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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―修学旅行 中編―

「ふう……」

 修学旅行先のこの場所でも、デュエル・アカデミアの三寮の格差は健在であり、オベリスク・ブルー……今はホワイト寮とでも言うべき存在になっているが……は高層ホテル、ラー・イエローは和風の旅館、オシリス・レッドは武藤遊戯が初めて《オシリスの天空竜》と戦ったところで野営だそうだ。
俺も三沢も光の結社に占領されたオベリスク・ブルー寮の高層ホテルに行くことは出来ず、ラー・イエローの旅館に身を寄せていた。

 快く迎えてくれた樺山先生には悪いが、今はオベリスク・ブルーである俺たちがデカい顔をして居座るのは如何なものかと思ったため、三沢は部屋の中へ、俺は旅館の縁側で静かに座っていた。

 あのデュエルの後、二人で剣山と翔を町中を探したものだが見つからず、やはりあの斉王美寿知に捕まってしまったというのが一番可能性が高かった。

 あの二人のアニキたる十代の所へ連絡してみると、どうやら十代の方も剣山と翔がいきなりいなくなったことに気づいて捜している所に、氷丸という人物から『翔と剣山の命が惜しいなら、明日に海原ランドに来るように』という俺たちと同じ伝言を受け取ったらしい。

 斉王美寿知が何を狙っているのかは知らないが、明日、要求通りに行ってみれば解るだろう……海馬ランドへ。

「いやぁ、悪いねぇ遊矢くん。ここに泊めてもらって」

 ……ああそうそう、俺と三沢で剣山と翔を捜している時、倒れている吹雪さんのことを発見した為に俺たちの宿泊場所である、ラー・イエローの旅館に運んできていたのだ。

「まさか、一人で光の結社の宿泊場所に乗り込むとは思いませんでしたよ……」

 気づいた後に何で倒れていたのかと聞いたところ、何でも明日香に会いに光の結社の本部に乗り込んだものの、明日香ファンの構成員にやられたんだとか……

「チッチッ。僕は妹に会いに行っただけだよ義弟よ!」

「弟じゃないですって」

 しかし、光の結社に洗脳された明日香に会いにいくなんて俺には出来そうもない……恐くて。
それでも明日香を元に戻そうと、自らの危険を鑑みずに光の結社に何度となく乗り込んでいる吹雪さんのことは、俺は素直に尊敬していた。

「また明日も、愛しのアスリンのところへ行ってみるさ」

 吹雪さんのお気に入りらしいウクレレから、夜の和風の旅館というロケーションには全く似合わない音が響くと同時に、近くの草むらがガサガサと動いた。

「誰だ!?」

 俺が縁側から立ち上がって叫ぶと、草むらから息も絶え絶えと言った様子の男性が現れ、背後をチラチラと確認した後に俺の顔を見て指を刺しながら驚き始めた。

「お前は……黒崎遊矢だな! 俺の名は氷丸! 俺とデュエルしてもらおう!」

 ニット帽にコート姿の青年が、いきなりデュエルディスクを構えて俺にデュエルを挑んでくる……確か氷丸という人物は、十代に翔と剣山のことを伝えた人間だったはずだ。

 斉王美寿知の部下のような扱いであるだろう人物が何故、あのように逃げてくるように走ってきて、いきなり俺にデュエルを挑んでくるのか……?

「まあ、デュエルを挑んでくるんなら受けて……って!?」

 俺が座っていた縁側の隣に置いてあったデュエルディスクが無く、辺りを見回すと吹雪さんが俺のデュエルディスクを持って氷丸の前に立っていた。

「僕の名前は天上院吹雪。義弟と戦う前に、まずは僕とデュエルしてもらおうか」

「ちょっ……吹雪さん!?」

 俺の非難の声に吹雪さんはニコリと笑い、ウクレレを俺に投げ渡し、アロハシャツをマントのようにばっさりと脱いで、亮と同じデザインのオベリスク・ブルーの制服姿となった……どうやったかは解らない。

