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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第百三十八話 アトランティス

             第百三十八話 アトランティス
シリウスは天使達の中にいた。既にその服も変わっていた。
「それではだ」
夜使が彼に声をかけた。
「そなたのこれからの名前はだ」
「何になるというのだ?」
「詩使だ」
こう名付けるのであった。
「それが今からのそなたの名だ」
「詩使か」
シリウスは与えられたその名前を口ずさんだ。
「それが今からの私か」
「そうだ。詩使よ」
頭使が彼に声をかけてきた。
「我等の同胞よ。よくぞ来た」
「私を迎え入れてくれるのだな」
「当然だ。同胞だからだ」
だからだというのだった。
「これからはな」
「そうか」
「そして詩使」
今度は音使が彼に声をかけてきたのだった。
「これからのことですが」
「人間達との戦いか」
「そうです。双使の仇討ちです」
その言葉が険しいものになっていた。
「その為にも人間達を」
「滅ぼすというのか」
「翅なし達がいなくとも糧が得られることがわかった」
両使もここで言った。
「ならば。人間達を滅ぼしても構わない」
「しかしだ」
「そうだ。待って欲しい」
だがここで。智使達がふと言ってきたのであった。
「双使は死んだのか?」
「まだ生気は感じられるが」
「確かに」
錬使が彼等のその言葉に応えた。
「死んではいないようだな」
「では今何処にいるのだ?」
剛使はそれを問うた。
「双使は今一体何処に」
「それはわからない」
「だが。死んではいない」
智使達はまた答えた。
「それは事実だ」
「おそらくは何処かに潜んでいるのだろうか」
「それではだ」
ここでまた夜使が言うのだった。
「人間達はまずはいい」
「いいというのか?」
「そうだ。それよりも双使だ」
こう頭使にも述べた。
「何処にいるかだ」
「探せというのだな」
「その通りだ」
こうも彼に告げた。
「それでそなたに行ってもらいたい」
「わかった」
頭使も彼の言葉に答える。
「それではすぐに」
「頼んだぞ。ではな」
「夜使は双使にお甘い」
両使がここで不満げな声をあげた。
「全く。生きているとなればすぐにこれだ」
「そう言う御主はどうなのだ?」
だが夜使はその彼にも問うのであった。
「行きたいのではないのか?双使を救いに」
「それは」
「行くといい」
そしてこう言って勧めてきた。
「己が望むようにな」
「わかった。それではだ」
彼もまたそれに従うのだった。
「我も行かせてもらおう」
「頼んだぞ。それではだ」
「うむ」
こうして両使も頷く。彼もまた行くことになった。夜使はさらに動いた。
「そしてだ」
「まだ何かありますか?」
「うむ。詩使」
音使に応えてシリウスに顔を向けてきた。
「貴殿にも行ってもらいたいが」
「私にもか」
「そうだ。行ってくれるか」
こう言うのだった。
「二人とは別の場所を探してもらいたい」
「わかった」
その言葉にまずは頷くシリウスだった。
「それでは。そちらにな」
「そしてだ」
夜使はさらに言ってきた。
「若しロンド=ベルと遭遇すればだ」
「その時はどうするのだ?」
「互いに援軍として呼び合うのだ」
これはシリウスだけでなく頭使にも告げた言葉であった。
「よいな。その時はだ」
「わかった」
「いいだろう」
頭使だけでなく両使もそれに頷いた。
「それではな。すぐに双使を迎えに行く」
「待っていることだ」
こうして彼等はすぐに出撃した。三人が去った後で夜使は。こう言うのだった。
「人との戦いはだ」
「意味がないかも知れないというのだな」
「如何にも」
