せる。もうそれは床に散りゴミとなっていた。
「こういうことだ」
「では」
「行こう」
 もうそこには迷いはなかった。
 
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