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星河の覇皇

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第三部第四章 命運は決するその三


「この連中はすぐに消す。何はともあれサラーフとの戦いが終わったらそれだけは確実にしなければならない」
「ですね」
「だがやはりそれはまだ先の話だ」
 ガルシャースプは話を戻した。
「まずは戦いに勝たなくてはな。そう、奴等がサラーフの政権に就くように」
 彼はそう言うとニヤリ、と笑った。
「そしてそのあとで、ですね」
 シャルジャーも言った。二人はそう言うと席を立った。
「司令には事細かにお伝えするとしよう」
「ええ、サラーフのマスコミの報道を」
「それだけで今の戦いは勝てる。確実にな」
「はい、よく考えたらこれ程戦い易い戦いもありませんね」
「全くだ。それにしてもよく言ったものだ」
 ガルシャースプは消したテレビに目を向けた。
「有能な味方より無能な敵の方が有り難いとはな」
「はい」
 二人は頷くとその場をあとにした。
 以後ムスタファ星系に駐留するオムダーマン軍はサラーフのマスコミの報道を逐一知らせていた。
「そうか、どうやらサラーフのマスコミというのは相当今の政権に負けて欲しいのだな」
 それを見たアッディーンが言った。
「それにしても信じ難い。自国の軍の動きを公表するとはな」
「それが彼等の狙いなのでしょう」
 コリームアが言った。
「今こちらに向かっているサラーフ軍には負けて欲しいのです」
「ナベツーラが政権に就く為にか」
「はい」
「腐っているな。これは完全な利敵行為だ」
「そうですがサラーフでは全く問題になっておりません」
「マスコミが行なうからだな」
「その通りです。サラーフではマスコミが絶対なのですから」
「・・・・・・呆れた話だ」
 アッディーンはそれを聞いて嘆息した。
「しかしわからないことがある」
「何でしょうか?」
 コリームアはアッディーンの問いに対して尋ねた。
「何故サラーフではこれ程マスコミの力が強いのだ?ネット等はないのか?」
「それはサラーフの建国からはじまります」
 コリームアは言った。
「建国から!?」
「はい。当時サラーフでは電力不足が懸念されていまして」
「それは聞いたことがある。当初領土とした惑星のどれもが資源に乏しかったそうだな」
「はい。それの節制の為にネットを禁止したのです。そして情報にはマスメディアに一任したのです」
「だがその後資源の豊富な星系を次々と手に入れたが」
「それでもマスメディアは一度握った権益を二度と手放そうとはしませんでした。そして今に至るのです」
「そうしたことがあったのか。止むを得ない事情からだったのだな」
「はい」
 こうしたことはサラーフだけでなく多くの国でもあった。連合でもそうである。だが連合は各地にネットを回線させることを積極的に推進させたのでサラーフのような事態には陥らなかった。サハラの他の国々の場合はそうした国は滅ぶか新領土を手に入れた時点で変わったのでそうしたことはなかった。サラーフ独特の問題であった。
「それがナベツーラの様な輩を跳梁させてしまうことになるとはな」
「マスメディアの恐ろしいところですね」
 コリームアは言った。
「ああ。、情報を独占し時には捏造する。かつてそれにより多くの悲劇が起こった」
 その為マスメディアに対して懐疑的な者も多いのがこの時代の人々である。
「ネット等の普及によりそれは大分抑えられるようにはなりましたが」
「ネット等がない場合には繰り返される、か」
 アッディーンは噛み締めるようにして言った。
「はい、人間というのはやはり繰り返してしまいます」
「それも歴史か」
 アッディーンはそれを聞いて司令室の椅子に座った。彼等は今旗艦アリーの中にいる。オーレフに向かう途中である。
「残念ながらそうですね」
 コリームアは答えた。
「今回のこのサラーフのマスコミの行動もそうです。こうした自らが権力を維持する為に自国の者を陥れるということは何度も見られました」
「それにより国が潰れたことも」
 アッディーンは言葉を返した。
「そうですね」
 コリームアはそれを聞いて表情を暗くした。
