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星河の覇皇

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第三部第五章 雑軍その五


 両艦隊はムスタファ星系の前で対峙した。サラーフ軍の編成を見てアッディーン達は顔を顰めた。
「・・・・・・こう思うことはここへ来て何度目かもうわからないが」
 いい加減彼もうんざりした顔で言った。
「あの艦隊編成は何なのだ」
 そう言って前に展開するサラーフ軍を指差した。
「あれですか」
 参謀達も呆れ顔である。
「あれは最早戦陣ですらないぞ」
 そこにあるサラーフ軍は最早隊列すら組んでいなかった。
 ただ三十万の艦艇が無造作に並んでいるだけである。戦艦の横に補給艦があるかと思えばミサイル艦の横に掃海艇、巡洋艦と砲艦が並列し空母はバラバラである。
「戦闘力のない艦艇まで入れているとはな。あれで戦うつもりなのだろうか」
「どうやらそのようです」
「・・・・・・わからんな」
 アッディーンは首を傾げた。
「あのような出鱈目な陣は今まで見たことがない。素人ですらもう少しましな陣を組むぞ」
「連中はおそらく素人以下なのでしょう」
 シンダントが言った。
「なまじマスコミにおだてられているから有頂天になっているのです。そして革命的だか何だか知りませんがああした陣を組み得意になっているのです」
「そういうことか」
「はい。まあおそらく敵将はどれも愚劣な輩ばかりなのでしょう。ですから今もこうしてこんなものを送りつけてくるのです」
 彼はそう言うと一枚の文書を取り出した。
「電報か」
「はい、サラーフ軍からです」
 アッディーンはそれを手にとった。そして読んだ。
「馬鹿馬鹿しい」
 それを読み終えたアッディーンの感想はそれであった。
「何ですか?」
 参謀達がそれに対し問うた。
「読んでみるか」
「ええ」
「なら」
 参謀達はアッディーンに手渡されたそれに目を通した。
「何と・・・・・・」
 それを読んだ彼等も皆一様に不機嫌な顔になった。それは何と降伏勧告であった。しかもこのうえなく尊大な文章で書かれていた。
「まさか我々が降伏するとでも思っているのでしょうか」
「そのようだな」
 アッディーンは参謀の一人の言葉に対して答えた。
「まさかこんなものまで送りつけてくれるとは思わなかったがな」
「如何いたしますか?」
「それは決まっている」
 彼はそう言うとその降伏勧告の電報を参謀達から貰い受けた。そしてそれにライターで火を点けた。
「こうするだけだ」
 紙は床に落ちた。そして燃えて消えていった。
「これはこの紙だけの運命ではない」
 彼はこう言った。
「今前にいる愚か者共の運命でもある」
 そう言うとそのまま前に出た。
「勝つ、それも徹底的にだ」
「はい」
 参謀達はその言葉に敬礼した。そしてそれぞれの持ち場についた。こうしてムスタファ星系外の戦いがはじまった。まずはサラーフ軍の進軍である。
「どうやら敵は我等の威容に怖れをなしているようですな」
 旗艦においてホリーナムはミツヤーンに対して言った。
「うむ、そのようだな」
 ミツヤーンは酒を瓶にそのまま口をつけ飲みながら答えた。
「戦いは数で決まるものだ。それをあの若僧に教えてやれ」
「もう既に教えていますが」
 ホリーナムは下卑た笑いを浮かべて言葉を返した。
「フフフ、確かにな」
 ミツヤーンは汚れた歯を見せて笑った。
「では徹底的にやるか。折角送ってやった降伏勧告も無視したようだしな」
「はい、捕虜はとらずに」
「当然だ。ただし看護婦は例外だ。あれは戦利品とする」
「いいですな。私も何人か」
「うむ、戦いのあとが楽しみだな」
「全くです」
 彼等はその薄汚い歯を見せて下卑た笑いをあげた。そしてそのまま全軍を進ませた。
「動きがバラバラですね」
 サラーフ軍の動きを見た。ガルシャースプが呆れた顔で言った。
「そうだな。速度が異なる艦艇を出鱈目に組んでいるせいだろう」
 アッディーンはモニターに映るサラーフ軍の陣形を見てそれに応えた。
「エネルギー反応を見ると火力もバラバラだな」
「まさかここまで酷いとは」
 ガルシャースプの声は完全に呆れ果てたそれであった。
「戦術は決まったな」
 アッディーンは敵の動きを見て言った。
「兵を分ける。いつも通りな」
 彼はすぐに指示を下した。
「まずは火力の大きい艦艇が一斉射撃を浴びせろ。敵の突出した部分を徹底的にな」
「わかりました」
「そして機動力の高い艦艇は左右から斬り込め。そして敵の中で暴れ回ってやれ」
「はい」
「これは間違いなく勝てる。だがな」
 彼はここで言葉を一旦とぎった。
「ただ勝つだけではない。ここでサラーフの戦力を完全に壊滅させるぞ」
「はい」
「ではすぐに行動に移れ。そして奴等をこの銀河の塵に変えてやれ!」
 それが合図となった。オムダーマン軍はまず近付いて来るサラーフ軍に一斉射撃を浴びせた。
「そんなものが効くかい!」
 キヨハームは次々に炎の塊となり消えていく自軍の艦艇を見ても臆することなく言った。
「おい、どんどんいけ。退く奴は撃ってしまえ!」
「え・・・・・・」
 この指示にキヨハームの乗艦の砲術長やミサイル長達は一瞬言葉を失った。
「聞こえんかったか、今現に逃げとる艦があるな」
 見れば前に損傷し戦線を離脱しようとする巡洋艦があった。
「ああいう奴を撃つんじゃ。逃げるような奴は死んでしまえ」
「しかし閣下、あれは」
 周りの者はそれを止めようとする。だがキヨハームとその取り巻き達が彼等を殴り飛ばした。
「うっさいわあ!」
 殴り飛ばされた彼等はそのまま足腰が立たなくなる程までリンチを受けた。そしてキヨハームとその取り巻き共が指揮権を完全に掌握した。
「やれや」
 そしてキヨハームはその取り巻きの一人に対して言った。
「はい」
 その取り巻きは残忍な笑みを浮かべると射撃ボタンを押した。そしてその後退しようとしている友軍の巡洋艦めがけ砲撃を加えた。 
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