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鋼殻のレギオス 三人目の赤ん坊になりま……ゑ?

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第一章 グレンダン編
天剣授受者
  天から落ちる剣

 
前書き
詰め込みすぎました。
後、遅れて申し訳ないです。 

 
 轟音、直後に複数に及ぶ刀の斬り合い。
 鍔迫り合いなど発生せずに二人は斬り抜ける。
 だが、二人とも斬り抜けたのはいいが止まらることができなかった。そこで二人がとった行動は、闘技場の壁にぶつかって強引に身体を止めるという強引な方法。
普通の武芸者では傷一つ付かないはずの闘技場の壁に罅が入る。
 観客たちからは悲鳴などが聞こえるがシキとレイフォンは気にせずに戦い続ける。
 光と光がぶつかる。そうと表現できなかった、一般人にはそれしか見えていない。音だけが響き渡り、肝心の二人の姿が見えない。
 時々、衝剄が流れ弾として観客席に飛んでくるが、全て天剣が相殺している。その事実に安心しつつ、観客たちは二人の戦いを見惚れる。
 閃断を放ちつつ、シキは別途で剄を練り続ける。
 剄脈からは感じたことがないほどの熱さを感じ、まるで身体が燃え盛っているのではないかと錯覚してしまう。
 レイフォンがサイハーデンを継ぐ。それはいい事だ、レイフォン以上の適任がいるのならばシキは聞いてみたかった。シキが継ぐことも不可能ではないが、色々な武門を学んできたシキのサイハーデンはもはやサイハーデンはない、もはや亜種と呼べる武門なっている。
 デルクがシキに継がせるという選択肢をなくしたのはこういう理由もある。
 だけれども、ハイそうですかと聞き入れるほどシキは大人ではない。あれほど刀を使うことを拒んでいたレイフォンが使う、良いことだ。だがこちらは剣を使っていない。
 理不尽? 身勝手? あぁ、そうだとも、そんな感情を乗せながらシキは刀を振るった。シキの感情を反映して剄の色が赤い。
 今、シキが怒っているのも身勝手な理由だ。大好きな養父に選ばれなかったという理由で、兄弟のような存在を殺すほど憎んでいる。自分のせいだと理性的な部分が囁くが、それに従うなんてことは出来ない。
 レイフォンも同じだ、今まで溜め込んできた恨みを全て吐き出すつもりで刀を振るう。
 剄のせいで光り輝く錬金鋼がぶつかり合う度、強風を生み出していた。
 シキは衝剄を放ちつつ牽制を入れ、本命の剄技を使う。
 サイハーデン刀争術、水鏡渡り。
 加速したシキはレイフォンを捉える。直線ならば旋剄を超える超高速移動。さすがのレイフォンも目を見開きながら加速したシキに驚く。本気のシキはここまで早くなるのか。
 シキは躊躇なく横一閃に刀を振る。その速さは光に届くのではないかと思うほど速かった。
 だがギリギリのところで、レイフォンが身体を後ろに倒し避ける。切れたのは胸の皮膚の表面だけだ、活剄を流せば数秒で治る程度の怪我。
 しかし、レイフォンに隙が出来ないわけではない。体勢が崩れたせいでワンテンポ動きが遅くなる。その隙を見てシキは刀から化錬剄の糸を放ち、レイフォンの身体にくっつける。
 外力系衝剄の化錬剄変化、蛇流(じゃりゅう)
 普通に見ただけでは見えない、極薄の糸に刀の衝撃を伝える。元々は拳の衝撃を伝える剄技なのだが改良して刀技にアレンジしている。
 その衝撃はまっすぐレイフォンに進み、そして跳ね返された。
 シキはすぐさま糸を切り、その場から離れる。跳ね返された衝剄がシキがいた場所に着弾し土煙を上げる。
 間違いなく、今のは金剛剄。だが、レイフォンがこの剄技が使えるとシキは知らなかった。
