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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  六王の対応

真っ黒な空間。

その中にレンは一人だけで、たたずんでいた。

ああ、とレンはなぜかおぼろげに霞んだ頭でそう思った。またこの夢か、と。

やがて、ぽつぽつと暗闇に《ナニカ》が現れ始めた。それは決して気持ちのいいものではない。

ある物は四肢が飛び、あるモノは下半身が飛び、ある者は首が飛んでいる。全員が全員、眼がありえない方向を向き、手足が残っているものも全ておかしな方向へと向いていた。

レンは顔をしかめる。何度も見ている夢ではあるが、やはり見ていて気持ちのいいものではない。

《ナニカ》達は、さながらB級ホラー映画のように、腕をゆっくりとこちらに伸ばす。

その顔に生気はないが、皆一様に一つの思考をぶつけてくるように思える。

それは………なぜ殺したのか、なぜ殺されなければならないのか。という思い。

それに対する答えは簡単だ。殺したかったから殺した、ただそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない、ただそれだけ。

だが、レンはそれを答えない。

答えても無駄だと知っているから。

言っても聞き入れてもらえないことを知っているから。

彼らの瞳に嘲笑と侮蔑の色が浮かぶだけだと知っているから。

レンの身体に、濃密な闇が纏わりつく。レンは当然のように抵抗しない。どこか達観したように、どこか諦めたようにそれを受け入れる。

振り払っても無駄だと知っているから。

振り払ってもますます纏わりついてくるだけだという事を知っているから。

その闇が何もしてこないという事を知っているから。

闇が身体を包み込む。

閉じられていく視界の隅で、己の手で殺された亡者達がこちらを見ているのが見えた。

ごめんね。ごめんなさい。

もはや儀式のように言っている一言を言うが、返ってくるのは思ったとおりの───

冷笑。

視界が完全に閉じられる。

いつもはここでこの悪夢は覚める。レンは黙って悪夢が覚めるのに身を任す。

だが、一向に目は覚めない。

不思議に思い、目をこじ開ける。だが、目の前に広がるのは、相変わらずの濃密な闇。

いや、違う。はるか彼方に、ぽちんと光点が一つ。それは見る見る大きくなり、ついにレンの体と同等ほどの大きな光点となった。

その形は完全な球形ではない。目を細めてみれば解かるのだが、それは人型をしていた。

だが、光量が大きすぎるのか、それの詳しい姿はまったく解からない。ただ解かるのは、少女ということだけだ。いや、少女というより、あえて言うならば幼女という感じである。

その幼女は闇に沈み込むレンに、静かに手を差し伸べた。無垢で、純粋な手を。何も考えずに。

ただ差し伸べてくれた。

レンはその手を反射的に取ろうとする。だが、躊躇してしまう。

なぜなら、取ろうと上げた腕が血にまみれていたからだ。

レンの腕は擦り傷一つ、切り傷一つ無いが、血に濡れている。

そんな手だからこそ、レンは取ることを躊躇った。

真っ白な手を汚らわしい血で濡らすことを躊躇った。

だが、その少女は宙空で止まったレンの手を抱き寄せた。

レンが驚くのにもかかわらず、べっとりと血に穢れた手を一心に抱く。

少女に触れたそこから、暖かいものが伝わり、広がってくることをレンは感じた。










「………………………………」

レンは、最前線六十九層主街区【センテンス】の宿屋の一室で目を覚ました。当然ながら目覚めがいいとは言えない。

だが、その理由はいつもと少し違っていた。当然ながらその理由は──

「なんだったんだ………あれ……………」

あの少女のことだった。

ベッドの外にぶら下がっていた腕を引き上げ、目に軽く押し当てる。生まれた闇は、さっきまでの濃密な闇とは違い、優しい闇だった。耳には何かも解からない謎の鳥の鳴き声が入ってきて、鼻には窓から入ってくる爽やかな空気が入ってくる。

