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星河の覇皇

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第四部第二章 愚か者の戦いその二


「また来るとは思わなかったな」
 アッディーンは意外だと言わんばかりの顔をして言った。
「それだけあのナベツーラが無能だということでしょう」
 ガルシャースプが言った。
「そう言われると納得がいくな」
 アッディーンはそれを聞いて答えた。
「だがそれにしても酷い」
 彼はまた言った。
「この程度のことは誰にでもわかりそうなことだが。今は到底戦える状況ではないと」
「最早まともな判断力をなくしているのでしょう」
 ガルシャースプは言った。
「元々家柄とマスコミのバックだけであそこまでなった男ですから」
「それでもあそこまで酷いとな」
 アッディーンは顔を顰めていた。
「最早狂人の域に達している」
「そうですね」
 ガルシャースプは答えた。最初からわかっています、と言わんばかりの顔で。
「マスコミは狂気に走りやすいです。それは歴史が証明しています」
 ここでもかってのマスメディアの横暴と腐敗の話が出た。
「それを後ろ楯に持つ者もまた同じです。人は自分と同じレベルの者と結び付くものです」
「確かにな」
 アッディーンはそれを聞いて頷いた。
「それはどこでもそうだな」
 人間は社会的な存在である。であるからグループを組む。それは気の合う者同士によってなされる。そうでなくては不必要なトラブルが起こるからだ。
「そのような連中が支持する者などたかが知れています。だからこそあそこまで愚かなのです」
「その愚かさにも限度があるが」
 アッディーンは言った。
「我々にとってはよいことだと言っても見ていると見苦しくて仕方がない」
「それは同意です」
「しかもそれによって多くの者が命を失い傷を負うというのも嫌な話だな」
 彼は不必要な血を欲する男ではない。戦場で戦うことは好きだが決して残忍ではない。ましてや勝敗が決している状況では無意味な流血は許さない。
「それもまた歴史ではよくあることですけれどね」
 ガルシャースプの声が沈んだものになった。
「今もそうですが」
「こんな愚かな会戦はすぐに終わらせるにかぎるな」
「ええ」
 二人は頷き合った。そして敵を待ち受けた。
 やがて前からサラーフ軍が来た。かなり損傷が激しいのかその動きは遅い。
「来たな」
 アッディーンはそれを認めてすぐに指示を下した。
「囲め」
「わかりました」
 参謀達が敬礼する。そして各艦隊に伝令が飛ぶ。
 最初は重厚な陣を組んでいたオムダーマン軍は正面に来たサラーフ軍の包囲に取り掛かった。動きの遅いサラーフ軍はすぐに取り囲まれた。
「さてと」
 アッディーンは完全に包囲されたサラーフ軍を見て言った。
「来てくれ」
 そして参謀の一人を呼び寄せた。
「はい」
 若い参謀が彼の側にやって来た。
「この電報をサラーフ軍に届けてくれ」
 そう言うと一枚の紙を彼に手渡した。
「わかりました」
 その参謀は頷くとすぐに通信室に向かった。
「さて、どうするかな」
 アッディーンはサラーフ軍を見ながら呟いた。
 その電報はすぐにサラーフ軍に伝えられた。司令はそれに目を通した。
「何ですか?」
 副官が尋ねてきた。
「見たまえ」
 彼はそう言うとその電報を手渡した。副官はそれを見て言った。
「降伏勧告ですか」
「どう思う?」
 司令は彼に問うた。
「そうですね」
 副官は考える顔をした。
「最早サラーフの命運は尽きています」
 彼は言った。
「これ以上の戦闘は無意味から。未来がある若者達の命を無駄にするだけです」
「君もそう思うか」
 司令はそれを聞いて言った。
「はい、閣下と同じ考えです」
 彼はそこで言った。
「そうか」
 司令はそれを聞き艦橋にいる者を見回した。
「君達はどう考える?」
 そして全員に対して問うた。
「司令、副官と同じです」
 艦橋にいる全ての者がそう言った。彼等もナベツーラ達には愛想が尽きていたのだ。
「そうか、よし」
 司令はそれを見て頷いた。
「では決まりだ」
「わかりました」
 副官は敬礼した。そしてサラーフ軍三百万はオムダーマン軍に降伏した。アッディーンは一兵も失うことなくこの戦いに勝利を収めたのであった。こうしてサラーフ軍の戦力は殆どなくなってしまった。アッディーンは心おきなくサラーフ領を占領することが可能になった。
 
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