「シキを見て、覚えた」
 レイフォンがポツリと呟くと、シキは合点がいった。
 レイフォンの恐ろしい点はほぼ見た剄技を自分のものにしてしまう点だと思い出したからだ。そうなるとシキが使える剄技をレイフォンは使えるということになる。
なぜ使えるのかというと練習などで自慢げに実演したからだ。
 蛇流は初めて見せた。さすがに化錬剄をその場でコピーできるとは思いたくないが、シキは舌打ちをしながら次に移行する。
 だがレイフォンの剄技が発動する方が早かった。
 サイハーデン刀争術、円礫(えんれき)
 レイフォンを中心に衝剄が巻き起こる。
 シキは刀で衝剄を切り払いながら、前に進んだ。引くことなど一切考えない愚直な突撃、だがレイフォンは何をするのか理解し、同じように繰り出す。
 サイハーデン刀争術、波紋抜き。
 武器破壊の剄技が同時に発動して、お互いの錬金鋼にダメージがいく。相殺されたことで双方とも破壊を免れたが、刀身に罅が入っていた。
 シキとレイフォンは刀を投げ捨て、拳を繰り出す。
 サイハーデンは刀の武門だ。それに間違いはないし、扱う剄技はほぼ刀技で間違いではない。だが、サイハーデンは勝つためのものではない。生き残るための刀技、それがサイハーデンである。
 つまりは生き残るためならなんでもする。
 レイフォンは地面の土を蹴り上げて、目潰しを狙った。シキは先ほど壁に激突した時にもぎ取っておいた壁の一部を懐から取り出す。
 それは武芸者として褒められた行動ではない。武芸者とは高潔でなければならないというのが普通だ。武器を持ち、正々堂々戦う、それが理想系だ。
 だから武芸者たちはその行動に疑問を持つ。そこまでして生き残りたいかと。
 シキとレイフォンに聞けば、一言一句同じことを言うだろう。あぁ、そうだと。
 レイフォンが蹴り上げた土はシキの目にかかったが、シキの振り下ろした壁の一部はレイフォンを空振り、そのまま地面を砕く。
 後ろに回り込んだレイフォンは衝剄を放とうとする。だが、その前にシキは手で掴んでいた土をレイフォンの目に目掛けて投げる。
 真正面から受けたレイフォンは、目に入る異物で一瞬だけ気を抜いてしまった。シキはその隙をついて、レイフォンの右頬を殴り抜けた。だが浅い角度に入ってしまったらしく、感触が軽かった。
 右頬に拳を受けたレイフォンは痛みを耐えて、受身を取る。
 その上空には飛び蹴りの体勢に入っているシキがいた。
 そのまま急降下、レイフォンは身体を丸めて転がりながら避ける。轟音と共に降って来たシキは着地のために一瞬硬直する。
 そこにレイフォンが肉迫する。
 まずは拳が飛んできたが、首を横にして回避する。間髪いれずに裏拳の要領で横に拳を振ったレイフォンの攻撃をしゃがんで避ける。だが、すぐにシキがレイフォンから離れなかったのが次の行動に響いた。
「かぁっ!!」
 内力系活剄の変化、戦声。
 大音量の声でシキの動きが止まった。
 すぐにレイフォンの足がシキの胴体を狙って跳ぶ。
 動けないシキはそれをモロに受けて、横に吹き飛び壁に激突する。土煙でよく見えないがレイフォンは油断しなかった。
「……ッ!?」
 それが功を成しレイフォンはバックステップで下がりながら、衝剄を避けることが出来た。
 下がりながらレイフォンは疑問に思う。完璧だったはずだ。角度、威力共に申し分ない一撃、いくらシキでもアレを受けて平気なはずがない。
「危なかった、ガハッ!」
 土煙の中から血反吐を吐きながらシキの声が聞こえる。
 煙が風によって剥がされるとそこには身体の周りに、金色に輝く剄を纏わせたシキだった。
 武芸者たちはそれを見て驚き、その名を口にする。
「馬鹿な……刃鎧だと!?」
 外力系衝剄の変化、刃鎧。