錬使の言葉に応えて頷く。
「そうではないのか。やはり」
「我等の糧は人からでなくとも得られることがわかった」
剛使は今花の咲き誇る中にいた。
「ならば。確かにそうなるな」
「その通りだ。しかも花を枯らすことはない」
「そうですね」
音使もそれは同じだった。
「私達もそれならば」
「だが。何故だ」
ここで夜使はさらに考えるのだった。
「何故我々は人を糧としなければならなかった?」
「そうですな。それは」
「どう考えてもわかりません」
智使達も言う。
「何者かにそう思い込まされていた」
「だとすれば納得がいきますが」
「それは誰だ」
夜使はその何者かについても考えた。
「誰がそうさせたのだ。一体」
「まずは人を滅ぼす必要もないことがわかった」
これは確かだった。
「そして人を糧とする必要もな」
「では人とはもう戦わない」
「そうされるのですね」
「その通りだ。そうする」
彼は言った。
「今はな。むしろだ」
「むしろ?」
「何を考えておられます?」
智使達が今の夜使の言葉に問う。
「まさかとは思いますが」
「人と和し話すと」
「それもよいかも知れぬ」
実際にこう考えているのだった。
「少なくとも今糧としている人は全て解き放つ」
「糧を全てか」
「いらぬからか」
「そうだ。最早彼等は糧ではない」
また錬使と剛使に告げた。
「ならばもう捉えていることもない」
「わかりました。それでは」
音使がその言葉に応える。
「すぐにそうしましょう」
「最早人との戦いには何の意味もない」
「確かに。それはもう」
「何も」
他の天使達もそれを感じ取っていた。
「我等は花達の中と水だけで生きていられる」
「それならば最早」
「どちらにしろ益のない戦いは終わらせなければならない」
夜使は最早人間達との戦いについてこう考えていたのだった。
「そう思う」
天使達が大きく変わろうとしていた。そしてその天使達が今。ロンド=ベルと再び対峙しようとしていたのであった。
「それであのガキはどっか消えたんだな」
「ああ、そうだ」
神宮寺がチャック=キースに答えていた。
「人は襲わないと言ってな」
「本当だとは思えないけれど」
モーラはそれをあからさまに疑っていた。
「そんなのはとても」
「普通に考えればそうですよね」
ここで猿丸が言ってきた。
「普通なら」
「何かあったのか?ひょっとして」
「はい、ありました」
麗はコウの問いに答えた。
「彼は花畑の中にいた時にその花から糧を得ることができました」
「花から糧を!?」
「そうです。それも人からよりも遥かに彼等に合うものを」
「得ていたのよ。実験の中でそれがわかったのだけれどね」
マリも言うのだった。
「だからもうあの子が人を襲うことはないわ」
「それはいいことだな」
凱もそれには笑顔になる。
「しかしそれであの天使は何処に行ったんだ?」
「それがよくわからないんですよ」
洸が少し項垂れる顔で言ってきた。
「あのまま俺達の手を振り切って何処かに行って」
「それでわからないのかよ」
「何処に行ったのか」
「その通りだ」
ヒイロが皆に答えた。
「何処に行ったのかはな。全くな」
「しかしよ。もう人は襲わないからよ」
「安心していいだろう」
デュオとウーヒェイも皆に告げる。
「とりあえずは安心さ」
「あの天使も助かった」
「そうか。まずはいいこと尽くめと言えるね」
万丈はここまで聞いてまずは頷いた。
「しかし。これで思ったことだけれど」
「どうしたんだ?一体」
「いや。天使達と戦う意味がなくなったと思ってね」
彼が今度宙に言うのはこのことだった。
「彼等が人を糧とする必要がないのならね」
「その通りだな。確かにな」
宙もそれを聞いて頷く。
「あの連中が人を襲う意味がなくなるからな」
「とりあえず彼等と話してみたいな」