「……デュエル・アカデミアのキングが相手なら、美寿知様に報告しても不足はないな……よし、黒崎遊矢の前にお前からだ!」

 なんとも行き当たりばったりな氷丸の言動を見ると、どうやら斉王美寿知から言われた計画的な指示ではないのだろうか。

「君たちのせいで愛しのアスリンと義弟が迷惑をしていてね……少し、憂さ晴らしをさせてもらうよ!」

「そんなこと知るか! 俺も勝たないと美寿知様に……!」

 突発的に始まったデュエルを見るために、もはや『弟じゃない』というツッコミも忘れ、どんなデュエルが起きるか注目することとなった。

『デュエル!』

氷丸LP4000
吹雪LP4000

「俺の先攻だ! ドロー!」

 デュエルディスクが先攻だと告げたのは氷丸……岩丸や炎丸と同じようなデッキ構成であれば、《氷帝メビウス》を主軸にした【水属性】であるのだが、はてさて。

「俺は《アシッド・スライム》を守備表示で召喚!」

アシッド・スライム
ATK800
DEF1000

 酸でドロドロに溶けていっているスライムが守備表示で現れる……《スライム》というカード群はその特徴として、トリッキーな効果を活かした戦いは出来るものの、カードパワーによる決定打が無いために、他の切り札級のカードの投入を余儀なくされる。

 ……これは、俺の予測通りのデッキのようだ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「僕のターン。ドロー!」

 常勝不敗を旨とし、いつでもお互いに全力を出すリスペクトデュエルを標榜している亮と違い、双璧をなすと言われている吹雪さんはなかなか本気を出さない。
吹雪さんの言葉を借りるならば『いつでも僕は全力さ!』ということになるのだが、学園祭で俺とデュエルした時は【魔法剣士】というファンデッキであり、明日香とレイ相手のタッグデュエルでは【絵札の三銃士】を使っており、授業等では《漆黒の豹戦士 パンサーウォリアー》を主軸にした【獣戦士族】を使用するために、なかなかどうして本気のデュエルを見れないのだ。

「僕は《闇の誘惑》を発動して二枚ドロー。そして闇属性モンスターを一体除外しよう」

 闇属性を主軸にするならば、どんなデッキにも入る優秀なドローカードを使用して手札を交換した後、一枚のカードをデュエルディスクに置いた。

「僕は《真紅眼の飛竜》を召喚!」

真紅眼の飛竜
ATK1800
DEF1600

 《黒竜の雛》よりは遥かに大きいが、本家よりミニサイズの飛竜を見て、俺は少なからず驚いた。
彼がダークネスの時にも使用していた【真紅眼の黒竜】デッキこそが、吹雪さんの本気のデッキなのだろうから……まあ、鼻歌混じりにデュエルをする吹雪さんは、とても本気には見えないのだが。

「バトル! 真紅眼の飛竜で、アシッド・スライムを攻撃! ダーク・フレイム!」

 ミニチュアライズした黒炎弾が炸裂し、当たったアシッド・スライムが破裂する……ただし、吹雪さんの方向に。

「アシッド・スライムが戦闘破壊された時、相手ライフに800ポイントのダメージを与える!」

 吹雪さんに初期ライフの五分の一に値する効果ダメージを与えるが、吹雪さんは特に気にする様子もなくバトルフェイズを終了させた。

「カードを二枚伏せてターンを終了しよう」

「俺のターン! ドロー!」

 気合い充分……というよりは鬼気迫る、といった感じで氷丸はカードをドローした。

「俺は《スライム・ベース》を発動! 手札から《スライム》と名の付くカードを特殊召喚する! 《ドロー・スライム》を特殊召喚する!」

ドロー・スライム
ATK0
DEF0

 今度はカードの形をしたスライムが特殊召喚されるが、このステータスならばすぐ何かしらでリリースされるだろう。

「ドロー・スライムをリリースし、凍てつく極冠の帝、《氷帝メビウス》をアドバンス召喚する!」

氷帝メビウス
ATK2400
DEF1000

 やはり岩丸や炎丸と同様に、リリース確保に優秀なカテゴリーとサポートカードを投入し、それぞれの帝でトドメを刺すデッキのようだ。
氷丸の場合は、トリッキーな効果の《スライム》と《氷帝メビウス》を併せた【水属性】……!

