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星河の覇皇

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第四部第四章 楯砕きその五


 カラープランとはかつてアメリカが他の国との戦いを想定してシュミレーションした戦略計画である。アメリカをブルーとして他の国をブラックやゴールド、パープルと色をあらわす暗号で呼び計画を考えた。なお日本のもありオレンジ=プランと呼ばれていた。
「サハラの場合は各国になりますね。そして」
 彼は言葉を続けた。
「統一されたサハラに対する戦略も計画しておきましょう」
「わかりました」
 二人はそれに対して頷いた。
「長官がそう言われるのなら」
 彼等も文民統制下の軍人である。長官の命には喜んで従う。
「頼みますよ」
 八条は二人を見上げて言った。
「お二人にはそれをお伝えする為にここへ来てもらいました」
「そうだったのですか」
「はい」
 彼は真摯な顔で頷いた。
「マクレーン大将にはエウロパを、劉大将にはマウリアをお願いします」
「了解」
「わかりました」
 二人は敬礼して答えた。
「サハラはどうするのです?」
 そしてそのうえでこう尋ねた。
「サハラには各国ごとにスタッフを割り当てます」
 八条は静かに言った。
「そのスタッフとは?」
「一体誰ですか?」
 二人はそれに対して尋ねた。
「ハサンにはシンドル=チャクラーン大将、オムダーマンにはプラシド=アラガル大将のスタッフにやってもらいます」
 二人共連合軍において切れ者で知られている。
「北方諸国連合にはアルバート=オーエル大将、そしてエウロパの総督府にはキリト=コアトル大将です」
「エウロパの総督府にもあてるのですか」
「ええ。彼等がサハラをさらに侵略した場合に備えまして」
 劉の問いに応えた。
「そしてサハラが統一された場合のケースですが」
「はい」
 二人は固唾を飲んだ。
「私自らがあたります」
「長官がですか!?」
 二人はそれを聞いて思わず声をあげた。
「そうです。何かおかしいところはありますか」
「いえ」
 二人は八条の意を決した目に息を飲まされた。
「サハラが統一された場合二千億の人口を擁する大国が誕生します。それは我が連合にとって最大の脅威となるでしょう」
「エウロパといえど一千億ですからね」
 劉が言った。
「問題はその統一サハラがどのような外交戦略を採るかのよって変わりますが」
 八条はあくまでサハラが統一された場合を考えていた。
「我々と敵対関係になった場合、エウロパ以上の強敵となります」
「それは兵力において、だけではありませんね」
「はい、サハラの指導者によっても変わります。もし指導者が・・・・・・」
 彼は言おうとしたが止めた。
「いえ、それはまだわかりませんね。そもそもサハラが統一されるということもまだわかりませんし」
「あくまで国防計画のシュミレーションですしね」
「しかしそうした計画を考えておくというのはいいことだと思います」
 二人はフォローするように言った。
「しかし統一サハラですか」
 だが劉はここで顎に手を当てて考えた。
「何か」
 八条は問うた。
「いや、おそらく統一されたとしても敵が多く前途は多難だろうな、と」
「確かにそうですな」
 マクレーンもそれに同意した。
「エウロパとは相変わらずでしょうし、それにマウリアもどうなるかわかりません。おまけに我々がもし敵対政策を採ると」
「かなり難しそうですね」
 それは八条にもわかった。
「しかし統一できるだけの人物だとそれを乗り越え怖ろしい国家を築き上げるかも知れません」
「ですね」
 二人にもそれはわかった。
「しかしそれには少なくともあと数年かかります。それまでには我々の軍備も整っています。いえ」
 彼はここで言葉を一旦おtぎった。
「終わらせなければなりません」
「はい」
 二人は頷いた。そして彼等はそれぞれの仕事に戻った。

 ブラークを破壊されたサラーフの首都アルフフーフだがナベツーラ達はまだそのことを知らなかった。
