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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百四十七話 ヴァンフリートへの準備

 
前書き
お待たせしました。二ヶ月ぶりに書くことが出来ましたので、投下します。

体調は気管支も不調で咳だらけです。

 

 
帝国暦485年1月4日

■銀河帝国 オーディン 宇宙艦隊総司令本部  ラインハルト・フォン・シェーンバルト

「本日付けを持って、宇宙艦隊作戦参謀に任命されました、ラインハルト・フォン・シェーンバルト大佐であります」
「同じく、ジークフリード・フォン・キルヒアイス大佐であります」

俺とキルヒアイスが憲兵隊の任務から宇宙艦隊の作戦参謀へ内示を受け最初に行ったのは、宇宙艦隊総司令部の人材に関しての調査だった。何故なら、久々の宇宙でどれだけ自分の武勲を立てる事を、宇宙艦隊司令長官エッシェンバッハ元帥の取り巻きに邪魔されては堪らないからだ。

エッシェンバッハ自身、士官学校主席ではあるが過去の戦闘記録を見ても面白みのない戦闘しかしていない、また総参謀長のグライフスも主席ではあるが、単にペーパーテストの結果だけの存在でしかないようだ。トップ二人が大したことのない人間である以上、その下にいる者達も大したことのない人材だらけで、到底俺の眼鏡に適う人材は居ないようだ。

「御苦労、私がエッシェンバッハだ、詳しくは総参謀長のグライフスに聴くが良い」
「総参謀長グライフスだ。卿等の担当は航海参謀として、今回の攻撃の立案に参加して貰う。詳しくは航海参謀のノルデン少将に指示を受けるようにせよ」
「「はっ」」

何が、航路参謀だ!この俺に作戦を任せれば良い物を!
そう思っていると、銀髪でどことなくヌボットした感じの少将が挨拶してきた。
「シェーンバルト大佐、キルヒアイス大佐、小官はノルデン少将だ。今回卿等の上官となる、宜しく頼むぞ」

どう見ても優秀とは思えない少将か、少し試してやるか。
「少将閣下、今回の作戦ですが、どの様なルートをお考えでしょうか?」
さあ、どう答える。

「うむ、ルートと言っても、イゼルローン要塞までは普通に移動し、後はその時の状態で決めるつもりだが」
何を言っている。この男は行き当たりばったりをするというのか!しかも簡単な答えを出すのに数分をかかるとは、屑以外の何物でもない、こんな奴の下に付けるなど、人事部の悪意を感じる!いやエッシェンバッハの嫌がらせか?

「所で、大佐、何か不都合でもあるのか?」
この阿呆が!
「いえ、少将閣下の御高承をお聞きしたかっただけです」

キルヒアイスが旨く纏めてくれたか。
「なるほど、大佐、暫くは暇だ。自由にしているがよい。私は夕方から宴が有るので帰らせて貰う」
「はっ」

なんだ、この阿呆は、戦場へ出るのに宴だと、屑貴族が!



■銀河帝国 オーディン 宇宙艦隊総司令本部 ジークフリード・フォン・キルヒアイス

いけないラインハルト様の苛つきが何時もより遙かに大きい状態だ。今夜は散々愚痴を聞かされそうだ。アンネローゼ様、ジークはアンネローゼ様とのお約束を忘れずにラインハルト様を支えていく所存です。願わくば、ラインハルト様の苛つきが少しでも収まりますように。あまり酷いと、引きこもりたくなりますから。



■銀河帝国 オーディン 宇宙艦隊総司令本部  

ラインハルトと、キルヒアイスがノルデン少将に連れられ作戦室へと向かった後の長官室で、エッシェンバッハとグライフスが話をしていた。

「閣下、あの二人をノルデン少将の下に付けましたが、本当の宜しかったのですか?」
グライフスが心配そうにエッシェンバッハに尋ねる。
「シェーンバルト大佐は、グリューネワルト伯爵夫人の弟と言う事か」