「ドロー・スライムが墓地へ送られた時一枚ドローし、氷帝メビウスの効果でお前のリバースカード一枚と俺のリバースカード一枚を破壊する! フリーズ・バースト!」

 氷帝メビウスが放った二本の氷の槍が、吹雪さんのリバースカードと氷丸自身のリバースカードが貫かれる……吹雪さんのリバースカードは、ドラゴン族に貫通効果を付加する《竜の逆鱗》であったが、氷丸のカードは……

「俺が破壊したのは《呪われた棺》! 相手は手札を一枚捨てるかモンスターを一体破壊してもらうぜ!」

 ……当然、俺が多用する《リミッター・ブレイク》のような被破壊時に効果を発揮するカードに決まっており、今回破壊されたのは氷丸が説明した通り、相手に手札を一枚捨てるかモンスターを一体破壊するかを選択させるカード《呪われた棺》であった。

「……僕は《真紅眼の飛竜》を破壊しよう」

 真紅眼の飛竜は墓地で発動する効果を持っているとはいえ、フィールドの状況からてっきり手札を一枚捨てるものだと思っていたが、吹雪さんは真紅眼の飛竜を破壊する方を選択した。
これにより吹雪さんのフィールドには、氷帝メビウスに破壊されなかったリバースカード一枚を残すのみとなった。

「ふん、馬鹿が! 氷帝メビウスでダイレクトアタックだ! アイス・ランス!」

「悪いけど、ただでは受けないよ。リバースカード《闇次元の解放》を発動! 除外されている闇属性モンスターを特殊召喚する! 来い、《真紅眼の黒竜》!」

真紅眼の黒竜
ATK2400
DEF2000

 吹雪さんのエースカードたる黒いドラゴン――《真紅眼の黒竜》がその属性を活かして除外ゾーンから特殊召喚される。
最上級モンスターとしては貧弱なステータスではあるが、そのビジュアルや伝説のデュエリストが愛用していたという事実から、未だにレアカードとして人気が高いモンスターだ。

「くっ……攻撃を中止する。カードを一枚伏せてターンエンド!」

「攻撃してこないのかい? 僕のターン、ドロー!」

 氷帝メビウスと同じ攻撃力の真紅眼の黒竜が特殊召喚されたことにより、相討ちを恐れて氷丸は氷帝メビウスの攻撃をストップした。
それは吹雪さんにも言えることであり、攻撃力が同じであるがどうするのか……

「まずはこれだ! 《黒炎弾》を発動! このターン、指定した《真紅眼の黒竜》の攻撃を封じることで、相手ライフに2400のダメージを与える! 黒炎弾!」

 真紅眼の黒竜から、まさにファイヤーボールのような丸い火球が飛んでいき、《アシッド・スライム》の800などとは比べものにならないダメージが氷丸を襲った。

「ぐああああ!」

氷丸LP4000→1600

「……ところで君は、こんな話を知っているかい? ――『青き龍は勝利をもたらす。しかし、赤き竜がもたらすのは勝利にあらず、可能性なり』――その可能性の力を見せてあげよう。《融合》を発動!」

 前述の通りステータスが低く、サポートカードが多い真紅眼の黒竜だが、そのサポートカードは《融合》にまで及んでいる。
どこかで聞いたことのある言い伝えのような物を披露しながら、吹雪さんはフィールドの真紅眼の黒竜と手札のドラゴン族を融合させた。

「フィールドの《真紅眼の黒竜》と、手札の《メテオ・ドラゴン》を融合し……《メテオ・ブラック・ドラゴン》を融合召喚する!」

メテオ・ブラック・ドラゴン
ATK3500
DEF2000

 メテオ・ドラゴンと融合したことにより、真紅眼の飛竜のような、いかにも飛竜といったような形状からは外れた黒い竜となりて再びフィールドに降り立った。

「これで、君の氷帝メビウスの攻撃力は超えさせてもらったよ。バトル! メテオ・ブラック・ドラゴンで、氷帝メビウスを攻撃! バーニング・ダーク・メテオ!」

「どわあっ!」

氷丸LP1600→500

 真紅眼の黒竜よりも、更に巨大になった火炎弾が氷帝メビウスを直撃し、氷丸のライフがわずか一ターンで4000から500にまで削られることとなった。

「これで僕は、ターンを終了するよ」

「俺のターン、ドロー!」

 自身の主力たる氷帝メビウスを破壊されてしまい、いきなり状況が不利になった氷丸がカードをドローし、若干苦々しげな顔をしながら引いたカードをデュエルディスクにセットした。