 天剣一の苦労人、カルヴァーン・ゲオルディウス・ミッドノットが独自に編み出した剄技だ。
 鎧の名前が付いているように、防御を軸とした剄技であるが同じ天剣の剄技である金剛剄よりも防御力はない。
だが、高密度の剄は半物質化している刃鎧は粘体のように、動くものに向けて、瞬時に刃状の形で固体化する。攻性防御と呼ぶべき剄技である。
 シキは蹴られる瞬間に刃鎧を展開し、なんとか威力を減衰させることができたのだ。レイフォンの足はズタズタに裂かれており、見た目は派手に出血しているように見える。だが実際は表面が深く切れただけでまったく問題はない。
 シキは刃鎧を解除する。まだまだ直す点もあり、余計な剄を使いたくなかったのだ。シキの剄量ならば後三日ほどは持たせる自信があるが、瞬間の剄力で負けたら話にならない。
 シキは驚いていた、レイフォンがこれほどまで体術を鍛えていたとは知らなかったからだ。
「誰もが努力しないわけじゃない。君のように才能は持ってないんだ」
「お前が言うのかよ、天才」
 話を聞いていた武芸者全員が、お前らが言うなと心の中でツッコんだ。
 これで才能ないと言われたら、世の中のほぼ全ての武芸者は才能がないということになってしまう。
 シキとレイフォンは再び激突し、手と手を合わせながら押し合いをする。
 身体から溢れ出た剄が、強風を生み、自動的に衝剄へ変換させる。まだ闘技場が原型を保ってられるのは、闘技場の強度もそうだが天剣たちが流れ弾や剄を相殺している点が大きい。
 しかし観客たちはそれに気づかない。シキとレイフォンの戦いに心を奪われているのもそうだが、無意識に恐れていたからだ。気づいてしまったら、それはもうゲレンダンの終焉に違いない。
 手を離し、シキは足に剄を溜めて解き放つ。
 外力系衝剄の変化、轟蓮脚。
 轟剣のように剄を収束させる。そのため、足が何倍にも膨れ上がったようにレイフォンは錯覚した。
 そのまま避けることもできたがレイフォンは迎撃を選んだ。
 剄を溜め、解き放つ。
 外力系衝剄の化錬変化、七つ牙。
 七匹の巨大な大蛇がレイフォンから放たれ、シキの轟蓮脚を食いちぎる。シキは舌打ちをしながら少し距離を取る。レイフォンも距離を取る。
 二人が降り立った場所にはお互いの刀が突き刺さていた。
 深く刺さっている刀を引き抜きながら、二人は十五メルほどの距離を瞬きしない間に近づく。そして居合の構えから一気に手から刀を引き抜く。
 サイハーデン刀争術、焔切り。
 全く同じ軌道を真反対に繰り出した二人の焔切りはこれまでと同じほぼ同時にぶつかった。
 衝剄と衝剄が激しくぶつかり、足元の地面が崩れ両者を後ろへと下げた。
 衝剄の威力は互角、もしもシキの全力の剄力を受け止める刀があればこの場で勝敗は決していただろう。だが、今の武器ではこれ以上注ぎ込むと爆発してしまう。
 武器のせいではない、ここで上手く工夫すればシキが勝てていたのだ。武器のせいにするなど未熟者がすることだ。
 衝剄と刀の力比べが続く、ここで体勢を崩し衝剄を止めればニの太刀、つまりは焔重ねがシキかレイフォンどちらかの身体を引き裂くことになる。
 両者は譲ることがなく、その刀身に剄を流し込む。先に根を上げたほうが負けであるが、根を上げ始めたのは使用者ではなく、武器だった。
 錬金鋼の強度はシキとレイフォンの剄を受け止めきれなかった。赤だった刀身がさらに変色し溶け始めたのだ。
 観客たちは唖然とする。錬金鋼が溶けるなど聞いたことがなかったからだ。
 だがシキとレイフォンは刀から手を離さなかった。
 さらに剄を注ぎ込み、溶ける速度が上げていく。ドンドンなくなっていく刀身を見て、シキとレイフォンはほぼ同時に手を離し、戦声で相手にぶつけようとした。