万丈はこうも考えるのだった。
「そうしたら他にもわかることがあるかも知れない」
「おい、それは幾ら何でも」
宙は彼の言葉を聞いて怪訝な顔になった。
「無理だろ、あの連中と話なんてよ」
「いや、そうともばかり言えない」
「そう思います」
だがここでトロワとカトルが言うのだった。
「あの子供も考えは人とは変わらなかった」
「ですから」
だからだというのである。
「話してみる価値はある」
ヒイロもここで言った。
「天使達とな」
「けれど今はまだ無理かな」
しかし万丈はこうも考えるのだった。
「ちょっとね。まだお互い話し合える状況じゃないし」
「シリウスは取り戻したいけれどね」
ミヅキが困ったように言った。
「是非ね」
「その為に今必死に天使達を探してるけれど」
メイリンも言う。
「こういう時に限って出て来ないのよね、連中」
「よし、それではだ」
ここでマシュマーが言った。
「正々堂々と名乗りをあげ彼等を呼ぶのだ」
「それで向こうが来るのかい?」
「来る」
キャラにもこう答える。
「何故ならそれが騎士だからだ」
「いえ、絶対来ないと思いますよ」
そのマシュマーにゴットンが突っ込みを入れてきた。
「そんなことしても」
「ゴットン、御前はまだ騎士というものがわかっていないのか?」
「だって私騎士じゃありませんし」
身も蓋もない言葉であった。
「大体それで相手が来たら苦労はしませんよ」
「くっ、騎士道がわかっていない奴だ」
「いや、それじゃあ絶対に来ませんから」
「右に同じです」
ミシェルとルカもそんなマシュマーにクールに告げる。
「天使には天使の流儀がありますし」
「ですから」
「しかし。連中もまた来るのは間違いないだろ?」
アルトはこのことを言うのだった。
「やっぱりな。奴等もあの子供を捜さないといけないからな」
「その通りだよな」
ヘンリーもそのことに頷く。
「だから絶対に出て来るか」
「それならそれを待つか」
オズマは冷静に判断を下した。
「その時にこちらが動くということでな」
「その時になのだな」
クランがそれを聞いて述べる。
「私達が動くのは」
「そうなるみたいね」
カナリアも言う。
「ならそれでいいわ」
「よし、作戦は決まった」
ジェフリーが断を下す。
「天使達が来たその時にだ」
「行動を移すのですね」
「それで話を終わらせる」
こういうことであった。
「一気にな」
「よし、それじゃあな」
「天使共よ。早く来やがれ!」
彼等は天使達が来るのを待った。そしてそれは次の日にもう機会がやって来た。彼等はすぐに出撃し天使達に向かったのだった。
「やいやいやい!」
甲児が彼等に声をかける。
「手前等よく出て来やがったな!」
「翅なしか」
両使が彼の乗るマジンカイザーを見て呟いた。
「やはり出て来たか」
「御前等との戦いもそろそろ終わりだぜ!」
甲児は彼に対して言うのであった。
「いいな。覚悟しやがれ!」
「覚悟か」
両使はそれを聞いて微妙な声になった。
「若しかするとその必要もなくなるかもな」
「むっ!?まさか」
大介は今の彼の言葉からあることを察した。
「彼等も自分自身のことに気付いたのか?」
「そうかも知れませんね」
鉄也もそれに応えて頷く。
「あの様子を見ると」
「そうだな。そうなっても不思議じゃない」
そして大介は鉄也の言葉に応えてまた言う。
「彼等自身のことだからな」
「そうですね。それはやっぱり」
「甲児君」
大介は今度は甲児に対して声をかけた。
「わかっているとは思うが程々にな」
「全滅させるなってことだよな」
「その通りだ。全滅させては彼等の行く先がわからない」
これは作戦で話があった通りであった。
「だからだ。いいな」
「わかったぜ。それじゃあな」
甲児も彼の言葉に頷くのだった。
「大人しくしておくさ。一応はな」