「お世辞にもノルデン少将は優秀とは言えません。しかもノルデン少将の部署自体がダミーの部署ですが……」
「判っておる。グライフス、これは他言無用だが、この事に関しては、恐れ多くも皇帝陛下も御了承済みだ」

「皇帝陛下が」
「あの者は、幼年学校を首席で卒業し、士官学校へも進まず任官した。どうも自分を天才だと思っているようで上層部批判が凄まじい、それに個人の武勲のみを求める気合いが有りすぎる。しかも正式な士官教育も受けておらん。あの様な者が武勲を立て艦隊司令官にでもなってみよ、部下の命など塵芥に思わぬ事になろう」
そう話すエッシェンバッハの眉間に深い皺が刻まれている。

「士官学校とは戦争のやり方を習うだけでは無いのですが、将兵の気持ちを判る事すら出来なく成る可能性があります。それでは将兵の無駄死にを増やすだけですから」

「確かに、以前であればそれも可能であったが、皇帝陛下の御心を知った以上は、将兵の無駄死には避けなければならんからな」
「そうですな。陛下の御心中を鑑みれば自ずと判る事なのですが……」

「思うに用兵家と言う者がどれほど度し難い存在で有るかと言う事を自覚できるかどうかだ」
「はっ」
「一将功なりて万骨は枯る」

「閣下、どの様な意味なのでしょうか?」
「陛下からの受け売りだが、一人の将軍が戦果を上げるには名もない1万の兵の屍が戦場に残されると言う、その為に、将たる者は兵の犠牲を考えよという、古代チャイナの戒めとのことだ」

「なるほど、身が引き締まる話ですな」
「その通りだ、司令官とはどれだけ効率よく味方の兵を殺すかを考えるのが仕事だ」
「参謀長たる小官も同じ事です」

「兵士たちの死の上に将としての名声が成り立っている。先頃の謁見で陛下が仰った。『あの者にもその事を理解してほしいと思う』と」
「シェーンバルト大佐のことですな」

グライフスの言葉にエッシェンバッハが大きく頷く。

「うむ、陛下のお言葉だ。『寵姫の弟と言えども前線では特別扱いは無用』と」
「なるほど」
「その為に、ノルデン少将の元に配属させたのだ」

こう話ながら、エッシェンバッハは、グライフスには言えんが、陛下は更にこう仰ったな。『あの者、我慢が足らないようじゃ、少しは下の者の気持ちを教えるために、無能な上官の下で我慢を覚えさせよ』と言われた事を思い出していた。



帝国暦485年1月4日

■銀河帝国 オーディン 宇宙艦隊総司令部 ケスラー艦隊事務室

ラインハルトがノルデン少将の出来の悪さに苛つき散々上層部の悪口を言いまくっている頃、ケスラー率いる通称ケスラー艦隊はアルテナ星域での艦隊訓練から出師準備とクリスマス休暇の為にオーディンへ戻り、将兵の休養や艦艇修繕整備や補給を始めていた。

ケスラーもメックリンガーも忙しく書類の束にかかりっきりで決済印を押していく。
「参謀長、そろそろ三時だ、一休みするか」
「そうですね。丁度区切りも良いですから、そうしましょう」

メックリンガーが従兵にコーヒーを持ってくるように命じる。

「しかし、軍用コーヒーと言うのはどうも味気なくていかんな」
ケスラーの言葉にメックリンガーが苦笑いしながら応じる。
「大量消費でコストを抑えなければならない以上は、大量生産廉価版になるしか有りませんから、まだ第二次対世界大戦時のドイツよりはマシでしょう。コーヒー豆が不足して、チコリ、大豆、蒲公英の根を煎じて代用コーヒーを作ったそうですから」

