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遊戯王GX ~水と氷の交響曲~

作者:久本誠一
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ターン13 怪奇!人造人間召喚術!

 
前書き
タイトルがもうね、いつの時代のホラーだと。 

 
 アカデミアは今、冬真っ盛りです。冬休みになって他の寮の生徒は大半が島を出て行っちゃったけど、レッド寮住民は…………というか、僕の周りの人たちはなぜかみんな島に残ってるので特に問題は無し。偶然って凄い。
 そして今、僕らが何をしているかというと。

「あーらよっ、と」

 夜の寒い寒い空気の中、雪がしんしんと降り積もるレッド寮屋根の上での雪下ろしという苦行のような作業をしていた。明日の朝にでもやればいいと思ってたんだけど、大徳寺先生曰く『そんなのんびりしたこと言ってたら確実に屋根が抜け落ちるんだニャ~』だそうだ。古い建物だとは前から思ってたけど、まさかそこまでひどい、じゃなかった………えーっと、味がある建物だとは思わなかった。ちなみにその大徳寺先生はというと、寮の中で隼人やファラオと一緒に餅を焼いて待っている。なにこの理不尽。というか、

「十代、ホントにちゃんとやってる?なんかさっきから僕一人で頑張ってる気がするんだけど」
「え?お、おう!………………よし続きだ翔、クレイマンでサイクロイドを攻撃!」
「あれ?」

 なんか今、明らかにおかしい一言が聞こえたような?まあでも、きっと気のせいだろう。さすがに屋根で作業してるのが僕だけだなんてことあるわけ……

『………バカだな十代。だから言ったろ、もう少し声抑えないとサボってんのばれるぞって』
「しっかりしてくださいよアニキ~」
「じゅ~うだ~い?しょ~う?ユーノ~?」
「しまった!!い、いや違うんだ清明!ユーノ、そうユーノが俺らがデュエルするのが見たいって言うからしかたなく………!」
『おいコラちょっと待て十代、なに人に罪かぶせようとしてんだ!』
「問答無用!今降りるから三人ともそこで待って「た、助けてくれー!!」………え、何ごと?」

 助かったあ、と下に降りてデュエルしていた三人がほっと息を吐くのを目の片隅でとらえながら、森の奥からこっちに向けて走ってくる一人のブルー生のところへ近寄る。

「えーと、いったいどうしたの?」
「た、頼む!!ヤツが来るんだ、とにかくここにかくまってくれ~!!」



「高寺オカルトブラザーズ?」
「はい、僕とあと二人で結成した、デュエルモンスターズの精霊について調べる会で…………」

 まあ要約すると、興味本位でサイコ・ショッカーの精霊をこっくりさんの要領で呼び出そうとしたら三体の生け贄を要求され、アドバンス召喚に必要なリリースの事だと思い軽い気持ちでOKしたら次の日に一人、また次の日にもう一人のメンバーが行方不明になったらしい。そして彼、高寺自身も今日の昼にサイコ・ショッカーらしき何かと遭遇したらしい。マジですかおい。ただ、いつもニコニコしてるイメージだった大徳寺先生が珍しく真面目な顔をしているところから、少なくともただ事ではなさそうだ。

「じゃあ高寺、だったか?今夜はこの寮に泊まってけよ。そのかわり、お前ブルー寮なんだろ?俺とデュエルしようぜ!!」
「ええ!?デュエル、ですか?」
「十代、ちょっと落ち着きなよ。明らかにそんな気分じゃないって様子じゃないの」
『かわいい目してんな………俺は好きなんだよな、怯えた小動物のような目をしたヤツが』
「いきなり何言ってんのこの人」
『ここで言わなきゃ男がすたる気がした。反省も後悔もしてない。でも似合わなかったろうなぁとは思ってる』
「あの、さっきから何をブツブツ言ってるんですか?」
「あ、いやいや!なんでもないよ、なんでも!」
「そう、ですか。じゃあすいません大徳寺先生、今夜だけでもここにご厄介になっても………」