「けれど甲児君だからねえ」
「そうそう」
しかしその彼にさやかとマリアが言うのであった。
「すぐ頭に血が昇って暴れ回るから」
「それが甲児のスタイルだしね」
「何か俺信用ねえのか?」
甲児は二人の言葉を聞いて述べた。
「確かに気が短いけれどよ」
「要するに程々で戦ってってことよ」
ジュンはその彼にわかりやすく話した。
「そこのところを頭に入れてくれるだけでいいわ」
「何だ、それでいいのかよ」
「甲児君は少し後ろにいていいわ」
ひかる波高彼に話した。
「そうしたらやり過ぎないし」
「ちぇっ、何かそれってすげえ性に合わねえんだけれどよ」
それにはかなり不満そうであった。
「全くよ。今回は我慢しろってことかよ」
「そうだわさ。兜はただでさえ暴れるからよ」
「たまには大人しくするでやんすよ」
「今回ばかりはね」
ボスだけでなくヌケとムチャも彼に言ってきた。
「何か俺達もそう言われてるみたいだけどだわさ」
「それでもやることはやるでやんすよ」
「ちゃんとね」
「とにかく今回は戦うこと自体が目的じゃないか」
竜馬が言う。
「だからな。程々にしないとな」
「この辺りがいつもと違うな」
「そうなんだよな」
隼人と弁慶も言う。
「慣れないがな。それでもな」
「やるか。シリウスを取り戻す為にな」
「そのシリウスだけれどよ」
武蔵がここで彼について言ってきた。
「いるか?今」
「いや、何も感じないぜ」
サンシローが彼等に答える。
「そんな気配はよ」
「感じる強い気配は二つだ」
「そうですね。二つです」
「あいつとあいつだな」
リー、ブンタ、ヤマガタケもそれぞれ言う。
「しかしシリウスらしき気配はな」
「いませんね、どうやら」
「いつものあの二人だけだぜ」
「どうやら来ていないのか?」
ピートもそう判断した。彼も感じ取ってから。
「シリウスはここには」
「いや、即断するのは危険だ」
サコンも感じ取っていたがそれ以上に彼の頭脳が彼自身に教えていた。
「援軍で来る可能性もある」
「そうね。戦いの常だから」
ミドリもこれまでの戦いでそれはよくわかっていたのだった。
「援軍で来る可能性はあるわよね、確かに」
「シリウスが来るなら」
彼等と同じく超能力者のタケルも言う。
「その気配は絶対に感じられる。だからその時は」
「わかったぜ。それじゃあな」
「それは任せるな」
皆彼等に対して言う。そうしてそのうえで今は頭使と両使達の率いる軍と戦うのだった。彼等は戦闘を続けるがここで。連邦軍が来たのだった。
「連邦軍が!?」
「どうしてここに!?」
「誰か呼んだのか!?」
皆連邦軍を見て怪訝な顔になった。
「しかも何かよ」
「ああ、おかしいな」
「何かあるのか?」
「あれっ、何かよ」
ここでアレックスが言った。
「俺達の時と似ていないか」
「僕達とって」
「どういうこと?」
ジュゼとイワンがそれに問う。
「何が似てるって」
「一体何が」
「ひょっとして」
ここでハンスも言う。
「初出撃の時と同じとか?」
「そうね」
シンルーがここで彼等のその言葉に頷いた。
「あの時と似てるわ。確かに」
「そうですよね。これって同じですよ」
アレックスもまたここで言うのだった。
「この勿体ぶった雰囲気は」
「やっぱり何かあるわ」
シンルーもまた言う。
「この雰囲気はね」
「さて。何があるかな」
アレックスは何か楽しむ感じであった。
「何で仕掛けて来る?今回は」
「あまりいいものではないようだな」
ここで言ったのは不動だった。
「どうやらな」
「いいものではない?」
「どういうことですか、それって」
今の不動の言葉にクルトとクロエが問うた。
「いいものじゃないって」
「まさか」
「人は隠し事をする時二つの場合がある」
彼は言うのだった。
「一つはいいことをする場合だ」
