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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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ANSURⅢ其は天壌を焼き払いし煉獄を顕現せし者~BurnhellD~

 
前書き
ちくしょう。花粉症が酷い・・・。

火炎の堕天使バンヘルド戦イメージBGM
Tales of Xillia『信じる明日への戦い』
http://youtu.be/Uu-Y6huwrKs 

 
†††Sideルシリオン†††

「待たせて、すまなかった」

アムルの南出口に待機していたグラオベン・オルデンのみんなに声を掛ける。
アンナとターニャに別れを言ったんだろう。ヴィータとシャマルとシュリエルは目に見えてしょんぼりしているし、シグナムとザフィーラもハッキリと顔には出ていないが寂しそうだ。この中で唯一これからもエリーゼ達と生きるアギトとアイリは、私たちとの別れが徐々に、そして確実に近づいて来ている事に今にも泣きそうだ。

「シグナムとヴィータにはコレを渡しておく。我が手に携えしは確かなる幻想」

神秘満載の魔力を充填したカートリッジが30発ずつ収められた箱を渡しておく。ソレについて「対エグリゴリ戦で必要なものだ。攻防・補助をする時は必ずそのカートリッジをロードしてくれ」と厳重に伝えておく。2人は「はい」「おう」とそれぞれ首肯してくれた。「それとコレも一緒に」とシグナムやヴィータだけでなく全員の腕を取って、黄金で出来た腕輪をはめていく。

「オーディンさん、コレは――って・・え?」

シャマルが腕輪から私へと視線を移した瞬間に目を大きく見開いた。シャマル達だけでなく、沈んでいたアギト達ですら私を見て目を丸くしている。しかし今は生死に関わる真剣な話をしている最中だ。気に留めずに話を続ける。

「銘はドラウプニル。シグナムとヴィータに渡したカートリッジと同じ効果を得られる。ソレを装備している限り、君たちの魔導は全てエグリゴリに通用することになる」

神造兵装・“黄金の滴ドラウプニル”。装備者の魔力に神器の有する神秘を付加させ、尚且つ装備者の魔力を底上げする効果を持つ。これで全員の魔導は、私や“堕天使エグリゴリ”が扱う魔道と化し、連中とまともに戦えるはずだ。それはつまり致死率を大幅に下げる事になるわけだが、それでも死なないかもしれない、というレベルに過ぎない。

「マイスター・・・?」

「ん? どうしたアイリ・・・?」

「マイスターの髪、短くなってるんだけど」

ああ、目を丸くして私を見ていた理由はそれか。シグナムとザフィーラを除くみんながコクコクと頷いていた。髪を短くした理由、か。その理由をみんなに話す・・・前に、とりあえずクテシフォン砂漠へと向かわなければ。
約束の時間である午前3時を過ぎた場合、“エグリゴリ”がどういう行動を取るか判らない。無差別攻撃なんてことになる可能性もある。それだけは避けなければ。みんなにその事を告げ、すぐさまアムルから飛び立つことに。

「さようなら。・・・いってきます」

剣翼アンピエルを発動し空へと上がる最中に、アムルに最後の挨拶をする。私に続いて空に上がってきたシグナム達も「いってきます」と別れを済ましていく。そして私たちグラオベン・オルデンは1年と少しの期間を過ごしたアムルを離れる。
アムルからクテシフォン砂漠までは、私の全力飛行でも3時間半は掛かる。今から全力戦闘をすると言うのに、飛行で魔力・体力を消費するのは愚行だ。ただでさえ圧倒的火力を有している連中を相手に、疲労困憊で挑むなど自殺行為。

『全騎。少し離れた場所からはスキーズブラズニルで移動だ』

それの対策の為にそう伝えておく。全騎からの『ヤヴォール』を受け、アムルから高度と距離を徐々に開ける。そしてある程度離れたところで、“神々の宝庫ブレイザブリク”より1隻のスキーズブラズニルを召喚し、乗船する。
スキーズブラズニルの飛行速度なら・・・2時間ほどで到着できるはずだ。船体の縁にもたれ掛りながら高速で景色が流れる様を観ていると、「マイスター。さっきの・・・」アイリから短髪化した理由の話をもう一度振られた。

「私の生まれ故郷グラズヘイムの習わしによるもの、かな。決死の覚悟で死地に赴く戦士は、髪を切って家族や親しい者に渡すんだ。私の出身世界を巻き込んだ戦争、その前線で戦う者は戦死したら遺品なんてものが残らない程に酷い遺体となる。だから出陣式の前に遺品として、確かに生きてきた証として髪を遺すんだ」

そう説明して、肩上にまでなった後ろ髪をサラッと払う。アンスール時代は、死ぬなどこれっぽっちも考えなかったからやらなかった。明確な死を知る事になったこれまでの契約の中でも、このグラズヘイムの習わしをやらなかったな
フェイトと出逢う前はそんな事すら忘れていたし、出逢った後はフェイトだけ想っていたから、大切な人を作ろうとも思わなかった。

「正直エリーゼに今から死ぬ私の思い出に繋がる物を遺していいのか迷った。けど・・・未練がましいな。私や君たちの事を忘れ去られるのは嫌だったんだ」

切った後ろ髪は腕輪状に纏めて魔力コーティングしたため、ある種の神器となっている。これからの激動の時代を生きていくエリーゼへの御守りのようなものだ。アンナ達の分も作ってあげたかったが、残念ながらそこまでの時間的余裕が無かった。

「「マイスター・・・」」

「アギト、アイリ。生きてくれ。これからもずっと。そうすれば、いつかきっとシグナム達とまた出逢えるはずだ」

私の両手を自らの両手で包み込むようにして握ってくれているアギトとアイリに微笑みを向ける。寿命の無い自分たちと、永遠に彷徨う“夜天の書”の守護騎士ヴォルケンリッター。その2つの事から、私の言ったことを理解したアギトとアイリは頷いたが、すぐに・・・

「そこに・・・マイスターは居ないんだよ・・・」

「もう逢えないんだ・・・」

「私は居る。みんなが私の事を忘れない限り、私はずっと君たちの傍に居る」

2人の頭を撫で、傍まで寄って来たシグナム達を順繰りに見回す。

「絶対に忘れないからっ! マイスターの事、絶対に・・・!」

「アイリも忘れないよっ! どれだけ経っても・・・ずっと忘れない!」

「我々ヴォルケンリッターも。これからどれだけの苦行を強いられようと、あなたの事は忘れません」

「おうよ。オーディン。あんたやエリーゼ達に貰った楽しかった時間を支えにすりゃ、頑張っていける」

「そうね。・・・アギトちゃん、アイリちゃん。また必ず、どこかで逢いましょ♪」

「ああ。私たちはオーディンの信念の元に集いしグラオベン・オルデン。この絆は永遠だ」

「うむ」

そうか。遺すことが出来たんだな、私の願いを。良い思い出を作って、はやてと出逢うまでそれを支えにして生きて行ってほしい、と。っと、そうだ。シュリエルにはこれだけは伝えておかないといけないから「シュリエル」と彼女の名を呼ぶ。