 同じ行動したせいだろう、お互いの錬金鋼がぶつかり連鎖的に爆発を起こす。
 その威力は離れていたはずの二人が爆風で吹き飛ばされるほどである。受身を撮り、二人は荒く息を吐いた。
「くそったれが」
「まだ、まだ!」
 二人はすぐに立ち上がり、戦闘する意思を見せる。
 だがお互いの錬金鋼がない状態だ。素手ではいつ決着がつくかわからない。それでも二人は拳を握り、殴り合おうとしたそんな時だった。
「お、オイ! あれはなんだ」
 誰かが上空を指差した。
 次々と上を見て、今日何度目かわからない驚きを表す。
 天剣たちもそれを見て驚き、なぜだと口にする。
 シノーラはそれを見ながら、唇を噛み締める。
「なんで来てしまったの? ヴォルフシュテイン!!」
 シノーラが叫ぶと、一条の細い光がシキとレイフォンの丁度中間地点に落ちた。
 それは無機物だ、ただしただの無機物ではない。グレンダンに伝わる十二個しかない錬金鋼……。
「「ッ!!」」
 なぜ、その貴重な錬金鋼がここにあるのかはわからない。だが、武器があるなら取らねばならない。
 シキとレイフォンは同時に走り出した。
 実際には一秒も満たない時間だろう、しかし当人たちには永遠に感じられた。
 手を伸ばし、相手よりも早く取ろうとする。
 そこで変化が起きた、天剣の光が二つに分かれたのだ。まるで、二人の決着をつけさせようとしているかのように。
 疑問はなかった、そんなもの挟む余裕がなかったとも言える。
「あぁあああっ!!」
「うぉおおおっ!!」
 二人は叫びながら、手の中にある武器を持った瞬間、吠えた。そして振り向きながら基礎状態のまま、天剣を振るった。
 サイハーデン刀争術、虚蠍(こかつ)滑り。
 次の瞬間、無秩序に荒れ狂った白銀の光が伸びて、激突した。


 シキとレイフォンが天剣を掴む、ほんの少し前だ。
 戦いが始まる前のほのぼのとした雰囲気が消え去り、リーリンはシキとレイフォンの殺し合いを見ていた。だがそれも限界が近づいていた。
 リーリンはもう見ていられなくなり、目を伏せようとしたがクラリーベルがそれを許さなかった。リーリンの顔を掴み、二人の戦いに目を向けさせたのだ。
「よそ見してはいけません」
「無理よ、もう私は無理なの!!」
 孤児院の子供たちは普段、冷静なリーリンが取り乱している姿を見て動揺する。
 リーリンにとって二人はとても大切な存在なのだ。その二人がお互いを激しく憎しみあい、殺そうとしている。たった十歳の女の子には辛い体験だろう。
「あなたが見ないでどうするんです!?」
「見たくない! シキとレイフォンが殺し合ってる姿なんて見たくない!!」
 ズキリとリーリンは右目が痛むのを感じた。
 だが、それはすぐに消える。
「見てあげてください、悔しいですがシキ様とレイフォンさんの戦いを真に見届ける役目はあなたしかいないんです!」
「そんなの知らない! 私は、私は……ッ!!」
 右目が再び痛む。
 リーリンは耐え切れなくなって、レイフォンを見る。それが救いになると信じて。
 しかし、それは間違いだった。右目の痛みが激しくなり、リーリンは見た。レイフォンの身体に茨から落ちた刺が落ちる瞬間を。
「ッ!!?」
 直後、リーリンは声にならない悲鳴をあげた。
 シノーラは崩れ落ちるリーリンの身体を受け止める。
 シノーラの顔には深い悲しみと期待が混ざり合っていた。
「やはり……そうなのね」
 シノーラがそう呟いた時、王宮がある方角から何かが飛んでくる。
 それを見た天剣たちは少なからず動揺した。
「アレは……イカン!! 今、あの小僧どもがアレを手に持ったら」
 飛来してきた物が天剣だといち早く気づいたティグリスは、闘技場に向かおうとした。
