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道化師

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第一幕その五


第一幕その五

「成程、こういうことか」
 彼はネッダとシルヴィオを見てさっきの借りを返す時が来たのを悟った。それだからこその笑みだった。
「よし」
 そして場を離れる。そのまま何処かへと消えた。
「それで・・・・・・いいな」
「・・・・・・ええ」
 戸惑いはまだ残っていた。だが今決めた。
「わかったわ。明日の朝に」
「ああ」
「一緒に。行きましょう」
「ネッダ」
「カニオ」
 互いの名を呼んで再び強く抱き合う。
「明日の朝になれば俺達は一緒になれるんだ」
「そして二人でずっと一緒に」
「暮らそう」
「幸せに」
「こっちです」
 トニオが戻って来た。その後ろにはカニオがいる。
「何なんだ、見せたいものがあるって」
 彼は楽しく酒を飲んでいたのを邪魔させて少し不機嫌だった。
「御前の不始末じゃないな」
「それだったら呼びませんよ」
 そんなことでわざわざ座長を呼んだりはしない。それにトニオの顔はあの邪悪な笑みのままであった。陰が彼の顔に差していた。
「親方、よく目を凝らしていて下さいよ」
「誰か逢引でもしているのか?」
 面白くなさそうにそう問い掛ける。
「生憎俺はそうしたことには興味はないぞ」
「まあ逢引です」
「やっぱりそれか」
 それを聞いてさらに不機嫌になった。
「全く。御前も好きだな」
「ただし、只の逢引じゃありません」
「じゃあ何なのだ?」
「それは見てのお楽しみということで」
 カニオはトニオに案内されてネッダの方に行く。一方ネッダはその頃トニオと二人で服の乱れをなおしていた。
「夜明けな」
「ええ」
 二人は服の乱れを整えながら話をしていた。
「そこの下で待ってるからな」
「わかったわ。じゃあそこでな」
「それで二人で」
「一緒に行こう」
「そうよ・・・・・・!?」
 だがネッダは突如として顔色を変えた。
「行って、シルヴィオ」
 そして恋人に対して言う。
「いきなりどうしたんだ!?」
「あの人が来たわ。早く消えて」
「あの人ってまさか」
「話してる暇はないわ。だから」
「ああ、わかった」
 シルヴィオはそのまま後ろへ駆けて行った。それを確認したカニオも遠くから駆けて来る。
「待て!」
 だが距離があった。シルヴィオは後ろの垣根を飛び越えて消えた。そしてそのまま何処かへと消えて行ったのであった。
「糞っ、逃がしたか」
 カニオはそれを見て肩で息をしながら舌打ちした。
「ねっ、あっしの言った通りでしょ」
「ああ」
 彼は一緒にいるトニオの言葉に頷きながらネッダのところに来た。ネッダはまるで鬼の様な目でトニオを睨んでいた。
「やあ」
「やってくれるわね」
 わざとらしい挨拶をしたトニオにそう言葉をかける。
「やれることをやるのさ」
「フン」
「だがもっと上手くやれるぜ」
「やってみたら。舞台の上で」
「じゃあそうさせてもらうよ」
 二人は取り込まれんばかりの悪意を胸にそうやり取りをしていた。トニオも顔は笑っていたが目は笑ってはいなかった。
「ネッダ」
 カニオはネッダに顔を向けてきた。怒りで真っ赤である。
「何かしら」
 だが彼女はふてぶてしく、しれっとした態度であった。
「誰といた」
「誰ともいないわ」
「嘘をつけ、じゃあさっきの男は何だ」
「知らないわ」
 シルヴィオの顔が知られていないことをいいことにシラを切る。
「何にも」
「そんなことを信じると思っているのか」
「信じる信じないは別よ」
 ネッダはふてくされて返す。
「けれど。証拠はないでしょ」
「何ィ!?」
 その挑発的な言葉に怒りが頂点に達した。
「言わないつもりか!」
「だから知らないって言ってるでしょ!」
 ネッダも負けてはいない。カニオを睨み返して言う。
「何度言えばわかるのよ」
「そんな戯言誰が信用するか」
「じゃあ信用しないならそれでいいじゃない」
 開き直りとも取れる言葉だった。どのみち腹は決まっているのだ。
「そうか、そういうことか」
 カニオはそこまで聞いて怒りに震えながら言った。
「それならこっちにもな!」
「何をするってのさ!」
「これで全てを終わらせてやる!」
 カニオは腰からナイフを取り出してきた。
「それであたしに言うことを聞かせるつもりなの!?」
 ネッダはカニオを睨み続けていた。それでも臆するところはなかったのであった。
 
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