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ソードアートオンライン アスカとキリカの物語

作者:kento
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アインクラッド編
  語らう2人

戦闘開始してから2時間。
倒した亀の数は、ようやく30体になろうとしていた。
1体倒すのに5分近く掛かっている計算だが、順調といえる数値だとアスカは思っている。
最初は拙かった連携も徐々にお互いのタイミングを掴み合ってきて、ペースも上がってきている。

〈月夜の黒猫団〉のメンバーの技術が高いことは予想できたことだった。
なぜなら、いくら攻略組であるキリトがレベリングを手伝ったと言っても、一時的なそれも短い期間の話なのだ。
その後、キリト抜きで攻略組とのレベル差を埋めるだけのレベリングを効率よく且つ安全に行ってきているはず。
それは並大抵の苦労ではなかったはずだ。
攻略組は遊び感覚でなれるものではない。

故にアスカは彼らが確固たる意志を持って、高い能力を持って、明日のボス攻略に望みたいことを理解していた。


だが、1つだけ問題があった。
こちらもアスカが半ば危惧していたことなのだが・・・・・・サチとのスイッチによる連携がどうしても上手くいかなかった。




亀の尻尾が鞭のようにしなって、アスカ目掛け振り下ろされる。
この亀型モンスターが使ってくる攻撃の中で一番軌道が読みにくいが、朝からの戦闘で見続けてきたので動きは把握できているので脅威は感じない。
ステップで攻撃の軌道上から体を横にずらした直後に、バチン! と地面に勢いよく尻尾が叩きつけられる。
ステップ回避は失敗した場合ろくな防御体制も取れずに攻撃をもらってしまうというリスクがあるが、成功すれば回避直後に至近距離から反撃できるメリットがある。
アスカは細剣を体の正中線に構えて、一番馴染み深いソードスキルを発動する。

〈細剣スキル〉単発技、〈リニアー〉。

初期所得スキルだが、アスカの攻略組でもトップレベルのステータスが加わることで、剣先が霞むほどの速度で撃ち出される。
先ほどは失敗したが、今度は頭部のクリティカルポイントへの攻撃が成功して、ライトエフェクトが目を射る。

「サチ、スイッチ!」

アスカは素早く横に飛びずさりながら、サチへと合図を出す。
が、サチは一拍遅れたタイミングで飛び出して来た。
ライトエフェクトが輝く槍を頭目掛けて突き込むも、既に甲羅の中に頭を引っ込めてしまっているので、硬質の壁を叩いたような鈍い音が響く。

「・・・・っ! ごめん、アスカ」

アスカは「気にするな」と返す。
今日の朝から何度も繰り返されてきた光景。
アスカやキリトと入れ替わるタイミングでスイッチをして、動けない亀の頭に至近距離からソードスキルを当てる練習をしているが、サチだけが上手くいっていなかった。



それからまた30分ほど戦闘を続けて、ようやく40匹倒せたところでアスカは声を発する。
かれこれ街を出てから3時間、全員の集中力も切れてきている頃合いだ。

「一旦休憩にするか」

全員が色めき立つ。

「じゃあ、さっさと安全地帯に行こうぜ」

我先にとキリトが近場の安全地帯に向かって歩き出す。
それに続くように〈月夜の黒猫団〉の男性陣が付いていき、少し離れて最後尾にアスカとサチが並んだ。

「お疲れ・・・・」
「サチもお疲れ」

疲れた様子のサチからの労いの言葉にアスカも返す。

「疲れたか?」
「いや・・・・うん、やっぱり疲れたかな。・・・・ゴメンね、あんまり成功しなくて」
「気にするな。昼からの練習もあるし、ゆっくりと慣れていけばいい」
「ありがとう。やっぱりアスカは凄いね。キリトが凄いことは知っていたけど、アスカも強いんだね」
「そうか?」
「そうだよ。さっきまでの戦闘もずっと2人のフォローで助けられてたし」

少しだけ自嘲するような含みのある発言をするサチ。
やはり、午前中の失敗に負い目を感じているようだ。

「ずっと攻略組に居続けているからな」
「そう言えば、アスカとキリトは第1層からずっとボス攻略に参加してるんだよね?」

キリトから聞いたのか、と考えながら、アスカは答える。

「ああ、成り行きでパーティー組んで、それからも結構な頻度でボス攻略では同じパーティーだった」
「へえー、そうなんだ」
「まあ、俺とキリトみたいなソロプレイヤーは除け者扱いだったからな。入れてくれるパーティーが限られていただけだ」

アスカは喋りながら1年も前の事を思い出していた。

デスゲームが開始されて1ヶ月。
死のうとして迷宮区の最奥にて不眠不休で狩りを続けていた時に出会った少女、キリト。
幾度となく危険な場面で協力してボスを倒してきた。
今ではアスカは〈血盟騎士団〉副団長となり、向こうは孤高のソロプレイヤー。
あの時とはお互いの立場も全然違うが、それでもこのように同じパーティーでフィールドに出ていることに奇妙な感慨を覚える。