「あっ、それはわかります」
「僕もです」
つぐみとジュンが応える。
「そうですよね。何か照れ臭くて」
「それでつい」
「そうだ。その時はだ」
彼は言うのだった。
「隠す。恥ずかしくてな」
「じゃあもう一つは一体」
「何なんでしょうか」
「悪事をする場合だ」
それだというのである。
「その場合に隠すのだ」
「!?じゃあよ」
「今回はまさか」
「おそらくはな」
彼はまた言う。
「出て来る、今な」
「!?あれは」
「まさか・・・・・・」
「アクエリオン!?」
何とここでアクエリオンが出て来たのであった。しかし何かが違っていた。
「いや、何か違う!」
「何だあのアクエリオンは」
「一体・・・・・・」
「強攻型アクエリオンだ」
連邦軍の方から声がした。
「これはな」
「強攻型アクエリオン!?」
「何だそりゃ」
皆それを聞いて驚きの声をあげた。
「普通のアクエリオンじゃないのか!?」
「まさかと思うけれどな」
「その通りだ。これは一人で乗ることのできるアクエリオンだ」
連邦軍の司令官が言ってきた。
「そう、天使達に対する切り札なのだ!」
「おい、俺達がいるのにかよ」
ピエールは今の司令の言葉に怒りの声をあげた。
「そんなの用意してやがったのかよ」
「当然と言えば当然だ」
しかしここでレイヴンが言った。
「備えをしておくことはな」
「備えかよ」
「予備を置いておくことは戦略の基本だ」
レイヴンは次にこうも話した。
「今回もそれは同じだ」
「そうかよ。何か釈然としねえがな」
「問題はだ」
ピエールに応えてまた言うレイヴンだった。
「それに乗っているのが誰かだ」
「誰か!?」
麗花はそれを聞いて声をあげた。
「そういえばあのアクエリオンは人が乗っているみたいだけれど」
「嫌な予感がしない?」
「そうね」
「何か」
テセラとチュクル、それにコリニアは胸騒ぎを感じていた。
「ひょっとしたらと思うけれど」
「何?この嫌な感触」
「まさかと思うけれど」
「いや、おそらくそのまさかだ」
ここでサンドマンも言った。
「あの中にいるのはだ」
「さあ行け新たなアクエリオンよ」
またここで司令官が言う、
「そして天使達を退けろ」
「はい」
「!?」
「あいつは!」
ここでモニターにそのパイロットの顔が出る。それは。
「グレイ!」
「グレイ=アンダーソン!」
シルヴィアとリーナが彼の顔を見て叫んだ。
「嘘・・・・・・どうしてあんたが」
「まさか。治療中に」
「その通りだ」
また司令官が言う。見れば彼の右目を覆い隠すようにして羽があった。その羽こそは。
「あの天使の子供の羽を移植したのだ」
「何てことを・・・・・・」
「そこまでしてかよ」
ロンド=ベルの面々はそれを聞いて顔を忌々しげに歪めさせた。
「おい、あんた達自分のしたことがわかってるのかよ!」
「そうよ、そこまでしてどういうつもりよ!」
「どういうつもりだと!」
連邦軍司令官がまた言ってきた。
「天使は敵だ!しかも我々を害してきた!」
「だからああしたっていうかよ!」
「黙れ!」
司令官はここで一喝するのだった。
「奴等が何をした!そして我等には奴等の力が必要だからだ!」
「だからかよ」
「そうだ」
アポロに対しても言うのだった。
「それがどうしたのだ。それよりも」
「何だ?」
神宮寺は彼が何を言いたいのか察した。
「あのことか?」
「そうだ。御前達があの子供を連れて行ったな」
「さてな」
ヒイロは彼のその問いに白を切ることにした。
「証拠はない筈だがな」
「証拠はないがそれでも子供は解放された」
「いいことだ」
ヒイロは簡潔に言い切った。
「少なくとも非道は止められた」
「非道は止められたか」
「そうだ」
司令に対してまたしても簡潔に言い切った。
「その通りだ。いいことだ」