「はい。なんでしょうか」

「シュリエル。君の名前について伝えておきたい事があるんだ」

「私の名前、ですか・・・?」

小首をかしげるシュリエルに、私は伝える。シュリエルリート。この名前は時限付きの名前なんだということを。当然、「え、どういうことですか?」とショックを受けているシュリエル。しかしこれは未来のために必要な話だ。

「遠い未来。君たち闇の書を救う主が現れる。シュリエル。その者から君は新しい名前を与えられるだろう。それは必ず君やみんなの救いとなる。だからもし、君たちが心より慕う主と出会えた時、そして名前を与えられるような事態になったとき、気にすることなくシュリエルリートの名を捨ててくれ」

「・・・それも予言ですか?」

「ああ。すまないな。今の私にはそれしか伝えられない」

「・・・判りました。心に留めておきます」

寂しそうなシュリエルの頭を撫でつつ「頼むよ」と私は頭を下げた。それからクテシフォン砂漠に着くまでの間、私たちは肩を寄せ合って過ごした。

「もうそろそろか・・・」

流れ星が何度か流れた夜天の下の船旅ももう終わりだ。約束の決戦地であるクテシフォン砂漠へと到着。決戦開始の時刻まで3分とない。私は空戦形態ヘルモーズとなり、“エヴェストルム”をランツェフォルムで起動して臨戦態勢。シグナムとアギト、ヴィータとアイリも融合を果たして、いつでも戦闘へ移れるようにしている。

「グラオベン・オルデン各騎。必ず最後まで生き残れ。いいな?」

「「「「「『『ヤヴォール!』』」」」」」

さあ、いつでも来い“エグリゴリ”。私たちは準備万端だ。
クテシフォン砂漠へと着地させたスキーズブラズニルの甲板の上で待ち構えて少し。ついにその時が来た。圧し潰されると錯覚してしまうほどに強大な魔力が頭上から降ってきた。間髪入れずにゾワッと背筋に悪寒が奔る。私は「船から離れろッ!」指示を出す。
スキーズブラズニルの甲板から空へと一斉に散開したその直後、

――轟破焔壊槌(マルテーロ・コンブスタオン)――

真っ赤な炎の塊と化している、炎暁(えんぎょう)の槌・バンヘルドの有する神器・“灼槌ケンテュール”が隕石の如く甲板に飛来。そして着弾。そのたった一撃で、スキーズブラズニルを粉砕し、欠片も残さず焼滅させた。私の傍に集まって来たシグナム達は、

「あの巨船をたった一撃で消し飛ばしただと・・・!?」

「なに、これ・・・魔力が・・・尋常じゃないわ・・・!」

「アレが・・・真のエグリゴリ・・・!」

「おいおい。こんなのが複数居んのかよ・・・」

戦慄している事が感じ取れるほどに震えた声で呻いている。初撃で確実にシグナム達の精神に多大なダメージを与えた攻撃を放った主、バンヘルドの居る上空へと目をやる。月を背にして宙に佇むバンヘルドの背からはクジャクの尾羽のような翼20枚、エラトマ・エギエネスが展開されていた。

「各騎、戦闘開始だ・・・!」

炎を噴き上げながら戻って来た“ケンテュール”を手に取ったバンヘルドを見上げながら告げる。


VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
其は善性より堕とされし炎獄の堕天使バンヘルド
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS


「下僕共も一緒か。笑わせるな神器王。我らと貴様の“力”に遠く及ばない雑兵をいくら集めたところで――」

――屈服させよ(コード)汝の恐怖(イロウエル)――

「取り消せバンヘルドっ。この娘たちは下僕ではないッ。・・・家族だッ!!」

一対の銀の巨腕イロウエルを発動。バンヘルドの左右から押し潰すように拳打を放つ。ドゴンッ!と、大気が震えるほどの衝撃が届く。当然ながら、この程度で勝てる相手じゃない。故に端から問答無用で攻撃を加えるために上級術式を構築。そして「シュリエル! 集中砲火ッ!」指示を出す。

「はいッ!」

――ハウリングスフィア――

「響け! ナイトメアハウル!!」

――弓神の狩猟(コード・ウル)――

シュリエルの多弾砲撃ナイトメアハウルと数百の魔力光線ウルが、2つのイロウエルの設置点の間に居るバンヘルドに向かって飛んで行く。着弾する寸前、「煉獄・・・顕現」小声ながらもハッキリと耳にまで届くのは術式名。

――煉獄顕現(デシダ・エクスプロザオ)――

バンヘルドの全身から放出された炎が夜天を炎一色に染め上げた。異常な熱度の所為で、イロウエルが粉砕ではなく蒸発する。そして火炎は空で渦を巻き、

――焔雨(ペザデーロ)――

渦より人間大の炎弾が雨のように降り注いできた。威力は格段に下がっているが、それでも直撃すれば無事では済まない。私が指示を出す前にシグナム達はすでに回避行動を取っていた。ほぼ無意識だろう。本能のままに避けた感がある。けど、それでいいんだ。考えてから行動していては手遅れになる。
広範囲に広がる炎弾を紙一重で回避しながら「エヴェストルム、カートリッジロード!」2つのシリンダーのカートリッジを4発ずつ、計8発をロード。ルーン文字の効果を発動させ、“エヴェストルム”を神器化させる。

――集い纏え(コード)汝の閃光槍(ポースゼルエル)――

2つの穂に閃光系魔力を付加。穂先を炎の渦の中心に居るであろうバンヘルドへと向け、

「食らえええええええええッッ!!」

――女神の宝閃(コード・ゲルセミ)――

上級攻性術式・閃光系の砲撃ゲルセミを放つ。一直線に空へ上るゲルセミから溢れる幾つもの光球と、周囲へ広がる衝撃波が炎弾を掻き消していく。そして音もなく渦の中心を穿った。が、すでにその場にバンヘルドは居なかった。

――焚灼槌龍(メテリオト・ソル)――

ドクンと跳ねる心臓。後ろへ振り返る。こちらへ真っ直ぐ突撃して来るのは、宵闇を照らす、大口を開けた火炎の龍。あの術式は、バンヘルド自身が炎塊となって突進するものだ。だが・・いつの間に地上へ降下したと言うんだ・・・?

(そうか! 自身も炎弾となって、他の炎弾に紛れて降って来たわけか・・・!)