そこで早足で前を進む黒衣の剣士を視界に捉える。
戦闘中の真剣な表情はどこえやら。
昼飯を食べようと1人で笑顔を浮かべながら早足で安全地帯へと進んでいる。

こちらが真面目に物思いに耽っているのが馬鹿らしくなってくる。

「俺とサチが昼飯用意しているから結局待たないといけないのにな・・・・」
「本当にキリトは食べるのが好きだよねー」

呆れているアスカとは対照的にフィールドに出てから初めて自然と笑みを浮かべたサチが言う。

「まあ、この世界での娯楽っていえば食事くらいしかないから分からないでもないが・・・」

せめてもの抵抗に、敢えてゆっくりと歩きながら、続けてアスカは少しトーンを下げてサチに訊ねる。

「やっぱり、モンスターに至近距離からの攻撃をするのは怖いか?」

サチの表情が硬くなった。

嫌な話に変えて申し訳ないと思うが、全員で取り囲まれた状態でするよりはマシだとアスカは判断する。

先ほどまでの戦闘でサチがスイッチのタイミングを逃していた理由は恐らくそれだ、とアスカは予想している。
亀の頭部に正確にダメージを与えるためには後衛であるサチの槍でもかなり接近してソードスキルを発動する必要があるからだ。

「うん・・・・遠くから槍で攻撃するくらいなら大丈夫なんだけど、今みたいに敵に自分から接近して攻撃するのは・・・・・・」

消え入るような声になってしまっているサチの気持ちはアスカにも痛いほど分かる。

この世界での戦闘はリアル過ぎるのだ。

敵のグラフィックも恐ろしいほどに精密で原始的恐怖を呼び起こすし、こちら側には現実世界での死という危険が常に付きまとう。
自分のことを卑下しているようであまり言いたくはないが、アスカは攻略組でボス攻略に挑んでいる人の方が正常ではないと思っている。
サチのように怯えているほうが普通だと考えている。

「・・・・サチは〈月夜の黒猫団〉が攻略組に入ることに反対しないのか?」

アスカからの問いサチは答えづらそうな表情をする。

「・・・・反対しているわけじゃないけど・・・・・・戦うのは怖いし、逃げたいって考えるときもある。けど、第1層からみんなずっと私のことを気遣ってくれていたから、これ以上足を引っ張りたくはないんだ」
「そうか・・・・」
「アスカには最初に出会った時に私たちがリアルでも部活の知り合いって言ったよね?」
「ああ」

基本的に現実世界での話をするのはタブーだが、気にしていない様子でサチは続ける。

「私は現実世界でも引っ込み思案な性格で、パソコン部のメンバーくらいしか友達もいなかった。だから、あの4人の迷惑にはなりたくないんだ」

薄く笑みを浮かべるサチ。

弱い。

アスカはサチの戦う理由を聞いて、最初に出てきた感想はそれだった。

無論、アスカも悪いとは思っていない。
サチの仲間のために戦うというのは、立派な理由だと思っている。
むしろ〈血盟騎士団〉のメンバーに対してそんな感情を抱かないアスカからすれば誇らしい理由だとも。

だが、そこにサチ自身の覚悟はなかった。
悪く言えば周りに流されているだけ。

この世界で攻略組として戦う者には必ず個人的な目標がある、とアスカは思っている。


アスカ本人なら現実世界への1日でも早い生還。

キリトなら女性プレイヤーとして、自分の身を自分で守れる強さを手に入れるため。

第1層からずっと攻略組に居続けている〈ドラゴンナイツ〉のリーダー、リンドなら最強の称号のため。

軍のリーダーのキバオウならベータテスター抜きでの攻略を望むためだった。


それが全てではなく、他のプレイヤーのために戦っているという部分も含まれてはいるが、いくら取り繕うと利己的な考えが全員にある。
それが当然で、必要不可欠な要素。
自分の中で明確な目標も覚悟も無い者は攻略組としてやっていけない。
死のリスクを背負ってまで戦えない。

「サチ、君はどうしたいんだ?」
「えっ・・・?」
「ひどい言い方だと思うけど、俺はサチ個人に目標が無いのなら攻略組への参加はしないほうが良いと思ってる」
「・・・・・・」
「ボス戦は厳しい。情報誌で取り上げられたから知っていると思うけど、第25層ボス戦じゃあ、10名以上の死者が出た。あの戦いでは俺もキリトもレッドゾーン近くまでHPバーが落ちた。別に俺とキリトのどちらか1人・・・・いや2人とも死んでたとしてもおかしくはなかった。サチが凄いと思っている俺とキリトでも死ぬ可能性はゼロじゃない」

サチには辛い話だと思うが無言で聞いていてくれているのでアスカは更に続ける。

「それに他の選択肢だって存在する。今までのレベリングでかなりのコルを稼いできただろ?」

サチは肯定の意を示すために頷く。

「じゃあ、元手でかなりの出費があるけど、サチの〈料理スキル〉の熟練度ならお店を構えても問題ないはずだ。お店で稼いだコルでケイタ達の攻略を支えるってのも良いんじゃないか?」
「それは・・・・・・」

困惑した様子のサチ。
いっぺんに色々と言い過ぎたかと思うが、別にアスカは善意だけで言っているのではない。
攻略組のレイドパーティーを支える指揮官として戦うアスカにとって、覚悟のないプレイヤーがボス戦に参加するのは迷惑なのだ。
本心としてはサチの事を心配しているが、自分のことで手一杯のアスカに他人のことまで気に掛けている余裕はない。
この会話とて、明日のボス戦で支障がでる可能性があるから、しているだけだ。

「参考として、考えていてくれたらいいよ」
「・・・・・・うん」

サチからの頼りない返事を聞きながらアスカは安全地帯へと歩を進めた。



 
 

 
後書き
いかがでしたか? 

今回はアスカとサチ2人の会話メインです。
ちょっとアスカが厳しいかなーと思いますが、攻略に真剣なアスカならこれくらいは言うかなーと。

早くボス戦に挑めるように頑張ります!

それではっ! 
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