「いいことだというのか。子供がまだいればより多くの移植ができたというのにな」
「それで何になるというんだ・・・・・・」
洸は彼等の言葉に苦い顔を見せた。
「そんなことをして何になるんというんだ」
「何になろうとも勝てばいいのだ」
軍人としての言葉であった。
「違うか。それは」
「一つ言っておく」
神宮寺の言葉は厳しいものであった。
「あんたは正義を言っているつもりだな」
「如何にも」
やはりそうなのだった。
「その通りだ」
「しかしそれは間違って正義だ」
こうこの司令官に対して言うのであった。
「確かに天使達は俺達の敵だ」
「それは認めるのだな」
「だが。その捕虜を、子供を犠牲にするのは正義じゃない」
これが神宮寺の考えであった。
「だからだ。俺達はあんた達には賛成しない!」
「ではどうだというのだ!」
「俺達は俺達で戦う!」
何時になく強い声での言葉であった。
「ロンド=ベルとして!人間として!」
「人間だと・・・・・・」
丁度ここでシリウス達の援軍が来たのであった。
「人間がまさか。双使を」
「だとすればどうする?」
ヒイロがそのシリウスに対して問うた。
「御前も同じ人間として」
「私が人間だというのか」
「そうだ」
彼に対してもかける言葉は簡潔なものであった。
「人間以外の何者でもない」
「戯言を」
否定するがその顔は苦しいものであった。
「私は天使だ。人間ではない」
「人間ではないか」
「そうだ。見るのだこの翅を」
言いながらその右手の翅を出してみせるのだった。
「これをな」
「翅!?」
「それか」
「そうだ。そしてシルヴィア」
今度は妹に対して声をかけた。
「御前もだ」
「私も。それじゃあ」
「見るのだ。己の翅を」
「えっ、これは・・・・・・!?」
シルヴィアの手からもそれが出るのだった。あの天使の翅が。皆それを見る。しかしであった。
「それがどうかしたのかよ」
「何っ!?」
「それがどうかしたのかよって言ってるんだよ!」
アポロがシリウスに対して言ったのだった。
「こんなのがどうかしたのかってんだよ!」
「馬鹿な、翅が見えなかったのかよ」
「見えたさ」
アポロはそれは認めた。
「しかしな。それがどうかしたんかよ」
「翅を。天使の翅を見ても言えるのか」
「ここにいる奴等はな。色々な奴がいるんだよ」
彼が言うのはこのことだった。
「けれどな。その心は人間だ!人間なんだよ!」
「人間だというのか」
「そうだ。そしてシリウス!」
彼はシリウスに対して言葉を続ける。
「御前も人間なんだ!」
「私が人間だと!?馬鹿な」
「いえ、そうよ」
しかしここでシルヴィアも言うのだった。
「シルヴィア!?」
「私は人間よ。確かに天使の翅はあるわ」
それは認めるのだった。
「けれどこれがあっても」
「あろうともだと」
「そうよ。私は人間よ」
このことをまた言う。
「人間だから。私は」
「馬鹿な、そんなことは」
「いえ、そうよ」
しかしまだ言うシルヴィアであった。
「そして兄さんもまた人間なのよ」
「そんなことがある筈が・・・・・・」
「シリウス、御前も人間なんだよ」
アポロはまた彼に告げた。
「その心が人間だからな」
「天使も人間だと・・・・・・」
「だからこっちに戻れ!」
今またシリウスに対して叫んだ。
「俺達のところにだ。戻れ!」
「嘘だ。それは」
シリウスはそのことを必死に否定しようとした。
「私が人間だどと。そんなことが」
「そうだ。それは嘘だ」
頭使が彼のところに来て言った。
「詩使、君は天使だ」
「そうだな」
彼もその言葉に頷く。
「私は天使だ。紛れもなく」
「そうだ。そして」
頭使は今度はシルヴィアに対して顔を向けた。
「御前もまた我等の同胞だ」
「同胞!?」
「そうだ。だから来るのだ」
こう言いながら力を使った。そうして。