――あれは、誰だったのだろう。

そんな思考がポツリと浮かび上がった。あれやそれではなく、誰、という言葉を使った。そんな言葉では、自分を助けようとしてくれたあの幼女に失礼だと思ったからだ。

だが、その思考は長続きしない。

すくった砂が、手のひらから零れ落ちていくがごとく、そのいつもと違う悪夢の記憶もまた記憶の残滓が消えていく。

手でいくら記憶を引き寄せても、瞬く間に散っていく。消えていく。落ちていく。

だが、いつまでも寝てはいられない。

今日は、六王会議が開かれるからだ。しかも今回の議題、それはいつもの攻略関係の話ではない。

それはある意味、もうかなり昔の話のように思えるが、《災禍の鎧》討伐作戦の時以上の緊迫感のある議題だ。

あの時は、《災禍の鎧》という明確で、しかも人外のバケモノが相手なので罪悪感は皆無だった。

だが今回は違う。

明確な《ヒト》を相手にするのだ。これで罪悪感が浮かばないのは《ヒト》では無いと、《バケモノ》である自分でもそれくらいのことは判る。

《バケモノ》である自分、レンホウは《ヒト》にはなれない。夢見てもいけない。

《バケモノ》であるレンホウが、《ヒト》に交わろうとした先にはバッドエンドしかない。デッドエンドでも間違いではないが。

《ヒト》を無感情に殺し、無慈悲に殺すのはどんな《ヒト》でも不可能だ。

そう、たとえあのジョニー・ブラックと《赤眼》のザザにすら。

《ヒト》を殺すのは、《バケモノ》だ。

そう世の中は決まっている。決まっている、ということは不変である。不変、ということは必然であり、必然ということは偶然である。

よって《バケモノ》が《ヒト》を殺すのは、ただの偶然ということになってしまう。

そんなことはない。

あれが偶然で片付けられて堪るものか。

そう思いながらレンは左手を振り、メインメニューウインドウを呼び出す。

装備欄に指を走らせ、次々といつもの装備アイテムをタップしていく。

身体が青白いライトエフェクトに包まれる。

それが空中に溶けるように消えた時、そこにはいつもの格好。漆黒のマフラーに血色のフードコートを着たレンがいた。

「よしッ!」

軽くコートの裏に隠れるようなくらい小さなポーチの中身を確認する。

転移結晶三個、回復結晶二個、回復ポーション四個………

全ての個数を確認し、レンは扉を開ける。

目指すは六十一層主街区【ミンヘイ】、その中心に聳え立つ《尖白塔(せんぱくとう)》で開かれる六王会議。議題はもちろん──

殺人(レッド)ギルド、【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】討伐についてだ。










殺人(レッド)ギルド【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)

ソードアートオンラインという名のこのデスゲームが始まった初期から、食い詰めたあげく他のプレイヤーから(コル)やアイテムを奪い取る犯罪者(オレンジ)プレイヤーこそ存在したが、その手口は多人数で少数を囲んで一方的トレードを強要したり、せいぜい麻痺毒を使用したりといった範囲に留まっていた。

実際の攻撃によってHPバーを全損させれば、そのプレイヤーは現実世界でも本当に死んでしまうわけで、そこまでの行為に手を染める覚悟のある者はいなかったのだ。なぜなら、約一万人のプレイヤーは基本的に全員重度のネットゲーマーで、現実世界での犯罪とは無縁に生きてきた人間達ばかりだったからだ。

その、《HP全損だけはさせない》という不文律が破られたのは、たった一人の異質なプレイヤーの出現ゆえのことだった。

男の名は《PoH(プー)》。

ユーモラスな響きのキャラネームだが、意外にも──あるいはだからこそ、奴はある種の強烈なカリスマを備えていた。

その理由の第一は、PoHがエキゾチックな美貌を持ち、また少なくとも三ヶ国語を操るマルチリンガルだったということだ。

おそらくは日本人と西洋人の混血だったのだろうが、日本語に流暢な英語やスペイン語のスラングの混じる、まるでプロDJのラップのような奴の喋りは、周囲に集まるプレイヤー達の価値観を容易に染め変えていった。

ネットゲーマーから、よりクールでタフでリアルでクレイジーなアウトロー集団へと。

そして第二のカリスマ性は、単純にPoHの強さだ。

奴の短剣(ダガー)捌きは天才的だった。

まるで手の延長のように自在に閃く刃は、システム的なソードスキルに頼らずとも、モンスターを――あるいはプレイヤーを切り刻んだ。

ことにどこで手に入れたのか、《友斬包丁(メイト・チョッパー)》という物騒な銘の大型ダガーを手に入れてからの奴は、攻略組プレイヤーですら恐れるほどの実力を身につけていた。六王達とは対極的といえるそのカリスマ性で、PoHは徐々に、徐々に、己を慕って集まったはぐれ者達の心理的リミッターを緩めさせていったのだ。