 そこまで言った時にブツン、と音がして、いきなり寮中の電気が消えた。

「え、停電?」
『見事なまでに真っ暗だな』
「おい翔、隼人、そんなにくっつくなよ!」
「みなさん落ち着くのニャ、今ブレーカーを戻すのニャ!」

 そしてまた、電気がついた。こんなタイミングでいきなりブレーカーが落ちるなんて、いくらなんでも空気の読みすぎでしょ。不意打ち過ぎたわ。

「あれ?高寺どこ行った?」
「「「「…………え?」」」」

 ふと見ると、さっきまで七輪のそばにうずくまってあったまっていた高寺の姿が見えない。何かが動く気配がしてパッと振り向くと、そこにはさっきまでいなかった黒ずくめの格好をしたいかにも怪しい男が小脇に気絶した高寺を抱え、森の奥に走っていくのが見えた。

「あれって、もしかして………」
『はら、なにボサッとしてんだ!』
「急がないと危ない!追いかけるぞ、みんな!」
「う、うん!」



「え~っと、ここは?」
「ここは、デュエルアカデミアに電気を送る送電施設なんだニャ。危ないから普段は鍵がかかってるはずなんだけどニャー」
「あ、高寺!おーい、大丈夫!?」

 金網で囲まれたそこにはいくつもの発電機っぽい建物が建っていて、その中央にはなぜか広場………そして、その奥に見覚えのあるブルー生が一人倒れていた。さっきの怪しい奴はいないみたいだけど、いったいどうなってるんだろう?と思いながら足を踏み入れたその瞬間………。

「邪魔をしないでもらおうか」

 え?………まずありえないとはいえ翔や隼人のTPOを読まないいたずらの可能性もあるので、ギギイッと音がしそうなぐらいぎくしゃくと後ろを振り返る。

「…………この声、一体どこから?」
「きききっとお化けッスよアニキ、さっさとみんなで逃げましょうよ~」
「そ、そうなんだな。とりあえず寮まで戻った方が……」
「馬鹿野郎、高寺を見捨てる気か?俺は行くぜ!」
『よし行け清明、お前もだ!』
「ん、んな他人事だと思って!いや放っておくわけにもいかないから結局は行くんだけどさ」
『どうせ俺にとっちゃあ他人事だしな。つーか膝震えてるけど大丈夫かお前』
「セリフ前半と後半の優しさの量が全然違うんだけどこれどーゆーこと!?」

 相変わらずの言い合いをしながらも、おっかなびっくり近づいてみる。と、またさっきの声がした。

「お前たち、ここに何の用がある」
「うるせー!お前、もしかして本物のサイコ・ショッカーの精霊なのか?」
「…………いかにも。私の名はサイコ・ショッカー」
「やっぱりそうか………!」

 今度は僕が、その自称サイコ・ショッカーに向かって声をかける。一緒に来ておいて十代に全部任せるってのもどうかと思うし。

「ならサイコ・ショッカー、一つ聞かせてもらうよ!一体お前は高寺と、その前にいなくなった二人をどうする気だ!!」
「知れたこと、我が復活のための生け贄となってもらう。それに、私はお前の言う三人に対してきちんと『生け贄を捧げろ』と要求し、そいつらはそれに了承した。何がおかしいのだ?」

 うっ…………いくら勘違いしてたとは言え、それ言われるとつらいなぁ。でも、僕が一瞬怯んでも十代は全く迷わない。それどころか、とんでもないことを言い出した。

「だったらこうしようぜ、サイコ・ショッカー!俺が、お前とデュエルする!もし俺が負けたら、その生け贄とやらに俺も追加してやるよ!」
「十代……!」
「え~アニキ、その『俺たち』ってもしかして僕も入ってるんですか!?」
「心配するなよ、翔!俺が負けるわけないだろ!」
「………なるほど。お前、それとその横にいるお前もだ。精霊を見ることができる程度の力は持っているようだし、どうせ生け贄にするなら強い力を持った人間のほうがいいだろう。その提案、乗ってやる」
「そうこなくっちゃな!いくぜ、サイコ・ショッ「待て!!」………え?」
「精霊が見えるのは、そこの二人だな。まずは、そちらの人間から相手してやろう」
「え、僕!?」