「俺は《手札抹殺》を発動! お互いに手札を全て捨て、捨てたカードの数だけドローする! 更に、捨てた《ドロー・スライム》の効果で一枚ドロー!」

 《ドロー・スライム》の、墓地に捨てた時一枚ドローするという効果を使ってディスアドバンテージ無しで手札交換をやってのけ、更にカードをセットした。

「俺は《クローン・スライム》を守備表示で召喚し、カードを一枚伏せてターンエンド」

クローン・スライム
ATK0
DEF0

「僕のターン。ドロー」

 吹雪さんのフィールドには、今のこのフィールドを制圧している《メテオ・ブラック・ドラゴン》が一体のみで、《氷帝メビウス》の効果を警戒しているのかリバースカードは無い。
対する氷丸のフィールドは、攻守0の《クローン・スライム》というモンスターとリバースカードが三枚。

 ……リバースカードが三枚という氷丸の防御の中、吹雪さんはどうするか。

「僕は通常魔法《思い出のブランコ》を発動! 墓地から通常モンスター《真紅眼の黒竜》を特殊召喚!」

 墓地から再びフィールドに舞い戻った吹雪さんのエースカード、真紅眼の黒竜……だが、特殊召喚したその場所に、スライムが詰まった落とし穴が突如として出現した。

「リバースカード、《スライム・ホール》を発動! 相手がモンスターを特殊召喚した時、その相手モンスターの攻撃力分ライフを回復し、そのモンスターを破壊する!」

 真紅眼の黒竜はそのままスライムの落とし穴に落ちていってしまい、氷丸のライフが500から2900にまで回復を果たした。

「……なら、メテオ・ブラック・ドラゴンで、クローン・スライムを攻撃! バーニング・ダーク・メテオ!」

「《クローン・スライム》の効果発動! クローン・スライムが攻撃対象に選択された時、このカードをリリースして墓地の《スライム》を特殊召喚し、そのモンスターが代わりに戦闘する! クローン・スライムをリリースし、《マルチプル・スライム》を墓地から守備表示で特殊召喚!」

マルチプル・スライム
ATK1500
DEF1500

 メテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃が届く前に、クローン・スライムはドロリと溶けると姿を変え《マルチプル・スライム》へと姿を変えた。

 特殊召喚された肝心のマルチプル・スライムはと言うと、今までのスライムの中ではもっとも攻撃力が高いが、メテオ・ブラック・ドラゴンには及ぶべくもなくそのまま破壊された。

 だがマルチプルの名の通りに、破壊された後に複数に分裂して氷丸のフィールドに特殊召喚された。

「《マルチプル・スライム》は破壊された時、攻守500の《スライム・トークン》を三体守備表示で特殊召喚する!」

 しかも、その特殊召喚されるトークンの数は三体という破格の数。

「カードを一枚伏せ、エンドフェイズ。通常召喚を行っていないターンのみ、墓地の《真紅眼の飛竜》を除外することで、墓地の《レッドアイズ》を特殊召喚出来る! 再び蘇れ、《真紅眼の黒竜》!」

 《思い出のブランコ》による蘇生は《スライム・ホール》によって失敗したものの、吹雪さんは最初からこのつもりだったのだろう、《真紅眼の飛竜》のおかげで完全蘇生を果たした。

「改めて、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 依然として、フィールドを制圧しているのは吹雪さんの《メテオ・ブラック・ドラゴン》ではあるが、ボード・アドバンテージは圧倒的に氷丸が上回っている。

「俺は《リミット・リバース》を発動! 《ドロー・スライム》を特殊召喚し、《マジック・プランター》を発動! リミット・リバースを墓地に送り、二枚ドロー! 更にドロー・スライムが墓地に送られたため一枚ドロー!」

 驚異の三枚ドローをして手札を補充し、フィールドには《マルチプル・スライム》の効果によって特殊召喚された《スライム・トークン》が三体いるために、リリース用の素材もフィールドに整っている。

