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星河の覇皇

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第十三部第一章 角笛を持つ時その十二


「今ここに来てもらったのは他でもない」
 モンサルヴァートは諸将を前にしてまずはこう述べた。席の第二席にはプロコフィエフが控えている。モンサルヴァートはエウロパ元帥、プロコフィエフは元帥であり艦隊司令達は上級大将であるからこの席次は当然であった。
「我々の作戦行動に関してのことだ」
「それならばもう決定していることではないでしょうか」
 まずマトクがそう述べた。
「防御戦ということで。違うのですか」
「確かにその通りだ」
 モンサルヴァートは彼の言葉を認めた。
「我が軍はこのクロノスにおいて敵軍を迎撃する。その他にはない」
「やはり」
「ではここでお話することはないのでは」
 ステーファノがそう述べた。
「後は敵軍を迎え撃つだけです」
「テューポーンも来るという話ですし。それでよいのでは」
「まあ話は最後まで聞いてくれ」
 アローニカが口を開いたところでそう言った。
「問題はその動きだ」
「動き」
「そう。敵軍の艦艇と我が軍の艦艇を比較してどう思うか」
「彼等と我々のものをですか」
「率直に聞きたい。どう思うか」
「そうですな」
 クライストがまず私見を述べた。
「正直に申し上げましてかなりの戦力差があります」
「そうか」
「火力も防御力も。通信やダメージコントロールにおいてもかなりの開きがありますな」
「他にはないか」
「全体的に大型で武器の塔裁量も多いです。艦載機もかなりの数ですな」
 ジャースクも述べた。
「あの数には負けます」
「数か」
「艦艇自体の数はもう言うまでもないですが。駆逐艦で我が軍の巡洋艦、巡洋艦で戦艦レベルの戦闘力があるというのが脅威になっております」
 ニルソンも言った。
「全体的に見てかなりの強敵です。ただ一つ弱点があります」
「それは何だ」
 ターフェルの言葉に一同視線を集中させた。数多くの光が彼に向けられた。
「速度です」
 モンサルヴァートはそれを聞いてやはり、と思った。だがそれは口には出さなかった。
「これは今まで多くの者が指摘していますが。速度だけは我が軍の方が上です」
「確かに。ターフェル殿の仰る通りだ」
 ゴドゥノフがそれに頷いた。
「彼等の艦艇はどうやら速度を犠牲にして他の部分を充実させているな」
「今までその差で何度も危ういところを助かってもいる。確かに速度は我等の方が上だ」
 提督達は口々にそう述べた。しかしここでモナコが言った。
「ですが今回の戦いではどうでしょうか」
「モナコ大将、何か疑問があるのか」
「はい」
 彼はモンサルヴァートの言葉に頷いた。
「閣下、宜しいでしょうか」
「うむ」
 彼はモナコの発言を認めることにした。
「我が軍は今防御に徹することになっております」
 言うまでもないことであるように思われたが彼はあえて言った。
「それで機動力はあまり必要ないのではないでしょうか。肝心なのは堅固な陣です」
「陣か」
「はい。それを固める方が重要だと思うのですがどうでしょうか」
「卿の言うことは戦術から見て正論だな」
「有り難うございます」
「しかしそれで勝てると思うか」
「御言葉ですがそれはあまり期待できないでしょう」
 モナコはそうも述べた。
「敵の数はあまりにも大きいです。おそらくは無理かと」
「そう見るか」
「はい。それしかないとは思いますが」
「発想を変えてみてはどうか」
 そしてここでこう言った。
「発想をですか」
「そうだ。何も防衛戦は陣を整えてだけやるものではないだろう」
「それはそうですが」
「機動戦による防衛戦術はどうかと思うのだが」
「機動力を使って」
「具体的には敵が来たならば叩くというやり方だ。少なくとも我々はそうして戦ってはどうかと思う」
「シュヴァルツブルグ閣下の軍とは別に」
「それはどう思うか」
「そうですね」
 彼は一呼吸置いてから答えた。
「悪くはないと思います。遊撃戦力とするならば」
「わかってくれたか」
「ではそれでいきましょう。ただ一つ考慮しておかなくてはならないことがあります」
「わかっている」
 モンサルヴァートはにこやかに笑ってそれに頷いた。
「シュヴァルツブルグ閣下とはその方向で調整する。それでいいな」
「はい」
「ではそれで行こう。皆それでよいな」
「ハッ」
 司令達も参謀達もそれで頷いた。
「異論はありません」
「納得しました」
「よし。それでは決まりだな。我が軍は遊撃戦を展開する」
「了解しました」
「この戦いにはエウロパの興亡がかかっている」
 そう語るモンサルヴァートの顔が真摯なものに戻った。
「卿等の健闘を祈る。以上だ」
 会議は終わった。彼等はそれぞれの持ち場に戻った。心を整えいよいよ次の戦いにいどむのであった。

 
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