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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第103話:私たち、結婚します!(1)


姉ちゃんが退院してから10日ほどたって、気がつけば
年末がすぐ目の前に迫ってきていた。
この日も午前中は隊舎再建工事の視察、午後はティアナの個人戦訓練と
普段通りの一日を終え、シャワーを浴びて自分の部屋に戻ってきた。
ちょうど席についたところでポケットの中の電話が鳴る。

(誰だ?こんな時間に・・・)

管理局関係の人間なら専用の通信回線で連絡してくるはずで、
わざわざ電話をかけてくるような人物といえば、管理局と関係ない友人か
家族ぐらいのものだ。
俺は訝しく思いながら電話を手に取った。

「はい、シュミットです」

『あ、ゲオルグ? お母さんだけど』

「母さん!?」

母さんから、しかも平日の夕方に電話がかかってくるなんてことは
初めてだった。異常と言っていい状況に、俺の頭は最悪の事態を想像する。

「もしかして、姉ちゃんに何かあったのか!?」

思わず電話を強く握りしめて、大きな声を上げてしまう。

『そんなに慌てなくても、お姉ちゃんなら元気よ。
 今もリビングでテレビを見てるわ』

おっとりと話す母さんの言葉に、俺はほっと胸をなでおろした。

「そりゃよかった。じゃあどうしたの?」

『あのね、今度の週末は帰ってくるの?』

「今度の週末か、そうだな・・・。予定もないし帰るよ」

『そう。じゃあ、そのつもりにしておくわね』

「うん。じゃあ週末に」

電話を切ると、軽く息をはく。

「なのはに話しておかないとな・・・」

ひとりきりの自室でそうごちると、帰る支度をして部屋を出た。
アースラの艦内をメインハッチに向かって歩いていると、
交差点の手前で横から飛び出してきた人影とぶつかりそうになり、
とっさに後ろに飛んでかわす。
飛び出してきた人物も直前で俺に気付いたのか、尻もちをついていた。

「すいません、大丈夫ですか?」

床に座り込んでいる相手に手を伸ばそうとしたところで、
その女性、というか女の子と目が合った。

「キャロ?」

「ゲオルグさん?」

お互いの顔を見つめあった俺とキャロは、期せずして同時にお互いの名を呼ぶ。

「大丈夫か?」

そう言ってキャロに向かって手を伸ばす。

「あ、すいません」

キャロは俺の手を握って立ち上がると、服についた汚れを払ってから、
俺に向かって頭を下げる。

「何をそんなに急いでたんだ?」

「えっと・・・あの・・・」

キャロは左右に目を泳がせると、再び俺の顔を見上げる。

「すいません!なんでもないんです!」

キャロは叫ぶようにそう言うと、勢いよく俺に向かって頭を下げ、
そのまま走り去ってしまった。
俺は唖然としてその小さな背中を見送ったのだが、
キャロの姿が見えなくなったころに、背後から誰かが走ってくる音がした。
振り向くと、フェイトが慌てた様子で走り寄ってきた。

「ゲオルグ! キャロを見なかった?」

「キャロなら、あっちに行ったぞ」

俺がキャロの走り去った方を指差してそう言うと、
フェイトは猛然と走りだした。

「キャロと何かあったのか・・・って、もう居ねえし」

キャロの走り去った方へ同じく走り去ったフェイトの背中を見送ると、
俺は肩をすくめて、メインハッチに向かって歩き出した。





アースラを出て車のところまで行くと、車のそばでぽつんと立つなのはの
背中が見えた。

「ごめん、なのは。待たせたか?」

俺が声をかけると、なのはは振りむいて首を横に振る。

「ううん。私もさっき来たところだから」

「そっか。じゃあ、帰るか」

「うん」

車に乗り込み、隣に座るなのはがシートベルトをするのを確認して
俺は車を発進させる。
港湾地区を出て、クラナガン市内へ出る幹線道路まできたところで、
俺はなのはに話しかけた。

「実はさ、さっき母さんから電話があったんだよ」

「そうなの? お母さんは何て?」

「週末は帰ってくるのか?だってさ」

俺がそう言うと、なのははその両目を瞬かせる。

「帰るの?」

「そのつもりだよ」

「そっか・・・」

なのはは小さくそう言うと、目線を落として黙りこむ。
再びなのはが口を開くのを待っていると、なのはが喋り始めた。

「ねえ、私も行っていい?」

「はあ?」

ちょうど赤信号で車が止まっていたこともあって、
まじまじとなのはの顔を見てしまう。
なのはの表情は真剣そのもので、冗談を言っている様子は微塵もない。

「何言ってんだよ」

「前にも言ったけど、ゲオルグくんのご両親やお姉さんには早めに
 挨拶しておきたいの。年末年始には地球に行くんだし」

「そうだな・・・」

俺は車を走らせながらぼんやりと考える。
気になっているのは姉ちゃんのことだった。
体調が安定しているとはいえ、退院してまだ10日だ。
前の週末に帰った時の様子を思い返す。

