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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第三話

 幾つかの季節が巡ったある日のこと、キュアン王子に連れ出されて野山を巡った。
俺が鍛錬や勉学に本腰を入れてからというもの、こういうふうに朝一番から遊ぶ機会はなかなか無くて久しぶりのことだった。
晴れた空の下、ずっと遠くでは何かの鳥が悠然と空を舞っているのが目に入る。

「あにうえ、もうしわけありません。」

 いつも俺が思っていることを口にして歩みを止めた。

「急にどうしたというのだ?」

 困惑を感じる口ぶりで返事をしたキュアンに、

「わたくしが、うまにのれないから、こうやってあにうえにお気遣いさせてしまっていることがです。」

 キュアンは一瞬、けわしい目をしてから穏やかな表情に戻ると俺の両肩に手を置いた。

「いいかい、ミュアハ。私もお前もいつかいくさに出ることがあるかもしれない。そして、いくさは騎士や騎馬隊だけで行うものではない。いや、馬に乗って戦う者のほうがずっと少ないくらいなんだよ。だからそんな事は気にするな。」

 一呼吸置くと

「それに、もっと大きくなったら乗れるかもしれないだろう?そうだ、私が聞かせてもらった昔話のなかに誰にも乗りこなせなかった荒馬を見事に手懐けた、それまで馬に乗れなかった英雄王の話というのがあるんだぞ。」

 にこっと笑うと頭をなでてくれた。心に温かいものが込み上げてきた俺は顔を伏せた。


 そのあと俺たちは黙って歩きだした。
(現実世界で学校に通ってたころ、同じクラスの奴らは自分のきょうだいの悪口や気に入らないことばかり言っていた。そして、俺の父親の兄は酔って家に来ては暴れて帰り、母親の身内のほうにまで行って迷惑をかけていた。俺はきょうだい居なかったけれどそれで良かったとさえ思っていた。仲のいいきょうだいなんてフィクションにしか居ないと思ってたな・・・。)
 そんな風に思いながら歩いていて気が付いたのは、行く先々でキュアンは以前一緒に来た時の思い出話を語り、初めて来た場所では昔父王とこういうことがあったとか4年ほど前に亡くなった互いの母親である王妃の話などを語り聞かせてくれたことであった。

 夕暮れにはまだ早い時間に、遅くなった昼食を河原で摂っていると

「来月か、そのもうすこし先にはグランベルに行かねばならなくなったんだ、私は。」

 キュアンは河原の小石を拾うと水面に投げた。

「士官学校って言う場所で、いろいろ学ぶ為って言われているけど人質みたいなものさ。」

 再び投げ入れられた石がちゃぷんという音とともに水の中へと姿を消した。

「おまちください、あにうえ、しかん学校とやらは15さいになってからと聞きおよんでおります。いったいなにがあったのでしょうか 」

 俺の質問に対してキュアンは

「聖痕が父上と同じくらい大きくなったんだ。そしてそれをグランベルからの公使に気が付かれてしまってね。任期切れで自分がグランベルにもうじき戻るので共にグランベルへ・・・ってね。」

 俺はなるほどと思いながら、すぐに言わねばならないことを口にした。

「あにうえ、聖痕のこと、おめでとうございます! 」

 出来る限り嬉しそうにそう言って抱きついた。
だが、士官学校の件は嬉しくなさそうだったので俺は真面目くさったと自分で思う表情をつくり

「しかん学校でのべんきょうはたいへんだとおもいます。せめて、あにうえがるすの間のしんぱいをおかけしないよう、ちちうえやせんせいの言いつけをまもります 」

 俺は体を離すと片膝をついて

「そして、わたくしのことばだけではなく、かくごを見ていただきたいです 」

 すっくと立ち上がった俺は護身用に持たされている細身の槍を持つと革で作られた先端のカバーを紐できつく結びなおし、さらに、実戦に近いとされる訓練の際に装着される木製のカバーをかけ、布袋と革紐で厳重に縛り、身構えた。
 もしかしたら、これがキュアンと親しく話せる最後の機会かもしれない。
王室間の政略の駒として俺はどこかの入り婿として出されてしまい、キュアンが戻った時にはもう他国の身かもしれない………
 ゲーム本編でキュアンの兄や姉、弟や妹が現れないのはレンスター周辺国と限らないがどこかに遣られていたのかも知れない。
 そう思うと伝えねばならないことを伝えねばという気持ちが俺の心を駆け巡った。


 うなづいて同じように支度をしている兄王子を見ながら稽古をつけてくれた日々を思い出していた。
 大抵の場合、教官の掛け声に続いて練習用の槍を振り上げては振り降ろし、基本の足捌きを繰り返すという地味なものばかりで試合のような形式での訓練は週に1度あるかないか、そしてそれはとても短時間でしかなかった。
 忍耐力や持久力を養うという面で有用な訓練法であるのは疑いようは無いがひどくつまらなく苦しいものだ。
 そんな中、遊びに連れ出してくれたキュアンとお互い木の棒などで打ちあうのは楽しくもあった。
 帰りが遅くなって父王に叱られた時にはいつも俺をかばって自分が悪いからだと身を呈してくれた。
 そんなふうに俺を本当の弟としてかわいがってくれたこの人にあんな死に方をさせてなるものか!


