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西部の娘

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第一幕その二


第一幕その二

「ところでミニーは遅いな」
 彼はコップを置きニックに言った。
「ええ。今日はちょっとね」
 ニックは笑って言った。
「寄るところがあるそうなんで」
「寄るところ?」
 ランスはその言葉に顔を上げた。
「はい。まあもう少ししたら来ると思いますが」
「そうか。じゃあそれまでゆっくり待つとするか」
 そう言ってテキーラを再び口にした。その時後ろから騒ぎ声がした。
「おい、どうしたんだ?」
 見ればカードでイカサマをしたとか言って揉めている。
「またか。で、どいつがやったんだ?」
 ランスは少し呆れた声でその席に行き尋ねた。
「こいつでさ」
 その席にいた男達は一人の若い男を指差した。
「また御前か。全く懲りないな」
 ランスはその男を見て言った。どうやら常習犯らしい。
「で、今度はそう落とし前を着けるんだ?」
 ランスは彼に対して問うた。
「それは・・・・・・」
 その男は下を俯いている。
「もう御前はカードはするな。そうすれば問題は起こらない」
 ランスは彼に対して言った。
「・・・・・・・・・」
 男は下を俯いたまま答えない。
「わかったな」
「・・・・・・はい」
 男はそれに対し答えた。そして金を払い店を後にした。
「全くしょうがない奴だ」
 ランスはその後ろ姿を見送りながら言った。
「まああれは一種の病気ですからね」
 ニックがカウンターに戻った彼に対して言った。
「だな。一旦癖になると止められないと聞いた」
「まあ上手い奴は見つかりませんけれどね。あいつは不器用だから」
「これで二度とカードも触らないだろう。頭を冷やせばいい」
 そこへ少し年をとった大柄な男がやって来た。
「おお、ソノーラじゃないか」
 ランスは彼の姿を認めて言った。
「久し振りだな。暫くこの店に顔を出さないからどうしたんだろうと思ってたよ」
「ちょっとテキサスの方に行っててね。今日やっと戻ってきたんだ」
 ソノーラと呼ばれたその男は笑顔で答えた。
「そうだったのか。で、向こうはどうだった?」
「そうだなあ、まあこっちよりは穏やかだったかな」
「おい、じゃあこっちはあの荒くれ者共よりタチが悪いっていうのか」
 ランスは苦笑して言った。
「それは保安官であるあんたが一番良く知っていると思うけれど」
 ソノーラは笑って言った。
「まあな。あそこにはあんな大勢の盗賊共はいないだろうし」
「相変わらず手こずっているみたいだね」
 ソノーラはそれを聞いて言った。
「ああ。もう三ヶ月みなるかな」
 ランスは遠くの山を見て言った。
「あの辺りに潜むようになってから」
「三ヶ月か。連中も粘るねえ」
「今のうちだけさ。そのうち全員まとめて縛り首にしてやるさ」
 ランスは葉巻を噛んで言った。
「まあ連中は人殺しとかはしないけれどね。盗賊にしちゃあやけに大人しい」
「その分盗みっぷりが凄い。堂々としてやがる」
 ランスはソノーラの言葉に賞賛が混じっているのを聞いて少し不快になった。
「何でもアメリカ人じゃないそうだが。スペイン人かい?」
「いや、聞いたところによるとメキシカンだそうだ。まあそんなに差はないな」
 メキシコ人への差別はこの頃からあった。
「ニック、ここも用心しといたほうがいいぞ」
 ソノーラはニックに対して言った。
「驚かさないで下さいよ」
 ニックはそれを聞いて震え上がって言った。
「脅かしじゃないぞ。連中の頭はかなり切れる奴らしい」
 ソノーラは真剣な表情で言った。
「しかもかなりの拳銃の腕前で命知らずの奴らしい。ぼうっとしてるとすぐにやられるぜ」
「何か怖いな」
 ニックはそれを聞いて縮こまっている。
「おい、そんなにニックを怖がらせるな」
 ランスはその様子を見て苦笑して言った。
「安心しろ、この店は俺が絶対守ってやる」
 彼はニックに微笑んで言った。
「何せ俺はミニーと結婚するんだからな」
 そう言ってニヤリ、と笑った。
「あんた結婚してたんじゃ?」
 ソノーラが尋ねた。
「この前別れたよ。女房の親父が切れちまってな」
「おやおや、どうしてだい?」
「こんな辺鄙なところに何時までいるんだってな。生憎あの親父は東部の頭のお固い先生様でね」
「学校の先生か。ならこんなところはお嫌いだろうな」
「フン、俺達アメリカの男は自分でものを掴み取るんだ。その為に皆ここにいるんだろうが」
 彼は顔を顰めて言った。酔いはそれ程回ってはいないというのに。
「その為に俺はカンザスからはるばるここにやって来たんだ。こいつだけを頼りにな」
 そう言って腰の拳銃を指し示した。
「言うねえ。じゃあ早いとこあの盗賊共をやっつけてくれるんだな」
「おお、あいつ等の首を取れば賞金が山程手に入る。絶対やってやるさ」
 そう言うとテキーラを口にした。
 
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