(父さんや母さんもそんなに大変そうじゃなかったし、
 姉ちゃんも退屈そうにしてたくらいだからな・・・)

俺は結論を出すと、赤信号で車を止めたのに合わせてなのはに話しかける。

「姉ちゃんが退院してから間がないから、ちょっと不安ではあるけど
 この前帰った時の様子からすれば大丈夫だと思う」

「なら・・・」

俺の方を窺うように見るなのはに向かって頷く。

「一緒に行こう。ヴィヴィオもつれてな」

俺が最後に言った言葉に、なのははその目を見開く。

「ヴィヴィオも・・・」

なのはは小さくそう言って目線を落とす。
信号が変わり車を発進させた時、なのはが口を開く。

「そうだね。ヴィヴィオも連れて行ってあげないと、ダメだね」

「よし。じゃあ、帰ったらヴィヴィオに話をしようか」

「うん!」

なのはの笑顔が、大きく縦に揺れた。





家に帰り、3人での夕食終えた後、ヴィヴィオに週末のことを話すことにした。
俺が食卓から運んだ食器をキッチンのシンクに積みあげていると、
なのはがヴィヴィオに話をし始める声が聞こえてきた。

「ヴィヴィオ。今度のお休みはお出かけするからね」

「お出かけ?」

カウンター越しに見ると、食卓の椅子にちょこんと座っているヴィヴィオが
こくんと首を傾げていた。

「そうだよ。ゲオルグくんの実家にね」

「パパの・・・じっか?」

キッチンから食卓に戻ると、なのはと向かい合ってさっきとは逆の方向に
首をかしげているヴィヴィオの姿が目に入った。

「ママ・・・じっかってなに?」

「えっとね、ゲオルグくんが子供のころに住んでた家っていうか・・・
 うーん・・・」

なのはが説明に困っているようなので、助け船を出すことにする。

「ヴィヴィオ。実家ってのは俺のパパやママがいるところだよ」

「パパのパパとママ?」

ヴィヴィオはそう言って俺の顔をまじまじと見つめる。

「じゃあ、ヴィヴィオのおじいちゃんとおばあちゃん?」

ヴィヴィオの言葉に俺はハッとさせられた。
ヴィヴィオが俺の娘なら、父さんや母さんはヴィヴィオの祖父母なのだ。
言われてみれば当然のことなのだが、ヴィヴィオに言われるまで
全く認識できていなかった。

「・・・そうだな。おじいちゃんとおばあちゃんに会いに行こう」

「うんっ!」

ヴィヴィオは満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。

「さ、もう寝る時間だよ。ヴィヴィオ」

なのはがそう言うと、ヴィヴィオは不服なのか口をとがらせる。

「えーっ、まだ眠くないよ」

「ダメ。明日もママたちはお仕事なんだから、ヴィヴィオも
 アイナさんの家に行かなきゃでしょ。寝坊したら大変だからもう寝ようね」

「じゃあ、絵本よんで」

「いいよ。じゃあ、いこっか」

ヴィヴィオは無言で頷くと、なのはに手をひかれて2人の寝室へと入った。
俺は、キッチンに戻って夕食で使った食器を食洗機に入れると、
自分の部屋に戻った。
ベッドに腰掛け、電話を手に取ると実家に電話をかける。