「焙煎したコーヒー豆を味あえるだけマシか」
「そうなりますね」

そんな話をしながらふとケスラーが思い出したことをメックリンガーに聞いて見た。
「参謀長」
「なんでしょうか?」

「そう言えば、卿の描いた壁画がそろそろお披露目だな」
ケスラーの言葉を聞いてメックリンガーが珍しく照れたようにに話す。
「はい、今月の10日にこけら落としです」

「参謀長は当事者だから式典参加は当たり前だが、私を含めた各艦隊司令官参謀長幕僚も参加する事になっている事は、この艦隊が出兵する事の秘匿にもなっているからな」
「そうですね、私としては、一世一代の晴れ舞台に皆に見て貰えるのは嬉しいですけど」

「まあ、当日は全休だから、式典後が恐ろしいかもしれないぞ」
「そうですな」

「さてもう一仕事するか」
ケスラー達は、コーヒーを飲み終わると再度書類の束に取りかかった。


数時間後、今回の出兵に係わる部署を除いて次々に定時で将兵が帰る中、ケスラー艦隊事務室では、分艦隊司令達が集まり、食堂から従兵が運んできた軽食をつまみながら、それぞれの艦隊の練度などを話し合っている。

「俺の艦隊は準備万端だが、ワーレン、卿の艦隊の訓練度合いはどんな感じだ?」
ビッテンフェルトが、大口を開けて、骨付き太股肉のフライドチキンをぱくつきながら、士官学校同期のワーレンに話しかける。

食い滓が飛ぶのを手に持ったレポート用紙の束で払いながらワーレンが答える。
「ビッテンフェルト、食うか喋るかどっちかにしろ。まあ艦隊の方は概ね順調だ」
ワーレンも文句を言いながらも確り質問に答える。

「そう言えば、歌劇団の歌は殿下が作詞し参謀長が作曲為さったそうですね」
最年少のミュラー准将がメックリンガーに話題を振る。
皆の視線がメックリンガーに向くと、メックリンガーは恥ずかしそうに髭を触った。

「殿下が殆どアカペラで歌をお作りになり、音符付けと編曲をした程度だよ」
「殿下のお作りになった歌か、楽しみだな、ロイエンタール」
ロイエンタールは何故俺に振るという視線で親友のミッターマイヤーを見る。

「ああ、そうだな」
ロイエンタールは仕方なしに、おざなりに答える。
ロイエンタールの嫌そうな態度も全然目立たずに、皆が皆一時の安らぎを見つけ、テレーゼとメックリンガーの歌や歌劇団の事を話している。

其処へドスドスという足音と共に、廊下を歩いてくる音が聞こえ。インターホンから野太い声が部屋に響き渡る。
「おう、邪魔するぞ」

ドアを開け現れたのは、装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将だった。
「閣下、いかがなされましたか?」
メックリンガーが対応すると、オフレッサーがすまないというような顔をしながら答える。

「飯時に済まんが、今回の作戦に、俺の所からも兵を出すことになってな」
「閣下がご参加するのですか?」
「行きたいのは山々なんだが、俺の方は、エッシェンバッハ元帥の旗艦に乗らなければならんので、俺の代わりをさせるにはまだまだ未熟だが、通常の戦闘なら十分行える信頼できる奴を連れてきた」

「挨拶しろ」
オフレッサーの後に控えていた准将が挨拶をする。
「小官はアルフレッド・フォン・ランズベルク准将であります。今回はよろしくお願い致します」

ランズベルク准将を見て准将の正体が判る者達はその腰の低さに驚く。

「ランズベルク准将と言えば、ノイエサンスーシ突入時の?」
ミッターマイヤーが質問すると、オフレッサーが答える。
「ああ、その通りだ。まだまだ未熟だが、十分に役に立つ男だ」

オフレッサーの基準で未熟と言えば、通常の軍では精鋭といえる状態であるので、ランズベルク伯が原作と違いどれだけ優秀な人材に育ったかが分かるであろう。

「それじゃ、宜しく頼む」
そう言い残してオフレッサーとランズベルク伯は帰って行った。

「此は、本格的な作戦になりそうだ。益々気合いを入れないと」
誰かがポツリと言った言葉を皆が肯定するように頷いていた。  
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