| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第四十六話 剣士という生き物

「さて、と。どうする、まだやるか?」

「・・・あと一つだけ聞かせてくれ」

「いいよ」

「たとえ居場所が分かったとしてもあれだけのナイフを避けることは難しいはずだ。なのに、なぜ?」

避けられたんだ?と聞くシェイドにソレイユは一拍置いて答えていく。

「・・・ナイフってのは急所を狙わない限り殺傷能力は低い。だから、おれの急所を狙ってくるわけだから、かえってタイミングがとりやすかった」

「・・・・・・そうか」

それからシェイドは何もしゃべることはなく、ソレイユも何も語ることはせずに刀を鞘から抜き、シェイドの首筋に添える。シェイドは負けを認めたようで抵抗らしい抵抗を見せない。ドロシーが止めに入ろうとするがルシフェルに止められている。
ソレイユは目を瞑り少しばかり間を置くと、目を開き刀を振りかぶり、シェイドの首めがけて振り下した。しかし―――

ガギィンッ

それはプレイヤーに攻撃がヒットした音ではなく、金属同士が奏でる音だった。予想外の人物の介入にソレイユは少しばかり驚いた。

「意外な乱入者だな・・・どういうつもりだ?」

受け止められた刀を引き、数歩下がりながら乱入者であるステラに問い掛ける。問い掛けられたステラは不敵な笑みを浮かべそれに答える。

「君の戦いをみとったら疼いてしもうたんよ」

「・・・・・・」

何が、とはソレイユは問い掛けなかった。ステラが言いたいことは十分に理解できたからだ。

「・・・で、どうしたいの?って聞くのは野暮か・・・」

「そうやね。同じ剣士ならわかるやろ?」

「ああ。痛いほどな」

二人のやり取りを近くで見ているシェイドは状況があまり理解できてないらしく、呆然としていた。そんなシェイドにソレイユは言った。

「一つ貸しな、シェイド」

「・・・・・・わかった」

しぶしぶといった感じで頷いたシェイドはルシフェルとドロシーのもとまで歩いていくと、二人同様にソレイユとステラを見据える。

「なぁ、ドロシー・・・」

「なんですか、ルシフェル?」

「あのステラって娘はどの程度だ?」

「現段階のウンディーネの中で言えば、近接戦闘ではトップクラスの実力ですね」

「へぇ~」

ドロシーの言葉にルシフェルは感心したように声を上げる。

「そういうことならなかなか見ものだな、この戦い」

先ほどのソレイユの実力を見て恐れるどころか自分から剣を交えようとするなど考える者は少ないだろう。しかし、圧倒的な実力を見た直後であっても、ああして果敢に挑んで行ける精神を持つ者も今時のこの世界には珍しい。そこで、ルシフェルははたと思いだしたことがあった。

「そういえば・・・」

「・・・?どうしました?」

「ん?ああ、いや、なんでもねぇよ」

「・・・そうですか」

何か言いたそうなドロシーだったが、ルシフェルが何も語らない以上問い詰めても仕方がないのでステラとソレイユに視線を戻した。そんなドロシーにお構いなしにルシフェルは昔を思い出していた。

「(そういえば、俺も“王”に暇があれば挑んでたっけな)」

過去の自分が今の自分を見たらどう思うか、考えようとしたところでやめた。過去は過去、現在は現在なのだ。ありえたかもしれないIFを考えたところでどうにもならない。

「この際だからお前を通して見極めさせてもらうとするよ・・・“強さ”とはなんなのか、をね」

ルシフェルは静かに呟いた。戦闘スタイルも違う。手に持つ武器も違う。何もかもが一致することはないが、不思議と同じような存在に思えた。かつて圧倒的な実力を誇り、自分が憧れた人物。“闇妖精の王”とソレイユを照らし合わせながらルシフェルは静かに戦いを見ることにした。