『魂すら残さずに燃やし尽くしてくれるわ!!』

タネが判ればもう同じ手は通じない。“エヴェストルム”の穂先を向け、カートリッジを計2発ロードする。2つのシリンダーから排莢し、スピードローダーを使って一気に全弾装填しながら、『シグナム、ヴィータ、シュリエル!』の3人に指示を出す。
まずはバンヘルドを押さえ込まなければ。となれば何かしらのダメージを与えないことには始まらない。私は急上昇、シグナム達は降下させる。案の定、私の殺害を目的としているバンヘルドは私を追尾してきた。

「我が手に携えしは確かなる幻想・・・!」

――ストライクスターズ――

アーチを描いて急降下する軌道を取ったと同時、突き出した拳からなのはの砲撃を放つ。1本のディバインバスターと数基のアクセルシューターで構成されたこの砲撃。全弾バンヘルドに着弾、桜色の閃光が爆ぜた。が、全く通用しないと言うように炎龍は大口を開けて、私を追って降下し始める。

『攻撃準備!』

『『『ヤヴォールッ!』』』

大きく引き離したところで急停止して、指示を出した私の周囲に3人が集まる。シグナムとヴィータはカートリッジをロード。居合いの構えを取るシグナム。“アイゼン”がギガントフォルムとなり、シュリエルの周囲にはハウリングスフィアが4基と展開。

――女神の護盾(コード・リン)――

私たちの上方25mほどの位置に女神の祈る姿の絵が描かれた円い盾を展開。炎龍となって突進して来るバンヘルドの神秘と魔力に比べれば少し劣る。が、完璧に防ぎきる必要はない。回り込むという軌道を取らず、破壊に拘ったらしいバンヘルドがリンに衝突した。空に火炎の花が咲く。バキバキとヒビ割れる音がすぐに出たが、確かに拮抗している。これが狙いだ。さらにカートリッジを計6発ロード。

曙光神の降臨(コード・デリング)!!」

リンとバンヘルドの衝突点を中心として急激に爆ぜる蒼の大光球。デアボリック・エミッションの閃光系魔道バージョンと言ったところか。まぁ障壁発生阻害なんて素晴らしい効果など無く、純粋な破壊特化だが。バンヘルドに通用しているかは判らないが、突破してこないところを見れば多少は効いているらしい。今のうちに2度目の排莢・装填を行っておく。

「あと少しでデリングが治まる。合図と同時に――」

「一斉攻撃ってわけだな。つうか、オーディン単独でどうにかなりそうじゃね?」

「そんな事はない。君たちが居てくれると、私は・・・獣にならずに済む」

計6発ロードした“エヴェストルム”を足元に突き刺し、手に魔力矢ウルを番えた魔力弓を具現。攻撃態勢に入ったことでシグナム達もまたグッと身構えた。その直後、「効かぬわぁぁああああああああッ!」炎龍の解けたバンヘルドが治まりきらないデリングより急降下して来た。

――弓神の狩猟(コード・ウル)――

――ナイトメアハウル――

――コメートフリーゲン・アイス――

無数の光線と化したウル、5条の砲撃、冷気を纏う大鉄球が1基とバンヘルドへ向かう。バンヘルドは「これは・・・!?」と驚きを見せ、翼を翻しながら紙一重で回避しつつ、“ケンテュール”を振るって私たちの攻撃を弾き返していく。
理解したか。私の神秘を有したシグナム達の攻撃の直撃は、致命に至らずとも多少なりのダメージを負うという事に。ウルを“ケンテュール”に集中砲火させ「ぬっ・・!」大きく腕を弾き逸らした。

『「飛竜・・・一閃!!」』

間髪入れずに放たれる、シュランゲフォルムによる砲撃級斬撃・飛竜一閃。直撃する直前にバンヘルドは無理やり体を捻って“ケンテュール”で受け止めた。拮抗する神器“ケンテュール”と、神秘を纏ったデバイス“レヴァンティン”。“レヴァンティン”が破壊される前に・・・

『ザフィーラっ!!』

『承知!』

――鋼の軛――

何をしてほしいと言うまでもなく、ザフィーラは私が望んでいる魔導を発動した。言葉を交わさずとも解り合える。大戦時、アンスールや“戦天使ヴァルキリー”との共闘を思い出す。バンヘルドへと突き上がって行く拘束条。同時にヴィータは最強の一撃の準備に入った。飛竜一閃を弾き返したバンヘルドは鋼の軛を横移動で回避した・・・が、

「轟天爆砕!!」

『ついでに凍結粉砕っ!!』

「『ギガント・・・・フリーレンシュラークッ!!』」

膨大な冷気を纏った超巨大な“アイゼン”の一撃がバンヘルドを襲撃。防御も回避も出来ないまま直撃を受け、そのまま地面へと叩き付けられようとした。ここで私の魔道。下が砂漠では、直撃時の打撃力が申し分なくともトドメの押し潰しの衝撃の大半が砂に吸収される。

――暴力防ぎし(コード)汝の鉄壁(ピュルキエル)――

そうならないために、砂漠の上に寝かせるように対物障壁を展開。これで衝撃は逃げない。展開したその瞬間、バンヘルドは“アイゼン”の一撃によって障壁に叩き付けられた。神器・“神槍グングニル”を具現し、“エヴェストルム”のカートリッジ全12発を一気にロード。

「(各個撃破のこの好機・・・)逃さない・・・!」

何故バンヘルドの1機しか居ないのかが理解できないが、しかし単独である今は最高の好機だ。たとえ伏兵として他の“エグリゴリ”が出てこようが、その前にバンヘルドを救って見せる。“グングニル”の能力を限定解放するための詠唱を・・・

「くだらぬ」

しようとしたところで、不機嫌な声と共に、遥か頭上に発生する強大な魔力。直径が50mはある炎の輪。その中央に炎球が発生し、輪の直径と同じほどの大きさとなった。それはさながら小型ながらも太陽だった。私の知らない術式。効果は見た通りのものだろう。

――炎星招来(エストレッラ・カデンチェ)――

「全騎、高速離脱ッ!!」

「今度は貴様だけでなく下僕共も逃がさん・・・!」

落とされる太陽。蜘蛛の子を散らすようにシグナム達が一斉に距離を取る。“アイゼン”が元に戻ったことで姿を現したバンヘルドだが、所々が凍っていた。しかし炎を纏うことで凍っていた部分が溶ける。そんなバンヘルドと視線を交わす。それも一瞬だけだ。太陽の効果範囲から離脱しなければ。そう、後退ではなく前進して。

「うぉぉぉおおおおおおおおおッ!!」

「いいだろう! 来いッ、神器王!」

砂漠に平行して飛び、“グングニル”と“エヴェストルム”の二槍流。共に2m近い長さを誇る武装だ。降下してくる太陽の下、“グングニル”を投擲。能力を解放していないために必中必殺の効果は無い。が、その一撃によって防御でも回避でもいい、何かしらの行動を取ったその一瞬の隙を突く。
バンヘルドは“グングニル”の強大さを憶えているようで、防御でも迎撃でもない、回避行動を取った。エラトマ・エギエネスを靡かせての横移動。その移動先へと飛行軌道を変更して、バンヘルドへと急速接近。

――豊穣伸の宝剣(コード・フレイ)――

そして、術者の意思や体の安全を無視して常に最良の一撃を対象に放つ斬撃の魔道フレイを繰り出す。全弾空になっているためカートリッジの魔力に頼ることが出来ない今、記憶消失覚悟で自分の魔力を使用しての発動。ズキンと頭痛が起こる。1機につき1回の記憶喪失。“エグリゴリ”を救う代償としては安過ぎる。

(どれでも持って行け・・・!)