 今、シキたちが天剣を持てば、どちらかが死ぬ結末しか待っていないとわかったからだ。なぜ天剣が飛んできたのという疑問を抱く時間などなかった。
 しかし、ティグリスや他の天剣たちが動くことはなかった。
 天剣たちの身体に何かが巻きついてきたのだ。それにより、天剣たちは動きを封じられる。
 力任せに振りほどこうにも全員、剄が何故か使えずにいた。天剣たちは困惑したが、目の前の戦いを止めることが出来なかったことを歯噛みをする。
 次の瞬間、二つに分かれた天剣を持ったシキとレイフォンが刀を振るった。


 振った武器の形は刀だった。
 それを今まで注ぎ込んだことがない量の剄で振る。
 轟音とともにシキとレイフォンが振った刀がぶつかり合う。
 そのまま天剣と天剣を打ち合わせ、鍔迫り合いの状態になる。そこでシキは初めて、天剣を見ることができた。
 美しい刀だと思う。一切の装飾はなく、戦いだけに特化したものだとひと目でわかる。何よりもシキとレイフォンの剄に応えてくれるのが頼もしい。それになぜか使い慣れた刀の感触や重みが再現されているせいで、新しく握ったという感触ではなかった。
 なぜ復元できたのか、そもそもなんでここに飛んできたのかなどはどうでもいい。
「あぁあああっ!!」
 衝剄を放ち、レイフォンを吹き飛ばす。
 ただの衝剄なのに、先の老生体相手にぶつけた焔切り以上の剄力を注ぎ込んだ。壊れることはない、それだけでも天剣の並外れた耐久性がわかる。
 だがレイフォンも負けてはいない。同じく天剣で衝剄を受け止め、返す刀で上空に切り上げる。
 シキとレイフォンは剄脈から剄を練り続ける。もう普通の錬金鋼では耐え切れない量をとっくに超えている。だが、練るのを止めることはない、むしろ自らの限界に挑戦していると言わんばかりに剄を練る。
 胸にあるのは束縛から逃れた開放感だ。流せなかった剄を存分に流す。気持ちが良くないわけがない。
 動きがさらに激しくなり、シキとレイフォンは剄そのものになったような錯覚に陥る。
 もう頭で行動はしていない。二人は剄脈で動いていた。
 何度も斬撃を繰り出し、拳を打ち合わせ、蹴りを出し合い、剄を練り上げる。闘技場の隅から隅まで移動し、時には空を駆けながら戦う。
 今まで習ってきた刀の技量を、自ら試行錯誤し、盗み、そして昇華させてきた剄技、限界に挑戦し続ける剄。その全てが合わさり、二人の戦いは一種の芸術まで昇華していた。
 だがこれだけの戦いで都市が無事で済むはずがない。何より、今までシキとレイフォンの戦いを見守り、邪魔をしないようにしていた天剣たちが身動きが取れない状況にある。それなのに都市はおろか闘技場は天剣を持つ前と一切変わらない。
 なぜなら、シキとレイフォンが戦っている闘技場にバリアのようなものが張られ、外部に衝撃が漏れていないのだ。観客たちは天剣の新たな剄技だと安心していたが、天剣たちはその不可解なバリアに唖然としていた。
 だが、シキとレイフォンには端から周りの被害など頭に入っていない。互いの感情をぶつけ合うだけだ。
「だらっ!!」
「ふっ!!」
 何度目かわからない刀身のぶつけ合いをした後に、二人は一時的に距離を取る。
「……レイフォン、次の一撃で決めよう」
「うん、これじゃ決着がつかない」
 そうレイフォンの言うとおり、決着がつかないのだ。
 この時、二人の剄はなぜかほぼ互角になっていた。元々、剄の力比べならシキの方が余裕で勝っているのだ。それこそ、最初の斬撃で勝敗が決するほどに差はあったはずなのだ。
 なのに今は互角、不可解だが認めるしかない。
 それにこのままでは一生勝負がつかないかもしれない。刀技ではレイフォンに分があるが、レイフォンは急激に上がった剄力に慣れていない。
