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薔薇の騎士

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第一幕その六


第一幕その六

「だから今日会わないかな」
「今日ですか」
「嫌ならいいのだが」
 無理強いはしない。最低限のエチケットはわきまえてはいた。
「だがそれはそれとして薔薇の騎士」
「それですね」
 今度は夫人が頷く。何かとやり取りが忙しい。
「花嫁に銀の薔薇を贈る薔薇の騎士ですが」
 これはウィーンの貴族達の風習である。まず花婿の銀の薔薇を花嫁に贈る。それを花嫁に手渡す、つまり仲介人になるのが薔薇の騎士なのである。それを選ぶことがまずは婚姻の第一歩なのである。
「その名誉ある役を担うのは誰にしましょうか」
「そう、それなのです」
 またオクタヴィアンを見ながらも夫人に述べてきた。
「一体誰にするべきか。是非奥様に御意見を御聞きしたくて」
「それが本当の御用件なのですね」
「手紙に書いてあった筈ですが」
「そうでしたね」
 また話を合わせる。読んでいないとは言えない。
「ですから」
「さて、誰にするべきか」
「ここは奥様にお任せ致します」
 にこやかな笑みを作って述べてみせた。
「女性の方に従います」
「そうですか。それではそれで」
「はい。ではそういうことで」
「では今宵ですが」
「はい、今宵は」
 やはりオクタヴィアンから目を離さないが話はするのだった。
「お話の為に夕食を御一緒したいのですが」
「今宵ですか」
「駄目ですか?」
「いえ、別に」
 こうは答えながらも残念な顔になる。実はオクタヴィアンを誘うつもりだったのだ。
「それで明日にでも」
「いえ、明日も宜しいかも」
「どちらなのですか?」
「今考えているところです」
 言葉をはぐらかすがこれはオクタヴィアンを守る為である。
「それでですね、男爵」
「はい、何か」
「契約書もありますし」
「結婚契約書ですね」
 なおオーストリアはカトリックが主流である。神聖ローマ帝国皇帝家であるハプスブルク家が主なのでこれは当然であった。カトリックの擁護者というわけなのだ。形骸化はしていたが。
「それはこちらの書記にやらせておきます」
「ではそのように」
「さあマリアンデル」
 今のうちにとすぐにオクタヴィアンに声をかける。
「貴女はもう」
「はい。それでは」
「いや、行くのか」
「何かおありで?」
「あるわけではないですが」
 それは否定する。顔にもう出てしまっているが。
「まあ。可愛い娘ですな」
「ウィーンの生まれです」
 こう答える。
「ほう、それはまた」
「さあ、だからマリアンデル」
 また彼を行かせようとするがここでまた扉をノックする音が聞こえてきた。控え室の方からである。
「どうぞ」
 入るように言うと端整に黒い制服を着た初老の男が入って来た。公爵家の執事である。
「奥様」
「丁度いいところに来たわね」
 彼の姿を見て笑顔になるのだった。
「書記はいるかしら」
「はい、控え室にもう」
「そう。ならいいわ」
 それを聞いて笑みになるのだった。
「管理人もコックも。あと歌手に演奏に笛吹きも」
「用意がいいわね」
「都合がつきましたので」
「わかったわ。男爵」
 見ればまたオクタヴィアンに言い寄っている。優しげな笑みを作って口説きにかかっている。
 
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