“エヴェストルム”を斬り上げるように振るう。バンヘルドは迎撃を選び、“ケンテュール”を“エヴェストルム”に向け振り降ろしてきた。ここでフレイの効果が発動。斬り上げの最中にガクッと軌道を変え、薙ぎ払いの斬撃となった。

「ぬっ・・・!?」

空振りしたバンヘルドは体勢を大きく崩しながらも、無理やり体を捻り前屈みになって、フレイの効果を持つ“エヴェストルム”の直撃を避けた。だが背中側をこちらに向けるような体勢になったことで翼――エラトマ・エギエネスだけは避けきれなかった。20枚全てを半ばからバッサリと斬り捨てる。そして空いている右手を翼の付け根へ伸ばしてガシッと掴む。

「太陽はお前が受けろッ、バンヘルドッ!」

落下してくる太陽に向かってバンヘルドを投げ放ち、結末を見る前にその場から高速離脱。背中にバンヘルドと太陽が衝突したことを示す大爆発の轟音と爆風を受ける。ある程度距離を取って振り返る。あるのは赤々と燃える黒煙。スピードローダーを使って全弾装填し直しながら『各騎、無事か・・・?』確認を取る。

『シグナムとアギト、問題ありません』

『あたしとアイリもピンピンしてるぜ』

『シュリエルも問題ありません』

『シャマルとザフィーラ、大丈夫です』

無事を確認して、心の内でホッと安堵。だがそんな安堵もすぐに緊張に変わる。黒煙の尾を引いて砂漠へと落下、着地したバンヘルドが「やってくれる」と怒りの籠った目で私を睨んできた。対炎熱系術師の“ヴァルキリー”として設計・誕生させたバンヘルドだ。さすがの耐火防御力と言うわけだ。

力神の化身(コード・マグニ)

筋力・魔力と言った全ての“力”を強化するマグニを発動。私たちグラオベン・オルデン全騎に掛ける。

――赫灼装甲(カロル・アルマドゥラ)――

バンヘルドの素肌が赤くなる。熱エネルギーで身体強化を行った事を示す特徴だ。そしてバンヘルドは「いざ・・・!」地を蹴った。ドンッ!と轟音と共に砂柱が立ち上る。向かって来るのは私だと思っていたため、対応が遅れた。バンヘルドが一足飛びで突進したのは「シャマルっ、ザフィーラ!!」の2人だった。

――煉獄兵(プルガトーリオ・インファンタリア)――

彼女たちのもとに向かおうにも溶岩で構成された、数えるのも億劫な人形兵どもに行く手を邪魔される。それだけでなく私はそれらを含めて、ドーム状の火炎結界に閉じ込められた。

「退けぇぇぇえええええええええええええええッッ!!!」

†††Sideルシリオン⇒ザフィーラ†††

我とシャマルの元へ突進してきたバンヘルド。携えるは轟々と燃え盛る鉄槌。その圧倒的な威圧感――死というものは、かつて我を瀕死に追いやったゼフォンの比ではない。我の傍に居るシャマルは「ひっ・・!」死の恐怖に当てられたのか体が竦んで動けなかった。ならば我のすべきことは「我が主より承りし任、果たして見せる」シャマルの護衛、それだけだ。振るわれた鉄槌を後退することで回避した我は、「おおおおお!」魔力を纏わせた拳打で応戦。

「ザフィーラ!」

「お前は下がっていろシャマル!」

火の粉にすら強大な魔力が満ちているな。直撃はもちろんのこと掠っても死、か。いや、今は主の魔導によって強化されている。多少の無茶はいけそうだ。

「雑兵なれど我と神器王の戦にチョロチョロと周りを動き回れては目障りだ。ゆえにまずは貴様らから焼滅してくれる」

――灼槌(ケンテュール)――

「我が主の足を引っ張りたくはない。が、そう易々と殺されるわけにはいかんのだ!!」

――守護の拳――

主の魔導を信じ、鉄槌を真っ向から殴る。目の前が爆炎で真っ赤に染まる。視覚だけでなく聴覚も奪われたようだが、右手の感覚は残っている。消し飛ばされなかったようだ。ならば、「我、盾の守護獣ザフィーラの拳、受けてみよ!!」左拳打を真っ直ぐ打ち込む。人を殴った確かな手応えを感じる。ああ、見えずとも判る。バンヘルドという者の魔力反応が、奴の居場所を我に教える。

「はぁぁあああああああああああッ!」

連続で拳打を繰り出し続ける。中には空振るものもあるが、それでも直撃の手応えもある。ようやく黒煙が失せ、視界を取り戻すことが出来た。我の目前に居るのはバンヘルド。鼻や口端より血を流しているところを見れば、我の拳でも奴に通用するのが判った。
奴は「調子に乗るなッ!」と言ったのだろうか。なおも続く耳鳴りの影響で聞こえなかったが。防御魔力全開で覆った裏拳で振るわれる鉄槌を弾き、奴の鳩尾に拳打を打ち込む。このまま押し切ってくれる。と、思ったのだが・・・・

――灼灼熱閃(フォーゴ・クレラオ)――

「な・・・に・・・!?」

一瞬、赤い何かが閃いたかと思えば・・・「ぐっ、ぐぉぉぉああああああああ!!」我の両腕が切り落とされた。両膝を折り、砂漠に蹲る。何が起きたのかが理解できん。ただ何かしらの攻撃を受け、両腕を失ったという事だけが理解できる。
苦痛に呻いていると「ザフィーラ!!」シャマルが砂を蹴ってこちらに駆けて来るのが判った。来るな、と叫びたいが痛みで声が出ん。顔だけを上げ、バンヘルドを睨み上げる。と、奴は我からシャマルへと目をやった。

「(まずい・・・!)くぅぅおおおおおおおおおおお!」

足の力だけで立ち上がり、シャマルを庇うように立ち塞がる。後ろから「ダメっ、逃げてっ!」と嗚咽の混じったシャマルの悲鳴が。主やシグナム達は、溶岩の人形兵に行く手を拒まれているな。おそらくこちらの様子は見えていまい。

「お前は・・・逃げろ・・・!」

「きゅあ・・・っ!」

力加減をしてシャマルを蹴り飛ばす。「自身より女を護るか。見事だ」バンヘルドが鉄槌を振りかぶる。薙ぎ払うかのように振るわれた鉄槌が、我の腹に直撃。途轍もない衝撃。奴のどこか悲しげな双眸。

