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アドリアーナ=ルクヴルール

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第四幕その四


第四幕その四

「嘘の恋には偽の金、魔法が欲しい遊び好きな女の子は公爵に近付きましたがスカートの下の若い恋人を見つけられてしまい魔法を手に入れられませんでしたとさ」
 彼等は明るいリズムに合わせてその歌を歌った。ちょうど歌い終えた時使用人が部屋に入って来た。
 見れば銀の盆を持っている。そしてその上に暗赤色のビロードの小箱を乗せている。
「あらっ、その小箱は?」
 まずアドリアーナがその小箱に気付いた。
「ちょっと失礼」
 仲間達に断って使用人の方へ向かう。
「あ、私が」
 だがミショネが先に行った。そして小箱の前に来た。
「多分これもお祝いの贈り物ですよ」
 彼はそう言うとそれを手に取った。
「どうぞ」
 そしてそれをアドリアーナに手渡した。
「はい」
 彼女はそれを受け取った。箱の上には名刺がある。
「ええと・・・・・・」
 かなり小さい字である。彼女はそれを手に取り読んだ。
「マウリツィオより・・・・・・。嘘っ、あの人から!?」
 アドリアーナの顔が急に明るくなった。そしてミショネにそっと囁いた。
「すいません、一人になりたいのですが」
「わかりました」
 彼は微笑んで頷いた。
「皆さん」
 ミショネは俳優達の方を向いて言った。
「喉は渇いていませんか?」
「ええ、とても」
 酒好きな連中である。笑顔で答えた。
「それではどうぞあちらへ。ボルドーの年代ものがありますわよ」
 アドリアーナはそう言うと食堂へ繋がるドアを指し示した。
「それでは」
 彼等は満面に笑みをたたえてそちらへ向かった。
「すぐに私も行きますわ。それまでごゆっくり」
 彼等は使用人に招き入れられ食堂へ入って行った。全員は入るとドアが閉じられた。
「さて、と。それでは中を見ましょう。・・・・・・うっ」
 アドリアーナは箱を開いた瞬間急に顔を青くさせた。
「どうしました!?」
 ミショネはその様子に驚いた。
「いえ、何か不吉なものを感じましたので」
 彼女は箱の中身をまだ見てはいない。しかしそれでも何かを感じたのだ。
「馬鹿馬鹿しい。そんなものは杞憂ですよ」
 ミショネは彼女を励ますように言った。
「それで箱の中は一体何なのですか?」
「はい。これは・・・・・・花ですね」
 彼女はその花を箱の中から取り出した。それを見た彼女の顔が再び蒼白になった。
「そんな・・・・・・・・・」
 それはすみれの花であった。そう、あのすみれの花である。
「あの時あの人に差し上げたあの花・・・・・・。捨ててしまうならまだしも突き返すなんて・・・・・・。そんな、酷い、酷過ぎるわ。こんな事って・・・・・・・・・」
 アドリアーナはその場に崩れ落ちた。そして泣き伏してしまった。
 ミショネはそれを見て呆然としている。どうすべきかわからなかった。
「あ、あのアドリアーナさん・・・・・・」
 何を言って良いかわからない。だが必死に言葉を探して彼女に言う。
「これは彼がした事ではありませんよ。伯爵はこの様な事をなさる方ではありません」
 それは彼もわかっていた。彼もマウリツィオとは何度も会っている。だからこそわかったのだ。
「こういった事をするのは・・・・・・おそらく女性ですよ」
 彼はそう思った。こうした発想を持ち出来るのは女性だと直感したのだ。それは彼が長い間舞台に携わり女性というものをよく見てきたから言えるのだ。
「けれど一体誰が。しかもこんな残酷な方法で」
 普段の彼女ならそれが誰かすぐにわかっただろう。しかし今の取り乱している彼女にはそこまで考えが至らなかった。
「そんな事はどうでもいいわ・・・・・・」
 彼女は呻く様に言った。奥の食堂からは四人の騒ぐ声が聞こえて来る。
 
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