 時間をかければ慣れていくだろうが、そんな余裕はこの場には存在しないし、慣れない剄が暴発した場合のスキは致命的なミスにつながるだろう。。
 ならば次の一撃で決めたほうがいいはずだ。
 二人は天剣を腰だめに構える。左手で刀身を持ち、右手は柄を握り締める。剄技を放つために練っているのだが、身体から溢れ出した剄がぶつかり合い、一足先に戦いを始める。
 距離を測り、ジリジリと距離を詰めていく。止まったのは、お互い一歩進めば相手を斬れる距離だ。大体二メルくらいだろう。
 観客は押し黙る。
 誰も音を出せなかった、沈黙が空間を支配し、息苦しさが続く。数秒なのか数分なのか、観客たちは固唾を飲んでいた。
 そんな時、誰かが金属製のコップを落とした。観客席の椅子にぶつかり、心地よい音が響いた。
 その音と共に二人は一歩を踏み出し、お互いの人生最高の焔切りを繰り出した。
 溜めに溜め、練りに練った剄が最高の錬金鋼を赤く染め上げる。。
 ぶつかった剄の光がシキとレイフォンの視界を塞ぐ。両者とも顔なんて見えないため、天剣を通した圧力だけを頼りにする。
「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」
 叫び、そして剄を上昇させていく。腰にある剄脈からは燃えているのではと思うほどの熱を感じた。
 身体中に衝撃が奔り、激痛が二人を襲う。だが二人は天剣を持つ力を緩めることはしない。緩めたら負ける、そんな考えが二人の頭に過ぎりさらに力を込めさせる。
 しかし二人の実力はほぼ互角、用意に決着はつかない……そう思われた。
 だがシキの剄がレイフォンを勝ち始めた。レイフォン驚き力を込めるが、だんだんと押し込まれていく。
 いつの間にか、シキの剄力が上がってきたのだ。先程までシキとレイフォンの剄が互角といったが、それは間違いだった。シキの剄はまだ上があった。
 レイフォンは歯噛みをした。急激に上がった剄力でもシキに届かないのか。そう思いながら最後まで押し返そうと力を入れる。
 シキは勝利を確信し、さらに剄を上げていく。圧倒的な剄力にさすがの天剣授受者は目を丸くしながら驚いていた。
 このままいけばシキの勝利は目前……だった。
 だが、シキは光に塗りつぶされた視界で見た。
 天剣が今まで扱ってきた錬金鋼のように赤熱化していたのだ。つまり、シキの剄に耐え切れなくなっていたのだ。
 シキは手を離そうとするが、剄と剄のぶつかり合いのせいで動けなかった。赤みが増し、危険な色合いになる。
 まさに爆発する直前、シキの天剣が基礎状態に戻った。しかし、レイフォンの天剣は元に戻ってはいない。そして振り下ろされた刀は止まってはいない。
 レイフォンの思考は勝つことだけを考えていた。シキに勝ちたい、自分の方が上だと皆に分からせたい、そんな考えだけが頭にあった。だから刀を止めなかった。
「レイフォン!! 止めろっ!!」
 今まで沈黙を保っていたデルクがレイフォンに止めるように叫ぶ。
「逃げて、シキ様!!」
 クラリーベルが走り出しレイフォンを止めようとするが、観客席に張られているバリアに阻まれ、行きたくても行けなかった。
「レイフォン、止めてぇええええええええっ!!」
 シノーラに抱きかかえられながらリーリンの悲痛な叫びが聞こえる。
 リーリンの叫び声を聞いて、レイフォンの思考が元に戻り、何をしようとしているのか理解した。だが振り下ろした刀は止まることはなく、シキの身体を斜めに切り裂いた。
「あぁ、あぁああああああああああっ!!!」
 レイフォンが泣き叫ぶ。
 身体に振りそそぐ血を見て、自分がしてしまったことの重さを知る。
 そのまま、天剣を放り出し崩れ落ちるシキの身体を抱きとめる。シキはピクリとも動かない。
 同時に天剣たちの束縛が解け、一斉に闘技場に降り立つ。