シェイドがルシフェルとドロシーのもとにたどり着くのと同時にステラはソレイユに仕掛けて行った。翅の推進力を使い上段から袈裟切りを繰り出すステラの攻撃にソレイユはその刀の力に逆らわず受け止めると、そのまま刀身を滑らせて流した。それにより前のめりに倒れ込んでしまうが、翅を巧みに利用してソレイユに追撃していく。対して、ソレイユはその追撃を薄皮一枚斬るように紙一重で躱す。それでも反撃の間を与えないようにステラは連撃を繰り出していくが、ソレイユはその悉くを躱していく。

「さすがやな!」

「それはどうも」

連撃を繰り出していくステラもそれを避けるソレイユもまだまだ余裕そうであった。しかし、連撃を避け続けたソレイユに対してステラはこのままでは埒が明かにと感じたのか、一度大きく距離を取る。ここで初めて二人の間に距離ができた。

「おや、もう終わり?」

「まさか!ただ、今のままやと埒が明かん思うてな。少しばかり本気だそう思うんや」

そういって聞き慣れない単語の魔法詠唱を始めるステラ。未だ魔法知識に疎いソレイユはどんな魔法が来るかわからないので見を決め込んでいる。魔法詠唱が終わると、ステラが淡い光を身に纏った。どんな効果があるかわからないソレイユだが、すぐ悟ることになる。
淡い光を纏ったステラが構えた瞬間、その姿が消えた。ソレイユの眼をもってしてもそれは追えない速度だった。

「・・・・・・」

しかし、だからと言って捉えられない道理はない。ソレイユにはまだ≪天帝空羅≫があるのだ。常時発動中と言っても過言ではないこの技術から逃れる術はステラにはない。≪天帝空羅≫を使い、ステラの居場所を突き止めるのにかかった時間は一秒にも満たない。だが、ステラの居場所が少々意外な場所だった。ソレイユの間合いを殺し、自分の間合いを生かせる場所―――すなわち、ソレイユの懐にステラは一瞬でもぐりこんだのだ。
ソレイユがこうもあっさりと懐に入ることを許したのはあまりないことである。≪剣聖≫時代の彼を知るものがいれば目を見開いていただろう。それほどまでに簡単に懐に入ることを許してしまったのだ。

「もろうたで!!」

そう言いながら胴を薙ぐステラ。それをソレイユはギリギリで防ぐことに成功した。いや、防がざるを得なかったといった方が正しいのかもしれない。
ここに来てソレイユはステラが何をしたのか理解した。

「支援、魔法か・・・!」

「正解や!!」

ギリギリと鍔迫り合う二人だが、体勢的に見てソレイユの方が不利なのは明らかだった。徐々に押されてきたソレイユは翅を器用に使いステラの胴薙ぎを流す。勢い余って体勢を崩すステラだが、その勢いにあらがうことはせずに、逆に利用して翅を使い体勢を整える。熟練者ならではの見事な対応であった。
二人の間に距離ができるが、この世界はSAOではなく、ALOだ。そう、つまりSAOでは使用が限られていた遠距離攻撃が存在する。すなわち、魔法である。

「~~~♪」

ステラによって歌うように紡がれた魔法は、六発の水弾としてソレイユに襲い掛かる。それを飛んで避けるソレイユだが、ホーミング性能を備えた魔法なためソレイユを追いかけていく。追尾してくる魔法に対してソレイユがとった行動は―――魔法で相殺することだった。セットしていた闇属性魔法の中にあった魔法を思い出し、即座に詠唱に入る。

「―――♪」

紡がれたのち放たれた魔法は七発の闇の弾丸とかし、ステラの放った六発の水弾を相殺した。残り一発は下でまた別の魔法を詠唱していたステラに襲い掛かる。しかし、ステラの姿は再び消え去り、ソレイユが放った魔法は誰もいない地面へと着弾した。

「あまいで!!」

「ちっ・・・!」

声の発生源は背後から。ソレイユが即座にそちらを向くと今度は上段に構えていたステラの姿が目に映る。先ほどより圧倒的に距離が離れているにもかかわらず、その距離を一瞬にして埋めてきたステラ。支援魔法を使ったことは間違いない、とソレイユは考える。だが、それにしても効果がありすぎる。なぜ、最初からこの魔法を使わなかったのか疑問になるが、一先ずはステラの攻撃をしのぐ方が先決だ。お生憎、守りに徹する気はさらさらないソレイユはステラの唐竹割りを流すと、ソレイユはカウンターを仕掛ける。