――猛炎放出(シャーマ・エゼクサオン)――

燃え上がる鉄槌と我が体。それが、我がハッキリと見た最期の光景だった。

†††Sideザフィーラ⇒シャマル†††

「ザフィ・・・ラ・・・?」

両腕を熱線で消し飛ばされ、鉄槌から放たれた火炎の砲撃でお腹に穴を開けられたザフィーラ・・・。バンヘルドなんて目に入らない程に、私は茫然としていた。横たわるザフィーラの元へ歩く。途中で砂に足を取られて「きゃ・・っ」転んでしまうけど、それでも立ってザフィーラの元へ。ザフィーラの体を「ザフィーラ・・起きて・・・、ねえ、起きて」何度も揺らしながら治癒の魔導・静かなる癒しを掛ける。でも「無駄だ。その男はもう絶命している」バンヘルドの冷酷な声が掛けられた。

「黙りなさいッ!!」

「・・・・はぁ。無駄だと言っているだろう」

「この・・・!」

――風の護盾――

振り下ろされた鉄槌を障壁で防御する。直後に鉄槌から炎が上がる。熱が盾を通り過ぎて私を襲ってくる。汗がブワッと出る。盾が砕けた瞬間、確実に灰にされる。でもザフィーラを放って1人だけで逃げるなんて出来ない。悔しくて涙が溢れて来た。そんな時、『シャマル・・・』思念通話が。「ザフィーラ!?」声を掛ける。

『我は・・もう、ダメだ。・・・だから・・・魔力核を・・・回収・・してくれ・・・』

「え・・・?」

『闇の書を・・・完成・・・たった1機が・・・これでけの、力を・・有し・・・』

それだけで察することが出来た。シュリエルを融合騎として完成させる。これからきっと姿を現す他の“エグリゴリ”にちゃんと対抗できるようにするために。

『我は・・・体が無く・・とも・・主と共に・・・戦い・・・』

「・・・ええ。判ったわ、ザフィーラ」

回り込めばいいだけなのに、バンヘルドはわざわざ風の護盾を破壊しようと鉄槌を振るい続ける。けど、それがさらに恐怖感を煽ってくる。盾がひび割れて行く音が耳に届く。急がないと。「クラールヴィント、お願い!」旅の鏡を使って、ザフィーラの魔力核を回収する。するとザフィーラの体が薄れて行って、「またねザフィーラ」ついには消えた。私はシュリエルのところへ駆けだす。

「次は貴様だ。せめてもの慈悲だ。苦しまずに逝かせてやる」

盾が破壊された。熱を持った爆風によって私の体が宙に投げ飛ばされる。それでいい。おかげでバンヘルドから大きく距離を取る事が出来た。でも「どうすれば辿り着けるの・・・!?」全周囲を溶岩の人形に包囲されていて、どこにシュリエルが居るのかも判らない。それに『オーディンさん! シュリエル! シグナム! ヴィータちゃん!』包囲網の向こう側と思念通話が通じない。

「はぁはぁはぁ・・・熱い・・・!」

気温がどんどん上がっていく。息苦しい。でもザフィーラの苦しみに比べれば。

――咲炎弾(シャーマ・ガヴィアン)――

「きゃぁぁあああああああああ!!」

飛来してくる火炎弾。爆風に煽られながらも私は懸命に耐えて歩みを止めない。けど「しま・・・っ!」すぐ真後ろに着弾した火炎弾。視界が真っ白に染まった。途轍もない衝撃。そして浮遊感。私の意識はそこで一度途切れた。

「・・・・ぅ・・・あ・・・・」

自分の声が耳に届く。生きてる。死んでない。私は砂漠にうつ伏せで倒れていて、「ぺっぺっ」口の中に入ってる砂を吐き出す。痛む体を起こして、「よか・・った・・」胸に抱えていたザフィーラの魔力核の無事を確認する。

(バンヘルドは・・・?)

居た。10mほど先に佇んでいる。鉄槌を携え、前方に発生させた火炎球に打ち込もうとしていた。逃げないと。ザフィーラの魔力核を抱きかかえて、立ち上って逃げようとして、気付いた。立てない。そもそも私の足が「無い・・・?」膝から下の脚が無かった。

「(え? なに、これ・・・うそ・・私の・・・脚・・脚が・・)や・・いやぁぁぁあああああああ!!!」

信じたくなくて「いやああああああ!」叫び続ける。頭の中がグチャグチャにかき乱される。

「2人目の撃破だ」

――咲炎弾(シャーマ・ガヴィアン)――

涙で視界が滲む中、バンヘルドが鉄槌で火炎球を打ち放ったのが見えた。

(あ、私、死んだわ・・・)

迫り来る真っ赤に燃え立つ火炎弾を、他人事みたいに眺める。頭に浮かぶのは、ザフィーラへの申し訳なさと、オーディンさんとの誓いを果たせなかった悔しさと悲しさ。オーディンさん。きっと自分を追い込んでしまうわ。だってすごく優しいから。私たちの死を、自分の所為だって責めてしまう。それは嫌だけど「ごめんなさい」私はもう自力で動くことが出来ないです。仰向けになって目を閉じる。せめて苦しまずに逝きたい・・・。全てを諦めた時、

「貴様ぁぁぁぁああああッ!!」『お前ぇぇぇーーーーーッ!』

――紫電一閃――

目をパッと開けると、2対の炎の翼を背中から発生させているシグナムの後ろ姿が視界に入った。火炎弾を“レヴァンティン”で斬り裂いて迎撃したシグナム。爆風が私の髪を強く靡かせる。そのままバンヘルドの元へと飛んで行く。「待って、シグナム・・・」止めようとするけど、もうすでにバンヘルドと戦闘を繰り広げてしまった。

『ダメよ、シグナム。戻って・・・あなた、左腕が・・・!』

『問題ない! それよりお前だシャマル! お前、脚が・・・!』

シグナムの左腕、明らかに真っ黒に炭化していた。きっと無茶したに違いない。あんな状態で衝撃が加わると、腕が確実に崩れてしまうわ。私の脚はもう治らないけれど、シグナムの腕ならオーディンさんの魔導で治るはず。だからそう言ったのだけど、『無駄だよシャマルっ。あたしが言っても聞かなかったもんっ』泣きそうな声で応じたアギトちゃん。

「だったら・・・クラールヴィント!!」

――静かなる癒し――

戦闘中のシグナムに治癒魔法を発動させる。腕は治せないけど、その他の傷や体力・魔力は回復できる。シグナムから『すまん!』感謝の思念通話。ただ『気を付けて。シグナム、アギトちゃん』応援するしか出来なくて。ううん。私にだって出来る事はあるはず。そうだわ。歩けないなら飛べばいい。

「あ・・・あああああああああああああああ!!!」

力を振り絞って、勢いよく飛び上がった。上空からなら戦場の様子がよく判る。溶岩人形――と言うより炎の包囲壁が幾つもある。私たちの居た場所、ヴィータちゃんとアイリちゃんの居る場所、シュリエルの居る場所。
そして「オーディンさん・・・!?」の包囲壁だけは尋常じゃなかった。半球状の火炎包囲。横だけでなく空にまで火炎で蓋をされてしまっているわ。時折、蒼い砲撃が半球を穿つけど、すぐに元に戻ってしまう。あれだと脱出できない。今の私にオーディンさんを救う手段はない。なら今はシュリエルと合流して・・・