「それを行なう連中はいつもそれがわかっていない。不思議なことだな」
「それも人間です。自分のことは案外目に入らないものなのです」
「そうだな。俺もそれはわかっているつもりだ」
 アッディーンはそれを聞いて席を立った。
「皆俺をやれ若き名将だオムダーマンの獅子だの呼ぶがな」
「名誉なことではないですか」
「確かにな。他の者はそう言うだろう」
 アッディーンはコリームアを横目で見ながら言った。
「だが俺はその時にどう戦えばいいか、それを考え動いているに過ぎない。確かに勝つ自信は常にある」
「それだけで充分だと思いますが」
「それはそうだ。だが俺は戦いに勝ちたいが別にそうした名声にはあまり興味がない」
「意外ですね」
 コリームアはそれを聞いて思わず目を丸くさせた。
「軍人になりたくて幼年学校に入った。そしてすぐに戦場に行きたいから士官学校には進まずにそのまま軍人になったのだがな。知らなかったか」
「いえ、幼年学校を出てすぐに軍に入られたのは知っていましたが」
 コリームアは答えた。これはオムダーマンの軍人では珍しいことであった。
 普通幼年学校から士官学校へ進む。それから少尉に任官して軍役に就くのだ。
 幼年学校からだと准尉からはじまる。そしてその昇進もやはり士官学校卒業者よりは遅い。
「それでもよかった。とにかく戦場に行きたかったのだ」
「何故ですか?」
 変わっていると言えば変わっている。自ら死地に赴きたいとは。それが軍人の務めだとしても。
「幼い頃から戦争の話を見たり読んだりしていてな。それでそうしたんだ」
「そうだったのですか」
 どうやら子供の頃からの夢であったらしい。
「そして戦場にはじめて来た時思った。俺の性に合っている、とな」
「ですか」 
 おそらく彼は軍人としての適性があったのだろう。そして元々戦場が好きだったということも幸いした。
「どんな状況でも死ぬなどということは考えられなかった。そして勝つことだけを考えていた」
「そして今まで戦ってこられたのですね」
「ああ」
 アッディーンは答えた。その言葉に迷いはなかった。
「カッサラの時もそうだった。我ながら思いきったことをしたとは思うが」
「あれで戦局が変わりましたからね」
 カッサラの戦いにおいてのアッディーンの行動は最早伝説にまでなっていた。側面に攻撃を仕掛けようとするサラーフ軍の部隊の前に急行し総攻撃を仕掛けたのである。一艦でその動きを止め戦いの流れを引き寄せたのだ。
「しかし死ぬとは全く思わなかった。絶対にこれで勝てると思ったのだ」
「凄いですね」
「そういうわけではない。あの時サラーフ軍は攻撃を正面から受けるなど思いもしなかった。だからそこを衝いたのだ」
「そうだったのですか」
「相手の思いもよらぬところをつく。それが戦争だ。そして勝つことがな」
「それはわかっているつもりです」
 コリームアは言った。
「ですがそうそうできるものではありません」
「そういうものなのか」
「そうです。それが出来るからこそ閣下は凄いのです」
「俺はそうは思わないがな」
 アッディーンはその言葉を否定した。
「俺は戦争が上手いだけだ。他には何もないぞ」
「果たしてそうでしょうか」
「それはどういう意味だ?」
 アッディーンはその言葉に反応した。そしてコリームアに顔を向けた。
「人間には隠れている能力があります」
「俺にはまだその隠れている能力があると言いたいのか」
「はい。それはその時にならないとわからないものです」
「そういうものかな」
「ええ。まあ今閣下は軍人として優秀ですからそれでいいと思います。しかし」
「しかし!?」
 アッディーンは問うた。
「それだけでも素晴らしいことだと思いますよ」
「そうなのか」
「ええ。それでオムダーマンに貢献されているのですから」
「ならいいがな」
 アッディーンはそれを聞くとフッと微笑んだ。
「やはり役に立たないより役に立つ方がいいものだ」
 それは誰もが同じである。アッディーンもそうであった。
「はい。閣下は軍人として存分に活躍して下さい。ですが」
「ですが!?」
 アッディーンはコリームアの言葉に顔を向けた。 
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