 ちょ、なんでいきなり僕が入るわけ!?十代だけに危険な橋を渡らせるなんてことやったら後で自分の良心に押しつぶされそうだし断るつもりはあんまりないけど、流石に文句の一つでも言ってやろうとして口を開いた瞬間、

「ちょっと待てよ、こいつは別に関係ないだろ!サイコ・ショッカー、俺とデュエルしろ!」

 どうしてこう人が何か言う暇もくれないのかねこの子は。

「弱そうな方から順に倒す、戦い方の基本だろう?」
「おいちょっとまて、その挑発乗ったぁ!十代、間違っても止めないでよ!」
「え、お、おう………」
『ふふふ、弱そうな方、か……くくっ、こりゃなかなかの名言来たな……ぷっ』

 セリフのところどころに違和感を感じてなるべく首を動かさないようにそっと後ろを振り向くと、最大限に声を立てないようにしながら体を曲げて爆笑してるユーノを視界の端でちらりと捉えた。このデュエル終わったら、アイツはどうしてくれようか。

「「デュエル!!」」

 宣言した瞬間に頭上の電線から雷が落ちて、そこに立っていたのはサイコ・ショッカーそのもの。ええい、そんなことでいちいち驚いてられるかっ!

「先攻は私が貰おう。ドロー!私は、永続魔法エクトプラズマーを発動。そして、怨念のキラードールを召喚する」

 エクトプラズマー
永続魔法
各プレイヤーは自分のターンのエンドフェイズ時に1度だけ、
自分フィールド上の表側表示モンスター1体を生け贄に捧げ、
元々の攻撃力の半分のダメージを相手プレイヤーに与える。

 怨念のキラードール 攻1600

「そして速攻魔法、手札断殺を発動。さあ、手札を入れ替えろ」

 手札断殺
速攻魔法
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送る。
その後、それぞれ自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「カードを三枚セットしてターンエンド………の前にエクトプラズマーの効果発動!キラードールをリリースし、800ポイントのダメージを受けてもらう!」

 清明 LP4000→3200

「ぐっ…………僕のターン、ドロー!」
「そこでトラップカード、ギャンブルを発動!宣言するのは裏だ!」
「ギャ、ギャンブル!?」

 サイコ・ショッカーが発動したのは、あのデュエルキング武藤遊戯さんの親友である城之内克也さんが使ったという、外れた時の条件があまりにもキツいドローカード。そういや城之内さんもサイコ・ショッカーの使い手だって話だけど………まあ、別に関係ないだろう。って当ててるし!コイン裏出ちゃったよしっかりと!!

 ギャンブル 
通常罠
相手の手札が6枚以上、自分の手札が2枚以下の場合に発動する事ができる。
コイントスを1回行い裏表を当てる。
当たった場合、自分の手札が5枚になるようにデッキからカードをドローする。
ハズレの場合、次の自分のターンをスキップする。

「これでよし………私は、手札を五枚にする」
「き、気を取り直していくぞ!オイスターマイスターを召喚!そしてバトル!オイスターマイスターでダイレクトアタックだ!」

 オイスターマイスター
効果モンスター
星3/水属性/魚族/攻1600/守 200
このカードが戦闘で破壊される以外の方法でフィールド上から墓地へ送られた時、
自分フィールド上に「オイスタートークン」(魚族・水・星1・攻/守0)1体を特殊召喚する。