シルヴィアを引き寄せていく。そのうえで連れて行った。一瞬のことだった。
「くうっ!」
「しまった!」
ロンド=ベルの面々もこれには打つ手がなかった。
「シルヴィア!」
「今行く!」
「全軍撤退だ」
両使が天使達に指示を出した。
「それでいいな」
「うむ、わかった」
頭使がそれに頷く。
「今は戦える状況ではない。仕切りなおしだな」
「そういうことだ」
こうして彼等は撤退に向かう。しかしここで。
「行くぞ!」
「ああ!」
ロンド=ベルはここで突進した。そうして天使達に追いすがる。
「何っ!?追撃だと!」
「まさか。ここで」
「逃がすか!」
「あいつ等を逃がすな!」
こう言って追いすがるのであった。
そうしてそのまま天使達を追っていく。それを見たグレイも。
「・・・・・・・・・」
「おいグレイ=アンダーソン!」
「何処へ行くつもりだ!」
「俺も行く」
こう連邦軍に対して言うのだった。
「何故かはわからないが」
「!?どういうことだ」
「行くだと?」
連邦軍の者達はそれを聞いて目をしばたかせた。
「彼の感情はコントロールしている筈だ」
「それが何故」
「人の心」
グレイはこの中で呟いた。
「それを見せてもらおう」
「馬鹿な、戻れ!」
「何処へ行くのだ!」
「構わん」
しかしここで。彼等の乗艦のモニターにフィッツジェラルドが姿を現わしたのであった。そうしてそのうえで連邦軍の者達に言うのであった。
「それはな。構わん」
「大統領、何故ですか!?」
「それは」
「ここはロンド=ベルに任せるのだ」
彼は多くを言おうとはしなかった。
「だからだ。いいな」
「は、はい」
「それでは」
彼等も大統領の言葉では従うしかなかった。こうして止むを得なくグレイを行かせる。グレイは一人進みながらロンド=ベルに対して通信を入れるのだった。
「俺も行こう」
「グレイ」
「御前もかよ」
「そうだ。俺も御前達と共に行きたい」
こう麗花とピエールに対しても言う。
「それでいいか」
「ええ、勿論よ」
「断るわけないだろ?」
二人は微笑んで彼のその申し出を受け入れた。
「だって。仲間じゃない」
「戻って来るならそれでいいんだよ」
「そうか」
彼等の言葉を受けて頷いた。その時だった。
右目を覆っていた翅が消えた。まるで霧のように。
「翅が!?」
「まさか」
「いえ、当然のことよ」
驚くつぐみとジュンに対してリーナが告げた。
「これもまた」
「当然のこと。これが」
「そんな・・・・・・翅が消えてしまうなんて」
「翅なんて些細なものでしかないから」
だからだというのである。
「消えて当然のものよ」
「そうね。翅があろうとなかろうと」
「人は人だから」
クルトとクロエが今の彼女の言葉に頷く。
「だから翅なんてすぐに消えたんだ」
「そういうことなのね」
「その通りだ!」
そして不動が叫んだ。
「諸君!」
「はい!」
「行くんですね!」
「その通りだ。今ここで天使達との戦いを終わらせる!」
高らかにこう叫ぶ。
「彼等の地アトランティスでだ」
「アトランティス!?」
「何処ですか、そこは」
それは彼等の知らない場所であった。
「名前は散々聞いたことがありますけれど」
「何処かっていうのは」
「それは南極にあった」
ここで言う不動だった。
「だがそれは今までわからなかったのだ」
「調査でわかったんですね」
「その通りだ」
彼等の問いにまた答えるのであった。
「そこに彼等がいることがな」
「南極にって」
「けれど南極っていったら」
ここで誰もが思うのだった。南極といえばそこにあるのは氷だけである。氷だけの世界にどうしてあの天使達がいられるのかということだった。
「あんな世界だけれど」
「あそこにですか」
「氷の中にも世界がある」
これが彼の説明であった。
「言うならば異なる世界か」