「おい、あれは何処だ」
 ナベツーラは自分の屋敷でプールの中にいた。
 プールといってもそこに水が入っているわけではない。そこにはコインや札束が入れられている。
「あれですね」
 トクンもいた。彼はプールから上がるとテーブルの上にあるものを持って来た。
「こちらに」
「おお」
 ナベツーラは上機嫌でそれを受け取った。
 それは葡萄だった。だが普通の葡萄ではない。
 黄金色をしている。どうやら遺伝子操作で作った特別な葡萄のようだ。
 この時代多くの国で遺伝子操作による作物が植えられている。特に連合では多い。
 遺伝子操作は二十世紀に問題になった。倫理や宗教の面からだ。だがこれまでの作物もそうではないのか、という意見によりある程度は認められた。野菜や果物、穀物には大幅に認められた。なお動物に対するそれは厳しかった。ある程度の大型化や乳、卵を多くする等はあったがそれ以上はなかった。やはり危険だからである。
 ナベツーラが今食べているのはそうして作られた葡萄だ。どうやらかなり味がいいようだ。
「美味いな」
 その証拠に彼はそれを満足そうに食べている。
「左様ですか」
 見ればトクンの他にエジリーム、テリーン、ヨネスーケ、クマラ等もいる。
「クマラさんもどうかね」
 ナベツーラはクマラにも薦めた。
「いや、私は」
 ビーチに寝転ぶ彼はそれを断った。
「それよりもこっちがいい」
 そう言いながら傍らにいる幼い少女の胸を貪る。
 腹が大きい。孕んでいるのがすぐにわかる。
「フフフ、相変わらず精が出ますな」
 ナベツーラは下卑た笑みで彼に言った。
「何、この程度。どうせ慰めものですしな」
 彼等にとって少女なぞその程度だ。
「閣下」
 ヨネスーケがプールの中を泳ぎながらナベツーラに言った。
「我々もその葡萄を相伴に預かりたいのですが」
「いいとも」
 彼はその葡萄のうち一房を彼等に与えた。彼等はそれを争うようにして手にとった。
「では」
 彼等はそれを口に含む。そしてとろけそうな顔になった。
「美味いですなあ。信じられない位です」
「ははは、どうだ、凄いだろう」
 ナベツーラは満足そうに言った。
「これは俺が特別に作らせたんだ。選ばれた人間しか食べられないものだ」
 彼はその葡萄を食べながら語った。
「他にもあるぞ、見ろ」
 彼が手を叩くと淫らな格好をした女達が現われた。その手には銀の盆がある。
 そこには黄金が乗っていた。いや、黄金ではない。黄金色の果物であった。
 見れば葡萄の他に林檎もある。オレンジもだ。どうやら全て遺伝子操作で作らせたもののようだ。
「たんと食え、伝説の食べ物だ」
「おお!」
 見れば古代のギリシアや北欧の神話にも出てくる食べ物である。彼等はビーチにあがると女達を押し倒しながらそれにむしゃぶりついた。
「美味いだろう」
「ええ」
 彼等は女達の上に乗っかりながら答えた。
「これを作るのには結構金がかかったからな」
 遺伝子操作による作物の改良はこの時代でも国家機密レベルである。費用も莫大でとても個人ができるものではない。倫理的にもそれは危険視されている。
 だがナベツーラはあえてそれをやった。これはこの男の倫理観のなさと資産の莫大さを示すものであった。
「他にも色々と作るつもりだ」
「流石はナベツーラ様」
 彼等は女達を味わいながら追従を言う。
「御前達は幸せ者だ、俺の下にいるから思う存分いい目を見られる」
「全くです」
「これからもだ。永遠に楽しませてやるからな」
 高らかに笑った。その時だった。
「!?」
 彼等はハッとして周りを見回した。すると屋敷の外から怒号が聞こえて来る。
「出て来い!」
「殺してやる!」
 何やら殺気だった声である。
「何事だ」
 ナベツーラは使用人の一人を呼びつけて問い質した。
「はい、何でも一般市民の暴動だそうです」
「民草のか」
 彼は市民をこう呼んでいた。無礼千万の呼称であるがマスコミにかかるとこれも豪放磊落ということになる。
「はい、今回の責任をとれ、と騒いでいます」
「馬鹿者共が」
 ナベツーラはその醜い顔をさらに歪めて言った。
「俺の責任だと!?そんなものを問うて何になるというのだ」