「俺はスライム・トークンをリリースし、《氷帝メビウス》をアドバンス召喚する!」

 吹雪さんのフィールドにメテオ・ブラック・ドラゴンがいるにも関わらず、氷帝メビウスがまたもアドバンス召喚され、アドバンス召喚時に発動する効果が起動する。

「氷帝メビウスがアドバンス召喚に成功した時、魔法・罠を二枚まで破壊する! 俺のリバースカードと、お前のリバースカードを破壊する! フリーズ・バースト!」

「チェーンしてトラップ発動! 《和睦の使者》!」

 いかに氷帝メビウスの効果であろうとも、流石にフリーチェーンのカードである《和睦の使者》相手にはどうしようもなく、和睦の使者の効果は適用される。

「く……氷帝メビウスの効果で破壊した《フライアのリンゴ》の効果を発動する! 破壊された時に一枚ドロー!」

 先のターンで発動された《呪われた棺》よりは、遥かに汎用性の低いトラップカードだったのに安藤するが、このターン大量のドローをした氷丸の手札には、《メテオ・ブラック・ドラゴン》を倒せる手があるのだろうということを思いだす。

「メテオ・ブラック・ドラゴンだけは破壊させてもらう! 魔法カード《ライトニング・ボルテックス》を発動! 手札を一枚捨て、相手モンスターを全て破壊する!」

 氷丸の潤沢な手札を一枚犠牲にして放たれた雷撃が、メテオ・ブラック・ドラゴンと真紅眼の黒竜を貫き、二体の竜はただ破壊された。

「《和睦の使者》でダメージを防げると思ったら大間違いだぜ!? 永続魔法《マスドライバー》を発動!」

 氷丸の横に、マスドライバーと呼ばれる巨大な大砲が呼び出される……本来ならば、マスキャッチャーと呼ばれる受け止めるための機械が必要なのだが、単純に相手にぶつけるためならばそんなものは必要ない。

「マスドライバーの効果を発動! モンスターをリリースすることで、相手ライフに400のダメージを与える! 俺は《スライム・トークン》二体をリリースし、発射!」

「くっ……」

吹雪LP3200→2600

 マスドライバーの中にスライム・トークンが入れられ、合計で800のダメージを吹雪さんに与えた。
これだけ聞けばたかが800、と思うかもしれないが、十体のモンスターをリリースすれば初期ライフを削り取ると言えば、あのカードの凶悪さが解る。

「フィールド魔法《ウォーターワールド》を発動し、ターンを終了する!」

「僕のターン。ドロー……いやはや、参ったなぁ」

 氷丸の大量展開によって吹雪さんのフィールドは何もなくなり、逆に氷丸のフィールドは《ウォーターワールド》によって強化された《氷帝メビウス》に、凶悪なバーンカード《マスドライバー》までもが控えている。

「なんだ、サレンダーでもするか?」

「冗談。義弟の前でカッコ悪い真似は見せられないよ……僕は墓地の《ミンゲイドラゴン》を特殊召喚!」

ミンゲイドラゴン
ATK400
DEF200

 何の前触れもなく、突如として現れた小さい竜である《ミンゲイドラゴン》の登場に、ミンゲイドラゴンの効果を知らなかったらしい氷丸は驚きで目を見開いた。

「ミンゲイドラゴンは、自分フィールド場にモンスターがいない時に墓地から特殊召喚出来る効果があるのさ。そして、《強欲な壷》を発動し二枚ドロー!」

 《強欲な壷》が破壊されたことで二枚ドローした吹雪さんに、ミンゲイドラゴンの第二の効果を活かさない手はないだろう。

「ミンゲイドラゴン第二の効果。ドラゴン族をリリースする時に二体分の素材に出来る……《ミンゲイドラゴン》をリリースし、《真紅眼の黒竜》をアドバンス召喚!」

 自己再生能力を持つダブルコストモンスターという、とてもリリース素材に便利なミンゲイドラゴンをリリースすることで、真紅眼の黒竜が今度は手札から現れる。

「更に《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターの《サファイアドラゴン》を墓地に送り、手札から《闇竜の黒騎士》を儀式召喚!」

闇竜の黒騎士
ATK1900
DEF1200

 真紅眼の黒竜を模したような、黒い鎧を付けた格好の騎士(ドラゴン族だが)が儀式召喚される……まさか、儀式召喚までデッキに入っているとは。

「そして闇竜の黒騎士の効果発動! このカードをリリースすることで、デッキから《真紅眼の黒竜》を特殊召喚する!」

 デッキから都合三体目となる《真紅眼の黒竜》が特殊召喚されたことにより、一ターンで吹雪さんのフィールドに二体の真紅眼の真紅が並ぶのは壮観だった。

「速攻魔法《超再生能力》を発動し、このターンにリリースしたドラゴン族の数だけドローする。僕がリリースしたのは、《ミンゲイドラゴン》と《闇竜の黒騎士》……よって、エンドフェイズで二枚ドローする」