 オイスターマイスター 攻1600→サイコ・ショッカー(直接攻撃)
 サイコ・ショッカー LP4000→2400

「エクトプラズマーがうっとうしいな。カードを一枚セットして、エクトプラズマーの効果!行け、オイスターマイスター!」

 サイコ・ショッカー LP2400→1600

「なんだ、あっさりダメージは通すのか………ふん、偉そうなこと言ってその程度?オイスターマイスターの特殊効果でオイスタートークンを特殊召喚、これでターンエンド」

 オイスタートークン 守0

 清明 LP3200 手札:4 モンスター:オイスタートークン(守) 魔法・罠:1(伏せ)
 サイコ・ショッカー LP1600 手札:5 モンスター:なし 魔法・罠:2(伏せ)、エクトプラズマー

「私のターン、ドロー。この時、墓地にいる怨念のキラードールの効果を発動!甦れ、キラードール!!」

 怨念のキラードール
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1700
このカードが永続魔法の効果によってフィールド上から墓地に送られた場合、
自分のターンのスタンバイフェイズ時に墓地から特殊召喚する。

「ここでトラップ発動、フィッシャーチャージ!オイスタートークンをリリースして、エクトプラズマ―を破壊!」
「その程度か?ならば私もトラップ発動、サイコ・ショックウェーブ!手札を一枚捨ててデッキからわが分身、サイコ・ショッカーを特殊召喚する!」

 フィッシャーチャージ
通常罠
自分フィールド上の魚族モンスター1体をリリースし、
フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。
選択したカードを破壊し、デッキからカードを1枚ドローする。

 サイコ・ショックウェーブ
通常罠
相手が罠カードを発動した時、
手札から魔法・罠カード1枚を捨てて発動できる。
自分のデッキから機械族・闇属性・レベル6のモンスター1体を特殊召喚する。

 人造人間-サイコ・ショッカー
効果モンスター
星6/闇属性/機械族/攻2400/守1500
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いに罠カードの効果は発動できず、
フィールド上の全ての罠カードの効果は無効化される。

「そしてサイコ・ショッカーの効果によりフィッシャーチャージは無効になるが、コストにしたオイスタートークンは帰ってこない。これでお前の場はがら空きになり、私の場のモンスターの総攻撃力は4000。これで私の勝ちは確定したな………だが、一応他の手も打てるようにしておこう。手札のジェスター・コンフィを特殊召喚する」

 ジェスター・コンフィ
効果モンスター
星1/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0
このカードは手札から表側攻撃表示で特殊召喚できる。
この方法で特殊召喚した場合、次の相手のエンドフェイズ時に
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
そのモンスターと表側表示のこのカードを持ち主の手札に戻す。
「ジェスター・コンフィ」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

「まだまだぁ!その特殊召喚に対して手札のドラゴン・アイスの効果発動!手札を一枚捨てて特殊召喚、そして今捨てたハリマンボウの特殊効果により、サイコ・ショッカーの攻撃力を下げる!」
『馬鹿だねえ、いらんことせずにそのまま攻撃すりゃあいいのに。余裕ぶっこいてるからだな』

 ドラゴン・アイス
効果モンスター
星5/水属性/ドラゴン族/攻1800/守2200
相手がモンスターの特殊召喚に成功した時、
自分の手札を1枚捨てる事で、このカードを手札または墓地から特殊召喚する。
「ドラゴン・アイス」はフィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 ドラゴン・アイス 守2200

 ハリマンボウ
効果モンスター
星3/水属性/魚族/攻1500/守 100
このカードが墓地へ送られた時、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択した相手モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。

 人造人間-サイコ・ショッカー 攻2400→1900

「小賢しい真似を……まあいい、ジェスター・コンフィに装備魔法、ワンダー・ワンドを装備する。そしてワンダー・ワンドの効果でコンフィをリリースし2枚ドロー。永続魔法ウイルスメールを発動し、怨念のキラードールを選択。直接攻撃」
『ほう、この状況でウイルスメールか。ってことはあの手札の中には大方アレだろうな、リビデあたりが入ってんだな』