 彼には責任感というものがない。
「俺は連中にも分け前を与えただろうが。それで何が不満なんだ」
「ブラークが陥落したのはどういうことだ、と言っております」
「フン、陥ちたのか。では首都防衛軍を敵に向けろ」
 彼は事情がわかっているのか、いないのか的外れなことを言った。
「あの、既にアルフフーフはオムダーマン軍に包囲されていますが」
 使用人もそれは知っている。恐る恐る意見を申し上げた。
「だから何だというんだ、連中が戦っているうちに俺は逃げる。金を持ってな」
「国民を捨てて逃げられるのですか!?」
 使用人は弱々しい声で尋ねた。
「当たり前だ。俺は自分の身が助かればそれでいい」
 心の中で思っていてもそうそう口には出せないことを平然と言ってのけた。それだけでも信じられないことであった。
「あの、それはあまりにも」
 その使用人が呆れながら言った。
「俺が間違ってるというのか、ああ!?」
 ナベツーラはそんな彼に対し凄んでみせた。
「俺に逆らうとどうなるかわかってるのだろうな」
「ですが」
「ですがも糞もねえ!わかったらとっとと金とか用意して逃げる準備をしろ!さもないと連れて行ってやらねえぞ!」
「あの、御主人様」
「何だ!?」
 彼は荒々しい声で問うた。
「お言葉ですが私は」
「そうか、ならいい。ここで屋敷の外で騒いでいる連中の相手をしていろ」
 ナベツーラはプイ、と後ろを向いて言った。その後ろで何が起こっているか一切知ろうともしないで。
 不意に銃声がした。それはナベツーラの脳天を撃ち抜いていた。
「な・・・・・・」
 トクンやヨネスーケ達はそれを見て絶句した。その使用人が発砲したのだ。
「今まで我慢してきたがもう限界だ」
 彼は怒りに震える声で言った。
「貴様等も死ね」
 そしてまだ全裸で女達の上にいる彼等を次々に撃ち殺していった。
 皆死んだ。女達は血塗れになった彼等の屍の下で恐怖におののいている。
「君達には申し訳ないことをした」
 使用人は彼女達に謝罪の言葉を述べた。
「だがこうしなくてはならなかった。この連中を消す為にはな」
 彼はそう言うと人を呼んだ。
「ゴミを始末してくれ」
「え・・・・・・」
 呼ばれた男は血の海の中に息絶えた主を見て絶句した。だが使用人は彼に対してまた言った。
「ゴミを始末してくれ」
「わかりました」
 男もこれでようやく納得した。彼等もまたナベツーラに時として虐待されていたのだ。彼は使用人に対しても暴君であったのだ。
「ゴミはどうしますか」
 男は問うた。
「そうだな」
 使用人は問われ暫し考え込んだ。
「道にでも捨てて置け。丁度いい」
「わかりました」
 そしてナベツーラ達の死体は怒り狂った群集の前に放り出された。彼等に処断が任されたのだ。
 群集は彼等の死体を切り刻んだ。バラバラになり細切れになった死体が辺りに散乱し、それはビデオに撮られた。そして彼等はそれを持ってマスコミに殴り込んだ。
「あいつ等が全部悪いんだ!」
 ようやく彼等は全てを理解した。そして国を滅ぼした連中に鉄槌を加えに行ったのだ。
 マスコミは逃げることができなかった。彼等はもうほぼ全ての市民を敵に回していたのであった。
 新聞社もテレビ局の虐殺の場と化した。首や胴が窓から放り捨てられ今まで特権を欲しいままにしていた者達が八つ裂きにされていく。それ程までに彼等の怒りは凄まじかったのだ。
 全てが終わり、彼等が落ち着いた時にオムダーマン軍がアルフフーフに降下してきた。国王はそれを聞くと全軍に武装解除を伝え降伏を伝えた。アッディーンはそれを快く受け入れた。こうしてサラーフはオムダーマンの前に滅亡したのであった。処罰されるべきナベツーラ達がもういないこともあり、戦後処理は穏やかであった。国王は財産の保護を約束され彼等は大人しく国外に立ち去った。そしてそのまま連合へ亡命したのであった。
 この戦いの勝利でオムダーマンは遂に西方を統一した。そしてサハラにおいても東のハサンに比肩し得る大国となったのであった。 
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