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ソードアートオンライン VIRUS

作者:暗黒少年
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約束

 
前書き
現在ケットシー二票、カーバンクル一票です。取り合えず、フェアリーダンスのキャラ選択まで粘ってみる。 

 
「えーん、まだ二週間しか休んでないよー」

 ユキが少し涙目になりながら装備の確認をしているゲツガの背中に抱きつく。

「確かにな。せめて一ヶ月は休みが欲しかったな」

 そう言って装備を着装する。ユキも離れて、攻略時、いつも着用していた赤と白の血盟騎士団の服装に、綺麗な装飾で自分を守るのに最適な盾と美しい装飾の剣を装備した。

「まあ、休みが欲しいなら、今の層を突破してしばらくまた休めばいいさ」

「……そうだね。それなら、今回の層はパーっと素早く攻略しよっか」

「そうだけど、ユキ。今回の層も気を引き締めろよ。どんなイレギュラー性があるかわからないからな」

「わかってるよ。じゃあ、そろそろ本部に向かおっか」

「ああ」

 そして、ゲツガとユキは再び最前線へと足を向けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「「偵察隊が全滅!?」」

 ゲツガ達が二週間ぶりに復帰した時に最初に待っていたのは、衝撃的な知らせだった。ヒースクリフと机をはさんで立つ、ゲツガ、キリト、ユキ、アスナは、その知らせに驚きを隠せない。

「昨日のことだ。七十五層迷宮区のマッピング自体は時間は掛かったが何とか犠牲者を出さずに終了した。だが、ボス線はかなりの苦戦を強いられると予想された……」

 それは誰もが考えることだ。今までも、何度もそんなことがあったのだから。しかも今回はクウォーターだ。二十五層の双頭の巨人、五十層の千手観音のような《サウザンドハンド・ザ・Aシュヴァラ》、こいつらのような規格外のモンスターが出てくる可能性だってある。ヒースクリフは重々しく口を開く。

「……そこで、我々は五ギルド合同のパーティー二十人を偵察隊として送り込んだ」

 ヒースクリフは抑揚の少ない声で話を続ける。

「偵察は慎重を期して行われた。十人が後衛としてボス部屋入り口で待機…そして後の十人が前線としてボス部屋足を踏み入れた。部屋の中央に達してボスが現れたと同時に入り口の扉が閉ざされてしまった。鍵開けのスキルや打撃攻撃、何をしても無駄で、ようやく扉が開いたと思うと…」

 ヒースクリフは目を閉じ、重々しく話し続ける。

「部屋の中には、何も無かった。十人の姿も、ボスも消えていた。転移結晶で脱出した形跡も無かった。彼らは帰ってこなかった……。念のため、基部フロアの黒鉄宮までモニュメントをの名簿を確認させたが……」

 その後は言葉に出さずとも、嫌でも理解した。ユキはゲツガのコートの袖を握っていた。その手が若干震えていることに気付く。その時、アスナがキリトの隣から絞りだすような声でヒースクリフに呟いた。

「十……人も……。何でそんなことに……」

「「結晶無効化空間……?」」

 キリトとゲツガの同時に言う。その問いにヒースクリフは小さく頷く。

「そうとしか考えられない。アスナ君の報告では七十四層もそうだったということだから、おそらく今後全てのボス部屋が無効化空間と思って間違いないだろう」

「バカな……」

「チッ……狂ってやがるぜ」

 キリトは嘆息し、ゲツガは舌打ちした。緊急脱出が無理となると思わぬアクシデントでの死亡の確率が上がってしまう。死者をださない、これがこのゲームの攻略する上での大前提だ。だが、ボスを倒さなければクリアもありえない……。

「いよいよ本格的なデスゲームになってきたわけだ……」

「だからと言って攻略を諦めるわけにはいかない」

 ヒースクリフは再び目を閉じると、ささやくように、だがきっぱりとした声で言った。

「結晶による脱出が不可な上に、今回のボス出現とともに背後の退路も絶たれてしまう構造らしい。ならば統制の取れる範囲で可能な限り大部隊を突入させる。新婚の君達を協力させるのは不本意だが了解してくれたまえ」

 ゲツガとキリトは一度互いの顔を見合わせて肩をすくめた。

「協力させてはもらいますよ。だが、俺にとってはアスナの安全が最優先です。もし危険な状況になったら、パーティー全体よりも彼女を守ります」

「同じく。俺もユキのほうが大事だからキリトと同じようにそうさせてもらう」

 そうゲツガたちが言うとヒースクリフはかすかな笑みを浮かべる。

「何かを守ろうとする人間は強いものだ。君達の勇戦に期待しているよ。攻略開始は三時間後だ。人数は君達四人を入れて三十二人。七十五層コリニア市ゲートに午後一時に集合だ。では解散」