――灼灼熱閃(フォーゴ・クレラオ)――

「っ・・・え・・・?」

私を背中から貫いたのは・・・ザフィーラの腕を斬った熱線だった。

「あ・・・(オーディ・・・・)」

†††Sideシャマル⇒シュリエル†††

溶岩の人形を片っ端から砲撃で消し飛ばすが、一向に数が減らない。私を包囲している火炎の壁が原因だろう。あれが無尽蔵に兵を増やしていく。真の“エグリゴリ”というバンヘルドの実力を、私は――おそらく守護騎士全員が完全に甘く見ていた。

「チマチマ撃っていては埒が明かないな・・・!」

ならば火炎の壁に近づき、デアボリック・エミッションで穴を開けてくれる。いざ行動を移そうとした時、空から何かが落ちて来るのが判った。目を凝らし、それを視認した瞬間、血の気が引いた。

「シャマル!!」

――ブルーティガー・ドルヒ――

迫り来る人形どもの頭部を粉砕。動きを止めたその隙に落下してきたシャマルを抱き止める。息を呑んだ。シャマルの胸には穴が開いており、しかも焼かれたのか両脚を失っていた。それだけではない。「ザフィーラ・・・お前、まさか・・・!」大事そうに抱えていたのは1つの魔力核。
色からしてザフィーラの物で間違いない。今になって気付く。“闇の書”の管制プログラムだというのに、今さらシャマルとザフィーラの気配が微弱になっていることに。

「っ・・・。闇の書。蒐集開始・・・」

≪Sammlung≫

ザフィーラとシャマルの魔力核を取り込む。次に2人に逢う時は、次の転生での戦場だ。666頁まで残り僅か。シグナムとヴィータの魔力核でちょうど666頁に達する。シャマルの体の消滅を見送り、火炎の壁の向こう側に居るであろうバンヘルドをキッと睨み付ける。

「おおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

火炎の壁に突撃し、「闇に染まれぇぇぇええええええッ!」デアボリック・エミッションを発動し、壁に穴を開ける。エミッションの中を通り、外へと脱出。すぐに『オーディンっ、シグナムっ、ヴィータっ!』思念通話を通すものの繋がらない。

「どれだ!? どの火炎の壁の中にシグナムとヴィータは居るっ!?」

オーディンはおそらく単独でも大丈夫なはず。しかしシグナムとヴィータはそうはいかないかもしれない。そうだ。空から見ればいい。「羽ばたけ、スレイプニール!」空へと上がり、一気の高度を上げる。まず最初に見えたのが、「シグナム!!」がバンヘルドの放った火炎の砲撃の直撃を受けた様だった。すぐさま救出するため、「響け!」砲撃ナイトメアをバンヘルドに放ちながら急降下。

「4人目は貴様か? 銀の髪を持つ者よ」

鉄槌でナイトメアを弾き返したバンヘルドにそう問われる。私は「いや。もう誰も貴様の手によって死なせはしない!」言い放ち、

――ブルーティガー・ドルヒ――

25基の短剣を一斉に射出する。物量で押し切る。1発も当らずともいい。僅かでも時間を稼げればそれだけで。シグナムを、最悪アギトだけでも救わなければ。オーディンの仰る通り私たち守護騎士とは違い、アギトは死ねばそれで終わりだ。軌道を変えて砂漠に倒れ伏しているシグナムの元へと急ぐ。

「しっかりしろシグナム!」

いや、このまま楽にしてやった方が良いのかもしれない。左腕と左足を失い、左脇腹は炭化、美しかった長い髪も焼かれて、肩辺りにまでなっている。脈も弱い。もう休ませるのがシグナムの為だ。問題は『アギト、聞こえるか!?』アギトの生死確認だ。

「死にぞこないに何を言っても無駄だ。このまま貴様と鉄槌を携える少女を討ち、最後に神器王を討つ」

「っ! 言っただろう? これ以上は、誰も殺させないと!!」

バンヘルドと対峙しながらも『アギト!』何度も呼びかける。シグナムの魔力核を取り込まねば、“闇の書”と共に転生できなくなってしまう。だからすぐにでも蒐集しておきたいがアギトが内に居る今、蒐集は出来ない。魔力核を蒐集した後、融合中のアギトがどうなるか判らないからだ。

――ハウリングスフィア――

魔力球を5基展開する。近付かせるわけにはいかない。だから弾幕を張る。

――ナイトメアハウル――

6本の砲撃を放った直後にブルーティガー・ドルヒを展開、射出。すぐにもう一度ナイトメアハウルを放つ。射砲撃による弾幕だ。魔力消費が凄まじいが、弱音など吐いている余裕も暇もない。バンヘルドは実力差を見せつけるためか避けようとはせず、炎の壁による防御や鉄槌による迎撃を見せつけてくる。

『アギト! 聞こえるなら融合を解け! そのままではお前も一緒に死ぬことになる!』

「死にぞこないを庇って死ぬなど、無様な終わり方だぞ」

「黙れ! それ以上私の家族を愚弄するなッ!」

頼むアギト。早く目を覚ましてくれ。私もそう長くはもたない。少しずつ弾幕の中を歩いて近づいて来るバンヘルド。彼我の距離は約20m。死を運んでくる足音。少しでも遅らせるために休まず弾幕を張り続けていたところに、

「んだよ、これ・・・どうなってんだよこれ!!」

頭上から聞こえてきたのは「ヴィータ!?」の怒声。ハンマーフォルムの“グラーフアイゼン”は、全体にヒビが入っているように見える。それにヴィータとアイリの融合はすでに解けている状態だ。ヴィータが胸に抱えているのはグッタリとしているアイリ。頼むから気絶であってくれ。

「ほう。お前もあの包囲を抜けたか。見れば判るだろう。女剣士はもう助かるまい。狼男ともう1人の女はすでに死んだ。残るはお前と、女剣士を庇っているその女。そして私の標的である神器王のみ」

「な・・んだって・・? おい、テメェ。今、なんつった? 誰と誰が死んだって・・!?」

ヴィータが私とシグナムの傍に降りて来た。俯いていて表情は見えないが、理解できないという呆けたものかもしれない。私は「シャマルとザフィーラが死んだ。魔力核はすでに蒐集済みだ」と漏らす。ギリッと歯噛みした音がヴィータから聞こえた。

「嘘だよな・・・? 嘘だって言えよシュリエル・・・。嘘だって言えよッ!!」

「・・・嘘ではない。2人はもう居ない。シグナムももう・・・・」

「アイツか・・・。アイツが、シャマルを、ザフィーラを・・・シグナムも・・・!」

「ああ!! あの者が、私たちの家族を奪ったッ!」

共にバンヘルドを睨み付ける。奴は涼しい顔をして「怨むなら私ではなく神器王を怨め」と、オーディンを怨めと言う。怨めるものか。私たちが無理を言ってついて来たのだ。この結果は自己責任だ。ヴィータもそれが判っているからこそ「ざけんなっ! あたしらが怨むのはテメェだけだッ!」と怒鳴る。バンヘルドを含めた“エグリゴリ”がかつてのオーディンの仲間であろうと、オーディンの本当のご家族や仲間、シグナム達を死に追いやったことは事実。

