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星河の覇皇

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第四部第四章 楯砕きその一


                     楯砕き
 アッディーンはその時アルフフーフを完全に包囲下に置いていた。
「降伏勧告への返答は?」
 ガルシャースプに問うた。
「黙殺しています」
 彼は首を横に振り答えた。
「やはりな。予想されたことだ」
 アッディーンはそれを聞き頷いた。
「どうせ自分達だけは安全を確保できると甘い夢を見ているのだろう」
「そうでしょうね」
「だとすればその甘い夢から醒まさせてやろう。とっておきの目覚ましでな」
 アッディーンはそう言うと後ろに控える参謀達に顔を向けた。
「用意はできているか」
「はい」
 参謀の一人が敬礼して答えた。
「何時でも動かせる状態です」
「ならばいい」
 彼はそれを聞き頷いた。
「ではすぐに作戦を実行に移すとしよう」
「わかりました」
 スタッフはそれを聞くと皆それぞれの持ち場についた。
「いいか」
 アッディーンはコンピューターの前についたスタッフに尋ねた。
「はい」
 そのスタッフは答えた。
「よし」
 アッディーンは顔に笑みを浮かべた。そして右手をゆっくりと挙げた。
「それでは作戦を発動するぞ。スイッチを入れろ」
「わかりました」
 別のスタッフが頷き何かのボタンを押した。
「よし、あれの道を空けろ」
 彼の指示の下艦隊は包囲の一部を解いた。
 数時間後艦隊の後ろに何かが姿を現わした。
「来たな」
 アッディーンはモニターを見てほくそ笑んだ。
「これでブラークは終わりだ」
 やがてそれの姿が見えてきた。それは巨大な隕石であった。
「コントロールはいいな」
「はい」
 スタッフの一人が答えた。
「万事抜かりなしだな」
 アッディーンの声は自信に満ちていた。そこには勝利の確信があった。
「ではゆっくりと見るとしよう。これからあの愚か者共の惰眠のもとが壊れる様を」
「はい」
 ガルシャースプはその言葉に頷いた。
 隕石は次第に速度を速めていく。そしてそこにブラークがやって来た。
「どうやら隕石に攻撃はしないようだな」
「隕石に対しては別の防衛手段がありますからね」
 これは川にある堤防のようなものだ。この時代はどの惑星にもそうした隕石に対処する為の防衛用の人工衛星が惑星の周りを回っている。危機を察したならばレーザービームですぐにその隕石を撃つのだ。
 ブラークはそうしたものではない。あくまで敵に対するものである。それが裏目に出たのだ。
「よし」
 隕石はブラークに向かっている。それを防ぐことはもうできない。
「アルフフーフの管制室の驚く様子が目に浮かぶようだ」
 彼は満面に笑みをたたえながら言った。その瞬間光が発せられた。

「そうか、ブラークが破壊されたか」
 その時シャイターンはアルフフーフから一日の距離にまで達していた。
「これでナベツーラも終わりだな」
「はい」
 それを報告したラーグワートは頭を垂れた。
「どのみち破壊されるとは思っていたがまさか隕石を直撃させるとはな。面白いことを考えたものだ」
 彼は詳細を聞くと楽しそうにそう言った。
「これでサラーフの命運は完全に終わりましたな」
「既にナベツーラが政権に就いた時にな」
 シャイターンは言った。
「あのような男を選んだサラーフの者も愚かだが」
「マスコミに踊らされたせいもありますが」
 ラーグワートは彼等を擁護するように言った。
「それで目が曇っては駄目なのだ」
 シャイターンは冷然とした態度でそう言い切った。
「マスコミが全てを報道しているわけではない。必ず何処かに真実が転がっているのだ」
「そういうものでしょうか」
「そうだ。これを読んでみるがいい」
 シャイターンはそう言うと懐にあった新聞をラーグワートに渡した。
「これは」
「サラーフの新聞の一つだ。ナベツーラとは対立する立場にある新聞さ」
「そんな新聞社もあったのですか」
「ナベツーラ派には徹底的に誹謗中傷を浴びていたがな。それでもサラーフ全土に発行している新聞だ」
「サラーフ全土にですか。では影響も大きいのでしょうね」
「いや、そういうわけでもない」
 彼はそれに対しては首を横に振った。
「発行部数はかなり落ちているそうだからな。ナベツーラの圧力で」
「そうなのですか」
「理由は内容を読めばすぐにわかる」
 そう言って彼に読むことを勧めた。ラーグワートはそれに従い新聞を拡げた。
 まず一面からナベツーラへの批判だ。その政策と腐敗ぶりを徹底的に糾弾している。
 続いて戦況の報告である。相次ぐ敗戦を伝えている。
「全て真実ではないですか」
「サラーフ以外の国ではな」
 シャイターンはここであえて意味ありげに言った。
「サラーフでは真実ではないのだ」
「何故ですか?」
「サラーフではナベツーラの下にあるマスコミの言葉だけが真実なのだ。それ以外は虚言だ」
「何と」
 ラーグワートはそれを聞き絶句した。
「驚くことはない。一千年前はそうだったのだ」
「しかし」
「サラーフはそうした状況にあるだけだ。その他は何らおかしなところはない」
「マスコミのみが真実であるというだけで異常ですが」
「ネット等がないとどうしてもそうなるのだ」
 シャイターンは答えた。
「情報を一部の者が独占すると怖ろしいことになる。彼等はそれを利用して権力を独占するからだ」
「そしてその情報を己の意のままに流すのですね」
「そうだ」
 ラーグワートの言葉に対し頷いた。
「かってはそうやって全ての国がマスメディアの軍門の下にあった。とりわけ日本はな」
 二十世紀後半の日本のマスメディアへの権力集中とその腐敗は以前に述べられた通りである。
「そうした状況を打破するのにネットは大きな役割を果した。だがこのサラーフでは違ったのだ。電力を確保する為にネットを規制したのだ」
「それがかえってマスコミの権力集中を助けたと」
「意図したわけではなかったのだがな。今はその弊害が一度に出てしまっただけだ」
「それより前からあったのですね」
「そうだ。それがナベツーラだ」
 シャイターンはそこで言った。
「ナベツーラのような者が権力を握ることができるのもマスコミの力があってのことだ。日本ではテロ支援国家と結託した政党や知識人が良識派としてもてはやされていたではないか」
「はい」
 マスコミの弊害を語るうえで必ず述べられることである。この時の日本では軍隊を全廃し、テロを平然と行う危険な独裁国家を民主的な平和勢力として絶賛することが良識なのであった。これを以って当時の日本の知的レベルの絶望的な低さを指摘する識者も多い。確かにそれは一理ある。この時代日本は経済的に繁栄していたが何と日本から名の知られた経済学者は全く出ていないのである。それどころか二十一世紀になってもマルクス主義経済を教える経済学者が残っており『経済学の化石』とまで言われていた。彼等は経済は生物であるということを全く理解しておらず十九世紀中頃の古典的な経済をその時代に当てはめていただけなのだ。それでまともな経済学が発達するわけがなかった。日本は漫画がこの時から有名であったがとある漫画家は働くのが嫌でマルクスにのめり込んだ。そしてそこから見事なまでに一歩も出なかった。彼等に進歩や発展などという言葉はなかった。そのような連中に常に動く経済を理解しろと言っても無駄であった。むしろ株で食べている人間の方が経済を理解していた程であった。
 それもこれもマスコミがマルクスばかり言っていたからである。当時共産主義国家であるという建前であった中国人が日本に来てまだ大学でマルクスを教えているのを聞いて驚いたという話がある。
 
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