「なっ・・・!?」

それに驚いたのは紛れもないステラだった。防御されると思っていたらカウンターが飛んできたのだ。だが、ステラとて簡単に食らう気はない。顔面目掛けて放たれたカウンターを首を捻ることで回避しようとするが、回避しきれず掠ってしまい頬に一筋の傷を許してしまう(傷自体はすぐに消えた)。
体勢を立て直すためにステラは支援魔法の効果を生かし、いったん距離を置き相手を見据える。

「らしくねぇ・・・ホントらしくなさすぎだ」

距離を置いたステラなど関係なしにソレイユは、刀を握る手に視線をおとし、そう呟く。その言葉には自嘲が含まれていた。

「ったく、“わたし”はいつから驕れるほど強くなったんだってんだよ・・・」

ソレイユから何かがにじみ出てくる。静謐で、荘厳なそれは向かい合うだけで、目にするだけで人々を威圧する。“闘気”とも取れるそれは強大な威圧感を感じさせながらソレイユから立ち込めている。それを見た四人は今度こそ絶句する。
なんだ、これは。四人の表情がそう物語っていた。

これは、≪ソードアート・オンライン≫において、頂に立つと称された三人の頂点が使用していた技術である。仮想世界に“闘気”というのは実のところ存在しない。では、なぜソレイユたちのようなことが起こるのか。それを一言で説明するならば“情報圧”である。この仮想世界で過ごしてきた時間、戦いに身を置いた時間などがそのプレイヤーの情報となって相手を威圧しているのである。
だが、SAO帰還者のように二年間も仮想世界で過ごしたとしても、誰しもがソレイユのように情報圧を具現化させることは不可能である。なぜなら、ただ過ごしてきたというだけではそれを具現化するには至らないからだ。ならば、キリトやアスナやルナのような強敵と戦い続けた攻略組なら情報圧も放てるのではないか、という疑問が当然浮かんでくるが、その答えはイエスでありノーである。その理由は自分の内にあるものを外に吐き出す方法を知らないからである。もし、その方法がわかれば、ソレイユまでとはいかないまでも彼ら彼女らも情報圧を放つことができるだろう。
仮想世界で過ごしてきた時間が長いほど、強敵と戦えば闘うほど個人が纏う情報は増し、それに比例して威圧感も増すのである。だからこそ、レジェンド・クエストやアポカリプスなどと言った常識では計り知れない強敵たちと闘っていたソレイユは強大な情報圧を纏うことができるのだ。
ならば、それを放つことができる者は全員がソレイユの様な静謐な雰囲気になるのかという質問も起こるだろう。結論から言えば、情報圧が放つ性質は個人によって異なる。その原因はその個人の性格にある。生活だろうと戦いだろうと必ず個性と言うものは存在する。それによりソレイユなら静謐な情報圧を、シリウスなら荒々しい情報圧を、ベガなら猛々しい情報圧を、といったように具現化するのである。画面越しのゲームではありえない、VRゲームならではの技術と言えよう。

数秒間、威圧されていたステラだったが、本気のソレイユを前にして驚くべきことを言い放った。

「すごい、すごいやん!」

邪気のない笑顔でソレイユをほめるステラ。若干面食らうソレイユだったが、構わずステラは言葉を続ける。

(ウチ)が会ってきた中でも君と同等の腕を持つ人は数えるほどしかおらへんかった!けったいな人やな!なんで隠してたん?」

「切り札だからな。隠さないと切り札たり得ないだろ?」

「それもそうそうやね!」

そういってステラは正眼に刀を構え、ソレイユは無形の構えを取る。

「さぁ、続きをしようや!!君の本当の実力を!!(ウチ)に見せてな!!」

ウンディーネきっての剣士はインプきっての剣士に嬉々として挑んでいく。力の差は歴然と言っても過言ではない。しかし、剣士ならそれもまた必然。

「「“わたし”((ウチ))が求めるのは≪最強≫という剣士の頂のみ。いざ、尋常に勝負!!」」
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