『はい、シュミットです』

「あ、母さん? ゲオルグだけど」

『あら、どうしたの? こんな時間に』

「うん。実は今度の週末なんだけどさ・・・。
 そっちに帰るときに、母さんたちに会ってもらいたい人がいるから
 連れて行ってもいいかな」

『え? 会わせたい人って・・・ひょっとして、ゲオルグの大切な人?』

「まあ、そうだね。 で、いいかな?」

『もちろんよ! ぜひ連れていらっしゃい!』

「ありがとう。じゃあ、週末に」

『ええ、楽しみにしてるわね』

電話を切ると、俺は大きく息を吐いた。
電話の声を聞く限りは母さんは喜んでいるようだった。
やはり緊張していたようで、肩に入っていた力が抜けた。

「ゲオルグくん」

声のした部屋の入り口の方を見ると、なのはが立っていた。

「ヴィヴィオはもう寝たのか?」

「うん」

なのはは俺の質問に頷くと、部屋の中に入ってきて俺の隣に腰を下ろした。

「実家に電話してたの?」

「うん、母さんにね。俺の大切な人を連れていくって話したよ」

「そうなんだ・・・。お母さんはなんて?」

「声だけ聞けば喜んでるみたいだったよ。ぜひ連れて来いってさ」

「そっか・・・」

なのはは小さくそう言うと、俺の肩に頭を乗せてきた。

「わたしやヴィヴィオのことを受け入れてくれるといいな・・・」

「大丈夫だよ。ただ、姉ちゃんには注意が必要だけどな」

俺がそう言うと、俺に体を預けているなのはがわずかに顔を動かした。

「どういうこと?」

なのはの声には不安の色が感じられた。

「ヴィヴィオに姉ちゃんを ”おばさん”って呼ばせないようにしないと」

俺が笑いながらそう言うと、なのはは一瞬目を見開いて俺を見た。
その直後、なのはは声を上げて笑った

「じゃあ、ヴィヴィオにはきちんと言っておかないとね」

「まあ、そうだな」

俺は苦笑しながらなのはに向かって肩をすくめた。





・・・次の週末。
俺は車になのはとヴィヴィオを乗せて、実家に向かった。
前になのはと実家の外まで来た時と同じコインパーキングに車を止めると、
3人で手をつないで実家に向かう。
最初は楽しそうに会話をしていたなのはとヴィヴィオだったが、
家が近づいてくると、だんだん無口になっていく。
家の前まで来ると、俺の手を握るヴィヴィオの手の力が強くなったのを感じた。
ヴィヴィオの顔を見ると、不安げに俺の顔を見上げていた。

「どうした、ヴィヴィオ?」

俺は片方の手を握ったまま、ヴィヴィオの前にしゃがむ。

「あのね、おばあちゃんやおじいちゃんは、ヴィヴィオと会えて
 喜んでくれるかな?」
 
「大丈夫。ヴィヴィオのことを喜んで迎えてくれるはずだよ」

そう言ってヴィヴィオの頭を少し乱暴になでると、ヴィヴィオは
少し表情を和らげつつ、小さく頷いた。
再び立ち上がった俺は、ヴィヴィオの手を引き玄関先へと歩く。
呼び鈴を鳴らすと、玄関ドアがすぐに中から開かれる。

「お帰り、ゲオルグ」

中から姿を現したのは母さんだった。

「うん、ただいま」

俺はなのはの方に目を向ける。
なのはは俺に向かって小さく頷くと、母さんに向かって会釈をする。

「こちらが、高町なのはさん。えっと・・・」

何と紹介したものか迷い、言い淀んでしまう。

「そういうのは中でやればいいでしょ。寒いんだし、早く入りなさい。
 って、あら?」

母さんの目が下の方に向く。
ヴィヴィオは俺から手を離し、なのはの後ろに隠れてしまう。

「ずいぶんかわいらしい子ねぇ。お名前は?」

「ほら、ちゃんと自己紹介しないとね」

「・・・ヴィヴィオです」

ヴィヴィオは小さくそう言うと、なのはの足にしがみつく。

「ヴィヴィオちゃんね。ほら、外は寒いしお入りなさい。なのはさんも」

「はい、ありがとうございます」

俺はヴィヴィオとなのはに続いて家の中に入る。
家の中では玄関で父さんと車いすに乗った姉ちゃんが待ち構えていた。
なのはとヴィヴィオは父さんの案内でリビングへと向かう。
俺も続こうとすると、姉ちゃんにコートの袖をつかまれた。

「ちょっと!あんた、どこであんなかわいい子捕まえてきたの?
 それに・・・ヴィヴィオだっけ?何なの、あの子」

「その辺は父さんや母さんもいるところで話すよ」

俺は姉ちゃんに向かってそう言うと、リビングへと入る。
リビングの中は普段以上にきれいに片づけられ、サイドボードには
花まで飾られていた。
俺はソファに腰をおろしているなのはとヴィヴィオの隣に座った。
向かい側には父さんが座り、ソファの脇には姉ちゃんがいる。
母さんはキッチンでお茶を淹れているらしく、かちゃかちゃという音が
かすかに聞こえてくる。
ちらっと横を見ると、なのはが膝の上に置いた手を閉じたり開いたりしている。
さすがに無言の時間は居心地が悪いのだろうが、母さんが居ないのでは
話を始めるわけにもいかず、俺も黙って母さんが来るのを待つ。
しばらくして、トレーにお茶の入ったカップを乗せて、母さんがやってきた。
テーブルの上にカップを並べると、母さんは父さんの隣に座る。