 そういった後、紅衣の聖騎士は立ち上がり、配下とともに部屋を出て行った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「三時間か……」

 ヒースクリフが出て行った後、数分後に部屋を出たゲツガとユキは階段を下っていた。
 
「ああ」

 ゲツガもユキもいつもなら口数の多いはずだが衝撃的なことを聞いたため、互いにあまり喋っていない。階段を下り終え、ドアの前まで来ると後ろから抱きつかれた。

「私、怖いよ……」

 ユキが泣きそうな声でゲツガの背中にぎゅっと顔を押し当てる。身体も震えている。

 ゲツガはゆっくりとユキの手を外して、ユキと向かい合う形になる。そしてユキを優しく抱きとめる。

「大丈夫だ。お前は何があっても俺が守ってみせる。だから心配すんな」

「でも、またゲツガ君にあんなことがあったら……」

 ゲツガはあんなことと言われてすぐに理解する。

「大丈夫だ、二週間一緒に過ごして、一回しか起きてないだろ?それにあれが起きた後、一回も起きてないだろ」

 そう言ってユキの頭を撫でる。

「本当に?本当に大丈夫だよね?」

「心配するな。大丈夫だから」

 そう言って身体を離す。

「一回、家に帰ろうか。そこでまた戻ってくるように約束をしよう」

「……うん」

 ユキはそこでユキは少し笑顔を見せた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ゲツガとユキは家に帰ると、すぐに玄関のところですぐに座りこみ、話し始めた。

「ほんと、この家に二週間ぐらい寝るか、朝飯食うかにしか使ってなかったな」

「そうだね。でも、この家、私は好きだったよ。ゲツガ君と過ごせたから……」

 そう言って肩に頭を預ける。ゲツガは壁にある数枚の写真を見る。キリトたちの結婚を報告ついでに来ていたメンバーで撮った写真。映っている自分の姿はキリトの肩を組んで笑っていた。

「今度、みんなで一緒にパーティーをしてえな。リズやシリカ、もちろんキリトやアスナ、他にもたくさんのメンバーで」

「そうだね。どうせだったら、そこでみんなに私達結婚しました、って言っちゃおうよ」

「そうだな。だから今回も、生きて帰ろう。この家に」

「うん。そして、この世界でクリアされるまで……」

 ユキはゲツガの目を見る。その目は本部を出たときの目、怯え、怖がっていた感情がほとんどなく、生きるという強い意志が宿っていた。

「「必ず、この家に戻ってくる」」

 ゲツガとユキは言った。

「だから、お前はこの温かいスペースを保ち続けろよ」

 ゲツガは天井を見て言う。

「もう、家にそんなこと言ったって意味ないよ」

 ユキはクスクス笑いながら、また肩に頭を乗せる。

「いや、あるかもしれないぞ。昔から言うじゃねえか。大切な物には魂が宿るって」

「……確かに。じゃあ、私も。必ず帰ってくるから、私達を見守っててね」

 そう言うとユキはゲツガの袖を握って呟いた。

「必ず無事で帰ってこようね」

「ああ」

 ゲツガとユキは約束を交わした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ゲツガとユキは三十分前、十二時半にコリニアのゲートの前に姿を現した。三十分前でもほとんどの攻略チームと思しきプレイヤー達が集結していた。ゲツガたちが出てきたときには数人のプレイヤーが緊張した表情で目礼を送った。それにどう対処するか困ったゲツガの横のユキは慣れた手つきで返礼する。