「ミュアハ、河原だと転んだら大怪我するかもしれないよ。土手のほうの平らなところへ移動してから
にしよう 」

 という兄王子からの申し出に対して、俺自身が先ほど口に出したように一つの覚悟を決めた。

「生意気と後から罰を受けても構いません。
ですが、今は申し上げます!
ひとたび戦いとなったらそのように好きな場所を設定出来るとは限りません。
不本意な地形で戦わねばならぬ時にどうすれば良いか、そのような状況事態を生みださないようにするにはどうすれば良いか、それを兄上は心に留め置かねばならない! 」

 普段は子供らしく思われるような努力をしての話し方の演技をやめて俺は言った。
 そんな俺の言葉や態度に茫然としているキュアンの虚を突いて槍を叩きつけた。
 万全な体勢なら俺の攻撃などかすりもしないが、今はかろうじて受け止めたキュアンと力比べとなる。
 並みの子供ならば細身の槍とて操ることは叶わぬものだが、俺とて槍騎士ノヴァの血を引く身、日頃の鍛錬も欠かしてはいないためか馬鹿力だけはあったようだ。交差した互いの槍の柄がみしみしと鳴る。

「卑怯と思うならそう思ってください。兄上と正々堂々戦って勝てるものなどおりませぬ。だが、卑怯な方法で陥し入れられた場合......」

 俺は歯を喰いしばり、力比べの合間に言葉を続け、足もとの手頃な石を顔だけは狙わず蹴りつけた。
 キュアンが飛来物に注意を逸らした一瞬を狙って槍を押すと、俺は後方に飛びすさった。

「俺のようなこんなつまらないやつでさえ勝負に持ち込むことが出来ました。
兄上と戦う者は正々堂々戦ってもかなわないから、正面からまともに戦わず全力を出せない場面を狙ってきます。不利な地形に追い込んだり、人質をとるなどです 」

 イード砂漠超えをしてシグルド率いるシアルフィ軍に合流しようとしたキュアン率いるランスリッターがトラバント率いるトラキア軍の奇襲を受け殲滅されてしまう光景が頭に浮かんだ。
 そのために、ここまで昂ぶってきた感情との相乗効果によってある感情が決壊した。

「覚悟を見せるなんて言って、やったことはただの卑怯な不意打ちだって兄上は失望なされたかもしれないけれど、俺は、俺は.......」

 感極まってぼろぼろと、いったいどこからこんなに出て来るのだろうという涙が止まらなかった。
 そうしてうずくまってしまった俺の傍らに兄はやってきて槍を放り投げた。
 ぱしゃっ・・・と水に落ちたような音が聞こえたが意に介したふうもなく

「私の弟はつまらないものなんかじゃ無いぞ。」

 そう言うとしゃがみこんだ。

「どんなことをしても父上や国を守りたいと言うお前の気持ちはよく伝わった。そして、わたしが戦う時は決して油断をしなければいいんだな。」

 この上無く優しい声で言葉をかけてくれてから背中をトントンと叩いてくれた。




 しばらくして落ち着いた俺が顔を上げると兄の後ろに信じられないものを見てしまった・・・





 一度目をつぶって頭を振ってからまた目を開いてもそこには……
 嘘だと思ってもそこには見覚えのあるアイツがいた。
 俺と目が合うと

「ちょっとー、わたしちゃんの泉に槍なんて落とさないでくださいましなー」

 俺と目が合うとヤツはVサインというかピースというかしてきた。

 ここに泉なんて無かったよね?にいさま? 
 

 
後書き
きょうだいとひらがなで記しているのは、兄弟姉妹とか場合に合わせて兄弟・姉妹・兄妹などなどと表記する手間を惜しみました。後で直すかも知れません。

グランベル士官学校の入校が基本15歳から、聖痕が出たらそれより早い可能性があるというのはファミ通文庫の鈴木銀一郎先生著のFE聖戦小説の記載に準拠しました。

そういえばトラキア軍奇襲の時ってトラバントはセリフだけで竜騎士のマゴーネさんが部隊長だったかも!? 
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