ゲーム開始から一年が経過した、二〇二三年の大晦日の夜。

三十人規模に膨らんでいたPoHの一味は、フィールドの観光スポットで野外パーティーを楽しんでいた小規模なギルドを襲い、全員を殺した。

翌日、システムには規定されていない《レッド》属性を名乗るギルド《ラフィン・コフィン》結成の告知が、アインクラッドの主だった情報屋に送付された。










「さて、全員揃ったか?」

ヴォルティスが重苦しく言った。まあ、あの筋肉漢が暑苦しくない時なんて無いのだが。

「揃ったようですな」

シゲさんがぐるりと会議室を見回して言った。

円形の会議室の中心に据えられている円テーブルの周囲の六つの革張りイスは、すでに全部埋まっていた。

だが、普段と違うことが一つ。攻略関係の時や、《災禍の鎧》関係の時には会議室の中には各ギルドの副官や参謀が同室するのだが、今現在この会議室にはその影は無い。

【神聖爵連盟】であれば、ウィルヘイムかリョロウ。

【血盟騎士団】であれば、アスナ。

【風魔忍軍】であれば、ツバキ。

【スリーピングナイツ】であれば、シウネーかジュン。

そのプレイヤー達は実質、会議室の本当の支配者といっても過言ではない。

なぜそんなことが言えるかというと、彼らは自身の主の補佐というお役目で来ているのだが、しかしそれはあくまで表面上のことだ。

その裏の目的は、会議で自身の主に不利な契約の妨害、または主に有利な条約の締結。

そんな腹黒い裏があるため、ギルドを持つレンとテオドラ以外の六王メンバーは、会議には絶対に自身のギルドメンバーを一人は連れてくる。諸事情で副官などが来られない時は、代わりのメンバーを引っ張ってくるほどの徹底ぶりだ。

だが、この場には本当に六王以外はいない。その理由は──

「皆すまないな、内通者がいる可能性が最後まで排除できなかった」

ヴォルティスが言い、頭を下げる。どうでもいいが、頭を下げられても喰いちぎられそうな空気が漂ってくるのはなぜだろう。

それにユウキが手を軽く振りながら言う。

「いいよいいよ、閣下。閣下が最後まで内通者を探してたのは知ってるからさ」

その声に全員がうんうんと頷く。

「しかし…………」

「閣下、頭をお上げ下さい」

シゲさんが言う。いつもは柔和そうな糸目がいっそうのこと細められている。

「この場にいる全員、閣下を責める者など居りませぬ。それより、今は差し迫った問題に対応するのがよろしいかと………」

「…………判った」

素直に席に着いたヴォルティスの代わりに、今度はシゲさんが立ち上がった。

「さて……皆様もご存知の通り、先日レン君がPoHと対峙しました。その時、PoHはレン君に低層の階層名を告げ、日時はそっちで決めろ、と言い残し、転移結晶で消え去りました。…………それに間違いはないね?レン君」

シゲさんはテーブルに頬杖を着いているレンに話を振る。だが、帰ってきたのは、心ここにあらずといった風な生返事だった。

だが、歴戦の老人はそれに構わず話を続ける。

「これにより、ユウキ君含む【スリーピングナイツ】にその低層フロアの調査を依頼しました。ユウキ君、調査結果は?」

「あっ、は、はい!」

ユウキは、授業中に急に先生に呼ばれた生徒のように跳ね起きる。

「えーと………あっ…と、これか」

そんなことを言いながら、取り出した用紙をがさがさ弄っている。

「確かに、指定された低層フロアにはラフコフのアジトがあったよ」

「ホントにあったのか!?」

挟んでくるテオドラに頷き、ユウキは続ける。

「そのアジトは洞窟にあって、巧妙に隠されてた」

「洞窟?アジトは圏外にあったのか?」

ヒースクリフが穏やかなテノールでユウキに問う。

「うん。だけどMobが現れない絶妙な位置みたいだったよ」

なるほどとばかりに、テオドラが頷く。

「だったら討伐戦の時に湧いてくるMobの心配はしなくていいって事だな」

「そーいうことになるね」

ふむ、と会議室にひとときの沈黙が降りる。

ヴォルティスがその沈黙を破る。

「よし………ならば早速部隊編成を――」

言いかけたその声は、穏やかなテノールに遮られた。

「待ってくれないか、ヴォルティス卿」

ヒースクリフだった。

相変わらず、何の感情も読み取れない眼を光らせながら

「今回の討伐作戦、悪いが私は降ろさせてくれないかな?」

言った。 
 

 
後書き
なべさん「はろはろ、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「今回から新編入ったね!」
なべさん「おぉ!やっと入ったよ。そー言えば、そんなようなお便りが来てなかったかい?」
レン「そーそー、えーッと、月影さんからのお便りだね」
なべさん「あー、新編を期待されると、本当に読まれてるんだなぁって思うよ!」
レン「何を今さら………えーと、ついでにねぇ、レンがリズにフラグを立てたみたいだーだって」
なべさん「んー、でもさぁ、リズにフラグ立てとかないと、主人公に絡みがなくなるんだよね」
レン「まぁ…………確かに」
なべさん「まぁ、シリカやリズのレンとの絡みは、下手したらALO編までないんだけどね」
レン「ちょ………」
なべさん「基本、原作キャラはキリトとアスナとヒースクリフ以外はあんまり出ないよ」
レン「えー(;´д`)」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいね♪」
──To be continued── 
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