「ラ=ギアスと同じってことね」
「そうですね」
セニアとウェンディはすぐにこう察した。
「つまり。そういうことなのね」
「そう考えるとわかりやすいですね」
「だからこそ容易に見つかりはしなかった」
不動はこのことも言った。
「だがそれがわかった今」
「はい」
「今からそこに」
「その通りだ。全軍で天使達を追撃しそのうえで雪崩れ込む」
これは作戦の通りであった。
「いざ、天使達との最後の決着に!」
「わかりました!」
「やってやりましょう!」
こうしてロンド=ベルは天使達をもう追撃する。天使達もそれを振り切ろうとするが中々できなかった。彼等の動きがあまりにも速いからだ。
「頭使」
「わかっている」
頭使は両使の言葉に苦々しく応えた。
「このままではな」
「どうする?戦うか?」
追撃されるよりは、ということだった。
「ここは。そうするか」
「いや、今戦ってもだ」
ここで声を出してきたのは夜使であった。
「そなた達が死ぬだけだ」
「夜使」
「それが貴方の考えか」
「誰も失うつもりはない」
彼は言うのであった。
「それにだ。双使は見つかったのだな」
「うむ、それは確かに」
「既に先にそちらに向かっている筈だ」
「そうか。ならばよい」
それを聞いた夜使の声が安堵したものになった。
「ならばな」
「それでは我等も」
「帰るべきだというのか」
「そうだ。アトランティスに戻るのだ」
あらためて彼等に告げるのであった。
「いいな」
「だがそれではだ」
「翅なし達がアトランティスに来るが」
彼等が危惧しているのはやはりこのことだった。
「それでもいいのか」
「あの者達に我等の世界に入られても」
「来るのなら来ればいい」
彼の言葉は達観したものであった。
「それで全てがわかるのならばな」
「そうか。わかった」
「貴方の言葉ならば」
彼等も納得するのであった。他ならぬ天使達の長老であるからだ。その言葉を尊重し聞かないわけにはいかなかった。そういうことであった。
「では今から戻る」
「それでいいな」
「戻って来るのだ」
今の夜使の言葉は実に優しいものであった。
「ここにな」
「私もか」
シリウスもまた彼等に問うのであった。
「私も戻っていいのだな」
「当然のことだ」
夜使は彼に対しても優しい声をかけた。
「そなたもまた天使なのだからな」
「そうか」
「そして我々は」
ここで夜使の言葉が変わった。
「我々もまた」
「我々も?」
「いや」
シリウスの問いに応えて言葉を打ち消すのだった。
「これでな」
「そうか。ではいい」
「そなたも戻るのだ」
そしてまた彼に告げるのだった。
「いいな。今すぐだ」
「わかった。それではだ」
「では夜使」
音使も彼に言ってきた。
「我々も今」
「これで最後だ」
夜使はまた言った。
「何もかもがな」
「最後ですか」
「少なくとも何かが終わる」
このことは確かだというのだった。
「何かがな」
「・・・・・・・・・」
天使達は戻りそうしてロンド=ベルがその世界に入った。そこは。
「ここは」
「何だここは」
彼等は周囲を見回して言い合う。そこは天界のようだった。空の世界に塔が並び花が咲き誇っている。そうした世界がそこにはあった。
「ここがアトランティスかよ」
「この世界がか」
「そうだ」
また答える不動だった。
「では全軍戦闘用意だ!」
「そんなのとっくにできてるぜ!」
「こっちもよ!」
それは誰もが既にできていたのだった。
「これで天使達との因果を終わらせる!いいな!」
「はい!」
こうして今天使達の因果が終わろうとしていた。また一つ何かが終わろうとしていた。

第百三十八話完

2009・6・29  
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