「どうぞ」

「あ、はい。頂きます」

なのははそう言って、カップに手を伸ばす。

「あ、おいしい」

お茶をひと口飲んだなのはは、小さく声を上げた。

「ありがとうね、なのはさん」

「いえ・・・」

俺もお茶に口をつけ、気持ちを落ち着けるとリビングの中を見回す。

「じゃあ、改めて紹介するな。こちらは高町なのはさん。
 今、彼女とお付き合いさせてもらってる」

「高町なのはです。ゲオルグくんとはいいお付き合いをさせて
 いただいています。よろしくお願いします」

俺の言葉に続いてなのはが自己紹介すると、父さんと母さんは
軽く頭を下げて”こちらこそよろしく”とそろって言った。

「で、こっちがヴィヴィオ。今はなのはの養子だね。
 俺となのはとヴィヴィオの3人で、一緒に生活してる」

ゆりかごの戦いの後、なのはは退院してすぐにヴィヴィオを自分の養子として
戸籍登録していた。

「よろしくね、ヴィヴィオちゃん」

「うん・・・よろしくお願いします」

ヴィヴィオは笑顔で声をかけてきた母さんに挨拶を返した。
まだ、一緒に暮らしてからの時間は決して長くないが、
ヴィヴィオが人見知りするタイプなのは、十分すぎるほど判っていた。
何週間か前の週末に、家の近くの公園へ3人で遊びに行ったときも
近所の同い年くらいの女の子に声を掛けられて、うまく話せなかった。
幸いその時は、その女の子が積極的にヴィヴィオに接してくれたので
最後にはすっかり仲良しになっていたようだったが。
それを思えば、今のヴィヴィオは気丈にふるまっていると言っていいだろう。
ヴィヴィオとつないだ俺の手はかなり強い力で握られてはいるが。

「じゃあ、今度は俺の家族を紹介するな。父さんと母さん。あと、姉ちゃんだ」
 
「父のヘルマン・シュミットです。よろしく」

「母のクララ・シュミットよ」

「姉のエリーゼです。よろしくね」

「はい。よろしくお願いします」

一通り自己紹介が終わったところで、姉ちゃんが口火を切った。

「ねえ、2人は結婚すんの?」

単刀直入に尋ねる姉ちゃんに、俺となのはは苦笑してお互いの顔を見た。
正面に向き直ると、父さんと母さんも苦笑している。

「今すぐではないけど、近いうちにそうするつもりだよ。
 なのはにもプロポーズは済ませてるしね」

「じゃあ、ヴィヴィオちゃんは・・・」

「その時には、俺の娘ってことになるね。まあ・・・」

母さんの問いに対する答えをそこで一旦止めると、
俺は隣に座るヴィヴィオの頭に手を乗せた。

「パパ?」

ヴィヴィオは首を傾げながら俺の顔を見上げる。
俺はヴィヴィオに向かって笑いかけると、母さんたちの方に顔を向けた。

「今でもそのつもりだけどね」

俺がそう言うと、父さんも母さんも姉ちゃんも目を丸くしていた。
しばらく沈黙の時間が流れたのち、父さんが徐に口を開く。

「なら、私と母さんはヴィヴィオちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんと
 いうわけか・・・」

「そう思ってくれると嬉しいね」

「あたりまえでしょ。あんたの娘は私の孫。血がつながってようと
 そうでなかろうとね。でしょ?お父さん」

微笑を浮かべた母さんがそう言うと、父さんも無言で頷く。

「ちょっと待って!」

姉ちゃんが大声を上げて、話に割って入る。

「じゃあ、私はヴィヴィオちゃんのおばさんってこと?」

「まあ、当然そうなるだろ。嫌なのか?」

俺がそう聞くと、ヴィヴィオが不安そうな目で姉ちゃんを見る。

「うぅ、そんな目で見ないで・・・。別にヴィヴィオちゃんが、
 姪っ子になるのは大歓迎なんだけど、おばさんって呼ばれるのは
 ちょっと・・・」

「だってさ、ヴィヴィオ」

俺がそう声をかけると、ヴィヴィオは俺の顔を見上げて目を瞬かせる。
そして、姉ちゃんの方に顔を向けた。

「・・・エリーゼお姉ちゃん、じゃダメ?」

「はへ?」

小さな声で言ったヴィヴィオの言葉に、姉ちゃんは目を見開く。

「う、うん。もちろんいいよ!大歓迎だよ、ヴィヴィオ」

「よかったな、ヴィヴィオ」

「うんっ! ありがとう、エリーゼお姉ちゃん」

ヴィヴィオは満面の笑みで姉ちゃんに向かってそう言った。

 
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