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西部の娘

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第一幕その四


第一幕その四

「今日は遅いね」
 ニックは彼を見ると言った。
「申し訳ない、実は彼女が出来て」
 彼は苦笑して言った。
「またか。あんたも好きだね」
 ミニーはそれを聞いて苦笑した。
「で、今度の相手は?」
「ニーナっていうんだけれど。知ってるかな?」
「ああ、ニーナね」
 ミニーはそれを聞いて顔を顰めた。
「あの女は止めといた方がいいよ」
「えっ、どうして!?」
 郵便屋はそれを聞いて狼狽した。
「あいつは盗賊の頭の女だて話だ。まあ噂だがな」
 ランスも言った。
「そうだったのか・・・・・・」
 郵便屋はそれを聞いてしょんぼりとした。
「まあすぐにわかってよかったよ。諦めな。さもないと大変なことになるよ」
「ああ・・・・・・」
 郵便屋は郵便物を置くと肩を落として帰って行った。
「あいつの女癖にも困ったものだな」
 ランスはその後ろ姿を見送って言った。
「本当にね。あれさえなければ完璧なんだけど」
 ミニーも呆れている。
「まあ人間完璧ってわけにはいきませんからね。まあ仕方ありませんよ」
「そうだな。それに今回は早いうちに気付いてよかった」
 ランスはニックの言葉に対して言った。
 そして再びテキーラを飲んだ。その時店に誰かが入って来た。
「どうも」
 見れば黒い服に長身を包んだ男である。コートもスカーフも黒だ。
 顔から見るにラテン系か。彫が深く端整な顔立ちをしている。
 黒い帽子の下の髪は縮れていて黒い。そして腰には拳銃がある。
「ウイスキーを一杯もらいたいのですが」
 男はカウンターにいるミニーに対して言った。
「えっ・・・・・・」
 ミニーは彼の顔を見てハッとした。だが表面上は冷静さを装った。
「ウイスキーですか?」
 声をうわずらせないように必死だった。
「はい」
 男は店の中央にやって来た。
「ニック、ウイスキーを」
「はい」
 ニックはミニーに言われるままカウンターにウイスキーを出した。
「どうぞ」
 ミニーはそれを差し出した。
「どうも」
 彼は席に着いた。
「貴方は何処から来られたのですかな。見たところアメリカ人ではないようですが」
 隣にいたランスが尋ねてきた。
「貴方は?」
 男は尋ねられて逆に問うた。
「ここの保安官です。ジャック=ランスといいます」
「ああ、貴方があの有名な」
 この時一瞬だが男の目が歪んだ。しかしそれには誰も気付かなかった。
「私が有名かどうかは知りませんがね」
 彼は言葉を続けた。
「ただ今はここの安全を守る者の勤めとしてお聞きしたいのです」
 彼はさらに続けた。
「貴方はどちらから来られました?」
「サクラメントからですが」
 このカルフォルニアはかってはメキシコ領であった。
「成程、だからメキシコ人に顔が似ているのですね」
「ええ。実際メキシコ人の血も入っていますが」
「そうですか」
 やはりメキシコ系に対する偏見かと思われた。
「まあそれはどうでもいいのです。実際ここにもメキシコ系の者は多くいます」
 ランスは別にメキシコ系だからという偏見は無かった。彼はこれまで銃一つで生きてきてきて多くの人間を見てきた。そして出身や人種による価値判断がどれだけ無意味なものか知っていたのだ。
「ただね」
 彼はここで目を光らせた。
「今この近くにメキシコから来た盗賊の一団が来ていましてね」
「それは聞いています」
「なら話は早い。そういうわけで余所者には少し神経を尖らせているのです」
 彼はそう言うと男を見た。実はミニーが彼の顔を見てハッとしたのが気になっていたのだ。
「お名前は?」
「ジョンソン。ディック=ジョンソンといいます」
「ほう、いい名前だ」
「有り難うございます」
「そして何も目的で来られました?」
「旅をしていまして。ちょっと休む為に馬を止めました」
「旅ですか。どちらまでですか?」
「サンフランシスコまでです」
「そうですか。お気をつけ下さい。あちらはここよりもずっと柄が悪いですからな」
「そうなのですか」
 この時代のカルフォルニアは今とは違っていた。西部といえば荒くれ者や犯罪者の集まりという世界だった。ネイティブとの争いもあり騎兵隊があちこちで戦っていた。余談であるが騎兵隊やカウボーイ、ガンマンにはアフリカ系も多くいた。差別されている筈のアフリカ系もやはり他所から来たアメリカ人であり彼等もまたネイティブ=アメリカン達から見れば侵略者であったのだ。歴史とは一面からは言えない。
「ランス、もうそれ位でいいでしょう」
 ここでミニーが口を挟んだ。
 
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