 二体の真紅眼の黒竜の特殊召喚に使用した手札も、エンドフェイズ時には《強欲な壷》並みになった《超再生能力》によって補充される。

「闇竜の黒騎士によって特殊召喚された真紅眼の黒竜は、攻撃出来ないデメリットが付くし、そもそも強化された《氷帝メビウス》には適わない……だけども、関係ないさ! 《クロス・アタック》を発動!」

 同攻撃力のモンスターが二体いるとき、一体のモンスターの攻撃を封じることでもう一体のモンスターのダイレクトアタックを可能とする魔法カード《クロス・アタック》であるが、元々《闇竜の黒騎士》のデメリット効果によって攻撃は出来ないので、全く関係はない。

「バトル! 《クロス・アタック》の効果を得た真紅眼の黒竜でダイレクトアタック! ダーク・メガ・フレア!」

「ぐああっ!」

氷丸LP2900→500

 トラップカード《スライム・ホール》によって回復した分のライフが、今のダイレクトアタックによってまるまる削られ、氷丸の残りのライフはまたもや500になる。

「カードを二枚伏せ、《超再生能力》によって二枚ドローしターンエンド」

「くそっ……俺のターン、ドロー!」

 毒づきながらカードを引き、引いたカードの確認もそこそこに氷丸は氷帝メビウスに攻撃の指令を出した。

「バトル! 氷帝メビウスで、真紅眼の黒竜に攻撃! アイス・ランス!」

 凍りついた槍に貫かれて真紅眼の黒竜は破壊されるが、破壊されると共に吹雪さんのリバースカードが一枚浮かび上がった。

「リバースカード、《レッドアイズ・スピリッツ》を発動! 破壊されたレッドアイズを特殊召喚する!」

吹雪LP2400→1900

 破壊された真紅眼の黒竜が何事もなかったかのように特殊召喚され、吹雪さんのライフが変動した以外は何の変化もなくバトルフェイズは終わった。

「なら俺は《ドロー・スライム》を召喚し、《マスドライバー》で射出する!」

吹雪LP1900→1500

 僅かに、だが着実にマスドライバーから発射されるスライムの攻撃は、着実に吹雪さんのライフを削っていっていた。

「ドロー・スライムが墓地に送られたため一枚ドローし、カードを一枚伏せてターンエンド」

「僕のターン。ドロー」

 引いたカードを見て薄くニヤリと笑い、その引いたカードをそのままデュエルディスクにセットした。

「チューナーモンスター、《ガード・オブ・フレムベル》を召喚!」

ガード・オブ・フレムベル
ATK100
DEF2000

「チューナーモンスター!?」

 チューナーモンスターの登場についつい驚いてしまうが、吹雪さんは少し振り向いていつものように笑みを見せていた。

「シンクロ召喚だってもう一般発売されてるんだ、別に君だけの物ってわけじゃないだろう?」

 ……吹雪さんの言うことが正論すぎてぐうの音も出ない。
確かに一般への普及率は未だに少ないが、キチンとパックには入っているし、もはやテスターでもない俺には何の関係もないのだが、やはり驚いてしまう。

「さ、気を取り直して……レベル7の《真紅眼の黒竜》と、レベル1の《ガード・オブ・フレムベル》をチューニング!」

 合計レベルは強力なモンスターが、他レベルより比較的多いという、レベル8。

「闇より暗き深淵より出でし漆黒の竜。今こそその力を示せ! シンクロ召喚! 《ダークエンド・ドラゴン》!」

ダークエンド・ドラゴン
ATK2600
DEF2100

 シンクロ召喚されたのは、どこか真紅眼の黒竜に通じるところがある漆黒の竜――万丈目や光の結社の構成員が使用する《ライトエンド・ドラゴン》と対をなす闇の竜だった。

 ……しかし、アドバンス召喚も融合召喚も儀式召喚もシンクロ召喚も一つのデッキに取り入れるとは、この天上院兄妹のデッキ構成はどうなっているのだろうか……?