「ゲツガ君、こういうの慣れてないの?」

「ああ、俺、ソロだったからこういう返礼とかまったくしてなかったからな」

「そうだったね。でも、これからは覚えておいたほうがいいよ。ゲツガ君はリーダー格になってるんだから」

「……」

 とりあえずユキの真似ををして敬礼する。このように注目が集まるのは何度かあったがこのような注目はあまり無かった。

「よう!」

 景気良く肩を叩かれため、後ろを振り返る。刀使いのクラインが悪趣味なバンダナの下でニヤニヤ笑っていた。その隣には両手斧を武装した巨漢のエギルもいた。

「エギルにクライン、お前らも参加するのか?」

「おうよ!」

 クラインは元気のいい声で言った。

「そうか。エギルは商売しなくて大丈夫なのか?」

「苦戦するって聞いたからな。商売を投げ出して加勢に来た」

「……ほんと、俺の友人は馬鹿しかいねえな」

「馬鹿は余計だ、ゲツガ」

 そう言って微笑を浮かべる。

「今回は苦戦するから参加するにはお前等、生き残る自信があるんだろうな?」

「当たり前だろ」

「そうだ。お前こそ自信あるんだろうな?」

 そう言ってエギルとクラインは肩を叩き聞いてくる。

「もちろん。つうか、俺はこの世界をクリアして出る自信だってあるぞ」

「言ったな、こいつ」

 そして巨漢のエギルに首を掴まれ頭をぐりぐりとされる。しばらくしたら離してくれた。

「そういえば、ヒースクリフがお前を探してたから会いにいっとけ」

 クラインがそう言ったので、分かったと言ってヒースクリフを探しにゲツガはどこかに行った。ユキも行こうとしたがクラインたちに呼び止められる。

「ユキさんちょっと話があるんですが……」

 クラインたちはさっきの明るい表情とは違い、神妙な顔になっていた。

「知らなかったらいいんですが、あいつ最近痛みを感じたりしませんでしたか?」

「……クラインさん、エギルさん、あなたたち、あのことを知ってるんですか?」

「俺はあいつから聞いたわけじゃないが、クラインが話してくれた」

 エギルはそう言ってクラインを見る。そして、クラインは話を始めた。

「あいつ、おかしなこととかなかったですか?小さなことでもいいんで」

「一回、ユイって言う子と一時期一緒に過ごしていた時があるんです。その時に、一回、身体にノイズが走って物凄く痛がって気絶をしたことがありました。そして、もう一つゲツガ君の制約を知りました」

「なんですか、ユキさん」

 クラインは少し顔をしかめながらユキにそのことについて聞いた。

「ウィルスに感染し、もう一度力を使うようなことがあればカーディナルによってゲツガ君は消去される、そう聞きました」

「そうですか……」

 クラインはそれを聞き、何か考えるように手を顎に当てる。しかし、何も浮かばなかったらしく頭をがしがしとかいてユキに言う。

「ありがとうございます。それと後でゲツガに無理するなって伝えといてください」

「俺も同じのを」

 そう言ってエギルは自分のパーティー、クラインは自分のギルドのところに行った。それを見送ったユキはゲツガを探し始めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ヒースクリフ」

 転移門と結構離れたところで見つけた。

「やあ、ゲツガ君。君にちょうど二人の時に聞きたいことがあったんだ」

 そう言って、家と家の間の細い道に入る。そして人にあまり見られないところまで来ると振り返り話し始めた。

「君に一つ聞きたいことがある」

「何だ」

「君は何かスキルじゃない、何か別のものを持っているんじゃないのか?君が三十三層から使ってたものだよ。ここ最近は使ってないが、あれはなんなんだ?」

「……人のスキルを詮索するのは禁止じゃなかったのか?」

 そう言うとヒースクリフは、すこし不機嫌そうな顔になる。

「まあ、禁止だが気になるんだよ、あの力。あれは何だ。ユニークスキルではないだろう?」

「……」

「だんまりか」

 そう言うとヒースクリフはゲツガの横を通って細い道を出て行った。その時、謎の言葉を呟いていた。

「彼のナーヴギアに何かがあるのか……」

 とても小さく、聞こえないと思ったのだろうがゲツガはしっかりと聞き取っていた。

「……どういうことだ……お前がまさかあいつじゃないだろうな……」

 ゲツガは思考の海に入ろうと頭を回転させようとした時

「ゲツガ君、こんなトコにいたんだ。もう一時の少し前だから集ろ」

 後ろからユキに話しかけられた。

「ああ」

 思考を中断し、細い道を出てユキの隣に来る。

「なんか、そこであったの?団長がそこから出てくるのが見えたけど?」

「いや、なんでもない」

「あっ、そうそう。団長が言い忘れたらしくて、ちょっと君も士気を挙げるために前に出て何か宣誓してくれって。それと、クラインさんとエギルさんから、無理するなって」

「あの野郎、さっき言えばよかったじゃねえか。つうか、あいつらも人の心配なんかしないで自分の心配しろつうの。というより、何であいつは俺を指名して来るんだ?」

「さあ?でも、ゲツガ君の一種のカリスマ性を感じてるんじゃない?」

「俺にそんなのあるか?どちらかというと一匹狼的な感じのほうが……」

「そんなことないよ。ゲツガ君、案外人望があるんだよ。助けられたパーティーや人がたくさんいるんだから」

 そう言ってユキはゲツガを見てくる。本当に人望があるのかな、と思うゲツガは前例(クラディール)のようなやつが多いような気がして頭を抱える。

 そして、集合地点に着くと、ヒースクリフの話が終わっていたらしく、ゲツガの方に視線が一斉に向く。それに少しびっくりするが、俺が話すことをヒースクリフが言ったからだろう。

「えっと……」

「ほら」

 ユキは、背中を少し押す。
 
「……んーと、とりあえず、いや、こういうときにさっきみたいな言葉を使うのは駄目だな。俺が言いたいのは唯一つだ。この戦いで自分の力を信じて、ただ目の前の敵を倒すことに集中し、誰一人欠けることなくこの層を突破する!」

 おお!!、と周りから大きな声が上がった。その声が止んだあと、ヒースクリフの使った回廊結晶を通り、ボスの部屋へと向かった。

 
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