「くそ、くそっ!! どけ、クソガキ!!」
 バーメリンが、レイフォンからシキを取り上げて抱える。
「シキ、目を閉じちゃダメだよ? ちゃんと僕を見て!!」
リーヴァスが必死にシキを呼びかけるが、その目は焦点が合わない。 
「いけません、この傷の具合はマズイです」
カナリスが傷の具合を見て顔を青くする。傷は肩から腰まで斜めに入っており、かなり深い。
「畜生!! 医療班、なにやってんだ!! ガキが死にそうなんだぞ!!」
 ルイメイは声を震わせて医療班を急かす。
「シキ様、シキ様!!」
 クラリーベルが泣きながらシキに呼びかける。それしかできない自分の非力をクラリーベルは呪った。
 そこまでしていたところに、リンテンスが歩いていくる。その顔は普段より三割増で機嫌が悪そうに見えた。
「どけ、邪魔だ、お前ら」
 リンテンスは邪魔者をどかせる。
 その脇にはデルボネの端子が浮遊していた。
「ばあさん、縫合の支援を頼む」
『了解しました』
 リンテンスの手から無数の鋼糸が出て、シキの傷口に触れる。
 もう感覚もないのかピクリともしないシキを見て、リンテンスは苛立ちを隠さずに言う。
「起きろ、起きろ馬鹿弟子。いつもみたいに軽口を叩け!」
 リンテンスの超絶な技量は斬られた臓器を鋼糸による緊急縫合を可能にした。しかし、時間をかければ剄の熱がシキの身体を焼き尽くす、そのらめ数秒縫合を終える
 数年前にとある汚染獣戦で人間の体内に侵入した汚染獣を殺した経験があるリンテンスで、なければ正確に臓器を鋼糸で縫い合わせ、皮膚の傷を焼いて治すなんて荒業はできなかっただろう。
 むしろ、出来たのは奇跡だと言っても過言ではないのだが。 
 デルボネの端子がシキの身体を調べる。もし、これで異常があったら手の施しようがない。
 デルクとシノーラに連れられて来たリーリンは、シキを見て口を抑える。
「シ、シキ? 嘘よね? いつもみたいに悪ふざけなんでしょ」
 声を震わせて、シキに近づく。
 だがシキの瞳に光が戻る気配はない。
 リンテンスは、息を吐きながら上を見た。そこでは観客たちがこちらを見ていた。司会者もどうすればいいのか、未だに迷っているようでアナウンスが流れない。
 検査を終えたデルボネが、その場にいる全員に結果を伝えた。
『なんとか一命を取り留めましたよ。ただ……』
 いつも穏やかなデルボネの声に、困惑した感情が入り込む。
「ただ、なんだ?」
 全員を代表してリンテンスが質問する。
 少し間をおいてからデルボネがシキの身体を調べた結果を言った。
 
 

 
後書き
前にシキがアレンジ苦手と言ったな、あれは本当です。
主人公の敗北、そして天剣にはレイフォン。
今回の敗因はシキの動揺による剄の乱れです。まぁ、天剣が赤熱化するとは思っていなかったでしょう。というかシノーラさん、内心かなり動揺してます。
途中でシキの剄が上がったのは、今まで無意識に手加減してたから、レイフォンが剄の増量しなかったら上がらなかったでしょう。というか、その場合レイフォンが負けていますが。
では次回も期間が空くと思いますが、それでも良ければ。ではちぇりお!


Q、闘技場の謎バリアは誰が張ったの?
A、どこぞの猫と仮面かぶった男です。

Q、シキの怪我ってどんなもん?
A、普通に死んでます、即死ですよ即死。身体が真っ二つになってどっかの使徒みたくなるところでした。生きてる方が奇跡です。

Q、で、天剣は基礎状態に戻ったの?
A、二人も強大な持ち主が現れたと思って飛んでいったら、受け止めきれなくなってレイフォンを選びました。つまり壊れたくなかったのです。 
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