「シンクロ召喚したくせに、攻撃力は氷帝メビウスには適わないな!」

 威勢良く声を張り上げる氷丸だったが、それに対する吹雪さんはやはり……余裕の表情だった。

「それはどうかな? ダークエンド・ドラゴンの効果を発動。 攻守を500ポイントずつ下げることで、相手モンスターを一体墓地へ送る! ダーク・イヴァポレイション!」

 ダークエンド・ドラゴンの胸の部分にあるもう一つの口が開かれ、そこから発射された漆黒の炎が氷帝メビウスを墓地に送り、氷丸のフィールドをがら空きにした。

「これで終わりさ! ダークエンド・ドラゴンでダイレクトアタック! ダーク・フォッグ!」

「終わりなのはそっちだ! 《魔法の筒》を発動!」

 ダークエンド・ドラゴンの攻撃が氷丸に届く前に2つの魔法の筒が現れ、ダークエンド・ドラゴンの攻撃は氷丸ではなくそちらの方へ誘導されていってしまう。

「ダークエンド・ドラゴンの攻撃力分のダメージを受けてもらう!」

「残念だったね。伏せていたカウンター罠《王者の看破》を発動! レベル7以上の通常モンスターである《真紅眼の黒竜》がいるため、《魔法の筒》を無効にして破壊する!」

 魔法の筒がダークエンド・ドラゴンの攻撃を吸収するよりも早く、真紅眼の黒竜の攻撃が横から魔法の黒を破壊し、結果的にダークエンド・ドラゴンの漆黒の炎はそのまま氷丸を直撃する――!

「そんな馬鹿なぁ――!」

氷丸LP500→0

 微妙に間抜けな声を出しながら漆黒の炎に直撃し、氷丸のライフは若干オーバーキル気味ではあるが0となりデュエルは終わりを告げた。

「ふぅ……胸キュンポイントはまあまあだったかな?」

 胸キュンポイントというのが何なのかは全く知らないが……なるほど、これが吹雪さんのデッキか。

 ダークネスとなっていた時は《真紅眼の闇竜》の効果を十全に活かすためのデッキであった。
だが今のデッキは、手札・墓地・除外ゾーン、更にはデッキからまでも《真紅眼の黒竜》を召喚し、《黒炎弾》や《融合》やシンクロ召喚に繋ぐデッキ……流石は、カイザーのライバルたるキングと言ったところであろうか。

「うわぁぁぁぁっ!?」

 俺が吹雪さんのデッキの考察に思考を巡らせているのを、氷丸の悲鳴が遮った。
岩丸や炎丸と同じように……鏡の中へと吸い込まれて行っている!

「あれは……鏡……? 危ない遊矢くん!」

 とっさのことで反応が遅れた吹雪さんを押しのけ、鏡に吸い込まれて行っている氷丸を助けようとその手を掴む。

「聞きたいことは山ほどあるんだ……絶対に助けてやる……!」

 だがしかし、鏡が引っ張っていく力が予想外に強く支えきれずに自分まで引っ張られていってしまう。

「遊矢くん!」

 見かねた吹雪さんが助けに来てくれたものの、一人増えただけでは氷丸を引っ張り出せるとは思えない……吹雪さんまで犠牲にするわけにはいかないので、吹雪さんを振り切って俺は氷丸と共に鏡の中へ吸い込まれて行った……
 
 

 
後書き
※注 氷丸の行動経路

翔&剣山を雷丸を犠牲にして倒す(原作通り)→十代に「海馬ランドに来い」と伝える→美寿知のところへ戻ったところ、氷帝メビウスを没収されて鏡に閉じ込められそうになる(原作通り)→逃げだし、岩丸と同じように「俺の力を見せつければ良い」として逃げながらイエローの旅館へ→本編へ

まさかモブの行動経路を書くことになるとは……!
本文中に明記していないので、一応書いておきました。

それにしても、吹雪さんのデッキ……ただのOCGでの【真紅眼の黒竜】だと思ったのは自分だけじゃないはず。(ビッグ・アイがいないけれど)

あ、あと初勝利ですよ吹雪さん! ……原作では、これ以上のポテンシャルを秘めている筈なのですがね。

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