 ワンダー・ワンド
装備魔法
魔法使い族モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
また、自分フィールド上のこのカードを装備したモンスターと
このカードを墓地へ送る事で、デッキからカードを2枚ドローする。

 ジェスター・コンフィ 攻0→500

 ウイルスメール
永続魔法
1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル4以下のモンスター1体を選択して発動する事ができる。
このターン、選択したモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
そのモンスターはバトルフェイズ終了時に墓地へ送られる。

 怨念のキラードール 攻1600→清明(直接攻撃)
 清明 LP3200→1600

「カードをセットし、ターンエンドだ。そしてエクトプラズマーの効果でサイコ・ショッカーをリリースし、元々の攻撃力の半分である1200ポイントのダメージを与える」
「ハリマンボウで下げた意味が………」
『いや、全くないってわけじゃねえぞ。少なくともドラゴン・アイスは生き残った』

 清明 LP1600→400

「僕のターン、ドロー!下手に展開して激流葬とか撃たれたらやだな………ドラゴン・アイスを攻撃表示に変更して、そのままダイレクトアタック!」

 ドラゴン・アイス 守2200→攻1800
 ドラゴン・アイス 攻1800→サイコ・ショッカー(直接攻撃)

「うおおおおおおおおっっっっ!!!」
「やった!これで一件落着!」




















「ふ、ふふふ」




















「ははははははははっ!惜しかったな、人間!」

 サイコ・ショッカー LP1600→700

「ラ、ライフが900しか減ってない………でもどうして」
「理由は単純だ。私はリバースカード、ダメージ・ダイエットを発動していた』
『お、ほんとにリビデ以外の手で耐えきったか。わざわざフラグ立てたかいがあったな』

 ダメージ・ダイエット
通常罠
このターン自分が受ける全てのダメージは半分になる。
また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
そのターン自分が受ける効果ダメージは半分になる。
 
 そ、そんな………状況はかなりまずい。というか勝てない。このままターンエンドしたら、エンドフェイズにエクトプラズマーで450ダメージが通る。それからサイコ・ショッカーのターンでキラードール復活、それに合わせてドラゴン・アイス蘇生、それからウイルスメールの効果…………いや、それすら使う必要もないのか。バトルフェイズなんてわざわざしなくてもドローゴーでエンドフェイズに移行してエクトプラズマーの効果を使う。ただそれだけで、僕のライフはゼロになる。でも、こんな状況だってのにユーノはまだまだ余裕っぽい。一体、なんでこんなに余裕なんだろう?まだ何か、僕の気づいてない勝ち筋があるの?

「くそっ、わからない………」
『………しゃーねーなあ、俺も消えたくはないし、今回は交代してやるよ。でも、こんな手ぐらい自分で気づいてほしかったぞ』

 悔しくて、情けなくて、何も言い返せない。ユーノは何も言わずにポン、と僕の肩に慰めるように手を置いて、いつもとは違った優しい笑みを浮かべて見せた。

『ちょい言い過ぎたな。でも大丈夫だ、これからたっぷり強くなる時間はある。今は、そっちで俺が勝つのを見てろって』

 その言葉を最後に、僕とユーノが入れ替わる。まっすぐに立ってサイコ・ショッカーと対峙するユーノの背中を、ただ見ていることしか僕にはできなかった。

「よし、選手交代だぜ。今からお前をぶち倒してやるよ、精々覚悟しときな」
「様子が変わった………?まあいい、なにをたわごとを。私の勝利は今度こそ確定している」
「さてさて、そいつはどうかな?マイフェイバリットカード、霧の王(キングミスト)を召喚!このカードは自身の効果で、リリースなしでの召喚もできるのさ」

