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アドリアーナ=ルクヴルール

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第二幕その三


第二幕その三

「いえ、実はね」
 公爵は意味ありげにマウリツィオを見ながら言う。
「ここへ来る途中白い服を着た綺麗な女性を見たのですが」
「それは誰ですか?」
「伯爵、残念ですが私は全てを知っているのです」
「勿論私も」
 僧院長も続けて言った。
「公爵、お望みとあらば私は貴方のご指示に従いますが」
 マウリツィオは彼を見て言った。一歩前へ出る。
「おや、決闘ですか?」
 マウリツィオが白い手袋を握ろうとしたのを見て言った。
「もう真夜中ですよ」
 僧院長がそれを制止した。どうも彼等は決闘をするつもりではないようだ。マウリツィオも手袋を納めた。
「生憎私は伯爵と剣を交えるつもりはありません」
「だったら何故ここに?」
「私達はただ笑うに来ただけです」
「私をですか?」
 マウリツィオは顔を顰めて問うた。
「まあ伯爵は私の債権者ですし」
「そう、公爵は伯爵の債務者なのです」
「?それはどういう意味ですか?」 
 マウリツィオは二人の真意を計りかねていた。
「まあデュクロのことなのですけれどね」
「彼女のことで何か」
 マウリツィオは公爵に尋ねた。
「実はそろそろ飽きてきていたのです。もし伯爵が彼女と交際されたいのならどうぞ」
「公爵は身を退かれると言っておられるのです」
「つまり私の好意のあらわしなのですが」
 公爵は少しニヤニヤしながら言った。マウリツィオもようやく二人の話がわかってきた。
「成程、私も話がようやくわかってきました」
「でしょう?貴方にも悪い話ではないでしょう」
「はい」
 彼は僧院長の言葉に対して頷いた。
「縁切りには上手い口実というわけです」
 公爵が得意げに頷きながら言った。
「では握手を」
「恨みっこなしで」
「わかりました」
 そして公爵とマウリツィオは固く手を握り合った。そして三人で笑い合った。だが三人共まだ腹に一物ありそうである。何処か空虚な笑いであった。
「おや」
 笑い終わると僧院長が外の気配に気付いた。見れば誰か来たようだ。
「おお、ミーズが降臨されましたぞ」
 彼は戸を開いて言った。見ればアドリアーナが来ていた。
「マドモアゼル、ようこそ。伯爵も貴女をお待ちでしたよ」
 公爵がそう言って彼女を出迎える。伯爵、という言葉に彼女は目の奥で喜んだ。
「伯爵、こちらのマドモアゼルが今フランス一の女優です。アドリアーナと申し上げるだけでおわかりだと思います」
 僧院長が彼女の手を取りマウリツィオに紹介する。彼の顔を見てアドリアーナは喜びで息を呑んだ。
(会えた、良かった)
 マウリツィオも彼女の顔を見て思った。
(まさかこんな所で)
 二人の思いは別々だが二人共息を呑んだ。
「この方ですね。ザクセン伯爵閣下。何でも若くして戦場でご活躍だとか」
「はい、その通りです」
 僧院長はアドリアーナに対して答えた。
「・・・・・・・・・」
 マウリツィオはそれに対し沈黙を守っている。
「伯爵、じつはマドモアゼルはいつも共にいてくれる友人を探しているそうですよ、心強い友人を」
「それは初耳ですね」
 マウリツィオはアドリアーナを見ながら興味深げに言った。
「僧院長、ところで」
 公爵はここで二人を見ながら僧院長をそっと呼び寄せた。
「大事な用事はお忘れなく」
「それはもう」
 僧院長もそれに対し笑って答えた。
「では私は夜食の準備をしてきますね」
 彼はそう言うとサロンを後にした。
「どうぞ、楽しみにしていますよ」
 公爵はそう言って僧院長に片目でウィンクして答えた。
 
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