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星河の覇皇

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第一部第一章 若き将星その四


「ええ。射程も相当なものですよ。今までみたいにサラーフのアウトレンジに悩まされることもありません」
「そうか。それは有り難いな」
 アッディーンはそのビーム主砲を見て言った。
「連中の射程の長さには今まで悩まされてきたからな。実際に戦うまではわからないがそれは有り難い」
「はい。この技術はこれからの新造艦及び改修する艦全てに使われるそうです」
「とすれば戦術もかなり違ってくるな」
「そうですね。今までの我が軍の戦術は火力に頼った集中突撃ばかりでしたから」
 二人は入口で敬礼を受け艦の中に入った。
「中の設備も整っているな」
 アッディーンは艦内を見回して言った。
「はい。居住設備もいいですね」
 ガルシャースプもそれに同意した。
「士気に大きく関わるからな。こうした気配りは有り難い」
 そして艦橋に向かった。
「ハッ!」
 艦橋に将兵達が敬礼する。アッディーンはそれに敬礼で返した。
「艦橋はどうだ」
 彼は操舵手を務める壮年の曹長に対して尋ねた。
「素晴らしいです。特に電子関係がいいですね」
 彼は笑顔で答えた。
「特に通信関係が素晴らしいです。今までの艦とは比べものになりません」
 若い下士官が答えた。
「何かかなり凄い艦のようだな」
 アッディーンは微笑んでガルシャースプに対して言った。
「ですね。うちの技術班も頑張ったみたいです」
 彼は口元にほんの微かに笑みを浮かべて言った。
「それにしても不思議だな」
 彼はふと気付いたように言った。
「何がですか?」
 ガルシャースプはそれに対して問うた。
「いや、技術班のことだ。今まで我が軍の技術班はお世辞にも大したことはなかったからな。何処かの国の二番煎じばかりやっていたからな」
「それですが技術長官に関係があるようですよ」
「長官に!?」
 彼は語気を上ずらせた。
「はい。新任の長官ですが」
「確かルクマーン=ハイデラバート大将だったな」
 彼は長官の名を思い出しながら言った。
「はい。ハイデラバート大将が長官になられてから我が軍の技術班は大きく変わったのです」
 ガルシャースプはほんの微かに笑ったまま言った。
「それは聞いていたがどうせいつもの宣伝だけだろう、と思っていたぞ」
「それが今度は違うようですね。有望な若手をどんどん抜擢して開発をさせていますから」
「それの結集の一つがこの艦と」
 アッディーンは再び艦橋の中を見回して言った。
「そうです。しかもまだまだ序の口らしいですよ」
「というとまだ技術班はやる気なのか?」
 彼は左の眉を少し上げて尋ねた。
「はい。さらに改革を進めていくつもりのようです」
「そうか。ならいいがな」
 アッディーンはそれを聞いて微笑んだ。
「手強い敵よりろくでもない武器の方が頭にくる。強い兵器が次々にもらえるのならそれに越したことはない」
 そう言って嬉しそうに笑った。
「その通りですね。ところで艦長」
 ガルシャースプはアッディーンに対して尋ねた。
「何だ?」
 彼は言葉を返した。
「この艦の名前ですが」
「艦名か。そういえばまだ決めていなかったな」
 彼はふと思い出したように言った。
「はい。何にしますか」
 オムダーマンでは艦名は艦長が名付けることになっているのだ。
「そうだな」
 彼は考え込んだ。
「前の巡洋艦はアタチュルクだったしな。何か別の名にしたいな」
「では何に?」
 ガルシャースプは問うた。
「そうだなあ・・・・・・」
 彼は腕を組み考え込んだ。
「そうだ」
 そして明るい顔で顔を上げた。
「アリーにしよう。伝説の英雄アリーだ」
「アリーですか。確かにいい名ですね」
 ガルシャースプもそれを聞いて上機嫌な声で答えた。アリーとはムハンマドの娘婿で『神の獅子』とまで謳われた英雄である。また長い間イスラムの二大勢力の一つであったシーア派の開祖ともされている。
「そうだろう、これからの俺の戦いを共にするに相応しい名前だろう」
 彼は満足気に微笑んで言った。
「そうですね。神の獅子が艦長のこれからの武勲を守護して下さるでしょう」
「そうだな。まあ俺は誰かに頼るということは好きじゃないが」
 そう言って正面に身体を向けた。
「だがアリーよ、俺の戦いを見守ってくれよ」
 そう言って二人は艦橋を後にした。そして今度は艦内をくまなく見回りだした。 
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