「そうか。まぁいい。どちらにしろ貴様たちはこれにて終焉だ」

――煉獄巨神顕現(アポストロ・ムスッペル)――

バンヘルドから強大な炎が噴き上がった。強烈な熱波が放たれ、堪らず腕で顔を隠す。熱波が弱まったことで腕を退け、そして見た。目の前に居たのは火炎の巨人。唖然と巨人の足元から頭上まで目をやる。あんなモノの攻撃を受けたとなっては確実に死んでしまう。

「シュリエル! シグナム達を連れて逃げろッ! あたしが時間を稼ぐ!」

「馬鹿を言うな! アイリとの融合が解けている今、お前では――」

「判ってんよ! それでもお前なら守れんだろっ、アギトとアイリを!」

≪Explosion. Gigant form !≫

ヴィータはアイリを私に寄越し、ひび割れた“グラーフアイゼン”をギガントフォルムへ変形させ、バンヘルドの頭上へ向かって飛び上がって行った。

「止せヴィータ! 今はオーディンと合流することを――」

「ぅく・・・っ・・・」

背後で倒れているシグナムの方から声が。振り向けば、シグナムの胸の上で呻いているアギトが居た。アイリと同様に気を失っているようだ。悪夢を見ているかのように苦しそうに顔を歪めている。アイリと一緒にアギトも胸に抱きかかえ、“闇の書”にシグナムの魔力核を蒐集させる。消滅するシグナムの体を見送った直後、爆音と衝撃波が私を襲った。遅れて近くに勢いよく落下した何か。

「なんだ・・・!?」

巻き上がる砂塵に目を細め、何かが落下した方へ目をやり注視する。砂塵が治まり、ソレが何なのかが判った。

「ヴィータ・・!」

強く歯を噛みしめる。騎士甲冑が全て粉砕され裸体を晒しているヴィータ。見ただけで判る。息をしていないということが。

「残るは貴様だけだ」

「ヴィータ。お疲れ様だ・・・」

ヴィータの魔力核を蒐集することで“闇の書”の666頁すべてが埋まった。私たちの主であるオーディンの承認を経て、“闇の書”は真に覚醒する。

「オーディン。今、あなたの元へ参ります!」

アギトとアイリ、“闇の書”を胸に抱え、バンヘルドに背を向けてこの場から飛び立つ。向かうのはオーディンのいらっしゃるところ。「無駄な足掻きを」火炎の巨拳が連続で振り下ろされてきた。拳打を右へ左へと避け続ける。魔力で全身を覆うパンツァーガイストを発動、続けてベルカ魔法陣形の障壁パンツァーシルトを展開。

「おおおおおおおおおおおおッ!!」

最大防御で火炎の壁に突っ込む。この先に、オーディンが・・・! 力の限り炎の中を翔ける。頼む、障壁よ、もってくれ。オーディンと合流できるまで。

「(抜けた・・・!)・・・オーディン!!」

火炎の壁の中、オーディンは確かに居らした。まったくの無傷とは言えない、無残な御姿で。上半身はほとんど裸で、火傷が酷い。それでも懸命に“グングニル”を振るって溶岩人形を粉砕し続けていた。ハウリングスフィアを5基展開。「響け!」6本の砲撃ナイトメアハウルを放ち、オーディンのお傍に立つ人形どもを消し飛ばす。

「オーディン!」

「シュリエル!? くっ、邪魔をするなッ!」

――知らしめよ(コード)汝の忠誠 (アブディエル)――

オーディンの胸に飛び込んだ直後、“グングニル”の2つの穂より十数mの魔力刃が生まれた。振るわれる“グングニル”から生えた魔力刃が周囲に居る人形どもをバラバラに一掃した。新手が生まれるまでの短い猶予。私はオーディンに告げた。シグナムもヴィータもシャマルもザフィーラも、皆がバンヘルドに敗れたことを。

「私の・・所為で・・みんなを巻き込んだから・・・私が、シグナム達を・・殺した・・・」

「違いますっ! そうではありませんっ!」

「結局、私はまた、家族を守りきることが出来なかった!!」

自分の顔を殴り始めたオーディン。「違いますっ。あなたの所為ではありませんっ!」そうお止めするが、子供のように泣くオーディンの腕力には敵わない。

「皆はあなたの所為だと思っていませんっ。自分の意思でこの戦場に立ち、戦ったのですっ。敗死は自己責任なのですっ! ベルカを訪れる前にすでに戦争を知っているなら判っているはずっ! 皆の死は、あなたの所為ではないっ! それにっ、皆の命はここに在ります!」

“闇の書”をオーディンのお顔の前に突き付ける。ようやく自傷行為をお止めになったオーディンの目が“闇の書”に向く。

「我らが闇の書の主、オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード。闇の書はついに完成いたしました。あとはあなたの承認によって、覚醒いたします。支天の翼シュリエルリートを融合騎として完成させ、私をあなたと共に戦わせてください」

「シュリエル・・・。みんな・・・」

オーディンは“闇の書”に手を伸ばしそっとお触れになった。そして「主として、覚醒の承認をする」と先程までと打って変わって凛としたお顔でそう告げた。最期の最期で私はオーディン、あなたと一体となれるのですね。ようやく融合騎として、あなたのお力になれる。

「闇の書の主、オーディンの承認を確認。闇の書、覚醒します」

あらゆる制限が解けていく。私は“闇の書”の表紙に手を乗せ、オーディンが私の手の上に手を添える。共に「融合!」と告げる。この身がオーディンと一体になる感覚。さぁ、行こう。私たち守護騎士ヴォルケンリッターの意志は、必ずオーディンに勝利をもたらす。

†††Sideシュリエル⇒ルシリオン†††

愛おしい家族を犠牲にし、私は“夜天の書”を完成させた。シュリエルを融合騎として覚醒させ、いま融合を果たす。鏡が無いため今の私の姿がどうなっているかは判らないが、今はそんなことなどどうでもいい。

「アギト。アイリ。ここでさようならだ」

砂漠の上で横たわっているアギトとアイリを魔力球に閉じ込め、胸に抱える。まずはここから出ないとな。私の上級魔道をいくらぶつけても破壊できなかった火炎結界。バンヘルドがここまで強大になっていたなど想定外にも程がある。

「かくれんぼは終わりだ」

どうやって破壊しようかと考えていたところで、結界が消え失せた。炎の巨人と化す魔道アポストル・ムスッペルを発動しているバンヘルドの顔を見上げる。好機だ。魔力球に包んだアギトとアイリを、魔力で人工的に発生させた風に乗せてアムルへと飛ばす。シュリエルが『さようなら、アギト、アイリ』別れを告げた。

