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西部の娘

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第三幕その五


第三幕その五

「そんな荒くれ者の俺達に優しく世話になってくれたミニー、彼女の為に今動こうじゃないか」
「ソノーラ・・・・・・」
 ミニーとジョンソンは彼のその真摯な言葉に心を打たれた。
「ラメレスだって人を殺しちゃいない。しかもここでは何も盗んじゃいない。だったら何も問題はないじゃないか」
「そう、だよな」
 誰かがポツリ、と言った。
「ここでは何もしていないんだ、だったら問題ないじゃないか」
 皆ソノーラの話に次第に賛同していった。
「しかしランスが言った、あいつは捕まえなくてはならないと」
 皆ランスの方を見る。彼は一言も語ろうとはしない。
「確かに彼は正しい。しかし・・・・・・」
 彼等は自らの良心に問うた。
「俺達は自分の心に逆らうことは出来ないんだ」
「そうだ、神様の御心には逆らえない」
 彼等は次第にその心の奥底に宿るものに心を委ねだしていた。
「皆、そうだろう!?」
 ソノーラはまた言った。
「ニック、あんたもその筈だ。あんたもミニーには色々と助けてもらってきたじゃないか」
「そ、そうだな」
 ニックもその言葉に頷いた。
「今はミニーの為に俺達は動こうじゃないか」
 彼はまた言った。そして再び一同を見る。
「・・・・・・そうだな」
 アッシュビーが言った。
「俺はソノーラの意見に賛成する。ミニーあんたを助けるよ」
「アッシュビー・・・・・・」
 それを聞いたミニーとジョンソン、そしてソノーラの顔が明るくなった。
「俺もだ」
 ニックが続いた。
「ミニーにはポルカに雇ってもらってから色々と世話になったしな。あんたに雇ってもらわなかったら俺は今頃のたれ死んでいただろうからな」
「有り難う・・・・・・」
 ミニーとジョンソンは彼に対し礼を言った。
「俺もだ」
 また一人賛同した。
「俺も」
 そしてまた一人。それは次第に拡がっていく。
 遂には皆ソノーラの意見に賛同した。ランスは俯いてそれを黙認している。
「これであんたは自由だ」
 ソノーラはそう言うとジョンソンに近付いた。そして手を自由にしてやった。
「ソノーラ、済まない」
 ジョンソンは彼に対して礼を言った。
「いや、俺のおかげじゃない」
 彼はそれに対し首を横に振った。
「ミニーのおかげだ」
 彼はミニーに顔を向けて言った。
「ミニー・・・・・・」
 ジョンソンはミニーに顔を向けた。
「ジョンソン・・・・・・」
 彼女もミニーを見た。
「有り難う」
 そして彼女を強く抱き締めた。彼女も彼を同じように抱き締める。
「これからあんた達はどうするんだい?」
 ソノーラは二人に対して尋ねた。
「それは・・・・・・」
 二人は口篭もったがやがて答えた。
「悪いけれどここを去るわ。そしてソレダードへ戻るわ」
「盗賊達は解散する。彼等ももうこんなことはしたくないと言っていたし」
「そうか。じゃあこれからは二人で暮らしていくんだな」
「・・・・・・ええ」
 ミニーはソノーラの言葉に答えた。
「これからはずっと一緒よ」
「ミニー・・・・・・」
 ジョンソンはその言葉に目頭を熱くさせた。
「じゃあこれでお別れだな」
 アッシュビーがそれを聞いて言った。
「もう二度と会えないだろうね」
 ニックが寂しそうに言った。
「ええ。だけど貴方達のことは一生忘れないわ」
 ミニーは彼等に対して言った。
「ミニーと再会することが出来たこのカルフォルニア・・・・・・。どうして忘れられるというんだ」
 ジョンソンも言った。
「もう二度と帰っては来ないんだね」
 一同の中の一人が言った。
「ええ。だけど心のは永遠に残るわ」
「それならいい」
 皆が言った。
「それだけで充分だ」
「・・・・・・有り難う」
 二人は彼等に礼を言った。そして馬に乗った。
 ジョンソンが手綱を握る。ミニーはその後ろに乗った。
「貴方達と共に過ごした時のことは永遠に」
「ソレダードにいてもそれは永遠に」
 ジョンソンとミニーは彼等に対して言った。
「ああ、何時までもな」
 皆それを見送った。ジョンソンは手綱を動かした。
 馬がいななく。そして歩きはじめた。
「それじゃあ」
「ああ、さようなら」
 そして二人は最後に皆に対して、そしてカルフォルニアに対して告げた。
「さようなら、私達のカルフォルニア!」
 二人はもう振り返らなかった。そのまま遠くへ去って行く。
 すぐに森の向こうへ消えた。皆それを何時までも見送っていた。
「・・・・・・これで良かったのか」
 ランスはそれを遠くから見つめながら一人呟いた。
「ミニーは勝ち取ったんだ、己の幸せを」
 そう言って懐から葉巻を取り出した。
「俺の負けだ。俺は結局単なる卑怯者に過ぎなかった」
 うなだれて葉巻に火を点けようとする。その時横から誰かが火を差し出した。
「・・・・・・ソノーラか」
 彼はその火を差し出した男を見て言葉を出した。
「あんたは卑怯者なんかじゃないよ」
 彼は微笑んで言った。
「フン、よしてくれ」
 ランスはその言葉に対し申し訳なさそうに言葉を返した。
「おれがあの男を捕まえようとしたのは事実だ。俺もそれはもみ消さんさ」
「だがあんたはミニーの願いを聞き入れた」
「・・・・・・・・・」
 ランスはその言葉に沈黙した。
「カードもいかさまだとわかって退いた。ミニーが来た時も撃とうと思えば出来た。あんたの腕ならな」
「かもな」
 彼はしらばっくれるように言った。
「しかし退いたし撃たなかった。それはあんたがミニーの心に打たれたからさ。あんたは卑怯者でも冷血漢でもない」
「・・・・・・・・・」
「それは皆よくわかっているよ」
「・・・・・・有り難う」
 ランスは葉巻を吸い煙を噴き出した。それは朝の森の中に漂いすぐに消えていった。


西部の娘   完


                  2004・3・26
 
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