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顔をあげる言葉

作者:銀恋
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顔をあげるには・・

  顔をあげる言葉


多分・・大人の汚い世界を見すぎたんだと思う。何を見るにも、いちいち大人の醜い部分が見えるようで。
だって、空を見上げるのも嫌だった。
どうせ、大人の世界みたいなどす黒い色しか見えないんだから。ヒカリなんて、見えない。
ずっと下を向いて歩いていれば、そんな世界を見なくて済む。


そんなある日。小学校一年生になった私は新しく出来た友達と一緒に下校していた。
やっぱり、顔を上げないまま。
すると、後ろから声がかけられた。私の、まだ慣れない苗字が呼ばれる。
立ち止まって振り返ると、最近仲良くなった男の子が居た。
友達に先に帰ってもらうことにして、その男の子の元に走っていく。
どうしたの?と聞くと、男の子は真っ直ぐ私の目を見て言った。

「何でお前、下向いて歩いてるの?」

って。
何で?って・・顔を上げられないからだよって言うと、男の子はふーんと言った。
男の子の真意が分からない私はただ首を傾げた。何でそんなことを聞くのだろう。
私は初めて聞かれたことに戸惑った。
すると男の子は私の横を通り過ぎた。慌てて振り返ると、男の子がこっちを見ていた。
変わらずに真っ直ぐ見つめられる男の子の目に、何故か逸らしたいのに逸らせない強さを感じた。多分、この時の私は怖かったんだと思う。私の過去を見透かされるのが。
でも男の子は私の気持ちなんか知らずに、真上を指差して口角を上げた笑顔で言った。

「この綺麗な空を見れないなんて、格好悪いな」

って。
格好悪いってなんだ。空を見ないことに、格好いいも格好悪いもあるの?
というか、空が、綺麗?
何言ってんの。空は黒い色なんだよ。大人たちと、同じ。自分のことしか考えてない、他人なんて低く見てる・・私利私欲にまみれてる、どす黒い心と同じ色なんだ。
だって、心と空は繋がってるって何かの本で言っていた。

私は、先を歩く男の子から1mくらい離れて歩いていた。やっぱり、下を向いて。
でも男の子の言葉が頭から離れない。綺麗な、空を見れる・・?
ふと・・顔を少しずつ上げていった。顔を上げ切った私の目に写ったのは・・キャンパスに描いたような流れる白い雲に青白い空が一面。雲に所々隠れて隙間から覗く太陽。
思わず、「わあ・・!」と声を上げた。
そこには、私がずっと考えていたどす黒さなんて、無かった。
前を見ると、だいぶ先に歩いていたはずの男の子が笑顔で、私の方を見てた。


あれから幾年が経った。私は、最後の学生生活を送っている。
まだ癖は治ってない。でも、前よりは幾分下を見ないで歩いている。ちゃんと、前を見て歩いている。多分もう少ししたら、流れる周りの景色も楽しめるんだろう。
癖が出てしまったことに気付いたときは、あの言葉を思い出す。
「何でお前、下向いて歩いてるの?」「この綺麗な空を見れないなんて、格好悪いな」

私に、顔をあげて歩く勇気をくれた魔法の言葉。

勇気をくれたあの男の子は今どこにいるんだろう?
もしまた会えたら、ちゃんと言いたい。

「もう下見て歩いてないよ」って。「綺麗な空、見れてるから格好いいでしょ?」って。


大好きだったあの男の子は、今どこにいるんだろう?

 
 

 
後書き
はい、後書きです。銀恋です、ども。
えっと・・とりあえず最初なので・・。簡単に読める超短編です。
メチャクチャな文章だったり、拙い文章でイライラされるかもしれませんが・・。
 
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