『オーディン。私たち守護騎士は、エグリゴリの実力を甘く見過ぎていました。申し訳ありません』

『謝らないでくれ、シュリエル。今はとにかく・・・勝つぞ』

『はいっ!』

――第二級粛清執行権限解凍――

魔力リミッターを解放。この状態で魔道を発動すると確実に記憶を失う。が、シュリエルと合流するまでに何度か記憶を失った。だからもう恐れることも無い。

「行くぞ、バンヘルド・・・!」

――女神の宝閃(コード・ゲルセミ)――

“グングニル”の穂先より砲撃を放つ。頭痛や胸痛を覚悟していたが起こらなかった。バンヘルドは巨体故に回避することが出来ず、防御の為に右手の平を翳して受け止めようとした。直撃する前に私はバンヘルドの頭上へと飛び、遅れてゲルセミが右腕を貫き、粉砕。そして私は“グングニル”の能力を解放。脳天に目掛けて、「目醒めろ、グングニル!!」投擲する。

「ぐおおおおおおおおおお!!」

頭頂部から股下までを一直線に貫いた“グングニル”によって火炎の巨人が解除される。姿を現したバンヘルドの両腕が根こそぎ消し飛んでいた。手元に戻って来た“グングニル”を手に取り、一気に畳み掛けるために上級魔道の術式を連続で構築、発動させていく。

――雷神の天罰(コード・トール)――

遥か頭上に直径200mのアースガルド魔法陣を展開。そこからバンヘルド目がけてピンポイントで雷撃を落とす。バンヘルドは新たに展開させたエラトマ・エギエネスによる滑らかかつ高速移動で避け続ける。だがな、私という本体の攻撃を忘れてもらっては困る。

――女神の夜宴(コード・ノート)――

「これは・・・!」

夜間限定で発動できる、私の有する闇黒系魔道の最強であるノート。闇夜が球体上に物質化し、バンヘルドを取り込み閉じ込めた。闇の球体はバンヘルドを取り込んだまま収縮。今頃は球体内で闇黒系魔力の連続爆発が起こっているだろう。逃げ場のない爆発の波にバンヘルドは呑まれている。最後は球体ごと爆発を起こし、球体の欠片は再び闇夜に還っていった。

『これが、オーディンの魔導式・・・! ここまで複雑なもの、見たことが無い・・・』

『気分は悪くなっていないかシュリエル? アイリはクラクラしたと言うが』

『はい、問題ありません。術式に補助が出来ないことに悔しさがありますが』

シュリエルの抱く悔しさというものを感じる。融合しているからだろうか。しかし頼もしい限りだ。融合状態なら記憶喪失は起こらない。これならガーデンベルグ達が今すぐ現れても戦い抜ける。

「おのれ・・・神器王ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおッ!!」

――焚灼槌龍(メテリオト・ソル)――

バンヘルドはボロボロになりながらも火炎龍となって突撃して来た。私は「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想」と、アンスールメンバーの術式や武装を具現する呪文を詠唱。親友にして戦友である炎帝セシリスの神器・“煉星剣レーヴァテイン”を具現。
ズキンと起こる頭痛。ああ、やはりこれだけのランクとなると記憶喪失は免れないか。一瞬で何らかの記憶を失った。しかしそれに構っている暇はない。“レーヴァテイン”の火炎発生能力を最大限に発動させる。峰を向かい合わせた2つの刀身に、竜巻状に紅蓮の業火が発生する。

「さぁ、行こうかセシリス!!」

――ええ。行こう、ルシル!――

バンヘルドに殺されたセシリスの神器と魔道で、バンヘルドに眠りを与える。復讐のつもりはない。ただトドメの一撃は、アンスールメンバーの魔道でつけようと昔から考えていた。セシリスの声が聞こえた気がした。彼女の声の幻聴にも後ろ暗い感情は感じられなかった。あるのは、“エグリゴリ”を解放したい、救いたいという想いのみ。

(長い間、放っておいてすまなかった。おやすみ。私とシェフィリスの可愛い息子・・・)

燃え盛る“レーヴァテイン”を頭上に掲げ、

「さようならだ、バンヘルド!・・・天壌滅する(レーヴァ)・・・原初の業火(テイン)ッ!!」

一気に振り降ろした。刀身より放たれる剣状の火炎砲撃。火炎龍バンヘルドと火炎砲撃レーヴァテインが真っ向から衝突する。拮抗する間もなくレーヴァテインはバンヘルドを呑み込んだ。後に残るは静寂。地平線の彼方が少しずつ明るみを見せ始める中、

『勝った、のですか・・・?』

『ああ。バンヘルドの反応が消失した。私たちグラオベン・オルデンの勝利だ』

とは言えまだ一戦目だが。バンヘルド1機に私たちは壊滅状態だ。“夜天の書”の暴走までの残り時間が気になるが、今シュリエルを失うのは痛い。

『あの、オーディン。一度融合を解いてもらってもよろしいですか?』

『ん? ああ、やはり融合初回から飛ばし過ぎたからな。すまない、無茶をさせた』

融合を解く。私の目の前に現れるシュリエル。待ち望んだ融合を果たし、勝利したことで満足そうな顔、そしてシグナム達の犠牲の果てでの今だということに悲しげな顔、その2つの複雑な感情が入り混じった表情なシュリエル。

「いいえ。守護騎士の総意ですから。皆も喜んでいます」

“闇の書”を愛おしそうに抱きしめたシュリエルは「オーディンも褒めてあげてください」と私へと差し出してきた。腕を伸ばして「よく頑張ってくれたな、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ」と表紙を撫でる。

「ありが――」

――影渡り(シュルプリーズ)黒き閃光放つ凶拳(ソワール・エロジオン)――

――掃討猟犬(ミュート・スレイヤー)嵐槍百花(クライシス・エア)――

至近距離と遥か彼方からバンヘルド以上の神秘を宿した魔力を感知。思考する間もなく“夜天の書”ごとシュリエルを突き飛ばす。直後、暴風の矢が私の右腕を穿ち、消し飛ばした。油断はしていなかった。油断はしていなかったんだ・・・なのに!!

「っ!? オーディ――っ!?」

意識が途切れる直前に見た光景は、影から現れた闇黒系の堕天使レーゼフェアの砲撃で、“夜天の書”ごとシュリエルが消し飛ばされた、というものだった。



 
 

 
後書き
ブエノス・ディアス、ブエナス・タルデス、ブエナス・ノーチェス。

「ヴォルケンズファンのみなさま、申し訳ありません!!」

シュリエル以外を敗死させてしまいました。私だって嫌でしたよ、本当は。
で・す・が! 必要な事ですからっ、今後に必要な結末ですからっ!・・・はぁ。
と言う事で、堕天使戦争第二戦のグラデン(略)VSバンヘルドは、グラデンの勝利で終結。
その直後に、控えていた闇黒の堕天使レーゼフェアと風嵐の堕天使フィヨルツェンの奇襲で・・・。
えー、終わり方からお判りになるかもですが、やはり一話追加になりました。すいません。

 
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