 霧の王 攻0

「ふん、いくらレベルが高くても攻撃力ゼロのモンスターに一体何ができる」
「俺の狙いはそこじゃないんだな、これが。そして墓地のハリマンボウとオイスターマイスターを除外して、墓地から爆征竜-タイダルを特殊召喚する。カードを二枚セットし、ターンエンドだ」
「エクトプラズマーの効果を…………なに、発動されないだと!?」
「おい清明、お前霧の王を単なる最高打点としてしか使ってなかっただろ…………まあ無理ねえけど。使ってる方も時々忘れそうになる霧の王の第二の効果!このカードがいる限り、いかなるリリースも行えない!つまり、発動条件が『モンスターを生け贄にする』のエクトプラズマーの発動はされなくなる!」

 霧の王
効果モンスター
星7/水属性/魔法使い族/攻 0/守 0
このカードを召喚する場合、生け贄1体
または生け贄なしで召喚する事ができる。
このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げた
モンスターの元々の攻撃力を合計した数値になる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
いかなる場合による生け贄も行う事ができなくなる。

 爆征竜-タイダル
効果モンスター
星7/水属性/ドラゴン族/攻2600/守2000
自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族
または水属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。
このカードを手札・墓地から特殊召喚する。
特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。
また、このカードと水属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、
デッキからモンスター1体を墓地へ送る。
このカードが除外された場合、
デッキからドラゴン族・水属性モンスター1体を手札に加える事ができる。
「瀑征竜-タイダル」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 そうか、確かにこの効果を使えばダメージは通らない………そして、今ユーノが伏せた二枚のカード、あのカードさえあれば!

 清明 LP400 手札:0 モンスター:霧の王(攻)、ドラゴン・アイス(攻)、爆征竜-タイダル(攻) 魔法・罠:2(伏せ)
 サイコ・ショッカー LP700 手札:4 モンスター:なし 魔法・罠:エクトプラズマー、ウイルスメール

「まあいい、どうせ私の場にはまだウイルスメールがあるし、第一あの霧の王は攻撃表示だ。私のターン、ドロー!そして、怨念のキラードールを再び復活させる!」
「はっ、そいつを待ってたのさ!リバース発動、激流葬!」

 カードから飛び出した荒れ狂う水流がフィールドを暴れ回り、合計三体のモンスターを一度に押し流していく。水が引いた時、フィールドはカラになっていた。

 激流葬
通常罠(準制限カード)
モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動できる。
フィールド上のモンスターを全て破壊する。

「だが、私が今ドローした死者蘇生でサイコ・ショッカーを特殊召喚すれば」
「させねえよ…………もう一枚のリバース、激流蘇生を発動!」

 今度カードから溢れる水は、先ほどの水流とは真逆の力を持った水。ユーノの場に二本の水柱が立ち、その中から霧の王とドラゴン・アイス、タイダルが姿を見せる。

 激流蘇生
通常罠
自分フィールド上の水属性モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時に発動できる。
その時に破壊され、フィールド上から自分の墓地へ送られたモンスターを全て特殊召喚し、
特殊召喚したモンスターの数×500ポイントダメージを相手ライフに与える。
「激流蘇生」は1ターンに1枚しか発動できない。

「俺が今蘇生したモンスターは3体。従って1500ポイントのダメージだ。ダメージ・ダイエットのもう一つの効果を使っても、どうしようもねえな」
「ば、馬鹿なあぁぁ!!」

 サイコ・ショッカー LP700→0

 ライフがゼロになり、すうっと消えていくサイコ・ショッカー。いつの間にか雪もやみ、空にかかっていた黒雲も消え、朝日が差し込んでまわりも明るくなっていた。もうすぐ、デュエルアカデミアに春が来るんだろう。僕は、次に春が来るまでにはもっと強くなれるんだろうか?
 自分の体に戻り、思わずへたり込んで空を見上げる。風が、静かに木の葉を揺らしていた。 
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